9 / 12
夏雨
しおりを挟む
「こっちめっちゃ寒いね~まだ8月でしょ?」
「こんなに寒いのは何十年ぶりかね~、7月のほうが暑かったもの」
新幹線の改札を出ると帰省客とそのお迎えできている家族との話が聞こえてくる。まあどの家族も同じような話をしているようだ。気が合うのか、それとも話すネタがないのか、いや、久々に会うのだからさすがに話すことはあるだろう。
僕は久しぶりに聞く地元のなまりをかき分けながら、在来線の改札口へ向かった。乗り換え時間が30分もあるのを電光掲示板で知らされる。しょうがない、久々になじみのあるコンビニにでも行こうと、駅の階段を降り始めた。
僕は高校時代電車通学をしていた。片道30分程度の距離にあるのだが、この駅で乗り換えが必要で、その接続が悪いと、部活帰りに家に帰るまで1時間30分以上もかかっていた。そんなときには友人たちとくだらない話をしたり、なじみのあるローソンに買い物に来たり、そうやって疲れを少し癒していた気がする。
いや、癒していたのではなく、傷をなめあっていた、少しでも現実を忘れたかったというのが正しいのかもしれない。
夏の冷たい雨がまとわりつくように僕の体に降り注ぐ。傘を持っていなかったので少し早歩きでコンビニに向かった。もうあたりは暗いのだが、帰省客を迎えに来た車のヘッドライトが少しまぶしく感じられた。
コンビニについて中を見ると、レイアウトが少し変わってしまったようだ。あの時は出入り口の通路と平行にレジが並んでいたはずなのに、今は奥のほうに写っている。レジにはドーナツやコーヒーなど、当時並んでいなかった商品ケースが置いてある。
僕は少し唇に力を入れて、何も買わずに外に出てしまった。
夏の雨はさらに勢いを増し始めている。
僕はまた雨に濡れて、さっきと同じ速さで駅に向かっていく。後ろは一度も振り返らずに。
「こんなに寒いのは何十年ぶりかね~、7月のほうが暑かったもの」
新幹線の改札を出ると帰省客とそのお迎えできている家族との話が聞こえてくる。まあどの家族も同じような話をしているようだ。気が合うのか、それとも話すネタがないのか、いや、久々に会うのだからさすがに話すことはあるだろう。
僕は久しぶりに聞く地元のなまりをかき分けながら、在来線の改札口へ向かった。乗り換え時間が30分もあるのを電光掲示板で知らされる。しょうがない、久々になじみのあるコンビニにでも行こうと、駅の階段を降り始めた。
僕は高校時代電車通学をしていた。片道30分程度の距離にあるのだが、この駅で乗り換えが必要で、その接続が悪いと、部活帰りに家に帰るまで1時間30分以上もかかっていた。そんなときには友人たちとくだらない話をしたり、なじみのあるローソンに買い物に来たり、そうやって疲れを少し癒していた気がする。
いや、癒していたのではなく、傷をなめあっていた、少しでも現実を忘れたかったというのが正しいのかもしれない。
夏の冷たい雨がまとわりつくように僕の体に降り注ぐ。傘を持っていなかったので少し早歩きでコンビニに向かった。もうあたりは暗いのだが、帰省客を迎えに来た車のヘッドライトが少しまぶしく感じられた。
コンビニについて中を見ると、レイアウトが少し変わってしまったようだ。あの時は出入り口の通路と平行にレジが並んでいたはずなのに、今は奥のほうに写っている。レジにはドーナツやコーヒーなど、当時並んでいなかった商品ケースが置いてある。
僕は少し唇に力を入れて、何も買わずに外に出てしまった。
夏の雨はさらに勢いを増し始めている。
僕はまた雨に濡れて、さっきと同じ速さで駅に向かっていく。後ろは一度も振り返らずに。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる