花衣ー皇国の皇姫ー

AQUA☆STAR

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再思編

第40.5話 光と影

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 斎国での会談を終えた私たちは、軍の半分を斎国に駐留させ、残りを率いて一度国都である水蓮園へと帰途についていた。

「ねぇ、日和」
「何ですか、お姉様」

 御車の窓から夜空を見上げるお姉様は、どこか不安げな表情をしていた。お姉様のこんな顔をするのは珍しい。

「私の言いたいこと、分かる⁇」
「何か、不安なのですか?」
「不安といえばそうなるかしら。胡ノ国は皇国、そして斎国との同盟関係を持ったことで、宇都見国と明確に対立の関係を作ってしまったわ。これまでの中立は貫けなくなってしまった…」

 大国に挟まれている胡ノ国にとって、大国同士の争いに関さず、中立の姿勢を貫いている方が良いに決まっている。それは、政に対して素人である私でも分かることだ。

「皇国皇と約束した私に迷いはないけれど、先が見えないこの乱世には、やはり不安が募るわ」
「宇都見国の事ですか?」
「えぇ、特にあの二人。元王と咲耶波姫については、どっちも曲者よ。斎国の様に一筋縄ではいかないでしょうね」

 お姉様はそう言って、小さなため息をついた。

 双子として生まれてから、ずっと一緒に育ってきたお姉様がため息をつく時は、相当悩みを抱えている時だ。

 剣を振るうしか脳のない私とは違い、お姉様は様々な思惑が交差する政の世界にいる。

 多忙な政務に追われる中、時には命を狙われ、時には大切な人を失う。国の長という立場は、おいそれと人がなれるものではなく、常に何かの犠牲の上に成り立っているのだ。

 そのお姉様が決断したことだ。私はその決断を尊重し、それを邪魔する者を手を汚してでも排除する。

 私たちの名前とは対照的に、お姉様は光、私は影の立場だ。顔が似ている私は、命の危険がある時にはお姉様に扮することもある。

 だから、お姉様には安心してほしい。

 私はお姉様の影として、常にお姉様を支えているのだから。

 そんなことを考えていると、お姉様が私のことをじっと見つめてきた。

「日和、あなた私にまたお節介焼いていない?」
「え、いや、そんなことは…」
「あなたは昔から、私がこんな時に限って難しい顔するのよね。分かりやすいの」
「………」
「心配しなくて良いわ。何事も、最後には何とかなる」
「それって、お父様の言葉…」

 それは、宇都見国からの独立を前に道半ば病で倒れたお父様の言葉だった。

 何事も、最後には何とかなる。

 そう言ったくせに自分は病で死ぬものだから、説得力はない。それでも、お父様の言葉には不思議な力があって、私たち姉妹はその言葉をずっと心の中に仕舞って生きている。

 結局、私がお姉様の不安な気持ちを察した様に、お姉様も私の気持ちを察していたみたいだ。

「東の守りを厚くするべきね。すぐに攻めてくるとは思わないけど」
「どうしてですか?」
「今、対立の構図が胡ノ国、皇国、斎国の3ヶ国と、宇都見国という形になっている。皇国と仮初めの同盟関係である迦ノ国や準同盟関係の神居古潭を入れれば、宇都見国は実質四方を敵に囲まれたことになる」
「だから、容易には攻めづらい、ということですか?」
「その通り、でも宇都見国は大和と同等の力を持っているし、その力は並大抵のものじゃない。だから、国境を千羅城辺りしか接していない皇国から、物資なり、兵士なりを支援してもらわないと苦しいわ。おそらく、隙をみて攻めてくるでしょうね」

 お姉様の話は現実的な話だった。

「乱世を終わらせるために戦わなければならないなんて、皮肉ですね…」
「その通りね。だからこそ、私は皇国皇に賭けたの」

 冷えたお茶を飲みながら、お姉様はそう言った。

「日和、あなたが皇国皇を初めてみたとき、どんな印象を持った?」
「印象ですか?」
「私は、とても透き通った心の持ち主だと感じたわ。皇国皇の話し方一つにしても、私の心に直接訴えかけてくるようだったわ」
「透き通った心ですか、確かにそうなのかもしれませんね。私は、光を見ました」
「光?」
「それは、目に見えるものではありませんが、私は皇国皇から、光が輝いているように見えました」

 私が初めて皇国皇を見たとき、言い表せられないほどの不思議な感覚を感じた。

 皇国皇から輝きを放つ不思議な光は、まるで自分のことを優しく包み込むような、そんな感覚だった。

「大御神の加護かもしれないわね」
「大御神の加護?」
「昔、まだ現世にその姿を現界させていたと言われている大御神は、その周囲にいた者に自らの神力で加護を与えたらしい。皇国皇は、自ら大御神の血を引いていると言っていたし、おそらくは…」
「まさか…」

 その光が大御神の加護であるのなら、皇国皇はおそらく。

 ここでようやく、お姉様が皇国皇に同調した理由に合点がいった。

「確証はないけれどもね。でも、もしも皇国皇が大御神であるのなら、皇国皇の夢を追う私の判断は間違いではなかったわ」

 お姉様は私とは違い、武についてはからっきしである。

 しかし、その代わりお姉様には私にはない人を見定める目がある。

 お姉様が選んだ人であれば、間違いはないだろう。

「さてと、帰ったら仕事が山積みよ。早急にするべくは、東の守りの強化ね」

 心配はいらないだろう。私はお姉様を信頼している。

 例え、今回のことが結果が失敗になったとしても、すんなりとそれを受け入れることができると思う。

 なぜなら、私はお姉様の影だから。

 光と影は表裏一体。であるなら、私がお姉様を信頼しなければ、お姉様も私のことを信頼してくれない。

 必ず、お姉様を守ってみせます。

 たとえ、この命に代えてでも。

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