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プロローグ又は共通ルート

神託の子リズ

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 一通り説明が終わると、今度は飛行訓練に入った。手渡された箒は滑らかな柄を持ったもので、私は難なく飛び上がり、いつものリズのように辺りをぐるりと一周したあと地面に着陸した。

「ふむ、問題ないようだな。それでは、まずは寮に入って一休みしなさい。明日に備え、今日は早く寝るのだぞ」

「了解です、学園長!」

 私は再び箒に乗って飛び上がり、寮へと向かった。



 部屋に入り、人心地ついてリズを散々甘やかした後、私たちは今日の思い出を話しあった。

「私、魔法使えたんですね。光と風……それとも、リズの体だからでしょうか」

 言い終わった後、一瞬神託が駄目なんだから適性の話も良くなかったかとヒヤリとしたが、リズは普通に答えた。

「ああ、私がマリちゃんの魂を呼んだのはそれもあるんだよ。実は魔法も、……神託も、体のほうに付随するの。だから魂がマリちゃんでも問題なかったんだ。……ごめんね、本当は私の目標なんだから私がやらなきゃいけないのに、無理に呼んじゃって」

「いやそれは全然いいですよ! 私は生き返れてラッキーだなって思ってます。むしろ私がお礼を言わなきゃいけない立場なのに……」

「ううん、違うよ」

 リズははっきりと言った。

「リズ……?」

「私、逃げたの。本当は、ほんとはね、最初は自分でやろうとしたの。適当な魂を呼んで、鍵を開けてもらって、みんなの記憶も操作して。……でも、出来なかった。無理だった。私、私は……自分を痛めつけた人間に笑いかけられなかった。……全員殺そうと思った。家を出てすぐに、私、いつの間にかマッチを持ってたの。火をつけようとしてたの! 家にも、町にも、人にも、全部に!」

 それは絶叫だった。

「自分がこんなにひどい人間だなんて、思ってなかった! 私はあいつらとは違うと思ってた! いい子なんだと思ってた、ただ可哀想なんだと思ってた、違った、私は全員大嫌いで、いつかいつかって機会を伺ってただけで、わ、わたしは、本当は……!」

 私はたまらずリズを抱きしめた。リズは大粒の涙を流しながら、引き裂くように叫んでいる。

「……違う、違います、リズ。あなたは悪くない。あなたは……いい子です。私は、知っているんです。あなたが私を何度も気遣ってくれたこと、あなたが沢山、たくさん辛い思いをしてたこと、それに結局誰も殺さずに、そればかりか別の世界で死にかけていた私を助けたこと。ちゃんと、全部、知っています」

 リズが私にしがみついてしゃくりあげる。私はその金の髪を撫でることしかできなかった。

「……だから、自分を責めないで、リズ。あなたは、ちゃんと優しい子です」

「う、うっ、あ、マリちゃ、マリちゃん……! そのまま、離さっ、う、く、」

「ええ、離れません。……言ったでしょう? 私はあなたの味方です。未来永劫に」

 出会った初日も、同じようにリズを抱きしめたことを思い出す。あの日誓った、リズを守りたいという思い。私はきっとこの後も、それを何度も繰り返し胸に刻むのだろうと思った。




プロローグ又は共通ルート、或いは神託の子リズ 完
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