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歪みの章
緋色の器
しおりを挟む目が覚めた時に、シヤンが居ないことに慣れたのはいつからだったかな。
いつも通り独りで準備されたご飯を食べて、いつも通り独り塔での日常を送る。
僕だけが居るこの塔には色が無くて、僕はいつも真っ赤な世界をここから覗いていた。
でもね、今日は朝目が覚めてからすごく気分が良かったんだ。
今日が良い日になるとわかってたから。
*****
夕日に照らされた塔が、部屋が、真っ赤だった。
僕は部屋で独り、シヤンの帰りを機嫌良く待ってた。
今までにない程の速さで柵を飛び越えて、壊れそうな音をたてながら勢いよく入口の扉を開ける。
転げそうになりながら長い階段を駆け上ってきて、この部屋の扉を開けた。
「シヤン、おかえり」
泣きそうな顔をしたシヤンが、僕を見つける。
嬉しくて声をかけようとしたんだけど、それよりも先にシヤンは僕に駆け寄って抱き着いてきた。
いつもは僕を上から包むように抱きしめてくれるけど、今日は僕を逃がさないと言うように、震える腕でキツく抱き締めている。
シヤンは僕の胸に耳を当てて、僕の心臓の音を聞いているみたい。
ポロポロと綺麗な涙を零して、シヤンは静かに泣いていた。
だんだんとシヤンが落ち着いてきて、それでもシヤンは僕を離さない。
いつもシヤンは「かっこいい」とか「綺麗」って言葉が似合う人だった。
でも今日は、シヤンがすごく可愛いと思った。
シヤンは今日1日すごく頑張ってくれて、すごく嫌な思いをしてたのも知ってる。
でも、それでも…すごく可愛いと思ったんだ。
『俺を捨てないで』
『俺をおいていかないで』
そんな声が聴こえた気がした。
僕はたまらなくなって、シヤンの頭を抱きしめた。
「…僕はシヤンをおいていかないよ
僕の為にありがとう」
シヤンはすごく驚いた顔をして僕を見た。
そんな顔も可愛い。
そう思って笑て見てたら、シヤンの顔が近づいてきて……キスをされた。
いつものおでこや頬っぺとは違う、口へのキス。
僕も驚いたけど、シヤンはもっと驚いた顔をしていた。
その後…すごく苦しそうな…悲しそうな顔をした。
「…っ!」
僕はそれがすごく嫌で、シヤンが僕から離れる前に……シヤンの顔を掴んで僕からキスをした。
またシヤンはすごく驚いた顔をして、僕の言葉を待ってる。
「僕、全部見てたから知ってるよ。」
*****
シヤンが弟に取られてから、すぐに僕はおかしくなっちゃったみたい。
朝飛び起きてシヤンを探して、見つけられなくて泣き崩れて、気づけばお昼になってる。
そしてまたシヤンを探してぐるぐるぐるぐる。気づいたら外にいて柵の向こうを見つめて泣いている。
─シヤン、シヤンシヤン!
前まで怖かった人を見ても、何も感じない。
─シヤン、どこ…ねぇ!
僕のいつもがいつもじゃなくなって、僕の世界から、色が消えてしまった。
─ひとりにしないで!
夜になってもシヤンが帰ってこない。
頭ではわかってるのにシヤンを待ち続けて、シヤンが置いていったシャツを抱き締めて横になる。
少しでもシヤンを感じたくて、少しでも温もりに触れたくて……そうして夢の中でシヤンと会えるようにと祈りながら眠る。
1週間も経てば、涙は枯れてしまった。
もしかしたらシヤンは、僕よりも弟が好きになっちゃったのかもしれない。
嫌な考えがぐるぐるぐるぐる回る。それでもシヤンを求めることを辞められなくて、毎日シヤンを探す。
─僕は待ってる事しかできないの?
今日も僕はまた柵の前で向こうを見ていた。
急にサァッと風が吹いて、葉っぱが飛んでいく。それを眺めていると、柵の向こう側で白い野生の蝶が飛んでいるのが見えた。
─シヤンの蝶は銀色でキラキラしてて綺麗だったな……
そう思った瞬間、閃いた。
─僕もあの魔法を使ったら…
シヤンが今何をしてるのかわかるかも─
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