重たい愛は如何ですか〜狂愛侍従と王子様〜

なつや

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歪みの章

歪みの受け皿

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 馬車の中で王宮から緊急帰還の命が届いた。

 馬車を停めて、御者に自分の魔法で飛んで戻ると伝える。
 俺は暗部の長の息子だ、御者は素早く理解してくれた。

 ─ シュシュ…シュシュ!

 震える身体を押さえつけ、必死に呼吸を整えて自分の心に「あれは違う」と言い聞かせ続ける。

 シュシュの無事な姿を見れば、大丈夫な気がした。
 そう思わなければ、何かが終わってしまうと、壊れてしまうと思った。
 その他のことは今はどうでも良くて、俺は感情のままに王宮を越えた先、塔へ向かって飛翔した。

 *****

 俺とシュシュの小さな箱庭。
 塔は夕日に照らされて外も中も、全てが緋色に染められていた。
 焦燥感に駆られていた俺には、幻想的に見える緋色が血に濡れるシュシュを連想させた。

 転げそうな勢いで部屋に到着し、息も整えぬままに扉を開く。

「シヤン、おかえり」

 夕日に染まりながら、ベッドに腰掛けたままのシュシュがこちらを見て笑っていた。

「っ……!」
 俺はよろけながらシュシュに駆け寄り、膝立ちの状態でその存在を確かめるように抱きしめた。
 シュシュの胸に耳を当てて、生きてる鼓動を必死に感じとる。
 トクントクンと鼓動する音に、俺の心が少しずつ解されていく感覚がする。

 ─大丈夫、シュシュは生きている。

 そう実感した途端、俺の両目からポロポロと涙が零れた。



 冷静さを取り戻し始めると、早くこの状況を説明しなくちゃとか、王宮に行かなくちゃとか…しなければならない事で頭が回るようになっているのに、心が子供のようにシュシュから離れたくない、離したくないと駄々をこねる。

 不意に、シュシュの小さな身体が俺の頭をぎゅっと抱きしめた。


「…僕はシヤンをおいていかないよ

 僕の為にありがとう」


 俺はその言葉に目を見開き、息を飲む。
 ゆっくりと顔を上げて、シュシュの顔を覗き見る。

 シュシュの笑った顔は、初めて会った日から何一つ変わっていなくて…

 緋色に染まった部屋が、シュシュが、俺と同じで血に染まっているように見えた。

 俺は
 シュシュの小さな唇にキスをした。

 前世からの境界線に触れてしまった気がした。

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