103 / 276
呪怨劇
5、災禍振りまくもの
しおりを挟む
調査局に呼びだされた翼と芦屋家の現当主である道宗は、調査局長室にいた。
だが、その雰囲気は決して和やかなものではない。
にらみ合いこそしていないが、二人の間には険悪な空気が流れている。
無理もないといえば、無理もないのだろう。
土御門家、もとい、安倍家と芦屋家には確執がある。
自身が従えていた式神を奪われ、恥をかかされたとか、留守にしている間に妻を寝取り、殺害したといった、安倍晴明と芦屋道満にまつわる伝承だ。
そのいずれも、二人の間に友情などという言葉はないことを語るかのようなものばかりであり、それを千年が経った今も引きずっているのだから。
「急に呼び出してすまない、ご両名」
「まったくだ。呼びつけておいて待たせるとは何事だ」
「要件は?」
「まったく……わかってはいたが、もう少し歩み寄ろうとかできないものかね?」
口から出てきた言葉こそ違えど、二人の想いは共通して、さっさとこの場から立ち去りたい、というものであることを察した保通は、苦笑を浮かべてそう話した。
だが、すぐにその苦笑は消えて、その眼差しに鋭い眼光が宿る。
「『奴』が現れた」
保通のその一言に、翼と道宗の顔に驚愕の表情が同時に浮かびあがり。
「「それは本当かっ?!」」
まるで示し合わせたのかと問いかけたくなるほど同時に、保通に同じ問いかけをした。
――お前ら本当は仲いいだろ……
問いかけられた保通はそのツッコミを心中にとどめ、平静を装い、話を続けた。
「確かだ。これが奴が現れたときに撮影された画像だ」
保通はそう言いながら、奴と呼ぶ老人、蘆屋道満が撮影された画像を二人に見せる。
画像に写るその老人が、歴代局長の頭痛の種となっている老人と同一人物であることは言うまでもない。
その老人の画像を見た翼と道宗は眉をひそめ、それと同時に空気が凍り付いたのではないかと思うほど、重くなった。
「……どこだ?」
「うん?」
「この男はいまどこにいると聞いている!!」
保通は道宗の鋭い剣幕にひるむことはなかった。あくまでも冷静に、この人物がいる可能性があるであろう場所として、調査局がマークしている場所を伝えた。
それを聞いた道宗は早々と部屋を出ていく。
慌ただしいその様子に、保通と翼は、やれやれ、とため息をついた。
「いくら自身の一族の汚辱とはいえ、慌て過ぎではないか?」
「そういうお前も、口調ほど冷静ではないようだが?」
「まぁな。あの男は晴明様の代からの因縁があるんだ。いい加減、ここで終いにもしたくなる」
「……それは事実なのだろうが、お前の冷静さを欠いている理由はそこではないだろ?」
保通は翼のその言葉に隠れた本音を読み解き、いたずら小僧のような笑みを浮かべた。
翼はそっとため息をついた。確かに、いまの自分は冷静さを欠いている。そして、その理由もわかっている。
その理由となるものを、翼は無言で保通に指差した。
「……月華学園?この学校がどうかしたのか?」
「俺の倅をつけ回しといて、とぼけるつもりか?お前は」
ぎろり、と翼は冷たい視線を保通にぶつけた。
数日前まで、調査局はとある事件の手がかりを持っていると推測し、護を付け回していたことがある。
おそらく、そのことを言っているのだろう。
そして、付け回していたということは、護がこの月華学園に通っていることを知っており、護の交友関係もある程度、把握しているということだ。
さすがに済まなかったと思っているらしく、保通は苦笑を浮かべた。
だが、すぐにその笑みは鳴りを潜めた。
「それで?息子さんにはこのことは伝えるのかな?」
「伝えずとも気づくだろうさ……あいつは呪詛や穢れに聡い。何より、出雲の巫女姫がいる」
「ならばいいが……あいつの存在を伝えるつもりはないのか?」
その問いかけに、翼は沈黙した。
「早い段階で知っていたほうが、のちのち、役立つと思うが?主に心づもりをしておく、という意味で、だが」
「わかってはいるが、奴が護に興味を抱くようなことはできる限り避けたい」
彼、蘆屋道満は言ってみれば『歩く災害』。
そこにある、そこにいるだけで何かしらの被害をもたらす、非常に厄介な存在だ。
特に厄介なことに、その被害を道満自身が意図して引き起こしているということ。
災害を振りまく理由が自身の快楽のためだというのだから始末に負えない。
ただでさえ厄介なその彼と、先祖返りと思われるほどの強い霊力を得た護が遭遇したら。
あるいは、彼は護のその力を利用して更なる災害を引き起こしかねない。それも、利用されるであろう護ですら、最後まで彼の目論見を見抜けず、利用されていたことに気づくことのないまま。
むろん、対処できないこともないだろうが、想定できる最悪の事態を回避できるな、ら回避するにこしたことはない。
「だが、もし奴の方から接触してきたとしたら?」
保通がそう問いかけると、翼は確かな意思を持った瞳を向け、はっきりと答えた。
「その時はその時。仮に奴の策に乗って身を亡ぼすことになろうとも、それはあいつの責任であって私が干渉することではない」
ともすれば、冷たく見えるかもしれないが、護はもう間もなく十七歳となる。
もうそろそろ、自分のしでかしたこと、あるいはしようとすることに責任を持つということを覚えてもいい頃合いだ。
おそらく、翼は道満が護に何かを仕掛けてきた結果、災厄に巻き込まれ、どのような結果になろうとも関与するつもりはないのだろう。
むしろ、翼は、道満の出現を息子の成長に都合のいい、ある種の刺激として見ているようだ。
そう悟った保通は、スパルタにも見えれば放任主義のようにも見える翼の親としての姿に、呆れたとでも言いたそうなため息をつくしかなかった。
だが、その雰囲気は決して和やかなものではない。
にらみ合いこそしていないが、二人の間には険悪な空気が流れている。
無理もないといえば、無理もないのだろう。
土御門家、もとい、安倍家と芦屋家には確執がある。
自身が従えていた式神を奪われ、恥をかかされたとか、留守にしている間に妻を寝取り、殺害したといった、安倍晴明と芦屋道満にまつわる伝承だ。
そのいずれも、二人の間に友情などという言葉はないことを語るかのようなものばかりであり、それを千年が経った今も引きずっているのだから。
「急に呼び出してすまない、ご両名」
「まったくだ。呼びつけておいて待たせるとは何事だ」
「要件は?」
「まったく……わかってはいたが、もう少し歩み寄ろうとかできないものかね?」
口から出てきた言葉こそ違えど、二人の想いは共通して、さっさとこの場から立ち去りたい、というものであることを察した保通は、苦笑を浮かべてそう話した。
だが、すぐにその苦笑は消えて、その眼差しに鋭い眼光が宿る。
「『奴』が現れた」
保通のその一言に、翼と道宗の顔に驚愕の表情が同時に浮かびあがり。
「「それは本当かっ?!」」
まるで示し合わせたのかと問いかけたくなるほど同時に、保通に同じ問いかけをした。
――お前ら本当は仲いいだろ……
問いかけられた保通はそのツッコミを心中にとどめ、平静を装い、話を続けた。
「確かだ。これが奴が現れたときに撮影された画像だ」
保通はそう言いながら、奴と呼ぶ老人、蘆屋道満が撮影された画像を二人に見せる。
画像に写るその老人が、歴代局長の頭痛の種となっている老人と同一人物であることは言うまでもない。
その老人の画像を見た翼と道宗は眉をひそめ、それと同時に空気が凍り付いたのではないかと思うほど、重くなった。
「……どこだ?」
「うん?」
「この男はいまどこにいると聞いている!!」
保通は道宗の鋭い剣幕にひるむことはなかった。あくまでも冷静に、この人物がいる可能性があるであろう場所として、調査局がマークしている場所を伝えた。
それを聞いた道宗は早々と部屋を出ていく。
慌ただしいその様子に、保通と翼は、やれやれ、とため息をついた。
「いくら自身の一族の汚辱とはいえ、慌て過ぎではないか?」
「そういうお前も、口調ほど冷静ではないようだが?」
「まぁな。あの男は晴明様の代からの因縁があるんだ。いい加減、ここで終いにもしたくなる」
「……それは事実なのだろうが、お前の冷静さを欠いている理由はそこではないだろ?」
保通は翼のその言葉に隠れた本音を読み解き、いたずら小僧のような笑みを浮かべた。
翼はそっとため息をついた。確かに、いまの自分は冷静さを欠いている。そして、その理由もわかっている。
その理由となるものを、翼は無言で保通に指差した。
「……月華学園?この学校がどうかしたのか?」
「俺の倅をつけ回しといて、とぼけるつもりか?お前は」
ぎろり、と翼は冷たい視線を保通にぶつけた。
数日前まで、調査局はとある事件の手がかりを持っていると推測し、護を付け回していたことがある。
おそらく、そのことを言っているのだろう。
そして、付け回していたということは、護がこの月華学園に通っていることを知っており、護の交友関係もある程度、把握しているということだ。
さすがに済まなかったと思っているらしく、保通は苦笑を浮かべた。
だが、すぐにその笑みは鳴りを潜めた。
「それで?息子さんにはこのことは伝えるのかな?」
「伝えずとも気づくだろうさ……あいつは呪詛や穢れに聡い。何より、出雲の巫女姫がいる」
「ならばいいが……あいつの存在を伝えるつもりはないのか?」
その問いかけに、翼は沈黙した。
「早い段階で知っていたほうが、のちのち、役立つと思うが?主に心づもりをしておく、という意味で、だが」
「わかってはいるが、奴が護に興味を抱くようなことはできる限り避けたい」
彼、蘆屋道満は言ってみれば『歩く災害』。
そこにある、そこにいるだけで何かしらの被害をもたらす、非常に厄介な存在だ。
特に厄介なことに、その被害を道満自身が意図して引き起こしているということ。
災害を振りまく理由が自身の快楽のためだというのだから始末に負えない。
ただでさえ厄介なその彼と、先祖返りと思われるほどの強い霊力を得た護が遭遇したら。
あるいは、彼は護のその力を利用して更なる災害を引き起こしかねない。それも、利用されるであろう護ですら、最後まで彼の目論見を見抜けず、利用されていたことに気づくことのないまま。
むろん、対処できないこともないだろうが、想定できる最悪の事態を回避できるな、ら回避するにこしたことはない。
「だが、もし奴の方から接触してきたとしたら?」
保通がそう問いかけると、翼は確かな意思を持った瞳を向け、はっきりと答えた。
「その時はその時。仮に奴の策に乗って身を亡ぼすことになろうとも、それはあいつの責任であって私が干渉することではない」
ともすれば、冷たく見えるかもしれないが、護はもう間もなく十七歳となる。
もうそろそろ、自分のしでかしたこと、あるいはしようとすることに責任を持つということを覚えてもいい頃合いだ。
おそらく、翼は道満が護に何かを仕掛けてきた結果、災厄に巻き込まれ、どのような結果になろうとも関与するつもりはないのだろう。
むしろ、翼は、道満の出現を息子の成長に都合のいい、ある種の刺激として見ているようだ。
そう悟った保通は、スパルタにも見えれば放任主義のようにも見える翼の親としての姿に、呆れたとでも言いたそうなため息をつくしかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
孤児が皇后陛下と呼ばれるまで
香月みまり
ファンタジー
母を亡くして天涯孤独となり、王都へ向かう苓。
目的のために王都へ向かう孤児の青年、周と陸
3人の出会いは世界を巻き込む波乱の序章だった。
「後宮の棘」のスピンオフですが、読んだことのない方でも楽しんでいただけるように書かせていただいております。
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる