見習い陰陽師の高校生活

風間義介

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呪怨劇

6、不快な違和感

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 土御門家と芦屋家の当主が調査局に呼び出されていたのと同時刻。
 護たちは教室で、普段通りに授業を受けていた。
 なお、現在は日本史の授業で、範囲は平安時代末期から鎌倉時代初期。
  ちょうど、時代の主役が平清盛から源頼朝へと移ろうとしている頃だった。

「え~、というわけだから……」

 そう、普段通りだ。
 クラス内でもヤンキーとして認知されているクラスメイト数名が不調のように見えること以外。その原因は。

――この違和感、なんだろうな

 今朝からずっと、この教室に漂っている違和感があった。
 胸の奥底に、何かしこり・・・のようなものがある。
 いや、ある・・というよりも、教室に入ってすぐに出てきた・・・・、と言った方が正しいのかもしれない。
 何が原因でこの違和感を覚えているのかはわからないが、この違和感とヤンキーたちの体調不良がまったく無関係だとは、護は考えていなかった。
 むしろ、大いに関係あり、と踏んでいるのだが。

――ま、俺には関係ないな

 と、あっさり切り捨てることにした。
 普通ならば、どうにか解決しようと動くところなのだろう。
 だが、あいにくと護は自分の周囲の人間に影響が出ない限り、依頼がなければ自分から動くことはしないことを主義としている。
 いまのところ、月美や明美、ついでに清に何らかの影響が出ているわけでもなければ、どこかの誰かから依頼をされたわけでもない。
 動かない理由はあっても、動く理由が全くないのだ。
 だが、多少、そう多少であっても不愉快で不快であることに変わりはない。

――神火清明、神水清明、神風清明。急々如律令

 刀印を結び、古神道に伝わる邪気退散の秘咒を心中で唱える。
 すると、開いていた窓から教室に風がはいりこんできた。
 その風に流されるように、立ち込めていた陰鬱な気配が消えていく。

――これでしばらくは大丈夫だろうが……少ししたらまた元通りだな、これは

 教室の空気を清めはしたが、所詮は一時しのぎの応急処置にすぎず、時間が経てば、再び、違和感がよみがえってくることは間違いない。
 つまり、しばらくはこの不愉快な違和感に付き合わなければならないということなのだが、それはそれで腹立たしい、と感じていた。
 感じていたのだが、だからといって、何かをしてやる気にもなれない、ということも事実。
 不快感を取るか、信条を取るか。
 二つの一つの選択であったが、護は後者を選んだ。
 理由は至極単純で、もはや理由とすらいえるかどうか、疑問符が浮かぶものだった。

――ここで助けたところで、こいつらの俺に対する認識が変わるわけでも、まして、昔の俺への仕打ちを謝罪するわけでもない

 いまでこそ落ち着いてはいるが、いまだ、護をバケモノ呼ばわりする人間は多い。
 ここで事件を解決して、周囲からの賞賛を受けたとしても、それは護の頭脳を讃えているだけであって、土御門護という一人の人間を認めたということにはならない。

――今は動くだけ労力の無駄か。なら、今は事態がどう動くか注意するだけでいいかな

 今は下手に動くことはせず、最悪の事態が発生した時に備える。
 それが、護の至った結論だった。

「土御門!土御門護!聞いていたか?」
「……はい?」
「そうか、そうか。聞いていなかったか」

 突然、名前を呼ばれて、護は首を傾げる。
 聞いていなかった、ということをその態度で理解した教師は、頬をひくひくと引きつらせながら、笑みを浮かべていた。

「なら、質問だ。俗に源平合戦と呼ばれる源氏と平家が激突した数々の内戦で活躍した武将の一人に源義経がいるが、彼が活躍したと言われる……」
「所以として、搦め手などの様々な戦術を指揮したことが挙げられる、と言うのが定説。その真価が発揮されたのは、一の谷の戦いで……」
「あぁ、わかった。そこまででいい」

 授業を聞いていないため、罰則代わりに意地の悪い質問をしてやるつもりだったようだが、いらないことまで答えはじめたため、教師は慌てて話を遮った。
 なお、義経はその様々な戦術を鞍馬山に稚児として預けられている間に学んだとされている。
 その戦術を授けた人物は法眼と呼ばれる陰陽師である、あるいは天狗とされている。
 もっとも、いずれも伝承の範囲を出ないため、真相のほどは定かではないのだが。

 閑話休題それはともかく

 教師からの許しを得た護は、静かにその場に座る。
 その瞬間、終業を告げるチャイムが鳴り響いたため、教師は授業を終了し、職員室へと戻っていった。
 護たちの日本史を担当していた教師が職員室に戻ると、ほっとため息をつく。

――疲れた……なぜか最近、日本史の授業で疲れを覚えることが多くなった気がするな

 特に、護のいる教室での授業に強い疲労を感じるようになった気がする。
 授業はいついかなる時も全力をむけて行っているため、疲労を覚えることは当たり前だ。
 だが護たちの教室で行う授業は、ほかの教室で行うものよりも疲労感が強い。
 まさか、体調不良というわけではないだろうが、と教師は不安を感じ。

――来週は半休だから、午後にでも診てもらったほうがいいかもしれないな……

 医者嫌いというわけではないが、せっかくの半休が診察とその待ち時間で潰れてしまうということを考えてしまい、今度は陰鬱なため息をついてしまう。
 だが、護たちの教室で強い疲労感や異様な違和感を覚える教師は、何も彼だけではない。

――そういえば、数学、英語、現代文、古文、その他の授業を担当している先生たちも、あの教室で授業すると、いつも以上に疲れるとか言っていたような……

 歴史担当の教師が思い出したように、ここ最近、あの教室で授業を行った教師たちは、何かしらの違和感を覚えるようになっていた。
 その大半が彼のように単なる体調不良と考え、放置しているのが現状なのだ。
 しかし、仮に何かしらの対処をしなければならないという考えに至ったとしても、誰に、どう相談すればいいのか、まったくわからないというのも事実。
 結局、教師たちはこの違和感を些末な問題として扱い、特に対処しないというスタンスをとることが暗黙の了解となっていった。
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