メロウ電車

下田島

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夏雨

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「こっちめっちゃ寒いね~まだ8月でしょ?」
「こんなに寒いのは何十年ぶりかね~、7月のほうが暑かったもの」
新幹線の改札を出ると帰省客とそのお迎えできている家族との話が聞こえてくる。まあどの家族も同じような話をしているようだ。気が合うのか、それとも話すネタがないのか、いや、久々に会うのだからさすがに話すことはあるだろう。

僕は久しぶりに聞く地元のなまりをかき分けながら、在来線の改札口へ向かった。乗り換え時間が30分もあるのを電光掲示板で知らされる。しょうがない、久々になじみのあるコンビニにでも行こうと、駅の階段を降り始めた。

僕は高校時代電車通学をしていた。片道30分程度の距離にあるのだが、この駅で乗り換えが必要で、その接続が悪いと、部活帰りに家に帰るまで1時間30分以上もかかっていた。そんなときには友人たちとくだらない話をしたり、なじみのあるローソンに買い物に来たり、そうやって疲れを少し癒していた気がする。
いや、癒していたのではなく、傷をなめあっていた、少しでも現実を忘れたかったというのが正しいのかもしれない。

夏の冷たい雨がまとわりつくように僕の体に降り注ぐ。傘を持っていなかったので少し早歩きでコンビニに向かった。もうあたりは暗いのだが、帰省客を迎えに来た車のヘッドライトが少しまぶしく感じられた。

コンビニについて中を見ると、レイアウトが少し変わってしまったようだ。あの時は出入り口の通路と平行にレジが並んでいたはずなのに、今は奥のほうに写っている。レジにはドーナツやコーヒーなど、当時並んでいなかった商品ケースが置いてある。
僕は少し唇に力を入れて、何も買わずに外に出てしまった。

夏の雨はさらに勢いを増し始めている。
僕はまた雨に濡れて、さっきと同じ速さで駅に向かっていく。後ろは一度も振り返らずに。
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