よこはま物語 弐、ヒメたちのエピソード

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ヒメと明彦4、良子・芳芳編

第24話 良子の家2、店屋物はキッチンで!

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 店屋物の配達が来た。近所のお店だ。お財布の中を見ると1万円札だけ。おじさん、お釣りある?と聞くと、良子ちゃん、いつもご贔屓に、ツケておくよ、と言われた。ゴメン。それより、重いよ、もってこうか?と親切な申し出。じゃあ、ダイニングテーブルに、とお願いした。確かに、カツ丼と天ぷら蕎麦、✕3つは重いよ。

 応接間に行って、二人にキッチンで食べましょ、という。

「明彦、キッチンよ、キッチン。ソファーテーブルで、女の子がカツ丼と天ぷら蕎麦をどう上品に食べられると思うの?雅子さんが、お股開いて、前かがみで蕎麦をすするの、見たい?パンツ見えるわよ」
「よく発想がそう先へ先へと進むもんだね、良子」
「ええ、研究したのよ。カツ丼は熱くなければ、ソファーテーブルでも、丼を持って攻略可能ですけど、麺類はダメ。前かがみで蕎麦すすったら、百年の恋もさめるわ。器を持って食べたら、汁は飛び跳ね、麺は器の外に逃げる。結論、女の子はソファーテーブルで汁物を食べてはいけない」と言ったら、雅子さんがクスクス笑う。私、変なことを言ったかしら?

「雅子さん、私、変なことを言いました?」
「ゴメンナサイ。『研究したのよ』って、実際に良子さんがソファーテーブルで脚を斜めにした上品な姿勢で前かがみで髪の毛を気にしながら、天ぷら蕎麦と格闘して食べている様子を想像したら、おかしかったの」
「そうでしょ?あれ、ダメよ。上品に食べるの不可能だわ。だから、一人で食べたけど、脚をガバァっと開いて食べました。正面から誰か見ていたらパンツ丸見えでしょうね」雅子さん、笑いが止まらなくなった。
「雅子、良子は何事も徹底してやるんだ。それで、本人は自覚していないけど、天然ボケなんだよ。そこが可愛い」私、褒められたの?

「ところで、良子さん、美姫さんの手紙、私はおかしいと思うのよ。なぜ手紙なの?直接会いたくなければ電話でいいじゃない?それで、家族には言わないで、なぜ明彦だけ?なんだろう。腑に落ちないのよ。明彦は『ガミガミ勉強しろ、大学にいけと言うぼくにあいそがついて、ぼくより好きな男ができたから、もうぼくは要らない、ぼくの元から逃げますってこと』と言うけど、3年も付き合って、いくら気持ちが離れつつある彼氏でも、明彦みたいな優しいヤツは、別れたとしても彼女の味方であり続けるわよね?ボーイフレンド?明彦はそういう存在を知らないって言っている」

「同感だわ。私もそう思う。この2月の大学入試、美姫は全部フケて、受けなかった。それで、両親も彼女の兄もカンカン。私も激怒したわ。ビンタしてやった。明彦だけが彼女をかばった。浪人したと思って来年受ければいいだけでしょ!って両親と兄に言い切ったのよ。二人の仲はギクシャクしていたけど、それでも明彦はかばった。美姫の味方は明彦だけだった。それがこの手紙・・・腑に落ちないわ・・・今、私、知り合いにも美姫のことを頼んでいるの。その連絡待ちの状態。って、お蕎麦が伸びちゃうわ。食べましょう」

 ほうじ茶を淹れた。ハイ、お茶。まずは食べましょう。

 だけど、この面子はなんなの?探しているのは、正面に座っているこの男の元カノ。その隣に今カノ。対面にいるのが、この男とセックスを何度もした、私。

 え~、私は彼の友だち?セックスフレンド?愛情が微塵もないって行為じゃなかったから、何?やっぱり、第1夫人ありきのハーレムの第2夫人?その三人が、同じダイニングテーブルでカツ丼を食べ、天ぷら蕎麦をすすっている光景は実にシュールだ。あ~あ。あ、雅子さん、七味唐辛子はこれよ。

「ねえ、良子さん」ズルズル「この三人の組合せ、おかしいわね?」ズルズル
「良子でいいわ」ズルズル「私も雅子って呼んでいい?」ズルズル
「良子に雅子って呼ばれてうれしい!」ズルズル「このかき揚げ、おいしい。関東の濃い汁もおいしいわ」ズルズル
「確かにこの組合せ、おかしいね」ズルズル「私の立ち位置ってなんなんだろう?」ズルズル
「私が思うにね」ズルズル「良子は稀有な存在なのよ」ズルズル
「稀有?私が?」ズルズル
「男に抱かれた女って、愛情関係になる。もう、男と女の友情は成立しない。それが普通だけど、良子と明彦の関係では、肉体関係があってもなくても、友情関係はなくならないのよ。だから、良子は稀有な存在なの?」ズルズル
「ああ、そうかもしれない。明彦とは肉体関係なんてなくても、お友だちだ、という感覚はあるわ」ズルズル
「だからね、美姫ちゃんも良子に嫉妬しなかった。私もたぶんしないと思う」ズルズル

 黙って聞いていた明彦がカツ丼と天ぷら蕎麦を食べ終えて「二人とも、天ぷら蕎麦をすすりながら話す内容なの?」と言う。私と雅子が「いいのよ、口を挟まないで!」と同じ言葉を返した。あら?雅子と気が合いそう。

「え?雅子?『私もたぶんしないと思う』って何?」
「昨日の夜、明彦とこんなことを話したのよ・・・」

・・・「う~ん、『私はこれで明彦の女なんだよ』とは思ったし『雅子の彼氏』というのもいいんだけど・・・暫定的だね。ヒメが気になる」
「それがなにか悪いの?」
「明彦が言った『ゼロの執着心や依存心なんてありえない。雅子に心地よい、ぼくにとっても心地よい、お互いの執着心や依存心を見つけよう、必要なら最低限の嫉妬心もスパイスに』ということと『エッチしたらぼくらの関係がどうなるのか、様子を見て、執着心や依存心、嫉妬心がどうぼくらに発生するのか、観察しましょ』ってことよ。一夫一婦制度では、それが観察できないかもしれない」

「何を言っているのかよくわからないんだけど?」
「例えばね、例えばの話よ、私と明彦がヒメと三人でセックスするとか・・・」
「雅子、ねえ、雅子、とんでもない飛躍だよ、それって。第一、ぼくはヒメに逃げられたんだよ」
「いいのよ、いいの。仮定の話で。それで、ヒメに対してどう私が思うか、とかね」
「あのね、雅子、それはぼくと雅子のセックスをヒメに見せたり、三人でしたり、ぼくがヒメとセックスするのを雅子が見たりってことだよ。異常だよ、そんなこと」
「意外と平気かもしれない。隠れてされちゃうってことじゃなくて、目の前でされちゃうのなら、平気かも。それに、基本的に私とヒメと明彦はこういう関係なんだから、ヒメは私の単なるスパイスなのよ。ヒメも同じ。私は彼女のスパイス」
「ヒメの感情も考えないと」
「あら、もちろん、ヒメが納得するなら、ってこと」
「雅子、平気なの?ぼくがヒメを抱くんだからね?それを雅子がみるんだよ?」
「スポーツの対戦相手が変わった程度の話かも。あくまで、例えば、ってこと。実行なんてしないわよ、たぶん。でも、考えるだけなら、私、今、かなり興奮した」
「ぼくも想像したけどね」・・・

「確かこのような会話だったと思う」と雅子がシレッとして言った。この人もかなり変な人だ。理学部って、物理科、化学科、みんな変なんだろうか?少なくとも法学部よりは変。そう言えば、明彦が、数学科なんて物理科の数倍いかれている、芸大のピアノ科はそれ以上だ、って言ってたな。
「雅子、その発想、かなり変よ。昨日の夜って、あなた、私のこと知らなかったでしょ?『雅子と明彦がヒメと三人でセックスする』なんて相似形を考えたなんて、透視能力でもあるの?」
「そう、だからね、いろいろな話がわかってきて、『私と明彦がヒメと三人でセックスする』というのは成立しないと思った。美姫ちゃんは共依存的だから、良子と違って、私のことを嫌うと思う。でも、『私と明彦が良子と三人でセックスする』は成立するかもしれないと今思った。良子はこういう人だから、破綻しないと思う」

「・・・」明彦が頭を振って呆れている。「とにかく、美姫を見つけたら、いろいろお話する必要がありそうね」
「私、レズっけはないけど、良子みたいな美少女だったら、興味あるのよ。自分の感情がどう動くかも興味ある」
「やれやれ・・・良子も一緒にプラド美術館に行きましょ、なんて言わないでくださいよ」と明彦。プラド?スペイン?あ!私、行きたい!

 玄関の電話が鳴った。ちょっと失礼と二人に言って玄関に。「ハイ、もしもし、高橋でございますが?」

「良子、ファンだ。美姫を見つけた、と思う」とファンが大声で言った。
「見つけたの?どこ?無事なの?」
「直接説明する。今、打越橋の近くの公衆電話だ。5分で行く。いい知らせじゃないぜ」ガチャ。

 キッチンに戻って、私のお友だちが美姫を見つけたと思う、いい知らせじゃない、と電話があったことを二人に言った。簡単にファンのことを説明した。

 小学校の同級生で、帰化した中国系の日本人の女の子、私の高校の隣の女子校出身で今は大学生、中華街にコネを持っていて、雅子や私が美姫の手紙が変だ、という考えと同じことを感じた、水曜日に美姫のママから手紙と封書のコピーを入手して、彼女に見せた、木、金曜日と、彼女が怪しいと思った封書の消印の郵便局の近辺を探していた、それで、彼女は実は中華マフィアの一人娘なの、彼女自身はカタギだけどね、という話をした。

「良子、中華マフィアが絡んだ事件になったのかい?」と不安そうに明彦が聞く。今までは美姫は単なる家出、と思っていたのだ。
「張本の・・・ファンの話を聞かないとわからないけど、彼女が『いい知らせじゃないぜ』と言うなら、非常に悪いってことだけはわかる。覚悟しておいた方がいいと思う」
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