継母令嬢はかつての悪役──小さき王子と紡ぐぬくもりの宮廷

象乃鼻

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第15話 部族の少年と古の盟約

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 朝陽が差し込む林間——小さな小川のほとりで、一行は休息を取っていた。美咲は携帯用の水筒から冷えたハーブティーを取り出し、レオンとエリオットに手渡す。

「疲れた身体には、これが一番よ」
 エリオットは湯気の立つカップをゆっくり味わい、目を細めた。

「おいしい……この薬草は、新大陸独自の香りですね」

 その時、低いうめき声が林の奥から聞こえた。護衛隊が剣を携え慎重に進むと、茂みの中に倒れ込む一人の少年がいた。肌は日焼けし、体には獣と闘ったような浅い傷が刻まれている。

 レオンがひと目で駆け寄る。
「大丈夫? 継母様!」
 美咲は素早く駆け寄り、少年の首筋で脈を確かめながら、包帯と薬草エキスを取り出した。

 少年の名はアサールといった。彼は初めて見知った異国の者たちを前に、ぎこちなくも力強い立ち姿を見せていた。
 細身ながらもしなやかな筋肉が浮かぶ腕を、鋭い刻印が施された短剣の柄にぎゅっと握りしめ、その身を小さく震わせる。

 彼の瞳は最初、警戒の色を深くたたえていたが、継母令嬢・美咲や小王子レオンが互いに笑顔を交わすたび、その瞳は好奇心に満ちた光へと変わっていく。長旅と森の静寂に慣れた彼の心に、新たな友情の芽がそっと根を張る瞬間だった。

 だが、アサールの胸の奥には決して揺るがぬ誓いがある。何世代にもわたって受け継がれてきた部族の伝承――清らかな泉は大地の命の源であり、そこを汚す者は部族の安寧を脅かすという教え。――彼はその重みを静かに噛みしめ、誇り高き守護者としての責務を肌で感じていた。

 異邦人との出会いが未知の可能性を示す一方で、聖なる水源を守るという使命の炎が、彼の瞳をさらに強く輝かせるのだった。

 美咲は優しい声音で声をかける。
「痛みますが、我慢して——これで止血しながら消毒します」

 エリオットが診察用の顕微鏡で傷口を確認し、慎重に膿を取り除いていく。少年は痛みに眉を寄せつつも、言葉は発しない。

 ほどなくして、アサールはゆっくりと目を開けた。恐る恐る視線を向けるその瞳には、警戒と同時に強い意志が宿っている。

「……誰だ、お前たちは」
 低い声で問いかけるアサールに、美咲は一歩下がって跪き、丁寧に礼をした。

「私は継母令嬢の美咲。この新大陸を探検し、皆と友好の証を結びに来た者です」
「王子様も?」
 レオンがにっこり笑い、自分の袖口を指差す。

 少年は警戒を保ったまま、やや首を傾げた。
「王子…? そなたは、かの国の血を引く者か」

 アサールがかすかに唇を震わせると、美咲は優しく頷いた。
「はい。王国の者ですが、ここで皆さんと同じ空気を吸い、同じ水をくみ、共に生きたいと思っています」

 その言葉に、アサールの表情がわずかに軟化した。エリオットが取り出したクリスタル片を見せる。

「この魔力石は、森の治癒にもかつて使われたと伝承にあります。部族のみなさんにも役立てたいのです」

 アサールは石片をそっと手に取り、瞳を細めて見つめた。
「……我らの聖なる水源に触れぬ者は、部族に帰すことはせぬ」

 美咲は動じずに立ち上がり、アサールと同じ水飲み場へ向かった。小川の清冽な水を両手ですくい、少年の手にもそっと注いで見せる。

「この水は、あなたの部族が守り伝えてきたもの——私たちは敬意をもっていただきます」
 続けて、自身も一口含んだ後、深く息を吐いた。

「共に分かち合い、互いを癒やす盟約を結びましょう」

 しばしの静寂——アサールは瞳を潤ませ、小さく頷いた。
「ならば、我らと‘癒しの盟約’を。お前が真に心から誠を示せば、森はお前を拒まぬ」

 護衛隊の緊張が解け、エリオットもほっと息をついた。レオンは少年の隣に膝をつき、にこりと笑う。

「君も仲間だよ、一緒に探検しよう」

 少年は初めて微笑み、両手をレオンと美咲に差し出した。
「私はアサール。この森を守る者。お前たちと共に歩もう」

 陽光が林間に降り注ぎ、三人の手が重なる。部族の秘密と古の鏡の叡智を繋ぐ、新たな盟約の瞬間だった。

 ――森は静かに囁き、探検隊は一枚岩となって、未知への一歩を踏み出した。
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