4 / 21
第4話 闇を切り裂く光
しおりを挟む
裏庭の樹影が揺れる中、美咲は静かに目を凝らした。目の前に立ちはだかる反乱兵の列。しかし、その緊迫した空気も、真っ直ぐに見つめるレオンの小さな背中が支えていた。
「レオン、私の声をよく聞いて」
「うん…」
淡い月光を受け、レオンの瞳は強く輝いている。美咲はそっと手をかざし、小瓶の薬草エキスを数滴、掌に落とした。
「これを──」
その瞬間、背後で金属がきしむ音。志を同じくする近衛騎士の一隊が、闇から飛び出して反乱軍を包囲した。
「美咲様! こちらへ!」
護衛隊長の低い咆哮とともに、反乱軍の前線が動揺する。美咲は迷わずレオンを抱き寄せ、小瓶をポケットにしまった。
「今よ、レオン」
「はい!」
小さな王子は、自分の胸に手を当てた。緊張に震える身体をぎゅっと固め、幼いながらも真っ直ぐ光を放つ。
──“母を守る”ために、僕が力を使うんだ──
白銀の光がレオンの掌から放たれ、まるで初めて目覚めたばかりの星が夜空を照らすように、反乱兵の列を一瞬だけ眩惑させた。吶喊(とつかん)の声を上げた反乱兵たちは、その隙を突かれ、近衛騎士の長槍に包囲される。
「レオン!」
「継母様!」
駆け寄る美咲の背中を、レオンは抱きしめた。初めて見る自らの魔力――その輝きに、二人の間には言葉を超えた信頼が生まれていた。
戦いが終息すると、夜明け前の空にわずかな紅が差し始めた。倒れ伏した反乱兵は捕縛され、漆黒のフードを脱がされる。リーダー格の男を見ると、かつて王宮の重臣であった伯爵の名が刻まれていた。
「貴様…!」
父王が詰め寄ると、男は薄笑いを浮かべた。
「王子殿下の継母令嬢が“裏切り者”ならば、私は国を正す義を行っただけだ」
「義――?」
伯爵は目をそらし、美咲へ視線を移した。
「女にすぎぬ貴殿が、いかに民を惑わそうとも限界がある。王子殿下の力を利用するならばこそ、我々が先手をとるのは当然ではないか」
美咲は一歩も退かず言い返した。
「私は利用などしない。レオンを愛しているから守るの。彼の力も、彼自身も──」
言葉を紡ぐ美咲の頬には、月明かりに映える小さな涙が輝いていた。その誠実さが、傍らの父王や近衛騎士たちの胸を打つ。
「よいだろう。我々の義とやらを賭して、貴殿との決着はこの場でつけようではないか」
伯爵は剣を抜き放つ。王宮の石畳に金属音が響きわたる。
だが、その時――
一閃の薬草煙が辺りを覆った。暗闇に紛れた美咲の仕掛けた一滴が、伯爵の目を一瞬曇らせる。伯爵が後ずさる間に、レオンは自らの魔力を制御し、光の刃を浮かび上がらせた。
「来るな、伯爵!」
レオンの声は震えていたが、揺るがない決意を帯びていた。光の刃は伯爵の剣撃を受け止め、石畳に軋む火花を散らす。
「――終わりです」
小さな魔力の刃が伯爵の腕を裂き、彼は膝をついて震えながら剣を落とした。
戦いの後、東の空が茜色に染まる。父王は深く息を吐き、伯爵の頬を軽く叩いた。
「我が家族をおびやかす愚かな行い。今後二度と口出しは許さぬ」
伯爵は無言で頷き、従者に連れ去られていく。美咲とレオン、そして父王による家族の輪が、朝陽の光に照らされて輝いていた。
「継母様…僕、怖かったけど…」
レオンは震える声で小さく呟いた。
「よく頑張った、王子様」
美咲はレオンを胸に抱きしめ、微笑んだ。その背後で、王立庭園の花々が朝露にきらめいている。
──苦難を乗り越えたその先に、真の家族の暖かさがあった。
だが、この勝利が新たな試練の前触れであることを、まだ誰も知らないのだった。
「レオン、私の声をよく聞いて」
「うん…」
淡い月光を受け、レオンの瞳は強く輝いている。美咲はそっと手をかざし、小瓶の薬草エキスを数滴、掌に落とした。
「これを──」
その瞬間、背後で金属がきしむ音。志を同じくする近衛騎士の一隊が、闇から飛び出して反乱軍を包囲した。
「美咲様! こちらへ!」
護衛隊長の低い咆哮とともに、反乱軍の前線が動揺する。美咲は迷わずレオンを抱き寄せ、小瓶をポケットにしまった。
「今よ、レオン」
「はい!」
小さな王子は、自分の胸に手を当てた。緊張に震える身体をぎゅっと固め、幼いながらも真っ直ぐ光を放つ。
──“母を守る”ために、僕が力を使うんだ──
白銀の光がレオンの掌から放たれ、まるで初めて目覚めたばかりの星が夜空を照らすように、反乱兵の列を一瞬だけ眩惑させた。吶喊(とつかん)の声を上げた反乱兵たちは、その隙を突かれ、近衛騎士の長槍に包囲される。
「レオン!」
「継母様!」
駆け寄る美咲の背中を、レオンは抱きしめた。初めて見る自らの魔力――その輝きに、二人の間には言葉を超えた信頼が生まれていた。
戦いが終息すると、夜明け前の空にわずかな紅が差し始めた。倒れ伏した反乱兵は捕縛され、漆黒のフードを脱がされる。リーダー格の男を見ると、かつて王宮の重臣であった伯爵の名が刻まれていた。
「貴様…!」
父王が詰め寄ると、男は薄笑いを浮かべた。
「王子殿下の継母令嬢が“裏切り者”ならば、私は国を正す義を行っただけだ」
「義――?」
伯爵は目をそらし、美咲へ視線を移した。
「女にすぎぬ貴殿が、いかに民を惑わそうとも限界がある。王子殿下の力を利用するならばこそ、我々が先手をとるのは当然ではないか」
美咲は一歩も退かず言い返した。
「私は利用などしない。レオンを愛しているから守るの。彼の力も、彼自身も──」
言葉を紡ぐ美咲の頬には、月明かりに映える小さな涙が輝いていた。その誠実さが、傍らの父王や近衛騎士たちの胸を打つ。
「よいだろう。我々の義とやらを賭して、貴殿との決着はこの場でつけようではないか」
伯爵は剣を抜き放つ。王宮の石畳に金属音が響きわたる。
だが、その時――
一閃の薬草煙が辺りを覆った。暗闇に紛れた美咲の仕掛けた一滴が、伯爵の目を一瞬曇らせる。伯爵が後ずさる間に、レオンは自らの魔力を制御し、光の刃を浮かび上がらせた。
「来るな、伯爵!」
レオンの声は震えていたが、揺るがない決意を帯びていた。光の刃は伯爵の剣撃を受け止め、石畳に軋む火花を散らす。
「――終わりです」
小さな魔力の刃が伯爵の腕を裂き、彼は膝をついて震えながら剣を落とした。
戦いの後、東の空が茜色に染まる。父王は深く息を吐き、伯爵の頬を軽く叩いた。
「我が家族をおびやかす愚かな行い。今後二度と口出しは許さぬ」
伯爵は無言で頷き、従者に連れ去られていく。美咲とレオン、そして父王による家族の輪が、朝陽の光に照らされて輝いていた。
「継母様…僕、怖かったけど…」
レオンは震える声で小さく呟いた。
「よく頑張った、王子様」
美咲はレオンを胸に抱きしめ、微笑んだ。その背後で、王立庭園の花々が朝露にきらめいている。
──苦難を乗り越えたその先に、真の家族の暖かさがあった。
だが、この勝利が新たな試練の前触れであることを、まだ誰も知らないのだった。
10
あなたにおすすめの小説
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!
冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。
しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。
話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。
スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。
そこから、話しは急展開を迎える……。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる