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第5話 佐藤の日常業務の話
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夕暮れ時、『テラスコーポⅠ』の管理員室で佐藤浩は一日の業務を終え、作業着を脱いでいた。時計は午後5時を少し過ぎていた。折田との引継ぎが済み、数日前に正式に管理員として働き始めた彼にとって、今日は穏やかな春の日だった。共用部の清掃、ゴミ出し場の点検、監視カメラの簡易チェック――すべて予定通りに終わり、管理員の居室でゆっくりするだけだった。そこへ、けたたましい足音が近づいてきた。ドアが勢いよく開き、九条響子が現れた。「佐藤クン、お疲れ様!まだ帰らないでね、私と『寿限無』に行きましょう!」と一方的に宣言する。佐藤が「いや、もう業務終わったんで…」と返す間もなく、彼女に腕を掴まれ、強引にマンションの外へ連れ出された。
近所の居酒屋『寿限無』に到着すると、店内は夕方の喧騒で賑わっていた。常連客がカウンターでグラスを傾け、店員が忙しそうに動き回る中、響子は「いつもの席ね」と慣れた様子で佐藤を窓際のテーブルに座らせた。この日の響子はゴスロリ衣装ではなく、白いブラウスにデニムのパンツという控えめな格好だった。佐藤は内心、「さすがに居酒屋でゴスロリは浮くよな」と安堵していた。
ビールと枝豆が運ばれてくると、彼女はグラスを手に「佐藤クン、管理員生活どう?」と探るように聞いた。「まあ、清掃も巡回も慣れましたよ。想定内です」と佐藤が答えると、「ふーん、真面目ねえ」と笑いながら一口飲んだ。
そこへ恰幅のいい中年男性が近づいてきた。町内会長の山田だ。「おや、九条さん、今日は派手じゃないんだな」と山田がからかうと、響子は「たまには普通もいいでしょ?」と軽く返した。佐藤が立ち上がり、「初めまして、管理員の佐藤浩です」と挨拶すると、山田は「折田さんから聞いてるよ。しっかりしてそうだな」と満足げに頷いた。
三人でビールを飲みながら話が弾む中、山田がふと深刻な表情でポツリと漏らした。「実はな、町内会が解散の危機なんだよ。最近じゃ新住民が全然入ってくれなくてね…武蔵小杉みたいにさ、タワマン暮らしの連中は管理組合しか興味がないみたいで…」と寂しげに笑った。響子が「人口増えても町内会は解散、って読売新聞で見たわ」と言うと、山田は「そうなんだよ。あそこは人口4万人超えたのに町内会は解散だってさ。うちも似たようなもんだ」と肩を落とした。
「新住民、特に若い連中は仕事で忙しいって言うけどさ、防災訓練とかゴミ出しのルールとか、誰かがやらなきゃ困るんだよ。なのに、タワマンの管理組合は『自分たちでやるからいい』って突っぱねてくる。昔は近所付き合いが当たり前だったのに、今じゃ隣に誰が住んでるかも知らない時代だよ」と愚痴をこぼした。
「町内会費だって年間千円そこそこなんだ。それすら払いたくないって言う人もいてね。武蔵小杉じゃマンションの管理組合が町内会の役割を一部引き受ける話もあったけど、うちじゃそんな動きもない。子供会の行事も減ってきてるし、高齢者ばっかりで回してる状態だよ」と山田はグラスを手に持ったまま遠くを見つめた。
「この前なんかさ、タワマンの住人に『町内会って何のメリットがあるんですか?』って聞かれてね。メリットって…昔はそんなこと考えもしなかったよ。助け合いが当たり前だったんだから」と彼の声は少し震えていた。佐藤は黙って聞いていたが、響子が「でもさ、山田さん、私のマンションの管理員がこんなイケメンなら町内会も盛り上がるんじゃない?」と佐藤の肩をバンバン叩いた。山田が「ハハハ、まあ確かに!若い人が来てくれりゃあな」と笑うと、佐藤は「やめてくださいよ」と苦笑いした。山田は「じゃあな、また相談乗ってくれよ」と立ち上がり、店を出て行った。
翌日、佐藤は朝から日常業務に取りかかっていた。エントランスの手すりを拭き、ゴミ置き場の整理を終え、次は監視カメラのメンテナンスだった。脚立に登り、60台あるCCTVのレンズを一つずつ丁寧に拭いていると、背後から聞き慣れた声が響いた。
「あら、佐藤クン、朝から真面目ねえ!」振り向くと、そこには響子が立っていた。今日は見慣れたゴスロリ姿だ。黒と赤のフリルが重なったドレスは、彼女の細いウエストを締め上げ、裾から覗く黒のストッキングが脚のラインを際立たせていた。ストッキングはシームレスで、春の日差しに照らされると微かに光沢を放ち、彼女の脚をより長く、優雅に見せていた。胸元はレースで飾られ、豊満な曲線が強調され、首に巻かれたチョーカーには小さな銀の十字架が揺れていた。長い黒髪はゆるくカールし、彼女の妖艶な雰囲気を一層引き立てていた。
佐藤は一瞬目を奪われ、「響子さん、その服でどこ行くんですか?」と尋ねると、彼女はニヤリと笑い、「どこでもいいじゃない。ねえ、佐藤クン、私の部屋でこの前見せたパソコン、また遊ばない?」と誘った。「またですか?この前見ましたよね」と佐藤がため息をつくと、「今度はもっと面白いことできるのよ!あのちっちゃい箱が何かすごい動き始めたみたいだから、佐藤クンに見て欲しいの!」と目を輝かせた。
佐藤は脚立から降り、「何かすごい動き?」と聞き返した。響子は得意げに続ける。「そう、あのエヌ◯ディアのやつよ!この前見せたでしょ?なんかね、勝手に画面がピカピカ動いて、住人の動きを追いかけてるみたいになってたの。私にはさっぱりだけど、佐藤クンならわかるでしょ?」佐藤は少し興味を引かれ、「それは…リアルタイム解析でも始まったのかな」と呟いた。響子はチャンスとばかりに「でしょ?私の部屋で一緒に確かめてよ!」と佐藤の腕を掴み、強引に引っ張った。抵抗する間もなく、彼は響子の部屋へと連れ込まれた。
201号室に入ると、響子は早速デスクに置かれたパソコンを起動させた。モニターが光り、彼女は佐藤を隣に座らせ、「ほら、これ見て」と画面を指差した。そこにはマンションの監視カメラから収集したデータがリアルタイムで解析され、住人の行動パターンがグラフィックで表示されていた。
「この前は古いデータだったけど、今はライブなのよ。ほら、608号室の田中さんの奥さんがエントランスで立ち話してるのが出てる!」と響子が興奮気味に説明した。佐藤が「これは…『Project Digits』のリアルタイム機能ですね。1ペタフロップの処理能力でここまでできるのか」と感心すると、響子は「ペタ何とかって何?」と首を傾げた。彼女、知っているくせに、とぼけちゃって、佐藤は苦笑いしながら、「1秒間に10の15乗回の演算ができるってことです。すごい計算速度ですよ」と簡潔に答えた。響子は「ふーん、よくわかんないけど、佐藤クンがすごいって言うならすごいのね!」と笑った。
響子はパソコンを操作しながら、佐藤の肩にそっと手を置いた。「ねえ、佐藤クン、私って魅力的よね?」と甘い声で囁いた。ゴスロリのフリルが彼の腕に触れ、彼女の香水――ディオールのオー・ソヴァージュの甘い匂い――が鼻をくすぐった。黒のストッキングに包まれた脚がスカートの裾から伸び、彼女が少し体を動かすたびにその光沢が佐藤の視線を捉えた。
佐藤は「響子さん、まあ、その…」と口ごもったが、彼女の指先が肩から首筋へと滑り落ちていく。心臓がドキドキし始め、彼は目を逸らそうとしたが、響子の赤い唇が視界に入った。彼女はさらに顔を近づけ、「この前は中途半端だったから、今度はちゃんと楽しもうね」と囁き、ゴスロリのスカートを軽く揺らし、ストッキングの光沢が一瞬強調された。
佐藤の視線がその脚に引き寄せられ、彼女の手が彼の太ももに伸びた。その柔らかな感触に、彼の理性が揺らぎ始めた。「響子さん、ちょっと…」と抵抗する声も弱々しく、彼女は「何?佐藤クン、私に触りたいんでしょ?」と挑発的に笑った。佐藤はついに我慢できず、響子のストッキング越しに太ももに手を伸ばした。滑らかな感触と温もりが彼の指先に伝わり、心が乱れた。彼女の吐息が耳に当たり、二人の距離がゼロになった刹那、唇が重なり、深いキスへと突入した。響子の舌が絡みつき、佐藤は完全に彼女のペースに飲み込まれていた。
その時、ピンポーンとけたたましくチャイムが鳴った。響子は「チッ、誰よ今!」と舌打ちし、不機嫌そうに立ち上がった。佐藤は我に返り、慌てて手を引っ込めた。ドアを開けると、そこには長女の詩音が学校の鞄を肩に掛けて立っていた。
14歳の中学2年生、佐藤詩音は母の響子に似た知性派で、物事を冷静に観察する性格だった。思春期特有の繊細さと大人びた面を併せ持ち、父親にも静かな信頼を寄せている彼女は、母親の部屋に佐藤がいるのを見て一瞬眉をひそめた。「ママ、宿題見てよ。数学が全然わかんないんだけど…って、この人誰?」と詩音が鋭い視線を佐藤に投げた。
響子は慌てて「佐藤クンよ、新しい管理員。この前折田さんから引き継いだばかりで、ほら、いつもの管理員とは違うのよ。一級建築士で、マンション管理の資格も持ってて、副業の収入があって、マンションも自前で持ってるの。ああ、とにかく、いつもの年金生活者の管理員さんとは違うのよ!若いし…バツイチで独身なのも私と同じだし…とにかく違うのよ!」とまくし立てた。佐藤は「えっと、佐藤浩です。よろしく」と頭を下げたが、詩音は納得していない様子で、「経歴はどうでもいいよ。独身の男の人が白昼、ママみたいな――バツイチだろうが今は独身の女の人と部屋で二人っきりって、おかしくない?」と冷静に切り込んだ。
響子はしどろもどろになり、「何!?おかしくないわよ!別に変なことしてないし!」と弁解したが、詩音は「ふーん、でも何か変な空気だったよね。隠してるでしょ」とさらに追及した。響子はついにキレて、「隠してない!彼を誘惑してたのよ!タイプなのよ!これでいい!?」と声を荒げた。
詩音は一瞬黙り、冷静に「なんだ、ちゃんと正直に言えばいいことなのにね、ママ」と返し、鞄から教科書を取り出した。佐藤は気まずそうに「じゃあ、私そろそろ失礼します」と立ち上がり、ドアへ向かった。「待って!まだ終わってないじゃない!」と響子が叫んだが、詩音が「ママ、宿題見てよ。二次方程式がさっぱりなんだから」と遮り、佐藤は「また今度でいいですよね」とドアを閉めた。
部屋に残された響子は、「詩音、あんたのせいで佐藤クンが逃げちゃったじゃない!」とソファにドサリと倒れ込んだ。詩音は「ママが変なこと企んでたからでしょ。顔赤いし」と冷静に指摘しつつ、教科書を開いた。響子は「ったく、うるさいわね!宿題見るから出しなさい!」と渋々立ち上がり、数学の問題を眺めた。「ねえ、このxの2乗のやつ、どうやって解くの?」と詩音が聞くと、響子は「えっと…何だっけ、私もわかんないわ」と頭を抱えた。
詩音が「え、ママ使えないじゃん」と笑うと、「うるさい!佐藤クンなら解けるかもしれないわよ!」と響子が言い返した。詩音はすかさず、「じゃあ、今度は私の部屋で佐藤さんと二人っきりで数学を教えてもらっていいのね?ね?」と母親に混ぜっ返した。響子は「何!?ダメに決まってんでしょ!佐藤クンは私の…!」と慌てて反論したが、詩音は「ふーん、ママのタイプなら私にもチャンスあるよね」とニヤリと笑い、二人は教科書を前に軽く言い争いながらも、なんとか宿題を進めていった。
響子は内心、「次は詩音がいない時に仕掛けるわよ」と唇に触れてニヤリと笑った。一方、廊下に出た佐藤は額の汗を拭い、「響子さんも詩音ちゃんも手強いな…」と苦笑いしながら階段を下りていった。
近所の居酒屋『寿限無』に到着すると、店内は夕方の喧騒で賑わっていた。常連客がカウンターでグラスを傾け、店員が忙しそうに動き回る中、響子は「いつもの席ね」と慣れた様子で佐藤を窓際のテーブルに座らせた。この日の響子はゴスロリ衣装ではなく、白いブラウスにデニムのパンツという控えめな格好だった。佐藤は内心、「さすがに居酒屋でゴスロリは浮くよな」と安堵していた。
ビールと枝豆が運ばれてくると、彼女はグラスを手に「佐藤クン、管理員生活どう?」と探るように聞いた。「まあ、清掃も巡回も慣れましたよ。想定内です」と佐藤が答えると、「ふーん、真面目ねえ」と笑いながら一口飲んだ。
そこへ恰幅のいい中年男性が近づいてきた。町内会長の山田だ。「おや、九条さん、今日は派手じゃないんだな」と山田がからかうと、響子は「たまには普通もいいでしょ?」と軽く返した。佐藤が立ち上がり、「初めまして、管理員の佐藤浩です」と挨拶すると、山田は「折田さんから聞いてるよ。しっかりしてそうだな」と満足げに頷いた。
三人でビールを飲みながら話が弾む中、山田がふと深刻な表情でポツリと漏らした。「実はな、町内会が解散の危機なんだよ。最近じゃ新住民が全然入ってくれなくてね…武蔵小杉みたいにさ、タワマン暮らしの連中は管理組合しか興味がないみたいで…」と寂しげに笑った。響子が「人口増えても町内会は解散、って読売新聞で見たわ」と言うと、山田は「そうなんだよ。あそこは人口4万人超えたのに町内会は解散だってさ。うちも似たようなもんだ」と肩を落とした。
「新住民、特に若い連中は仕事で忙しいって言うけどさ、防災訓練とかゴミ出しのルールとか、誰かがやらなきゃ困るんだよ。なのに、タワマンの管理組合は『自分たちでやるからいい』って突っぱねてくる。昔は近所付き合いが当たり前だったのに、今じゃ隣に誰が住んでるかも知らない時代だよ」と愚痴をこぼした。
「町内会費だって年間千円そこそこなんだ。それすら払いたくないって言う人もいてね。武蔵小杉じゃマンションの管理組合が町内会の役割を一部引き受ける話もあったけど、うちじゃそんな動きもない。子供会の行事も減ってきてるし、高齢者ばっかりで回してる状態だよ」と山田はグラスを手に持ったまま遠くを見つめた。
「この前なんかさ、タワマンの住人に『町内会って何のメリットがあるんですか?』って聞かれてね。メリットって…昔はそんなこと考えもしなかったよ。助け合いが当たり前だったんだから」と彼の声は少し震えていた。佐藤は黙って聞いていたが、響子が「でもさ、山田さん、私のマンションの管理員がこんなイケメンなら町内会も盛り上がるんじゃない?」と佐藤の肩をバンバン叩いた。山田が「ハハハ、まあ確かに!若い人が来てくれりゃあな」と笑うと、佐藤は「やめてくださいよ」と苦笑いした。山田は「じゃあな、また相談乗ってくれよ」と立ち上がり、店を出て行った。
翌日、佐藤は朝から日常業務に取りかかっていた。エントランスの手すりを拭き、ゴミ置き場の整理を終え、次は監視カメラのメンテナンスだった。脚立に登り、60台あるCCTVのレンズを一つずつ丁寧に拭いていると、背後から聞き慣れた声が響いた。
「あら、佐藤クン、朝から真面目ねえ!」振り向くと、そこには響子が立っていた。今日は見慣れたゴスロリ姿だ。黒と赤のフリルが重なったドレスは、彼女の細いウエストを締め上げ、裾から覗く黒のストッキングが脚のラインを際立たせていた。ストッキングはシームレスで、春の日差しに照らされると微かに光沢を放ち、彼女の脚をより長く、優雅に見せていた。胸元はレースで飾られ、豊満な曲線が強調され、首に巻かれたチョーカーには小さな銀の十字架が揺れていた。長い黒髪はゆるくカールし、彼女の妖艶な雰囲気を一層引き立てていた。
佐藤は一瞬目を奪われ、「響子さん、その服でどこ行くんですか?」と尋ねると、彼女はニヤリと笑い、「どこでもいいじゃない。ねえ、佐藤クン、私の部屋でこの前見せたパソコン、また遊ばない?」と誘った。「またですか?この前見ましたよね」と佐藤がため息をつくと、「今度はもっと面白いことできるのよ!あのちっちゃい箱が何かすごい動き始めたみたいだから、佐藤クンに見て欲しいの!」と目を輝かせた。
佐藤は脚立から降り、「何かすごい動き?」と聞き返した。響子は得意げに続ける。「そう、あのエヌ◯ディアのやつよ!この前見せたでしょ?なんかね、勝手に画面がピカピカ動いて、住人の動きを追いかけてるみたいになってたの。私にはさっぱりだけど、佐藤クンならわかるでしょ?」佐藤は少し興味を引かれ、「それは…リアルタイム解析でも始まったのかな」と呟いた。響子はチャンスとばかりに「でしょ?私の部屋で一緒に確かめてよ!」と佐藤の腕を掴み、強引に引っ張った。抵抗する間もなく、彼は響子の部屋へと連れ込まれた。
201号室に入ると、響子は早速デスクに置かれたパソコンを起動させた。モニターが光り、彼女は佐藤を隣に座らせ、「ほら、これ見て」と画面を指差した。そこにはマンションの監視カメラから収集したデータがリアルタイムで解析され、住人の行動パターンがグラフィックで表示されていた。
「この前は古いデータだったけど、今はライブなのよ。ほら、608号室の田中さんの奥さんがエントランスで立ち話してるのが出てる!」と響子が興奮気味に説明した。佐藤が「これは…『Project Digits』のリアルタイム機能ですね。1ペタフロップの処理能力でここまでできるのか」と感心すると、響子は「ペタ何とかって何?」と首を傾げた。彼女、知っているくせに、とぼけちゃって、佐藤は苦笑いしながら、「1秒間に10の15乗回の演算ができるってことです。すごい計算速度ですよ」と簡潔に答えた。響子は「ふーん、よくわかんないけど、佐藤クンがすごいって言うならすごいのね!」と笑った。
響子はパソコンを操作しながら、佐藤の肩にそっと手を置いた。「ねえ、佐藤クン、私って魅力的よね?」と甘い声で囁いた。ゴスロリのフリルが彼の腕に触れ、彼女の香水――ディオールのオー・ソヴァージュの甘い匂い――が鼻をくすぐった。黒のストッキングに包まれた脚がスカートの裾から伸び、彼女が少し体を動かすたびにその光沢が佐藤の視線を捉えた。
佐藤は「響子さん、まあ、その…」と口ごもったが、彼女の指先が肩から首筋へと滑り落ちていく。心臓がドキドキし始め、彼は目を逸らそうとしたが、響子の赤い唇が視界に入った。彼女はさらに顔を近づけ、「この前は中途半端だったから、今度はちゃんと楽しもうね」と囁き、ゴスロリのスカートを軽く揺らし、ストッキングの光沢が一瞬強調された。
佐藤の視線がその脚に引き寄せられ、彼女の手が彼の太ももに伸びた。その柔らかな感触に、彼の理性が揺らぎ始めた。「響子さん、ちょっと…」と抵抗する声も弱々しく、彼女は「何?佐藤クン、私に触りたいんでしょ?」と挑発的に笑った。佐藤はついに我慢できず、響子のストッキング越しに太ももに手を伸ばした。滑らかな感触と温もりが彼の指先に伝わり、心が乱れた。彼女の吐息が耳に当たり、二人の距離がゼロになった刹那、唇が重なり、深いキスへと突入した。響子の舌が絡みつき、佐藤は完全に彼女のペースに飲み込まれていた。
その時、ピンポーンとけたたましくチャイムが鳴った。響子は「チッ、誰よ今!」と舌打ちし、不機嫌そうに立ち上がった。佐藤は我に返り、慌てて手を引っ込めた。ドアを開けると、そこには長女の詩音が学校の鞄を肩に掛けて立っていた。
14歳の中学2年生、佐藤詩音は母の響子に似た知性派で、物事を冷静に観察する性格だった。思春期特有の繊細さと大人びた面を併せ持ち、父親にも静かな信頼を寄せている彼女は、母親の部屋に佐藤がいるのを見て一瞬眉をひそめた。「ママ、宿題見てよ。数学が全然わかんないんだけど…って、この人誰?」と詩音が鋭い視線を佐藤に投げた。
響子は慌てて「佐藤クンよ、新しい管理員。この前折田さんから引き継いだばかりで、ほら、いつもの管理員とは違うのよ。一級建築士で、マンション管理の資格も持ってて、副業の収入があって、マンションも自前で持ってるの。ああ、とにかく、いつもの年金生活者の管理員さんとは違うのよ!若いし…バツイチで独身なのも私と同じだし…とにかく違うのよ!」とまくし立てた。佐藤は「えっと、佐藤浩です。よろしく」と頭を下げたが、詩音は納得していない様子で、「経歴はどうでもいいよ。独身の男の人が白昼、ママみたいな――バツイチだろうが今は独身の女の人と部屋で二人っきりって、おかしくない?」と冷静に切り込んだ。
響子はしどろもどろになり、「何!?おかしくないわよ!別に変なことしてないし!」と弁解したが、詩音は「ふーん、でも何か変な空気だったよね。隠してるでしょ」とさらに追及した。響子はついにキレて、「隠してない!彼を誘惑してたのよ!タイプなのよ!これでいい!?」と声を荒げた。
詩音は一瞬黙り、冷静に「なんだ、ちゃんと正直に言えばいいことなのにね、ママ」と返し、鞄から教科書を取り出した。佐藤は気まずそうに「じゃあ、私そろそろ失礼します」と立ち上がり、ドアへ向かった。「待って!まだ終わってないじゃない!」と響子が叫んだが、詩音が「ママ、宿題見てよ。二次方程式がさっぱりなんだから」と遮り、佐藤は「また今度でいいですよね」とドアを閉めた。
部屋に残された響子は、「詩音、あんたのせいで佐藤クンが逃げちゃったじゃない!」とソファにドサリと倒れ込んだ。詩音は「ママが変なこと企んでたからでしょ。顔赤いし」と冷静に指摘しつつ、教科書を開いた。響子は「ったく、うるさいわね!宿題見るから出しなさい!」と渋々立ち上がり、数学の問題を眺めた。「ねえ、このxの2乗のやつ、どうやって解くの?」と詩音が聞くと、響子は「えっと…何だっけ、私もわかんないわ」と頭を抱えた。
詩音が「え、ママ使えないじゃん」と笑うと、「うるさい!佐藤クンなら解けるかもしれないわよ!」と響子が言い返した。詩音はすかさず、「じゃあ、今度は私の部屋で佐藤さんと二人っきりで数学を教えてもらっていいのね?ね?」と母親に混ぜっ返した。響子は「何!?ダメに決まってんでしょ!佐藤クンは私の…!」と慌てて反論したが、詩音は「ふーん、ママのタイプなら私にもチャンスあるよね」とニヤリと笑い、二人は教科書を前に軽く言い争いながらも、なんとか宿題を進めていった。
響子は内心、「次は詩音がいない時に仕掛けるわよ」と唇に触れてニヤリと笑った。一方、廊下に出た佐藤は額の汗を拭い、「響子さんも詩音ちゃんも手強いな…」と苦笑いしながら階段を下りていった。
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