花衣ー皇国の皇姫ー

AQUA☆STAR

文字の大きさ
93 / 128
統一編

第72.5話 白雪舞花

しおりを挟む
 常世 桃園 カミコの屋敷

「ついに、始まってしまったわね…」

 屋敷の一室に座すカミコは、神通力で現世を見通していた。彼女が見るは、かつて自らの力によって封印したタタリが蘇り、その力でかつて多くのものを失った大戦を再来させようとしている光景だった。

「カミコ様、私が、現世へと参ります」

 カミコにそう言ったのは、舞花であった。

「子どもたちに、同じ悲しみを背負って欲しくありません」
「あなたの気持ちは十分理解できるわ。でも、行く事は許可できません」
「ですが…」
「それに、亡者が現世で命を落とせば、どうなるかあなたもよく知っているはずよ」

 この世の理に、黄泉返りというものが存在する。それは、一度命を落として亡者となった魂が、常世で洗礼を受け、再び新たな命として現世に生まれると言うもの。

 しかし、その洗礼を待つことなく、現世に現界することができる。それは、理を大きく逸脱したものであり、仮に亡者が現世で命を落とせば、その魂は永遠に縛られ、洗礼を受けることができなくなる。

 それはつまり、魂が消滅するということを意味する。文字通り、存在自体が無に帰するということである。

「だからと言って、見守るだけなんてこと、私には出来ません。これは、本来であれば私たちの代で終わらせなければならないこと。私たちに課せられた宿命なのです」
「舞花…」

 カミコは茶を一口啜ると、ゆっくりと立ち上がった。

「本当に、芯の強い子ね。一度決めたら頑として譲らない。あの頃から、ずっと変わっていないわ」
「それはお互い様ですよ。カミコ様」
「必ず帰ってきなさい。私はもう、誰も失いたくないわ」
「分かっております」
「それと、瑞穂たちを頼むわね」

 舞花は巫女服の上に、桜吹雪が描かれた羽織を纏うと、頭に太陽を模した飾りをつける。その姿は、かつて斎ノ巫女として、時の大御神であったカミコと共に戦ったものと同じであった。

 それは同時に、舞花の決意を表していた。

「行って参ります」
「必ず帰ってきなさい」
「承知しました」


 ◇


 私の人生は、お世辞にも幸せなものとは言い難かった。

 呪詛痕を持っていたせいで、親に捨てられ、村から迫害を受け、唯一残っていた生きたいという希望だけを胸に、生まれ育った村を飛び出した。

 カミコ様に拾われ、斎ノ巫女となり、新たな人生の始まりかと思えば、大神様同士の戦に巻き込まれ、大切な人を多く失った。

 何もかもがどうでも良くなった私だったけど、たった一つだけ幸せを感じたことがある。

 私を愛してくれた人との間に、子が恵まれたことだった。

 出産に耐えられない私に変わって、その役目を引き受けてくれた七葉。

 多くの人々の願いと、幸せを受けて生まれた私の子、千代。

 例え、自分が代わりに死に、魂が消えようとも何とも思わない。それが、母親としての決意だろう。

「行くのか?」
「お役目を、果たしに行きます」

 根の国の扉の前で、懐かしい人に呼び止められる。かつて、何度も私の命を救ってくれた時の御剣、剣史郎さん。

「必ず戻って来い」
「はい」

 私はそう返事をして、根の国と現世を繋ぐ門を開く。そんな私の後ろ姿を、剣史郎が見守ってくれていた。

「待っててね、私が必ず助けてあげるから」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

処理中です...