重たい愛は如何ですか〜狂愛侍従と王子様〜

なつや

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始まりの章

愛し子

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 「しや~ん!しや~ん!!」

 後方から可愛らしい声が、愛しい存在が俺の名前を呼ぶ。
 愛しい存在は俺の姿を見つけたのか、てとてとと駆けてきて俺の膝裏に突進してきた。

 「しやん、あのね~…!」

 俺が振り返り、目線を合わせるように膝を着くと愛しい存在、『シュシュ』は俺に嬉しそうにニコニコと話し出した。

 *****

 俺が彼の世話係になってから既に3年の月日が経っている。
 現在彼は3才。名前の無い彼に、俺は『愛しい人』という意味を込めて『シュシュ』と名付けた。

 最初は7才の俺が赤子の世話ということで(かなり)大変な思いをしたが、育児本や周りの平民メイド達から情報を聴き、使える能力全てを活用してシュシュはすくすくと愛らしい子に育っている。

 俺を『しやん』と舌足らずに呼び、笑顔で走り寄ってくる姿がたまらなく愛おしいし、俺が居ないだけで大きな瞳をうるうるとさせて探しさ迷う姿もたまらなく愛おしい。

 話が脱線しつつあるが、とにかくシュシュは存在が愛おしいのだ。

 *****

 「しやん、きぃてゆ?」
 少し思考が逸れていたが、シュシュが俺を呼ぶ声ではっと我に返る。
 「ごめん、シュシュの事を可愛いって思ってたら聞けてなかった。もう一度教えてくれるかい?」
 むーっと口を前に出して不満顔だが、すぐにしょうがないと笑って、シュシュは俺に先程あった事を教えてくれた。あざとすぎて可愛い…

 「さっきね、おそとからちょちょさんがね、それでね!…」
 曰く、先程部屋で俺を待っている間に窓から銀色の蝶が入ってきたらしい。
 そして、その蝶はシュシュの頭の周りを飛んでからまた外に出て行ったから、一緒に外に蝶を見に行こうと誘ってくれたのだ。

 「ちょちょさんね、しやんとおんなじだったのよ?きぁきぁって、おんなじ!」

 なんと、シュシュは俺と同じ銀色の蝶だから見に行きたいらしい。
 身振り手振りで必死に伝える様も、頬を赤らめて興奮冷めやらぬ状態の表情も尊いが過ぎてしんどい。

 「じゃあ朝ごはんの前にちょっとだけ見に行こうか。」

 シュシュのお願いを断るなんて有り得ない俺は、シュシュを抱っこして外に向かった。

 *****

 俺達の居る塔は屋上含めて5階建て。
 シュシュの部屋は屋上を除いた塔の最上階にある。
 階段は螺旋状になっており、1階は入口玄関、1階以外の各階に2部屋あり2階は全て空き部屋、3階の1部屋が俺の部屋、4階の1部屋がシュシュの部屋となっている。
 なっているが、実際は3階の空き部屋がシュシュの部屋となっている。しかも、俺が力技で俺とシュシュ(の部屋)を隔てる壁を取っ払ったので、正確には『俺とシュシュの部屋』だが。
 何かあった時にすぐに対応できるし、シュシュのおはようからおやすみまでを見られる最高の部屋だ。

 入口玄関から1歩外に出るとすぐに、家庭菜園している小さな畑と井戸がある。玄関から400m程先に柵があり、柵の向こうは王宮に繋がる道のみである。
 塔の裏側は森に面しており、境には魔物の侵入防止の柵と結界がある。

 そう、この世界は魔物がいて、それに対抗する為に武器と魔法が存在した。

 外に出ると、走り回りたいのかシュシュがソワソワし始めたので、俺はくすっと笑ってシュシュを離してあげる。
 シュシュは俺からおりると、そのまま俺の手を握って早歩きで動き出し、先程見たという蝶を探し始めた。

 「ちょちょ……しやんのちょちょさん…あっ!!!」
 キョロキョロと庭を探していたが、畑の花にその姿を見つけたようだ。
 「しやんのちょちょ、きぁきぁね~」
 シュシュと俺は屈んで蝶に近づいた。シュシュは真っ赤な瞳が落っこちてしまうのではないかと思うほど蝶に夢中になっている。
 ずっと、『シヤンの蝶はキラキラだね』と言っているから、幼ながらにこの蝶が俺の魔力で出来ている物だとわかっているのかもしれない。

 そう、この蝶は俺の魔力…作り出した物の眼を通じて見る魔法で監視カメラの様なものだ。
 色が銀色なのは、俺の瞳が灰色だからだ。魔力は瞳と同じ色をしている。色が銀色に見えるのは、灰色の魔力が光の反射によって銀色に光って見えているからだろう。

 俺は蝶を空の上に羽ばたかせて、シュシュが見えなくなった辺りでそれを消した。

 「シュシュ、そろそろ朝ごはんにしよう。」
 俺は屈んだまま空を見続けているシュシュを促して塔に戻った。

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