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第17話 天使の羽と手旗信号、そして見えざる敵!
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健太からの天啓にも似たアドバイスを胸に、ショウタの神界での残された時間はあと二日とちょっと。エンジニアの血が騒ぎまくり、もはや睡眠時間すら惜しい。彼はインプを叩き起こし(インプは「最近のゼロ様は魔王様より魔王様らしい…」と震えていた)、健太の二つの提案、「バッファエネルギー方式」と「原始的信号分解方式」の実現可能性を探るべく、神殿内での素材(ガラクタともいう)集めに奔走し始めた。
「インプ君、神聖でも魔力でもない、ニュートラルなエネルギーを秘めた素材って何か知らないか!? 例えば、そうだな…天使の羽の抜け殻とか! あれならワンチャン…!」
「テ、テンシの羽でございますか!? あれは神聖力の塊のようなもので、触れるだけで邪な者は浄化されると…ゼロ様、まさか浄化されたいので?」
「されたくないわ! 素材としてだよ、素材として!」
結局、天使の休憩室に忍び込もうとして警備の天使に見つかり、「下界の方の信仰心は素晴らしいですが、羽は直接お渡しできません。祈りの力が足りないのでは?」と真顔で諭され、すごすごと退散する羽目になった。祈りの力…。
次にショウタが目を付けたのは、ミカエルが執務室で時折口にしている「神官長の特製ブレンド聖茶」の茶葉だった。
「ミカエル様、あのですね、あの茶葉って、もしかしてエネルギー的に中和作用があったりしませんかね…? ほら、味もまろやかですし…」
執務室で山のような神界文書(羊皮紙ロール!)に埋もれていたミカエルは、顔を上げると、ショウタの差し出した茶葉(勝手に拝借してきた)をじっと見つめ、厳かに口を開いた。
「…この茶葉は、古の『調和の神』が愛したとされる聖なる植物です。その効能は、精神の安定、魔除け、そして…ええ、飲みすぎると若干お腹が緩くなる、と伝えられています」
「お腹が緩く!? そういう情報が聞きたいんじゃないんです!」
神学的に由緒正しいアドバイスは、今回も実用性とはかけ離れていた。
「バッファエネルギー」案が暗礁に乗り上げかけたため、ショウタはもう一つの「原始的信号分解方式」にシフトチェンジする。
「こうなったら、超ローテクよ! 『神の目』が捉えた映像を、一度、光の点滅とか、単純な音の連続とか、そういうレベルまで分解してエンコーダーに送るんだ! それならエネルギー衝突も最小限のはず!」
祭壇の間は、再びショウタの実験場と化した。魔界から持ってきたガラクタ部品と、神界で(半ば強引に)借り受けた水晶やら歯車やらを組み合わせ、見るからに怪しげな装置――名付けて「手動式神聖映像信号ピコピコ変換機マークワン」――を組み上げる。
「ミカエル様、ちょっとそこのレバーをですね、映像の明るさに合わせてリズミカルに上下していただけますか? そしてそちらの神官さんは、映像の色調に合わせて、この三色の手旗をですね…」
「私が…これを…上下に…?」
「手旗…でございますか…?」
神界で最も高位の神官の一人と、その部下たちが、ショウタの指示で怪しげな装置のレバーを操作し、赤・青・黄の手旗を振らされるというシュールな光景が繰り広げられた。映像はカクカクどころか、もはや紙芝居レベル。それでも、エンコーダーが火を吹かないという一点において、これは大きな進歩だった。…進歩だよな?
技術的な問題と並行して、ショウタは「聖言フィルター」との新たな戦い方にも挑んでいた。
フィルターの裏をかくのは不可能と悟った彼は、「フィルターが許容する範囲で、神界の皆様に最大限ウケる表現」を模索し始めたのだ。
「――というわけで、この美しい神界の風景! まさに『詩編』第19章の一節、『天は神の栄光を語り、大空は御手のわざを告げ知らせる』を彷彿とさせますな! この感動を、スパ…いえ、『聖なる献金』という形で神に感謝を捧げたい方は、画面下の…あ、いや、心の清らかさでご支援ください!」
テスト配信のモニターの向こうで、ミカエルが小さく頷き、「…古典への造詣も深いとは。貴殿の『引き出し』の多さには感服します。ただ、『聖なる献金』のくだりは、やや誤解を招きかねませんが」と、相変わらず微妙な評価を下す。手ごわい。
そんな涙ぐましい努力が続けられる中、事件は起こった。
小規模ながらも、「神の目」と「ピコピコ変換機マークワン」を繋いだテスト配信を開始した矢先のことだった。コメント欄が、突如として意味不明な文字列で埋め尽くされ始めたのだ。
『我こそは†終末の堕天使†…神域に鉄槌を!(フィルター変換:わたくしめはしゅうまつのだてんし…しんいきにてっついを!)』
『ゼロは魔界の手先! 神を冒涜するな!(フィルター変換:ぜろはまかいのてさき! かみをぼうとくするな!)』
『この配信は乗っ取った! 愚民どもめ!(フィルター変換:このはいしんはのっとった! ぐみんどもめ!)』
「な、なんだこれ!? コメント荒らし!?」
しかも、聖言フィルターを通った結果、妙に丁寧な言葉遣いになったり、逆に意味が強調されたりして、カオスな状況に拍車がかかっている。さらに、配信映像にも一瞬、ドクロマークのようなノイズが走った。
ミカエルが鋭い視線をモニターに向ける。
「…やはり、来ましたか。人間界からの妨害工作ですね。昨日検知された不正アクセスは、これの準備だったのでしょう」
その声には、怒りの色が滲んでいた。ショウタも、初めて明確な「敵意」を叩きつけられ、背筋が凍るのを感じる。
(これが…人間界の一部の連中が言ってた「妨害」か…! でも、なんで僕の配信を…?)
一瞬、恐怖と戸惑いで体が動かなくなる。追放された時の無力感が、またしても鎌首をもたげようとしていた。
だが、その時、脳裏に健太の「あとはお前が、そっちの世界でなんとかするしかないな」という言葉と、ミカエルの「期待していますよ」という静かな声が蘇った。
「…ここで逃げたら、健太にも、ミカエル様にも、そして魔王様にも顔向けできない…!」
ショウタは拳を握りしめる。
「僕の配信は、誰かを傷つけるためじゃない! 異なる世界を繋いで、みんなで楽しむためにあるんだ! こんな妨害に屈してたまるか!」
ミカエルが、そんなショウタの横顔をじっと見つめ、静かに口を開いた。
「…ゼロ殿。神域の秩序を乱し、聖なる配信を穢そうとする不埒な輩は、神が見過ごされるはずもありません。私も、このギルドのマスター神官として、断固たる措置を取る所存です」
その言葉は、普段の冷静沈着な彼からは想像もできないほど、強い意志に満ちていた。それは、ショウタに対する信頼の表れにも見えた。
技術的な問題に光明が見え始めた矢先に現れた、新たな脅威。しかし、ショウタとミカエルの間には、共通の敵を前にしたことで、奇妙な、しかし確かな連帯感が芽生え始めていた。
期限は残り、あと二日。
「やるべきことは山積みだ…! でも、絶対に諦めない!」
ショウタは、ピコピコ変換機マークワン(改良の余地しかない)と、荒らされたコメント欄、そしてミカエルの決意に満ちた横顔を交互に見つめ、固く決意を新たにするのだった。
――つづく!
「インプ君、神聖でも魔力でもない、ニュートラルなエネルギーを秘めた素材って何か知らないか!? 例えば、そうだな…天使の羽の抜け殻とか! あれならワンチャン…!」
「テ、テンシの羽でございますか!? あれは神聖力の塊のようなもので、触れるだけで邪な者は浄化されると…ゼロ様、まさか浄化されたいので?」
「されたくないわ! 素材としてだよ、素材として!」
結局、天使の休憩室に忍び込もうとして警備の天使に見つかり、「下界の方の信仰心は素晴らしいですが、羽は直接お渡しできません。祈りの力が足りないのでは?」と真顔で諭され、すごすごと退散する羽目になった。祈りの力…。
次にショウタが目を付けたのは、ミカエルが執務室で時折口にしている「神官長の特製ブレンド聖茶」の茶葉だった。
「ミカエル様、あのですね、あの茶葉って、もしかしてエネルギー的に中和作用があったりしませんかね…? ほら、味もまろやかですし…」
執務室で山のような神界文書(羊皮紙ロール!)に埋もれていたミカエルは、顔を上げると、ショウタの差し出した茶葉(勝手に拝借してきた)をじっと見つめ、厳かに口を開いた。
「…この茶葉は、古の『調和の神』が愛したとされる聖なる植物です。その効能は、精神の安定、魔除け、そして…ええ、飲みすぎると若干お腹が緩くなる、と伝えられています」
「お腹が緩く!? そういう情報が聞きたいんじゃないんです!」
神学的に由緒正しいアドバイスは、今回も実用性とはかけ離れていた。
「バッファエネルギー」案が暗礁に乗り上げかけたため、ショウタはもう一つの「原始的信号分解方式」にシフトチェンジする。
「こうなったら、超ローテクよ! 『神の目』が捉えた映像を、一度、光の点滅とか、単純な音の連続とか、そういうレベルまで分解してエンコーダーに送るんだ! それならエネルギー衝突も最小限のはず!」
祭壇の間は、再びショウタの実験場と化した。魔界から持ってきたガラクタ部品と、神界で(半ば強引に)借り受けた水晶やら歯車やらを組み合わせ、見るからに怪しげな装置――名付けて「手動式神聖映像信号ピコピコ変換機マークワン」――を組み上げる。
「ミカエル様、ちょっとそこのレバーをですね、映像の明るさに合わせてリズミカルに上下していただけますか? そしてそちらの神官さんは、映像の色調に合わせて、この三色の手旗をですね…」
「私が…これを…上下に…?」
「手旗…でございますか…?」
神界で最も高位の神官の一人と、その部下たちが、ショウタの指示で怪しげな装置のレバーを操作し、赤・青・黄の手旗を振らされるというシュールな光景が繰り広げられた。映像はカクカクどころか、もはや紙芝居レベル。それでも、エンコーダーが火を吹かないという一点において、これは大きな進歩だった。…進歩だよな?
技術的な問題と並行して、ショウタは「聖言フィルター」との新たな戦い方にも挑んでいた。
フィルターの裏をかくのは不可能と悟った彼は、「フィルターが許容する範囲で、神界の皆様に最大限ウケる表現」を模索し始めたのだ。
「――というわけで、この美しい神界の風景! まさに『詩編』第19章の一節、『天は神の栄光を語り、大空は御手のわざを告げ知らせる』を彷彿とさせますな! この感動を、スパ…いえ、『聖なる献金』という形で神に感謝を捧げたい方は、画面下の…あ、いや、心の清らかさでご支援ください!」
テスト配信のモニターの向こうで、ミカエルが小さく頷き、「…古典への造詣も深いとは。貴殿の『引き出し』の多さには感服します。ただ、『聖なる献金』のくだりは、やや誤解を招きかねませんが」と、相変わらず微妙な評価を下す。手ごわい。
そんな涙ぐましい努力が続けられる中、事件は起こった。
小規模ながらも、「神の目」と「ピコピコ変換機マークワン」を繋いだテスト配信を開始した矢先のことだった。コメント欄が、突如として意味不明な文字列で埋め尽くされ始めたのだ。
『我こそは†終末の堕天使†…神域に鉄槌を!(フィルター変換:わたくしめはしゅうまつのだてんし…しんいきにてっついを!)』
『ゼロは魔界の手先! 神を冒涜するな!(フィルター変換:ぜろはまかいのてさき! かみをぼうとくするな!)』
『この配信は乗っ取った! 愚民どもめ!(フィルター変換:このはいしんはのっとった! ぐみんどもめ!)』
「な、なんだこれ!? コメント荒らし!?」
しかも、聖言フィルターを通った結果、妙に丁寧な言葉遣いになったり、逆に意味が強調されたりして、カオスな状況に拍車がかかっている。さらに、配信映像にも一瞬、ドクロマークのようなノイズが走った。
ミカエルが鋭い視線をモニターに向ける。
「…やはり、来ましたか。人間界からの妨害工作ですね。昨日検知された不正アクセスは、これの準備だったのでしょう」
その声には、怒りの色が滲んでいた。ショウタも、初めて明確な「敵意」を叩きつけられ、背筋が凍るのを感じる。
(これが…人間界の一部の連中が言ってた「妨害」か…! でも、なんで僕の配信を…?)
一瞬、恐怖と戸惑いで体が動かなくなる。追放された時の無力感が、またしても鎌首をもたげようとしていた。
だが、その時、脳裏に健太の「あとはお前が、そっちの世界でなんとかするしかないな」という言葉と、ミカエルの「期待していますよ」という静かな声が蘇った。
「…ここで逃げたら、健太にも、ミカエル様にも、そして魔王様にも顔向けできない…!」
ショウタは拳を握りしめる。
「僕の配信は、誰かを傷つけるためじゃない! 異なる世界を繋いで、みんなで楽しむためにあるんだ! こんな妨害に屈してたまるか!」
ミカエルが、そんなショウタの横顔をじっと見つめ、静かに口を開いた。
「…ゼロ殿。神域の秩序を乱し、聖なる配信を穢そうとする不埒な輩は、神が見過ごされるはずもありません。私も、このギルドのマスター神官として、断固たる措置を取る所存です」
その言葉は、普段の冷静沈着な彼からは想像もできないほど、強い意志に満ちていた。それは、ショウタに対する信頼の表れにも見えた。
技術的な問題に光明が見え始めた矢先に現れた、新たな脅威。しかし、ショウタとミカエルの間には、共通の敵を前にしたことで、奇妙な、しかし確かな連帯感が芽生え始めていた。
期限は残り、あと二日。
「やるべきことは山積みだ…! でも、絶対に諦めない!」
ショウタは、ピコピコ変換機マークワン(改良の余地しかない)と、荒らされたコメント欄、そしてミカエルの決意に満ちた横顔を交互に見つめ、固く決意を新たにするのだった。
――つづく!
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