メロウ電車

横はいり

電車を待つ列というのは、急に崩れて曖昧になることがある。
今日も太ったミートボールみたいな親父が横から入り込もうとしてきた。私は先頭に立っていたので、すかさずそれを阻止しようと前に出た。

乗っていた客が降り出してくる。私はすかさず横目で親父を見て、この野郎、横はいりしたらただじゃおかねーぞ。という目で見た。

客が全て降りた後、電車に乗り込んで、僕はドア横、手前の席に。親父は目の前に、どしっと座った。
ふと下を見ると、少し小汚い水色のハンカチが落ちている。さっき乗っていた客が落としたというよりは、しばらく寝かされているような感じだ。

それを覗き込んでいると、すかさず親父がそれを掴み、座席の下に寄せた。
僕はそれを見た時、親父に抱いていた怒りが一瞬で収まり、少し彼の優しさを感じた。疑いの目で見ていた自分に少し嫌気がさした。

親父はスイカのカードを片手に、遠くを眺めている。左腕の時計をチラチラと見ながら。どこへ向かうのか。

僕は誰も座っていない方の窓から外を眺めた。快晴とは言えないが久々の晴れ。
そんな中で、もう少し僕の心にある雲もなくなってくれないか。そう願って僕は電車を降りた。