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3話 謎の真相と微笑みの妻
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アイシアを尋問しなくては。
縄で縛り上げ、鞭で打ち、指の間に木の棒を捻じ込む。
許してくださいと、己の罪を吐かせるのだ。
下劣な女め、悪辣な女め、卑しき愛を嘯く分際で。
だんだんと頭に血が上り始める。
過去の心の傷を抉られたことで、冷静さは完全に失われていた。
狂気に身を委ねなければ耐えられそうにもない。
「おはようございます。旦那様、お加減はいかがでしょう」
出会いがしらに彼女の頬を引っぱたく。
怯んだ彼女を何度も叩き、床に跪《ひざまず》かせる。
さぁ、調教の時間だ。
暴力を振るうことには慣れていない。
手が震え、荒い呼吸で目の焦点が合わなくなる。
「この下郎が。嬲り殺しにされねばわからんか」
地の底から響くがごとき重厚な声音。
アイシアの内側に潜む何かが口を開く。
「私が何をした? 女たちが何をした? 貴様に歩み寄り、愛を囁いただけではないのか。敵意もなければ害意もない、無抵抗の相手に何をする。何をしようとしている? 狂っているのか? この醜い腐敗した豆のごとき男め」
「黙れ黙れ黙れ黙れ!! 俺を真に愛さぬ女など要らぬ!!」
彼女は面倒くさそうに息を吐き出した。
「浅ましい、あぁ浅ましい。ふふっ、ふはははは」
狂ったように笑い始めると、アイシアは己の顔を掻きむしり始めた。
徐々に顔面が剥がれ落ち、やがて剥き出しの骸骨が現れる。
「うっ、うげぇぇぇ!!」
「おぞましい、貴様のような男が何故斯様にも安楽な暮らしをしているのか。あぁ気分が悪い。呪わしい、呪わしい、呪わしい、呪ってやる。地獄へと堕とし五体を引き裂き、六大の悪魔に食わせてやろうか」
彼女の背後に無数の骸骨が蠢き、大量の沢蟹がさざめき合う。
それらはオルガニウスにまとわりつき、彼を痛めつけ苛みはじめる。
絶叫し、振り払おうとしても、それらの勢いは止まらない。
もはや彼は狂気に沈むよりほかはない。
その吐き出した粗野な言動、暴力的な衝動が枯れ果てるまで。
「旦那様? こんなところでお眠りになってはいけませんよ」
アイシアは昏倒している男に声をかける。
使用人の手を借りて彼を寝室のベット上に寝かせた。
オルガニウスは苦悶の表情を浮かべ、玉のような汗を掻く。
彼は今だかつてないほどの悪夢に苛まれていた。
医者を呼び、アイシアは誠心誠意彼を看病した。
夜を徹して彼に付き添い、使用人が眠るように促す。
「私は看病も得意なんですよ。大丈夫です」
貞淑で献身的で人の良い妻。
誰もが彼女を優れた人格者であると称えるだろう。
では、オルガニウスを苛む悪夢は何なのか。
これはアイシアによる夫への制裁なのか。
不埒な真似をしようとする彼に対する呪いであろうか。
果たして、アイシアとは何者なのだろうか。
沢蟹の化身か、悪霊に憑かれているのか、それとも魔物の類かと言えば――――違う。
アイシアは神の娘だった。
愛の神と夢の神の間に生まれた安らぎの神である。
人間に傾倒した彼女は神の座を捨て、人として輪廻の輪へと降りた。
彼女自身は神の力は捨てていたが、心配した両親が強力な加護を与えていた。
それは彼女が誰かと結婚した際、より強く効果を成す。その加護は二つ。一つはアイシアの伴侶となる者が彼女に害意を向けた際、恐るべき悪夢を見せるというもの。二つ目は自身に対して向けられた愛なき言葉や憎しみが耳に届かないというもの。
アイシアの前の夫は彼女の容姿と肉体にしか興味のない男だった。
結婚して早々に彼女に暴力を振るおうとした際に悪夢に囚われた。
男自身は神に対する信仰心はなかった。
だが、男の両親は敬虔な信徒であった。
彼らは病んだ息子が快癒へと至るよう神に祈りを捧げた。
男自身も両親に促され縋れるものには縋った。
その結果、夢の中で神託を受ける。
妻を真に愛するか、妻を傷つけぬ形で縁を切れば悪夢からは逃れられる。
男が選んだのは穏当な離婚であった。
他に愛する者がいるためどうしても君を愛せない。
誠心誠意彼女を傷つけぬよう言葉を尽くして伝えた。
その結果、愛を尊ぶアイシアはあっさりと離婚に応じた。夫への未練はなくもなかったが、彼の幸せを一番に考えたのだ。
その後の男は悪夢から逃れたことに歓喜し、同時にその再来を恐れた。
現在は還俗し、ひたすら神に祈りを捧げる暮らしを続けている。
オルガニウスは、その点においては不運である。
彼自身は敬虔深さも信仰心もない。
近しい身内は全て他界している。
偏屈な性格のため、親戚との縁も皆無だ。
使用人は面倒を避けて、彼に余計な助言などはしない。
そのため自力で正解を掴むしかなく、悪夢は延々と彼を苛み続ける。
夢の神も親切心などは起こさない。
美しく微笑む新妻を蔑み続ける限り、彼の苦痛は終わらない。
苦しみもがく夫に対し、よりアイシアは献身的な愛情を注ぎ続ける。
彼の地獄はその後も続くことになる。
縄で縛り上げ、鞭で打ち、指の間に木の棒を捻じ込む。
許してくださいと、己の罪を吐かせるのだ。
下劣な女め、悪辣な女め、卑しき愛を嘯く分際で。
だんだんと頭に血が上り始める。
過去の心の傷を抉られたことで、冷静さは完全に失われていた。
狂気に身を委ねなければ耐えられそうにもない。
「おはようございます。旦那様、お加減はいかがでしょう」
出会いがしらに彼女の頬を引っぱたく。
怯んだ彼女を何度も叩き、床に跪《ひざまず》かせる。
さぁ、調教の時間だ。
暴力を振るうことには慣れていない。
手が震え、荒い呼吸で目の焦点が合わなくなる。
「この下郎が。嬲り殺しにされねばわからんか」
地の底から響くがごとき重厚な声音。
アイシアの内側に潜む何かが口を開く。
「私が何をした? 女たちが何をした? 貴様に歩み寄り、愛を囁いただけではないのか。敵意もなければ害意もない、無抵抗の相手に何をする。何をしようとしている? 狂っているのか? この醜い腐敗した豆のごとき男め」
「黙れ黙れ黙れ黙れ!! 俺を真に愛さぬ女など要らぬ!!」
彼女は面倒くさそうに息を吐き出した。
「浅ましい、あぁ浅ましい。ふふっ、ふはははは」
狂ったように笑い始めると、アイシアは己の顔を掻きむしり始めた。
徐々に顔面が剥がれ落ち、やがて剥き出しの骸骨が現れる。
「うっ、うげぇぇぇ!!」
「おぞましい、貴様のような男が何故斯様にも安楽な暮らしをしているのか。あぁ気分が悪い。呪わしい、呪わしい、呪わしい、呪ってやる。地獄へと堕とし五体を引き裂き、六大の悪魔に食わせてやろうか」
彼女の背後に無数の骸骨が蠢き、大量の沢蟹がさざめき合う。
それらはオルガニウスにまとわりつき、彼を痛めつけ苛みはじめる。
絶叫し、振り払おうとしても、それらの勢いは止まらない。
もはや彼は狂気に沈むよりほかはない。
その吐き出した粗野な言動、暴力的な衝動が枯れ果てるまで。
「旦那様? こんなところでお眠りになってはいけませんよ」
アイシアは昏倒している男に声をかける。
使用人の手を借りて彼を寝室のベット上に寝かせた。
オルガニウスは苦悶の表情を浮かべ、玉のような汗を掻く。
彼は今だかつてないほどの悪夢に苛まれていた。
医者を呼び、アイシアは誠心誠意彼を看病した。
夜を徹して彼に付き添い、使用人が眠るように促す。
「私は看病も得意なんですよ。大丈夫です」
貞淑で献身的で人の良い妻。
誰もが彼女を優れた人格者であると称えるだろう。
では、オルガニウスを苛む悪夢は何なのか。
これはアイシアによる夫への制裁なのか。
不埒な真似をしようとする彼に対する呪いであろうか。
果たして、アイシアとは何者なのだろうか。
沢蟹の化身か、悪霊に憑かれているのか、それとも魔物の類かと言えば――――違う。
アイシアは神の娘だった。
愛の神と夢の神の間に生まれた安らぎの神である。
人間に傾倒した彼女は神の座を捨て、人として輪廻の輪へと降りた。
彼女自身は神の力は捨てていたが、心配した両親が強力な加護を与えていた。
それは彼女が誰かと結婚した際、より強く効果を成す。その加護は二つ。一つはアイシアの伴侶となる者が彼女に害意を向けた際、恐るべき悪夢を見せるというもの。二つ目は自身に対して向けられた愛なき言葉や憎しみが耳に届かないというもの。
アイシアの前の夫は彼女の容姿と肉体にしか興味のない男だった。
結婚して早々に彼女に暴力を振るおうとした際に悪夢に囚われた。
男自身は神に対する信仰心はなかった。
だが、男の両親は敬虔な信徒であった。
彼らは病んだ息子が快癒へと至るよう神に祈りを捧げた。
男自身も両親に促され縋れるものには縋った。
その結果、夢の中で神託を受ける。
妻を真に愛するか、妻を傷つけぬ形で縁を切れば悪夢からは逃れられる。
男が選んだのは穏当な離婚であった。
他に愛する者がいるためどうしても君を愛せない。
誠心誠意彼女を傷つけぬよう言葉を尽くして伝えた。
その結果、愛を尊ぶアイシアはあっさりと離婚に応じた。夫への未練はなくもなかったが、彼の幸せを一番に考えたのだ。
その後の男は悪夢から逃れたことに歓喜し、同時にその再来を恐れた。
現在は還俗し、ひたすら神に祈りを捧げる暮らしを続けている。
オルガニウスは、その点においては不運である。
彼自身は敬虔深さも信仰心もない。
近しい身内は全て他界している。
偏屈な性格のため、親戚との縁も皆無だ。
使用人は面倒を避けて、彼に余計な助言などはしない。
そのため自力で正解を掴むしかなく、悪夢は延々と彼を苛み続ける。
夢の神も親切心などは起こさない。
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苦しみもがく夫に対し、よりアイシアは献身的な愛情を注ぎ続ける。
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