追放されたから異世界VTuber始めたら魔王もファンになりました

象乃鼻

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第4話 “沈黙勧告”と休止配信――数字ゼロの夜明け

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 テントの天幕を透過する朝陽は、張り詰めた空気をゆっくり溶かしていく。

 だがショウタの HUD は真っ暗――《神のカメラ》は強制メンテナンス残り 12hを示し、視聴者カウンターは〈0〉で凍結したままだ。

 ≪SYSTEM:身体ステータス 骨折(右腕)治癒率 32%/過労指数 148%≫
 ≪メンテ残り:11:59:47≫


 ユウナは湯気の立つハーブスープを差し出し、眉を八の字に曲げる。
「まず食べる。で、寝る。編集は私が止める。質問は受け付けません」

「数字チェックだけ……!」

「数字禁止令!」
 ――ピッ。ユウナは HUD 表示を一時オフにする魔法陣を貼り付けた。視界からバーが消え、ショウタは取り残されたようにまばたき。

(数字が……ない? 視界が軽い……?)

 空白のゴーグル越しにユウナの瞳が揺れた。
「あなた自身の“声”を、あなたは聞いたことありますか?」

 返答の代わりに、ショウタの腹がぐうと鳴った。


 午後。テント入口が紫黒い稲妻を帯び、魔王ゼファリス降臨。
 両腕いっぱいの**お見舞いグッズ(闇属性クッション、超回復エナドリ、パン型抱き枕)**をドサリ。

「我が推し殿! 早期復活クラウドファンディング第一弾だ! 目標額は健康!!」

「闇エナドリはカフェイン 5,000mg 入ってるから没収です」
 ユウナが即デリートし、代わりにスポーツドリンクに差し替える。

 ゼファリスはしょんぼり俯き、
「では余が子守歌を歌おう。“闇より深き尊い推し活の調べ”を――」

「病人にデスメタルは NG ですッ!」


 夕刻。見舞客が引いた隙、黒衣の信徒がテント前に封書を置いて消えた。
 漆黒の蝋印に“S”の紋。ユウナが警戒魔法を張りつつ開封。

 《無言誓約状》
 汝、この世界に無用の“声”を撒き散らす支配カメラを捨てよ。
 さすれば沈黙神は救済を与えん。猶予は月が二度満ちるまで。

 ショウタは無言のまま、震える左手でペンを取り――
「――返事は動画で。俺の“声”は、俺が決める」


 メンテ残り8時間。ユウナは臨時カメラを設置し、
 **“静止画 + 心拍グラフ + チャットのみ開放”**の簡易ストリームを開始。
 タイトルは “#声はまだここに”。

 画面:ベッドで眠るショウタの横顔と、シンプルな心拍曲線。BGM 無音。

【視聴者】「動いた!」「寝息かわいいw」
【勇者派】「もう起きるな」
【魔王推し】「回復ガチ恋♡」
【沈黙ID】――コメント非表示――

 ネガティブ率は高止まりだが、ポジティブがゆっくり上昇。
 心拍が安定し、ストレス指数が 118% → 80% へ降下。

 ユウナは胸をなで下ろし、ウィスパーチャットでつぶやく。
「“声”は喋るだけじゃない。生きてる鼓動も、声だよね……」


 昏睡に近い浅い眠りで、ショウタは真っ白な画面に立っていた。
 ステータスもチャットもない無音の空間。
 そこに、かつての自分――ブラック企業で深夜まで残業し、
 モニターに映る “売上グラフ” だけを見つめる影――が現れる。

『お前は数字の奴隷。声を上げるたび、数字はさらに欲しがる』

(違う……数字は“声”の形だ。
 誰かの応援が数字になるなら、俺は――)

 白い闇を切り裂くように、遠くでユウナの声が届く。
「――ショウタ! 心拍が上がってる!!」


 テントの外、王都の路地を沈黙教会の信徒が行進していた。
 掲げられるプラカード:「声を棄てよ、沈黙せよ」
 都市の掲示板には「雑音税」案が貼り出され、
 ライブハウスは営業停止。屋台の呼び込みも罰金対象に。

 ≪沈黙神覚醒ゲージ 72%≫

 ――ゴォォ……と重低音の風が吹き、空には薄紫の裂け目。
 そこから滲む“No Signal”ノイズ。
 ゼファリスは城の天守からそれを見上げ、拳を握る。
「沈黙とは、推しの正反対。余は許さん……!」


 深夜0時。メンテ残り 00:01:12。
 ショウタの瞼がピクリと動き、ユウナが駆け寄る。

「おはようございます。……夢、見てました?」

「数字のない世界だった。――静かだけど、空っぽで、怖かった」

「数字は敵じゃない。依存が敵なんです」
 ユウナは一枚の A4 を差し出す。
 〈ワークライフバランス規約 ver1.0〉
 ・1日 6時間睡眠/配信 8時間以内
 ・週1ノー配信デー
 ・過労死カウンター 100% 到達で即シャットダウン、解除キーはユウナ専用――

 ショウタは苦笑し、震えるサインを書く。
「管理者権限、全部預ける。俺の声を守るために」

 ピピッ――メンテ明け。
 《神のカメラ》が再起動し、REC ランプが静かに点灯した。


 画面が切り替わる。
 深夜の病室、窓外に満月。
 ショウタはベッドに座り、マイクを握る前に深呼吸。

「…………ただいま」

 それだけ。BGM も効果音もなし。
 だがチャット欄が、一斉に花火のように咲いた。

【視聴者】「おかえり!」
【魔王推し】「待ってた!」
【勇者派】「…声が…優しい?」
 SILENCE_000「…………」

 ネガ率 50% を初めて下回り、

 ≪ポジ 55%/ネガ 45%≫
 ≪沈黙神ゲージ 減少 ( -5% )≫

 ショウタは微笑み、
「次の配信は“声を取り戻す作戦会議”です。ゲストは――魔王ゼファリスと、勇者リオナを予定してます」

 ユウナが吹き出す。「むちゃくちゃ過ぎます、スケジュール私地獄ですよ!」

「数字より、大事な声がある。……でも数字も伸ばすよ。週7休みを目指して、ね」

 チャットに無数の「w」が転がった。


 ≪チャンネル登録者 824 / 1,000≫
 ≪次回予告:雑音税法案阻止! “世界同時討論ライブ”開幕≫

 REC ランプは穏やかに点滅し、
 遠く紫の裂け目で――沈黙神が、微かに歯噛みした。

 To be continued…
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