乙女ゲーム的日常生活の苦難

冬木光

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第一章 賽は投げられた

日常へのちょっとした挑戦

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一軒目のお洒落なダイニングバーとは打って変わって、訪れたのは閑静な路地裏に佇む料亭のような小さな割烹だった。お座敷の席は襖で仕切って個室になるようにできている。二次会の参加人数はだいぶ少なくなるだろうと予想しての予約だったようだ。実際今ここにいるのは九人だけなので、良い読みだと思われる。茜と同じテーブルにいた浅野達央と梶川遊人、朝比奈匡平、藤堂桜乃の四名に、幹事の真鍋凉香、そしてやや離れたテーブルにいた男性二名と女性が一名。ぐるりと周りを見渡して真鍋が口を開いた。

「お通しも回ったし、とりあえず乾杯のビールもみんな持ってるみたいだし?二次会ね!かんぱーい!!」
「「「かんぱーい!」」」

チン、と小気味良い音が響く。そして仕切り直しの自己紹介タイムが始まった。茜とまだ面識のない三名はこれまた眉目秀麗である。

篠原蓮しのはられんです。慶長学園大学の博士課程ドクターで今年二十七になります。よろしく。」
斉木薫さえきかおる二十七歳、去年まで蓮と同じ大学、同じ研究室にいました。今は就職して会社員してます。」
工藤亜香里くどうあかり三十二歳、秘書やってます。彼氏なし、よろしくぅ。」

プロフィールだけ並べれば普通なのだが、驚くのはその見た目である。蓮はファッション誌のモデルと言われても誰も疑わないような長身で小顔、切長な目が印象的なイケメン。対して薫は身長こそ160センチ少々と男性にしては小柄だが、中世的でとても美しい顔立ちをしていた。白い肌は滑らかで、長い睫毛がクルリと自然にカールしている。亜香里は秘書という言葉がこれほど似合う女性がいるか、という容貌だ。真っ赤な紅がハッキリした目鼻立ちの顔をキリリと引き立て、キッチリと着たスーツが少々窮屈そうに見えるところが大変にセクシーである。胸周りだけシャツのボタンが吊れているのはその美ボディがなせる技なのか、それとも。

テーブルは二卓縦に並べられ、小さな個室を二間ぶち抜いている状態だ。席順は真鍋が適当に指示した。結果、茜の左右を篠原蓮と斉木薫のイケメン若手が並び、正面に藤堂桜乃、その左右に真鍋と浅野達央が座る形となった。

「すずかー、ここに残ってんの全員フリー?合コンならそこハッキリさせとかないとおねぇさん困るぅー!」
「あんたに喰われていいのなんてそこの年寄りだけよ。」
「それだけは勘弁してもらいたい。」

二次会に残った面々は皆特定の相手がいない(ということになっている場合も含む)ようだが、なぜかあまり合コン的な雰囲気はない。本当にワイワイ飲んでいるといった感じだ。浅野と亜香里もまた知り合いらしいが、特に恋愛方面に発展しそうな雰囲気はなかった。

▼篠原蓮に話しかける
▼斉木薫に話しかける
▼二人に話しかける

「えっ!?………と、あ、お二人は同じ研究室だったんですよね!何の研究されてるところなんですか?」

唐突に思いもよらぬ選択肢が出てきて、思わず声を出してしまった。慌てて誤魔化すと、 ▼二人に話しかける が白く光って消えていく。

(なんなのよもぉーーー!)

茜は思わず毒づいた。挙動不審な女だと思われたらどうしてくれる。当たり障りのない話題を咄嗟に振ることが出来て助かった。別に年下だし一人は学生だし、何かの芽生えを期待していたわけではないけれど。
ちなみに二人は建築学部の出身で、建材の材質や強度なんかを研究する部屋だったそうだが、畑違いも甚だしくあまりよくわからないというのが正直なところだった。

しばらくがやがやと飲んでいたが、どうしてもトイレに行きたくなり茜は席を立った。話が弾んでいたからか、自分で思っているよりも飲んでいたらしい。フラつくほどではないが酒が回り始めた実感があった。

トイレと厨房の分岐のあたりで店員と鉢合わせたので、水を一杯頼む。酔い覚ましが欲しいのだと察してくれたのか、すぐにコップ一杯の常温の水を手渡されたので、その場でグイッとあおって空のグラスをそのまま店員に返した。
用を足して席に戻ると、茜の場所には向かいにいたはずの桜乃が座っていた。というか、座らされていた、という方が良いかもしれない。あたりをキョロキョロと所在なさげに見回している。茜の姿を見つけると、ホッとしたような申し訳なさそうな顔で言った。

「すみません、勝手にお席借りてしまっていて……。」
「あぁ!全然いいんですよ、使ってください!お箸とかお酒はありますか?」
「あ、はい、一応、ここに……。」
「あ、ごめんなさい!私の邪魔ですね!もらいますー!」

取り皿と箸、グラスを手に取り、空いている席を探す。真鍋は浅野と亜香里と共にアダルティーな雰囲気を出して飲んでいた。とても混ざれる雰囲気ではない。
桜乃は篠原と研究の話をしているようだ。声が聞こえにくかったので移動してきたのかもしれない。
斉木と朝比奈は斜向かいで何かを話し込んでいる。
すると、席を外していたらしい梶川遊人が戻ってきた。皿とコップを手に立っている茜を見て何かを察したらしい。彼はちょいちょいと手招きをすると空いているスペースに腰を下ろした。

▼正面に座る
▼隣に座る

ここで隣に座る勇気があるなら彼氏の一人や二人すぐにできると思う……。なんてことを考えながら、茜は梶川の正面に腰を下ろした。
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