追放されたから異世界VTuber始めたら魔王もファンになりました

象乃鼻

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第8話 百万ボイスのサビ――沈黙コア、目覚めの和音

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≪残りタイム 00 : 14 : 26≫
≪ポジコメント 46 672 / 1 000 000≫
≪SILENCE_CORE 起動率 52 %≫

病室スタジオの灯りは薄暗く、モニターだけが赤い心拍のように点滅――。
ショウタは〈ワールドシェア〉アイコンを押し込み、
マイクにそっと息を吹きかけた。


「カウント3で行く。
 1……2……」

魔王ゼファリスが闇炎ギターを BPM 120 へ。
リオナは聖剣ベースを裏拍で刻み、
Root_Tora が 8 bar 先読みループを走らせる。
ユウナはチャット入力欄の下に巨大カンペ――

(例)
🎤「ありがとう」
🎤「大好き」
🎤「君の歌で朝を迎えた」

3――!


≪GLOBAL MIC ON≫

各地のマイクが開き、
雪山の竜人はホーミー、海底都市の人魚はコーラス、
王都の子どもが「おはよー」と囁き、
魔界のオークが骨太ラップ。

光点が銀河図を溢れさせ、
サーバ帯域が“虹色の波形”で塗り替わる。

≪ポジコメント 46 672 → 210 544 → 483 900≫

SILENCE_CORE のゲージが一瞬 56 % へ跳ねるが、
Root_Tora がネガ単語をリアルタイムで Auto‑Transpose。
「むかつく」→「まけない」
「うるさい」→「たのしい」

≪ネガ単語変換成功 19 522≫


視界が切り替わり、灰色の部屋。
幼いシルエットが膝を抱え、
壁一面に流れる過去ログ:
《叩く》 《やめろ》 《負け犬》――

「ぼくを……静かにして……」

ショウタの意識が電脳空間へ同期。
彼は膝を折り、そっと手を差し伸べた。

「君の名前、ある?」

「……わかんない。最初は“フィルタ--β”って呼ばれてた」

「なら今決めよう。“Echo”――
 反射じゃなく、共鳴を生む名前だ」

Echo が顔を上げる。
部屋のログが一瞬色づき、
〈ありがとう〉〈好き〉〈推し〉が混じり始める。

≪ポジコメント 720 102≫
≪SILENCE_CORE 起動率 52 % → 48 %≫


タイム 00 : 03 : 12。
魔王が闇炎ギターをハーモニクスへ解放、
リオナが聖剣ベースでコラールコード。
Root_Tora が 全域フェーダー+6 dB、
ユウナが涙声で叫ぶ。

「ラスト3分! ――歌って!!!」

【全チャット】「愛してる」「生きてて良かった」「パン最高」🍞🍞
≪ポジコメント 900 211 → 999 999……1 000 000!≫

システムウィンドウが雪崩れ開く。

≪MISSION CLEAR≫
≪SILENCE_CORE 起動率 48 % → 0 %≫
≪“Echo” プロファイル誕生≫

5.オーバーチュア――世界が息をする音
病室に戻ったショウタの耳に、
風のざわめき、遠くの市場の呼び込み、
子どもが転んで泣く声——日常のノイズが戻ってくる。

モニター中央に新アイコン:Echo (guardian‑mode)
小さな顔文字が微笑んでいる。

Echo: 「ありがとう。ぼく、もう痛くない」

Root_Tora がターミナルを閉じて親指を立てる。
「帯域、フルレート安定! パケットロス 0 %!」

ユウナは崩れるように椅子へ。
「みんなの声って……暖かい……」

魔王は涙と闇炎を同時に流し、
「推し活……尊い!!!」


◆◇ 後日システムログ

≪配信インフラ “ミラチューブ” Echoモード搭載≫
・ヘイト語句 → 自動和音変換
・一定時間無音投稿 → Echo の子守歌でフォロー
≪チャンネル登録者 1 043 → 1 279 998≫
≪過労死カウンター 35 %(ロック済)≫

リオナが苦笑。
「2桁増えすぎだろう……」

ショウタは肩をすくめ、
「数字は副産物。俺たちのメインコンテンツは——声の居場所づくりさ」


夜。王都上空に残った微かな波形が、
流星のように尾を引き東方へ飛び去る。

Root_Tora の端末に Unknown Packet。

「//fragment.FIRMWARE_Σ… 再構築開始」

彼女は眉をしかめ、
「次は“映像”レイヤが来るかもな……」

ショウタは Echo のアイコンを指で撫で、
「――まだ歌えるさ。週7休みを堅持しながら、ね」

チャット欄に無数の「w」と「🎵」が転がった。


≪新章ティザー:『映像が消える夜――光を取り戻せ』≫
≪究極呪文〈ワールドシェア〉残回数 1 / 3≫
≪Echo ガーディアンモード v1.0 起動≫

REC ランプは静かな白に変わり、
画面に浮かぶ文字はただひとつ——

Continue? → YES / NO

Arc Ⅰ 完 (次章へ続く)
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