花衣ー皇国の皇姫ー

AQUA☆STAR

文字の大きさ
24 / 128
建国編

第14.5話 休暇

しおりを挟む
「というわけで、休暇です」
「………はい?」

 突然、聖上に呼ばれた私は、ある書面を手渡された。

【休暇届 侍大将仁 貴殿の卯月第一週第二日を休息日とし、職務に専念する義務を免除する】

「聖上、これは…」
「まぁ、仁が言うことも確かだけど」
「いえ、まだ何も喋っていませんが」

 それにしても、暗殺者騒ぎから間もないのに、どうして休暇など勧めてくるのか。聖上の意図が分からなかった。

「いいでしょう、説明させてもらうわ。仁、貴方は侍大将として皇国に大きく貢献して貰っているわ。けど、就任してから今日まで、一度も休暇を取った事がないでしょう?」
「確かにその通りですが…」
「貴方には毎日休みなく働いてもらってるから、この際きちんと休みをとってもらおうと思ったの」
「お気持ちはありがたいですが、私には仕事が…」
「だから、貴方には一日しか休日を設けられないの。とても心苦しいけど。仁が休暇を取っている間は、全員が仁の仕事を埋め合わせるわ」
「それは、大変嬉しい申し出ですが。やはり…」
「駄目、今回はきちんと休んでもらうわ。他の者達への要請は済んでいるの。何かあれば私も対処するわ。と言うか、ここは私の顔を立てて、一日をゆっくり休んできなさい。侍大将という立場を忘れて周りを見てみると、気が付くこともあるはずよ」

 どうやら、このご好意を断ることは出来そうにない。

「承知しました。では、ありがたく休暇を頂きます」
「あっ、そうそう、貴方に渡しておく物があるの」

 謁見の間から立ち去ろうとしたとき、聖上は私にある物を手渡された。


 翌日


 休暇と言われたが、いつもの様に日の出と共に目を覚まし、身支度を終え、食堂に朝食を食べに行く。

 何時もであれば、すでに正装に着替え、太刀を携えているが、今日は聖上の命令通り、普段着ている袴姿でうろつく。他の者達も、いつもと違う私を何度か見てくるが、この姿を見て察したのか挨拶だけをしてきた。

「さてと、どうしましょうか…」

 稽古も禁止、勉学も禁止、政務も禁止、聖上から伝えられたこの日の禁止行為は、私の生活からごっそり何かをかっさらってしまった。予定から何もかもが消えていく。

 正直、何をして良いのか分からない。緋ノ国時代から仕事漬けの私は、いつしか仕事が生活の大半を占めていた。

 ふと私は、聖上からの言葉を思い出した。

「侍大将という立場を忘れて周りを見てみると、気が付くこともあるはずよ」

 普段の職務を忘れて、いつもと違う空気を感じろという言葉。その真意は分からないが、兎も角にも修練場へと足を運ぶ。

「おっ、大将。お疲れさん」
「お疲れ様です!」

 右京達が兵士と共に剣術の鍛錬を行なっていた。右京は普段着姿の仁が珍しかったのか、何かを考え始める。

「今日はどうしたんだ?」
「聖上から今日一日お休みを頂きました。ですが、正直なところやることがなくて」
「それなら、俺と手合わせしてくれないか?こいつらにも、良い経験になると思うからな」
「いいでしょう」

 稽古ではないので、これなら良いだろう。そう思いながら、右京との手合わせを終えて修練場を離れる。

 そして、次に向かったのは、皇宮内にある大御神の祭壇だ。

「これはこれは仁様」
「………」

 祭壇のある祷の間に入ると、祭壇を掃除する巫女の千代様と、それを手伝う百合がいた。

 百合は私の姿を見ると、千代様の後ろに隠れこちらをちらちらと見てくる。

「今日はどうされましたか?」
「聖上からお休みを頂きましたので、お手伝いか何かをしようかと」
「本当でございますか?ちょうど、高いところに手が届かなくて、手伝っていただけるなら嬉しゅうございます」

 それから半刻、千代と共に清掃を始めた祷の間は見違えるほど美しくなった。

「仁様、お手伝いいただき、ありがとうございました」
「いえ、感謝されることではありませんよ。千代様、ひとつお願いがあるのですが」
「はぁ、何でございますか?」
「百合を少しお借りしてもよろしいですか?」

 私は着物姿の百合を連れて、城下を歩いていた。まるで親と娘ほどの差があり、事情を知らない者が見れば、私たちは親子に見えるだろう。

 百合は私の手を握りながら、無言で側を歩く。

「気分は良いですか?」
「………」
「今日は良い天気ですね」
「………」
「昨日はよく眠れましたか?」
「………」

 私の問いに反応こそするも、答えてはくれない。巫女様曰く、ヤズラによる性的暴力を受けてきた過去から、心に深い傷を負っており、その影響で中々言葉を発せられないらしい。

「城下に出たのは初めてですね。今日は、色々なところへ行きましょう」

 私がそう言うと、百合の表情が少し明るくなった様に思えた。

 城下の甘味屋、市場、遊戯屋、装飾屋、普段は滅多に足を運ぶことのない場所へと、百合を連れて回る。百合は初めて触れる城下の空気を楽しんでいた。

 そして、日も暮れ始めた頃、私は百合を連れてある場所へと向かった。そこは、皇都で最も格の高いある旅籠屋であった。

「お待ちしておりました仁様」
「お世話になります。これを持ってきました」

 私は出迎えてくれた旅籠屋の女将に、聖上から渡された木札を手渡す。それを見た女将は私たちに深々と頭を下げる。

「では、お部屋にご案内いたします。どうぞこちらへ」

 女中に荷物を持ってもらい、女将の後に続いて旅籠屋の中を歩く。ここは派手な装飾ではないが、皇宮のような何処か厳かな雰囲気を醸し出している。

「お部屋はこちらになります。何かあればお申し付けください。どうぞ、ごゆるりと」

 部屋は、二人では広過ぎるほどだった。そんな部屋を見て、百合は驚きの表情で私を見てきた。

「夕食まで時間がありますので、汗を流しましょうか」

 部屋ごとに備え付けられている露天風呂からは、星が浮かぶ夜空が見える。私は身体に手拭いを巻いた百合を、身体を流すために腰掛に座らせる。

 手拭いの隙間から見えるのは、おそらく暴力を受けた時のものであろう、痣や切られた傷跡が残っている。

 その背中を見ると、やはり何とも言えない気持ちになる。同時に、彼女をここまで苦しめたヤズラに対して、憎しみが込み上げてくる。

「………?」

 何もしないの、と言う表情で、百合が私を見てくる。

「すみません。では、背中を流しますね」

 手拭いを使い、百合の背中をゆっくりと撫でる。時折、お湯を流すと、百合が気持ちよさそうに身を委ねてくる。

「加減はどうですか?」
「い、い…」

 すると、はっきりとした言葉ではないが、百合が声を発した。そして、私の胸にゆっくりともたれかかってくる。

 次に、長い髪をお湯に浸してゆっくりと撫でる。

「私は、あなたに謝らなくてはなりません。もう少し早く、自分の意思に気がつけば…」
「…」
「何です…んむっ!?」
「言わないで…ください…」

 百合は顔を横に何度も振り、私の口に人差し指を押し付けてきた。

「すみません。では、浸かりましょうか」
「はい…です」

 こうして、私と百合の距離は少し縮まった。同時に、過去ばかりを見ず、前を向いて進むことも大切であると、百合から教わった貴重な1日になった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

処理中です...