花衣ー皇国の皇姫ー

AQUA☆STAR

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劇話短編 我が罪は我が前にありて

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 神代時代 中ツ国 とある村

 村の中央、神社の祭壇に向けて祈りを捧げる村人たちがいた。彼らは神職の祝詞に合わせ、神威言葉で自らの信仰する大神の名を口にする。

 その祭壇の中央、蝋燭の灯された小さな舞台の上に座る少女がひとり。少女は輿入れの際に女子が着る白無垢を着込み、その顔を白い布を垂らして隠している。

 行われているのは、飢餓に陥った村に豊作と雨乞いを願うための儀式。その儀式に必要なのは、彼らが信仰する大神に対して人の子、つまり女子を大神の妻として献上するというもの。

 しかし、それは自らの知見が及ばない尊き存在である大神に対して、嫁入りと称した生贄を捧げるものであった。

 祝詞を唱え終わると、その場の空気が一気に変わる。重く、暗く、人の感覚という感覚がこの空気を危険と感じるものに。

「お、降りられた…」
黒国主くろくにぬし様じゃ…」

 黒い渦が空を覆い、その渦の中心がまるで人の口の様に割れる。村人たちがその光景にひれ伏していると、その割れ目から大きな目がぎろりと村人を見る。

 村長の老人が口を開く。

「ゆ、赦せ、お前しかいないのだ」
「………」

 少女の顔に布が垂れているのは、この恐ろしい光景を見ても動じないため。その恐ろしい光景に思わず腰を抜かし、恐怖に慄く者すらいるが、少女はただじっと、正座のまま動くことはなかった。

 その目は少女を見ると、裂け目から黒い触手を伸ばし、少女を掴み取る。そして、そのまま少女を渦の割れ目へと飲み込むと、元通りの空へと戻った。


 ◇


 市は孤児であった。

 元々、この村は飢饉で働き手を多く失ったため、その人手不足を補うために近隣の孤児がこの村に連れられた。しかし、村が飢饉であれば、その周囲に住む孤児が飢えていないはずもなく、食事もまともに与えられなかったことから、体が弱り、とても満足に動くこともできなくなった。

 そんな折、村人は古くから信仰する黒国主に生贄を捧げ、その恩恵を受けようと考えた。黒国主は、古くから人の女子を妻として迎え入れることができれば、その妻の住んでいた村に恩恵を与えると語り継がれてきた。

 しかし、村の女子たちは、誰も進んで自ら手を挙げることはなかった。そこで、村の部外者でもあり、生贄となったところで誰にも悲しまれることのない、孤児であった市が選ばれることになった。

 彼女に拒否権はなかった。寧ろ、生贄として死ぬことで、村人たちの非道な迫害から少しでも早く抜け出そうと思っていた。

「主」
「………」

 不思議な空間に連れられた市は、低くも太い声に呼ばれて顔を上げる。白布を垂らしているため、その声の主がどのような姿であり、どのような存在なのかは分からない。

「私のことでございましょうか…」
「名は何と申す?」
「…市と申します」
「ならば市よ。予め主に伝えておくが、我は贄など必要ない」
「………え⁇」

 12の市は、その声の主が言っている意味を理解できなかった。全てを捨て、もうどうにでもなればいい、そんな自暴自棄であった彼女は、聞いていた話と違うことに思わず本心から動揺した。

「わ、私は、必要ないのでございましょうか…」
「否、今の言葉は誤解を生じさせるゆえ正そう。我はそもそも、人に恩恵を与えるために生贄を必要としないのだ」
「は、はぁ…」
「生贄を欲するなど、現世の者が創り出した戯言だ。故に我は妻を必要としない」
「であれば、何故私はあなたに此処へ連れてこられたのでしょうか…」

 自分でも、尊き存在に畏れ多くも問いを投げ掛けている事は分かっていた。しかし、市は何の戸惑いもなく、恐怖もなく、言葉を続けた。

 そして、その声の主はその問いに答えた。

「ふむ。主は、孤児であったそうだな。その様な境遇の者が、我がこの根の国へと連れてきた初めての定命の者だ」
「根の国…」
「面を晒すことを赦そう」

 市は恐る恐る布を取る。そこは、灰の積もる大地に、黒い空から逆さに生える木、そして、一際大きな大木が聳え立つ異様な光景だった。

 そして、その声の主の姿も。

「ほぅ、我を恐れぬか」
「相手を、それも大神様を恐るなど言語道断にございます。例えるなら、私は相手を外見で判断することもなければ、自らと違う外見で恐れることもしません」

 市の言葉を聞いた巨影は、しばらく間を置いた後、市に告げる。

「ならばよい。我は黒国主。ここは我の配する根の国である。主は是撚り人ではなく徳を積み、大神と成れ」
「い、今なんと…」
「主にはまだ大きな力が眠っておる。この冥土の地で、人としてその生涯を終わらせることは余りに勿体無い。大神となり、その力を十分に発揮させると良い」
「私如きが、大神様と同じ立場になるなど。その様な畏れ多いこと、致しかねます…」
「主は根の国の主人、黒国主の元へ来た。ここでは生きとし生けるものが永く生を保つことは出来ぬ。定命の者、市よ。大神と成り、自らの運命を見定めよ」

 孤児として、生贄としてその生を終えようとした少女、市。

 これは、後に盟神探湯御神くかたちのみかみと呼ばれる事となる少女が、自らの不義の真相を逐う物語り。
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感想 2

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みんなの感想(2件)

狸田 真 (たぬきだ まこと)

設定が作り込まれていて話がしっかりしているし、アクションシーンもいっぱいあって、アクション好きな人には楽しい作品ですね。綺麗な挿絵もいっぱいあって、世界観がわかりやすかったです。
勝気な性格の主人公に、普段、ほのぼの系ばかりを読んでいる僕としてはハラハラさせられました。

楽しい時間を有難うございます。

2020.05.14 AQUA☆STAR

遅くなってしまい、申し訳ありません。
素敵な感想ありがとうございます。時間限られている中での執筆ですので、各所で表現不足が目立つものになりますが、アクションシーンなど楽しんでいただけたようですごく嬉しかったです。良かったらまた遊びに来てください。

解除
みちょこ
2019.09.16 みちょこ

最新話まで一気に読ませて頂きました!
物語の設定もしっかりしていて、
読みやすかったです!
続きも気になります。
更新されたらまた遊びに来ますね。

2020.05.14 AQUA☆STAR

遅くなり申し訳ありませんでした。
処女作ですが、いつも応援していただいいているおかげで何とか第42話まで続けることができました。
また遊びに来てください!

解除

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