少年は春風に酔います

no.0 卒業の季節が訪れた。

天香楼の中にいながらも、断橋の外の風情を感じる。

食事の後、江川一朗はレジで支払いをするために前に出た。総額は680ドルだった。

江川一朗が言った。「李志は大学院生で、僕と彭帥は働く予定だ。だから僕たち2人で割ろう。俺が2/3出すから、彭帥は1/3出してくれ。どうだろう？」

彭帥はすぐに了承した。

林墨が言った。「僕も働く予定だ。なんで僕だけ省かれたんだ？」

江川一朗は言った。「食事に出た時に女性にお金を出させるのは失礼だろう？」

林墨は笑って言った。「大師兄にはやっぱり男らしさがあるのね。どう分けようとも、私の分は私が出すわ。」と言って財布から170ドルを出し、カウンターに置いた。

李志はそれを見て、申し訳なくなりお金を出そうとしたが、みんなが彼に説得したので、働く予定の人が支払うことになり、彼はもはや抵抗しなかった。

レストランを出ると、大部隊は左に折れて学校の寮に戻った。江川一朗は右に曲がって学校外の賃貸アパートに向かった。学校の寮は期限が切れてしまったため、自分でお金を出して学校外の小さな部屋を借りることになった。林墨も右に曲がるのを見て、足を止めて待っていた。

「寮に住んでないの？」江川一朗が尋ねた。

「もう1年前に引っ越したんだ。外の方が自由だから。」

「どこに住んでるの？」

「断橋門の外の教員寮を借りているよ。おばあさんが一人で暮らしていて、一部屋を貸すことにしたんだ。賑やかな方がいいと思ったみたい。おばあさんはいい人で、学校からも近いし、家賃も高くないよ。」

「じゃあ、ちょうど同じ方向だ。一緒に行こうか。」江川一朗が誘った。

2人は暗い通りを下って行き、両側には街灯の光があり、左側には狭い小川が流れているが、その名前は意外にも黄龍川という。

自然に江川一朗と林墨はお互いの就職の具体的な状況について話し始めた。

江川一朗は言った。「僕は横江グループに行くつもりだ。大きな民間企業だけど、君たちが知っているかどうかはわからない。」

林墨は言った。「知ってるよ。先日、彼らの創設者が講演に来た時、僕も聞きに行ったんだ。その創設者も我々の先輩だ。君はなんでそこに行くつもりなの？」

江川一朗は言った。「僕たちの専攻は電子工学のように人気があるわけではない。この会社の技術ディレクターと僕の研究指導教官の関係が良好で、2つの共同プロジェクトに参加したことがある。本社と工場に合わせて4か月近く滞在したので、お互いにかなり面識がある。待遇も良く、普通の新人よりも高いし、インターン期間もない。会社の成長は速く、活気と希望に満ちているので、試してみたいと思ったんだ。君は？」

林墨は言った。「今はIBMとLucentのどちらかで決まりそうだ。」

江川一朗は少し驚いたが、IBMとLucentは特にすごい企業とは言えないが、IBMが今年初めて青大に人を募集し、わずか10人しか採用しなかったことを知っていた。さらに5回のテストを行ったので、かなり大がかりだった。

彼は尋ねた。「IBMはうちの系統で何人採用したの？」

林墨は言った。「たぶん2人かな。コンピュータ系が5人、他に国際貿易、外国語、経済系が3人。私たちの系は博士生が1人と私だけ。」

　江川一朗はIBMとLucentが主に研究生を募集していることを知っていたので、この後輩に対して一目置く必要がありました。彼女の能力は自分が思っていた以上に高いようですね。

　江川一朗は言った。「私たちの研究室の博士生がIBMの採用試験を受けに行ったんだけど、帰ってきて試験が難しかったと感嘆していた。面接官もかなり厳しいらしい。みんなが高考は千軍万馬の独り橋を渡るようなものだと言うけど、彼はIBMの採用試験はまさにそのようなものだと言っていた。Lucentもいい会社だよね、福利厚生もすごく良いとか。」

　林墨は笑って言った。「どうして合格したかは分からないわ。面接のとき、いくつかの質問に答えられなかったし、心配でしたよ。」

　江川一朗は頭を振って笑いながら言った。「小さな後輩、過度な謙遜は偽善か傲慢のどちらかだよ。」

　林墨は真剣な顔で言った。「本当に、なんで合格したのか自分でもよく分からない。私は特に優れているわけではない。」

　江川一朗は美しくて能力のあるこの女の子を見て、彼女の誠実さと謙遜さを保っていることに感心しました。自分はなんだか酔っぱらっているような気分になりました。彼は会話で自分の感情を隠そうと努力しました。「あなたは専門の女性としては最も優れたオファーを得たんですよね？」

　「そうよ。」林墨は爽快に認めた。「私は専攻全体で、男性も含めて最も優れたとされています。世俗的な意味で言えばね。」

　江川一朗は彼女の控えめさを喜び、ますます彼女を高く評価しました。「なるほど、美人は自分の目には美しい。なぜこんなに見ていて心地よいのかしら？」江川一朗は心の中で呟きましたが、林墨はすでに彼に会社でのプロジェクト経験について尋ねてきていました。

　江川一朗はもちろん自分の経験を惜しみなく共有しました。実際には特に珍しいことはありませんが、林墨にとっては新鮮で意味のある話題でした。気づけば二人は断橋門に近づいていました。

　断橋門から約20メートル離れたところに、三階建ての建物があり、玄関前には高く掲げられた提灯があり、「天香楼」と書かれています。

　この看板を見るたびに、江川一朗は思わず笑ってしまいます。天香楼は多くの武侠小説で遊郭のような名前です。しかし、青大の隣にあるこの天香楼はまさに本物の茶館です。茶館と言っても、緑茶や花茶、ウーロン茶などの伝統的なお茶だけでなく、タピオカミルクティーや各種ドリンク、ケーキや軽食も販売しています。

江川一郎は店名のことを考えていた。「老板はわざとこの名前を選んだのではないか」と彼は疑っていたが、そのユーモアに共感した。この茶店は2年以上前に開店しました。江川一郎はある晩、専門分野で最も仲の良い友人である李民と一緒に酒を飲んでいるとき、この茶店を初めて見たことを覚えています。李民は酔っ払って目をこすりながら、看板を見て、「天香楼だよね？」と聞きました。江川一郎は「そうだよ」と答えました。李民は大声で驚き、「WaKao、今日の遊郭は大学の門の前で公然と開いているのか！江川一郎を引っ張って行かないと。」と叫びました。春蘭秋菊などの遊女は見かけませんでしたが、その夜、李民は確かに彼らにお茶を出す女性に目を奪われました。後で探りを入れてみると、彼女も青大の学生で、この茶店でアルバイトをしていることがわかりました。

天香楼の料理は高くなく、雰囲気も良く、いくつかの軽食、ケーキ、アイスクリームがあり、評判もいいため、青大の学生たちにも人気があります。江川一郎は林墨も笑っているのを見て、共感を感じました。彼は尋ねました。「武侠も読むの？」

林墨は「たくさん読むよ」と答えました。

二人は看板を見ながら、無数の武侠小説の天香楼のイメージが頭をよぎり、その中には通常、殺し屋の組織の密会場があり、たいていは絶技を持つ紅衣の少女が登場し、その身分は決して単純ではありませんでした。二人は思わず目を合わせて大笑いしました。

江川一郎は言いました。「今日の料理はちょっとしょっぱいな、中で座って水を飲む？」

林墨は２秒ほど迷って、頷いて「いいよ」と答えました。江川一郎は自分自身をほめたたえました。「女の子を自然に誘うことができるようになった、進歩したな。」

林墨は明らかに江川一郎との会話を楽しんでいました。彼女は陽気な性格ですが、男性とひとりでお茶を飲むことはほとんどありません。江川一郎のような半見知りの男性と一緒にお茶を飲むのはほぼ初めてでした。どういうわけか、この男性はイケメンとは言えないが、彼女にはとても親しみやすく安心感を与え、まるで春風に包まれているような感じがしました。

話題は武侠小説から始まり、映画、文学作品、旅行、そして学生時代のエピソードまで話が広がりました。江川一郎は意図的に相手の意見に合わせることはありませんでしたが、意外にも二人の精神は驚くほど一致していることに気付きました。彼は彼女の目をじっと見つめ、話を聞いていました。暖色の光の中で、林墨の顔の輪郭はますます柔らかくなり、肌は象牙のような色合いに見えました。江川一郎は彼女の表情や仕草、口の動きなど、すべてに魅了されていました。彼は彼女の瞳を見つめて、その清らかで深みのある池のような美しさに引き込まれていくのを感じました。

江川一郎はいくつかの美しい女性と知り合いましたが、最初は良さそうに見えても、何度も会ううちに飽きてしまったり、実際に接触すると味気なく感じたりすることがよくありました。彼にとって、林墨は耐えられる美しい女性の部類に入るかもしれません。彼女の動きの中に生命があり、静止した顔立ちはそれよりも生き生きとしているように感じました。そして、彼女に近づくにつれて、彼女の美しさと魅力をますます感じることができました。

瞬間、江川一朗は自分の視線が普通の範囲を超えていることに気づき、顔を赤らめました。そらせて、台の上のティーカップを見つめ、テーブルの周りの空気が少し静まり返り、微妙な空気が漂い始めました。

「そうだ、聞いてみたいんだけど、あなたの故郷、具体的にどこにあるの？」江川一朗は沈黙を破るために試みましたが、なぜか良い話題が見つかりました。

林墨はざっと住所を教え、江川一朗が口を開いたところで、「私の家から500メートルしか離れていないわよ」と言いました。二人は笑いました。

それから、二人は静かに茶を飲みながら、今日の出来事や互いの話題について話しました。時折、林墨の目が江川一朗の方を向いて、微笑んだり、話を聞いたりする姿が、江川一朗の胸をときめかせました。そして、その温かい茶店の空気の中で、二人の間には少しずつ親密な絆が芽生え始めたようでした。

その後、天香楼で過ごした時間はあっという間に過ぎていきました。林墨と江川一朗は、お互いのことをもっと知りたいと思いながら、気軽に話し合い、笑顔を交わしました。そして、その日の夜、江川一朗は林墨に対する新たな興味と好奇心を抱きながら、帰路についたのでした。

（この一部分は架空のシーンであり、実際の日本の軽小説や歴史や風俗には直接関係がありませんが、ストーリーの流れに合わせて書かれています。）


江川一郎は感慨深げに言った。「500メートルも離れて住んでいるのに、10年以上も同じ中学に通っているのに、互いに知らないままだった。でも、何とも不思議な縁だね。」

林墨は微笑みながら頭を少し下げ、返事をしなかった。しばらくして、彼女は顔を上げて言った。「もう少し遅くなってしまったね。帰ろうか。」

※※※

　天香楼の外、断橋門の前。

　林墨の賃貸アパートは道路の向かい側の住宅街にあり、江川一郎の住む場所までさらに10分のサイクリングが必要だった。

　江川一郎は自転車を押し、林墨は歩いていた。江川一郎が考えた言葉は、「お前の家まで送るよ。遅いし、女の子が一人で歩くのは安全じゃない。ここは治安が良いけどね」と言った。

　林墨はうなずいた。江川一郎は何か言おうとしたが、急ぎすぎるように感じ、最終的には何も言わなかった。とにかく林墨の連絡先は中学の同窓会のアドレス帳にあったので、携帯番号を聞く必要はなかった。

　「それじゃ、行こうか」と江川一郎は言った。2人は歩道を歩いて道を横切り始めた。

　江川一郎の慎重さから、彼は左右をチラリと見渡し、目の前の20メートル圏内には車がないことを確認した。

　薄暗い街灯の下で、江川一郎は林墨の横顔を見て、彼女のなめらかな長い髪がそよそよと揺れるのを見た。髪にはヘアオイルと少女の香りが混ざり合ったいい匂いが漂っていた。こんな道がいつまでも続いていればいいのに、と彼は思った。

　そして次の瞬間、江川一郎の耳に機械の轟音が響き、美しい曲線を持つ赤いスポーツカーがまるで悪魔のように現れたかと思うと、すでに近くにいた。

　林墨は口を開けたが、恐怖に怯えて何も反応できなかった。江川一郎はほんの僅かな時間の中で、2つの行動を取った。全力で林墨を自分と車の間から後ろに押しやり、心の中で「Kao、ここは制限速度30キロのところだろ、このやつ少なくとも100キロは出してる」と呪った。

　そして、この数日感じていたように、彼の魂は身体の外にあり、自分の身体が高く飛び上がり、美しい弧を描いて空中で軽く落ち、地面に重くぶつかった。

※※※
　救急車の中で、林墨は江川一郎の隣に座っていた。極度の驚愕と少しの打撲傷を除いて、彼女は無傷だった。彼女は担架の上の男性を見つめながら、たった3時間前にはただ挨拶するだけの半ば知らない他人だったし、20分前には長い間知り合いだったかのように感じていた。そして今、このまま別れるのか？

　　500メートルも離れていて知り合わず、千里も離れてから出会い、知り合うためだったのか？それなら、なぜ知り合う必要があったのだろうか？

　　担架の上の江川一郎の唇が動き、医者が林墨を寄り添わせるのを止めなかった。彼の傷は深刻で、時間の問題だけだった。江川一郎の声がかすれていたが、林墨は耳を寄せないとほとんど聞こえない微かな言葉を聞いた。

　　彼は言った。「お願い、両親に謝ってくれ。」

　　林墨の涙が止まらなかった。

　　彼は言った。「嬉しかった…お前と…会えて、今夜は…楽しかった。」

　　林墨は彼の耳に寄り添い、そっと言った。「私も…。」

　　彼は言った。「残念だ…。」

　　その後、林墨は恐れて頭を上げ、彼の声の途絶えと手の無力な滑落を見た。

　　しかし、次の瞬間、江川一郎の唇が再び動き、林墨は寄り添った。

　　彼は言った。「お前、名前は…？」

　　林墨は優しく答えた。「林墨です。」

　　返答はなかった。

　　「私は林墨、私は林墨、私は林墨…」林墨の声はますます大きくなり、涙も増え、前席の小さな看護師が振り向いて目元を拭った。

　　……

　　トンネルはとても長くて暗かったが、そこには声があった。「私は林墨、私は林墨、私は林墨…」徐々に、前方には光が見えてきた。それは終わりなのか、それとも始まりなのか？