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統一編
第78話 それぞれの意思
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天守へと続く道を駆け上がっていた御剣は、ふと空気が異質なものに変わったことに気付く。水晶の坂を登り切り、再び聖廟の中へと足を踏みれると、そこはかつて帝であるミノウが鎮座していた玉座の間であった。
「ウルイを倒しここまで来るとは。流石ですね、皇国皇」
その声の主は、玉座から立ち上がると御剣たちの前に歩み寄る。
「そこを退きなさい」
「申し訳ありませんが、却下させていただきます」
大和軍総司令、そして帝代行としてカヤ不在の大和を牛耳っていた七星将ハクメイは、腰に携えていた刀剣を鞘から抜き、構える。
「また、地揺れが…」
今度は、かなり大きな揺れが聖廟を襲う。玉座の間の調度品が倒れ、天井から砂埃が落ちてくる。
「あいつは、私がやる」
そう言って、藤香は瑞穂の前に出た。
「藤香、あなた…」
「こいつを相手していたら、本当に間に合わなくなる。ここは私が引き受けるから…」
「必ず追いつきなさい」
「分かった」
皆がハクメイの横を抜け天守へ続く扉へと向かう中、藤香は御剣を呼び止める。
「御剣」
「どうした藤ッ」
藤香は、御剣にそっと口付けする。これまで、そういったことを一切してこなかった藤香の行動に、御剣は呆然とする。
「藤香、お前…」
「武運を…さぁ、行って」
御剣から離れた藤香は、彼の背を押す。
「死ぬなよ」
「……ありがと」
藤香を残し、先を進む瑞穂たちを、ハクメイは追おうとしなかった。
「追わないのね」
「準備はすでに整いつつありますし、今からでは到底間に合うとは思えませんのでね…」
ハクメイは自らの胸を押さえると、その背から黒い翼が生え、その額に水晶の角が現れる。彼自身も、その身にタタリの呪力を受け、妖と化していた。
「いざ…」
両者共にすぐには動かなかった。どちらも刀を構えたまま、相手の動きを探り合う。
藤香は、ハクメイの翼が動いたのを見逃さなかった。咄嗟に構えを変え、翼から放たれた羽根を宙で叩き落とす。
その羽根は、まるで鉄のように固く、苦無の様に鋭かった。
そこからは、息をつく暇もない斬り合いだった。羽根を放ったと同時に藤香へと迫ったハクメイは、片手で刀剣を自在に操り、藤香へと斬りかかる。
藤香はその斬撃を受けるのではなく、刀を斬撃と同じ方向へ傾け、刀身を滑らせるように受け流す。隙をつき、ハクメイの喉元へと刀を突き刺そうとするが、ハクメイは翼でそれを受け止める。
最小限の動きで突かれた藤香の刀であったが、硬い羽根を持つ翼に阻まれてしまう。
鉄と鉄が打ち合う、甲高い音が鳴り響く。
「今のは中々でしたよ」
突きを受け止めた翼から、再び羽が撃ち放たれる。藤香は後ろに飛び退き羽根を躱しながら、千代から預かっていた術符を取り出す。
稲妻が呪符からハクメイに向けて放たれる。稲妻を受けたハクメイは直撃を免れるも、床に命中して拡散した稲妻の所為で体が痺れてしまう。
さらに、藤香は動きを止めたハクメイの足元に、火のついた筒を投げる。火が筒に入ると、穴から煙が上がり、ハクメイを包む。
煙毒、藤香が調合した毒の粉末が筒の中に詰められており、火を付けて焚くことで、毒の煙が撒かれる。そして、追い打ちをかけるように毒の塗られた苦無を投げ付ける。
立て続けに毒を受けたハクメイは、咳き込むと同時に血の塊を吐き出す。
「剣術や呪術を極めし者もいれば、あなたのように暗器を極める者もいる。皇国が強いのも理解できますね」
ハクメイは、呪術で右手に槍を創り出す。
「話しすぎましたね。今度は、こちらから参らせてもらいますよ」
◇
瑞穂たちが天守に向けて駆けていた頃、仁、凶月、そしてユーリの3人は、黄泉喰らいの大水晶の真下へと辿り着いた。
「個々の呪力が並の妖とは違って強く感じられます。中々の手練れです…」
「かなりの数がいるねぇ」
大水晶を守るため、多くの黄泉兵たちが周囲に配置されていた。それは、言い換えれば敵にとって重要なものであることを示す証拠にもなる。
「仁、作戦はあるのかい?」
「えぇ、ではユーリ殿」
「はい」
「正面の敵に最大規模の呪術を放ってください。正面の道を切り開けば、そこから我々が打って出ます」
「承知しました」
ユーリは屋根の上に立つと、自らの周囲に楕円の術式を展開させる。そして、神威言葉で祝詞を詠唱し、その楕円の術式の内側に、さらに十字の術式を重ねる。
火と雷の呪術が混ざり合い、同時に黄泉兵たちに迫る。そして、黄泉兵たちの集団に命中すると、通常の呪術とは比べ物にならない程の威力の爆発が生じる。
「いやぁ、お見事」
「行きますよ、凶月」
「あいよ!」
「ユーリ殿、援護を」
「お任せください」
仁と凶月が屋根から飛び降り、同時に真下にいた黄泉兵を太刀で、手甲で、叩き斬り、叩き潰す。突然の攻撃に黄泉兵たちは混乱しており、この場は今、2人の独壇場となっていた。
「凶月、正面のあいつを」
「任された!」
凶月は、大水晶の前に陣取る隊長格らしき巨体を持つ黄泉兵に狙いをつける。黄泉兵は凶月の殴打に合わせて打ち返すが、拳同士が重なった瞬間に、実力の違いを見せつけられることになる。
「軽いねぇ‼︎」
凶月はぶつけた拳にさらに力を加え、巨体の黄泉兵を叩き潰す。その威力は、黄泉兵の体が地面に沈み込み、地面に大きな窪みが作られるほどであった。
対する仁は、得意とする太刀を自在に操り、黄泉兵の攻撃を躱し、受け流し、最短で斬撃を叩き込む。2人の前に、瞬く間に黄泉兵の亡骸の山が出来上がった。
大水晶へと辿り着いた凶月は、その面に触れたところであることに気がつく。
「………厄介だねぇ」
凶月は大水晶の面に触れることができなかった。おそらく、大水晶の面に沿うように、呪力の膜が張られており、大水晶に触れることを防いでいると考えた。
「凶月、何か問題でもありましたか?」
「薄らと、表面に呪力の膜が張られている。こいつは薄いが、それでも私が全力で数回殴っても耐えるほどの力がある」
「呪力の膜を破り、そこから表面を叩けば…」
「駄目だ。こいつぁ、一箇所破ったところで、すぐに修復しちまう。あたしが破れるのも、精々拳ひとつ分の大きさが限界さ」
「大きな力で膜を破る必要がありますね…」
しかし、2人の周囲には新たに現れた黄泉兵たちが集まりつつあった。ユーリが2人の側から呪術で援護をするが、一向に数が減らず、それどころか徐々に増え始めていた。
「急がないと、囲まれてしまいます」
「一か八か、凶月、膜を破りましょう」
「分かったよ仁、援護を頼むよ」
黄泉兵が3人に襲い掛かろうとした時、空から光の槍が降り注ぐと、槍は正確に、一体ずつ黄泉兵たちを貫いていった。
「夢想槍…それもこんなに多くの数を正確に…」
「ご無事でしょうか、皆さん」
3人の前に降り立ったのは、古い巫女服を身に纏った舞花だった。
「あ、あなたは…」
「説明は後です。そこの御方」
「私でしょうか」
舞花はユーリに声を掛ける。
「神威巫女様とお見受けしました。私の呪術と合わせて、同時に大水晶へと撃ち込みましょう。2人の呪術なら、大きく膜を破れます」
「わ、分かりました」
「御二方」
「はい」
「あたしらのことで?」
「えぇ、御二方は私たちが膜を破った時を狙って、同時に最大の力で大水晶を攻撃してください。機会は一度きり、やれますか?」
舞花の言葉は、3人に失敗を感じさせないほど力強いものであった。同時に、不安ではなく安心を与える。
3人が同時に頷く。
「この膜は、タタリの呪力を流用しています。タタリの呪力は光に弱い特性を持ちます。神威巫女様、光符は使えますか?」
「はい!」
「では、私の合図に合わせて会心の一撃を放ってください」
舞花とユーリは、目前の宙に術式を展開させる。呪力を術式に込める最中、ユーリは隣にいた舞花に声を掛ける。
「巫女様」
「如何しましたか」
「ユーリと申します。巫女様のお名前を」
舞花は、大幣を胸元で握ると、自分の名前を口にする。
「私は、千代の母、白雪舞花です」
◇
玉座の間で戦いを繰り広げていた藤香とハクメイ。その実力はほぼ拮抗しているが、人の身である藤香が、妖のハクメイよりも体力で劣っていた。その上、先ほどのウルイとの戦闘で、藤香の身体は悲鳴をあげていた。
「はぁ…はぁ…げほっ」
対するハクメイも、これまでに受けた毒の影響で皮膚は変色し、血管が浮き出ており、片目からは血が流れていた。
「剣術の差が勝敗を分けましたね。毒を使われたのはこちらとて痛手でしたが」
「……私は、剣の実力では他に追いつけなかった…」
藤香は腹部を押さえてゆっくりと立ち上がる。
「それを理解していた…だから、毒を極めた…」
そして、腰に携えていた巾着から小さな丸薬を取り出す。
「それは良い事です。自らの欠点を他で補う。理にかなった行動ですね」
「そんな折、自分の体があらゆる毒に耐性を持つことに気付いた」
藤香は、手にしていた丸薬を口にすると、それを噛み砕いた。
それは、走野老と呼ばれる草の根を粉にし、固めた物であった。噛み砕き、唾液と共に体内に流れ込むと、藤香の視界がぐらりと揺らぐ。
「う…っく」
毒に耐性を持つ藤香は、自ら毒を摂取することで、その毒が持つ効能を得ることができる。そして、今彼女が得たのは、神経を麻痺させ、痛みを感じさせないというものだった。
「自ら毒を食らうとは、気でも狂いましたか」
ハクメイが藤香に向けて刀剣を振り下ろす。しかし、藤香にとってその動きは遅く、止まっているようにも感じられた。
最小限の動きでその斬撃を躱した藤香は、刀でハクメイを斬り上げる。しかし、その斬撃はハクメイの翼によって防がれる。
「かはっ⁉︎」
しかし、藤香は左手で脇差を抜き、がら空きになっていたハクメイの胴を横一線に切り裂いていた。不意をつかれたハクメイは、思わず両手で傷口を押さえてしまう。
「し、しまっ」
「遅い」
刀から手を離した藤香は、懐から苦無を取り出すと、ハクメイの左目にそれを突き刺した。そして、素早く手放していた刀を握り直すと、今度はそれを逆手に握り、心の臓目掛けて突き刺した。
「これが、私の戦い方」
苦痛に顔を歪めるハクメイ。藤香は突き刺した刀の刀身をそのまま一回転させ、ハクメイの胴から引き抜く。
「そんな…私が…私が…」
ハクメイが前のめりに倒れる。刀を引き抜いた藤香は、羽織の袖で血を拭う。
「少し、休ませて…もら…お」
刀を鞘に納めた藤香は、玉座の間の襖にふらつきながらもたれ掛かり、目を瞑る。疲労困憊の上に、毒を摂取したことで、藤香の体は満足に動ける状態ではなかった。
「疲れた…」
「ウルイを倒しここまで来るとは。流石ですね、皇国皇」
その声の主は、玉座から立ち上がると御剣たちの前に歩み寄る。
「そこを退きなさい」
「申し訳ありませんが、却下させていただきます」
大和軍総司令、そして帝代行としてカヤ不在の大和を牛耳っていた七星将ハクメイは、腰に携えていた刀剣を鞘から抜き、構える。
「また、地揺れが…」
今度は、かなり大きな揺れが聖廟を襲う。玉座の間の調度品が倒れ、天井から砂埃が落ちてくる。
「あいつは、私がやる」
そう言って、藤香は瑞穂の前に出た。
「藤香、あなた…」
「こいつを相手していたら、本当に間に合わなくなる。ここは私が引き受けるから…」
「必ず追いつきなさい」
「分かった」
皆がハクメイの横を抜け天守へ続く扉へと向かう中、藤香は御剣を呼び止める。
「御剣」
「どうした藤ッ」
藤香は、御剣にそっと口付けする。これまで、そういったことを一切してこなかった藤香の行動に、御剣は呆然とする。
「藤香、お前…」
「武運を…さぁ、行って」
御剣から離れた藤香は、彼の背を押す。
「死ぬなよ」
「……ありがと」
藤香を残し、先を進む瑞穂たちを、ハクメイは追おうとしなかった。
「追わないのね」
「準備はすでに整いつつありますし、今からでは到底間に合うとは思えませんのでね…」
ハクメイは自らの胸を押さえると、その背から黒い翼が生え、その額に水晶の角が現れる。彼自身も、その身にタタリの呪力を受け、妖と化していた。
「いざ…」
両者共にすぐには動かなかった。どちらも刀を構えたまま、相手の動きを探り合う。
藤香は、ハクメイの翼が動いたのを見逃さなかった。咄嗟に構えを変え、翼から放たれた羽根を宙で叩き落とす。
その羽根は、まるで鉄のように固く、苦無の様に鋭かった。
そこからは、息をつく暇もない斬り合いだった。羽根を放ったと同時に藤香へと迫ったハクメイは、片手で刀剣を自在に操り、藤香へと斬りかかる。
藤香はその斬撃を受けるのではなく、刀を斬撃と同じ方向へ傾け、刀身を滑らせるように受け流す。隙をつき、ハクメイの喉元へと刀を突き刺そうとするが、ハクメイは翼でそれを受け止める。
最小限の動きで突かれた藤香の刀であったが、硬い羽根を持つ翼に阻まれてしまう。
鉄と鉄が打ち合う、甲高い音が鳴り響く。
「今のは中々でしたよ」
突きを受け止めた翼から、再び羽が撃ち放たれる。藤香は後ろに飛び退き羽根を躱しながら、千代から預かっていた術符を取り出す。
稲妻が呪符からハクメイに向けて放たれる。稲妻を受けたハクメイは直撃を免れるも、床に命中して拡散した稲妻の所為で体が痺れてしまう。
さらに、藤香は動きを止めたハクメイの足元に、火のついた筒を投げる。火が筒に入ると、穴から煙が上がり、ハクメイを包む。
煙毒、藤香が調合した毒の粉末が筒の中に詰められており、火を付けて焚くことで、毒の煙が撒かれる。そして、追い打ちをかけるように毒の塗られた苦無を投げ付ける。
立て続けに毒を受けたハクメイは、咳き込むと同時に血の塊を吐き出す。
「剣術や呪術を極めし者もいれば、あなたのように暗器を極める者もいる。皇国が強いのも理解できますね」
ハクメイは、呪術で右手に槍を創り出す。
「話しすぎましたね。今度は、こちらから参らせてもらいますよ」
◇
瑞穂たちが天守に向けて駆けていた頃、仁、凶月、そしてユーリの3人は、黄泉喰らいの大水晶の真下へと辿り着いた。
「個々の呪力が並の妖とは違って強く感じられます。中々の手練れです…」
「かなりの数がいるねぇ」
大水晶を守るため、多くの黄泉兵たちが周囲に配置されていた。それは、言い換えれば敵にとって重要なものであることを示す証拠にもなる。
「仁、作戦はあるのかい?」
「えぇ、ではユーリ殿」
「はい」
「正面の敵に最大規模の呪術を放ってください。正面の道を切り開けば、そこから我々が打って出ます」
「承知しました」
ユーリは屋根の上に立つと、自らの周囲に楕円の術式を展開させる。そして、神威言葉で祝詞を詠唱し、その楕円の術式の内側に、さらに十字の術式を重ねる。
火と雷の呪術が混ざり合い、同時に黄泉兵たちに迫る。そして、黄泉兵たちの集団に命中すると、通常の呪術とは比べ物にならない程の威力の爆発が生じる。
「いやぁ、お見事」
「行きますよ、凶月」
「あいよ!」
「ユーリ殿、援護を」
「お任せください」
仁と凶月が屋根から飛び降り、同時に真下にいた黄泉兵を太刀で、手甲で、叩き斬り、叩き潰す。突然の攻撃に黄泉兵たちは混乱しており、この場は今、2人の独壇場となっていた。
「凶月、正面のあいつを」
「任された!」
凶月は、大水晶の前に陣取る隊長格らしき巨体を持つ黄泉兵に狙いをつける。黄泉兵は凶月の殴打に合わせて打ち返すが、拳同士が重なった瞬間に、実力の違いを見せつけられることになる。
「軽いねぇ‼︎」
凶月はぶつけた拳にさらに力を加え、巨体の黄泉兵を叩き潰す。その威力は、黄泉兵の体が地面に沈み込み、地面に大きな窪みが作られるほどであった。
対する仁は、得意とする太刀を自在に操り、黄泉兵の攻撃を躱し、受け流し、最短で斬撃を叩き込む。2人の前に、瞬く間に黄泉兵の亡骸の山が出来上がった。
大水晶へと辿り着いた凶月は、その面に触れたところであることに気がつく。
「………厄介だねぇ」
凶月は大水晶の面に触れることができなかった。おそらく、大水晶の面に沿うように、呪力の膜が張られており、大水晶に触れることを防いでいると考えた。
「凶月、何か問題でもありましたか?」
「薄らと、表面に呪力の膜が張られている。こいつは薄いが、それでも私が全力で数回殴っても耐えるほどの力がある」
「呪力の膜を破り、そこから表面を叩けば…」
「駄目だ。こいつぁ、一箇所破ったところで、すぐに修復しちまう。あたしが破れるのも、精々拳ひとつ分の大きさが限界さ」
「大きな力で膜を破る必要がありますね…」
しかし、2人の周囲には新たに現れた黄泉兵たちが集まりつつあった。ユーリが2人の側から呪術で援護をするが、一向に数が減らず、それどころか徐々に増え始めていた。
「急がないと、囲まれてしまいます」
「一か八か、凶月、膜を破りましょう」
「分かったよ仁、援護を頼むよ」
黄泉兵が3人に襲い掛かろうとした時、空から光の槍が降り注ぐと、槍は正確に、一体ずつ黄泉兵たちを貫いていった。
「夢想槍…それもこんなに多くの数を正確に…」
「ご無事でしょうか、皆さん」
3人の前に降り立ったのは、古い巫女服を身に纏った舞花だった。
「あ、あなたは…」
「説明は後です。そこの御方」
「私でしょうか」
舞花はユーリに声を掛ける。
「神威巫女様とお見受けしました。私の呪術と合わせて、同時に大水晶へと撃ち込みましょう。2人の呪術なら、大きく膜を破れます」
「わ、分かりました」
「御二方」
「はい」
「あたしらのことで?」
「えぇ、御二方は私たちが膜を破った時を狙って、同時に最大の力で大水晶を攻撃してください。機会は一度きり、やれますか?」
舞花の言葉は、3人に失敗を感じさせないほど力強いものであった。同時に、不安ではなく安心を与える。
3人が同時に頷く。
「この膜は、タタリの呪力を流用しています。タタリの呪力は光に弱い特性を持ちます。神威巫女様、光符は使えますか?」
「はい!」
「では、私の合図に合わせて会心の一撃を放ってください」
舞花とユーリは、目前の宙に術式を展開させる。呪力を術式に込める最中、ユーリは隣にいた舞花に声を掛ける。
「巫女様」
「如何しましたか」
「ユーリと申します。巫女様のお名前を」
舞花は、大幣を胸元で握ると、自分の名前を口にする。
「私は、千代の母、白雪舞花です」
◇
玉座の間で戦いを繰り広げていた藤香とハクメイ。その実力はほぼ拮抗しているが、人の身である藤香が、妖のハクメイよりも体力で劣っていた。その上、先ほどのウルイとの戦闘で、藤香の身体は悲鳴をあげていた。
「はぁ…はぁ…げほっ」
対するハクメイも、これまでに受けた毒の影響で皮膚は変色し、血管が浮き出ており、片目からは血が流れていた。
「剣術の差が勝敗を分けましたね。毒を使われたのはこちらとて痛手でしたが」
「……私は、剣の実力では他に追いつけなかった…」
藤香は腹部を押さえてゆっくりと立ち上がる。
「それを理解していた…だから、毒を極めた…」
そして、腰に携えていた巾着から小さな丸薬を取り出す。
「それは良い事です。自らの欠点を他で補う。理にかなった行動ですね」
「そんな折、自分の体があらゆる毒に耐性を持つことに気付いた」
藤香は、手にしていた丸薬を口にすると、それを噛み砕いた。
それは、走野老と呼ばれる草の根を粉にし、固めた物であった。噛み砕き、唾液と共に体内に流れ込むと、藤香の視界がぐらりと揺らぐ。
「う…っく」
毒に耐性を持つ藤香は、自ら毒を摂取することで、その毒が持つ効能を得ることができる。そして、今彼女が得たのは、神経を麻痺させ、痛みを感じさせないというものだった。
「自ら毒を食らうとは、気でも狂いましたか」
ハクメイが藤香に向けて刀剣を振り下ろす。しかし、藤香にとってその動きは遅く、止まっているようにも感じられた。
最小限の動きでその斬撃を躱した藤香は、刀でハクメイを斬り上げる。しかし、その斬撃はハクメイの翼によって防がれる。
「かはっ⁉︎」
しかし、藤香は左手で脇差を抜き、がら空きになっていたハクメイの胴を横一線に切り裂いていた。不意をつかれたハクメイは、思わず両手で傷口を押さえてしまう。
「し、しまっ」
「遅い」
刀から手を離した藤香は、懐から苦無を取り出すと、ハクメイの左目にそれを突き刺した。そして、素早く手放していた刀を握り直すと、今度はそれを逆手に握り、心の臓目掛けて突き刺した。
「これが、私の戦い方」
苦痛に顔を歪めるハクメイ。藤香は突き刺した刀の刀身をそのまま一回転させ、ハクメイの胴から引き抜く。
「そんな…私が…私が…」
ハクメイが前のめりに倒れる。刀を引き抜いた藤香は、羽織の袖で血を拭う。
「少し、休ませて…もら…お」
刀を鞘に納めた藤香は、玉座の間の襖にふらつきながらもたれ掛かり、目を瞑る。疲労困憊の上に、毒を摂取したことで、藤香の体は満足に動ける状態ではなかった。
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