12 / 28
第五話 柚葉視点
しおりを挟む
15歳 ICUの病室
柚葉はただ真っ白の霧の中にいた。どこを見渡しても霧から抜け出せない。ただ闇雲に歩いていると目の前に小川が見えた。小川の先に光が見える。裸足だった柚葉は恐る恐る川を渡り光の指す方向へと歩き出した。
「そっちじゃないよ。柚葉」
祖母の声だ。柚葉が振り向くと祖母が立っていた。おばあちゃん。渡っていた川を引き返して柚葉は祖母の元へ向かった。祖母は昔みたいに優しい笑顔で柚葉を抱きしめた。柚葉の目から大粒の涙が溢れた。
「私、疲れちゃたよぅ。もうお家に帰りたくないよぅ。」
柚葉は祖母に今日あったこと全て打ち明けて、ワンワン泣いた。このまま消え去りたいと祖母に伝える。
祖母は抱きしめてた手を緩めると、手を柚葉の頭の上において頑張ったねと撫でてくれた。そしていつから持っていたのかわからなかったけどピンクのリボンで柚葉の髪を結った。
「柚葉、大丈夫だから。周りの人が柚葉を助けてくれるからね。」
祖母は柚葉の背中をポンと押した。
柚葉は祖母の元に戻りたかったけど、ピンクのリボンが引っ張り柚葉を連れていく。祖母はそれをただただ笑顔で見送った。
目が覚めた柚葉は真っ白な天井を見つめていた。体が動かない。少し動かせた手を見ると、細い色々な管が何本もくっついていた。他にも額、胸にシールの様なものがいくつも貼られていた。ピッピッピと電子音が鳴っている。ようやくここが病院であると理解した。
そのうち医師と看護師が病室に入ってきて瞳孔確認と声かけを行った。柚葉の気管には人工呼吸器が挿管されていてまともに話すことこともままならない。目が覚めたかという声かけにゆっくり頷き、痛いところはという声かけに瞬きで返答した。
柚葉の症状は頭蓋底骨折、脚骨折その他に全身打撲により内臓損傷と記憶障害が挙げられた。ICUの病室は基本的に面会謝絶で家族すら面会出来ない。病室どころかベッドからも動けない柚葉は繰り返し寝て起きてをしながら何日も経過していった。今日、再検査だったMR Iが終わり看護師に言われた。
「栗原さん、ベッドが変わりますよ。」
1月中旬に入ってようやく一般病床に移ることが出来た。お父さんと病院の院長が知り合いだったこともあって、柚葉の病室は特別個室となる。広い病室にはベッドの他にソファや応接セットまである。落ち着かなくて最初は慣れなかったけど、この病室は受験を控えた柚葉のための、院長の配慮だった。
柚葉の両親と院長が病室に入ってくる。お母さんは包帯姿の柚葉を見て、涙を流した。私は両親に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
次に院長がベッドの横に座る。
「記憶の検査だよ。先生と会話をしようね。」
院長と様々な会話をした。両親が持ってきた何枚かの写真がいつ、どこで、誰が、何をしたか等だった。ある程度会話をすると、どうしても3つ話すことが出来ないことに気付く。
一つ目は12月24日の出来事
二つ目は桃花のこと
そして三つ目は奏のことだった。
柚葉はただ真っ白の霧の中にいた。どこを見渡しても霧から抜け出せない。ただ闇雲に歩いていると目の前に小川が見えた。小川の先に光が見える。裸足だった柚葉は恐る恐る川を渡り光の指す方向へと歩き出した。
「そっちじゃないよ。柚葉」
祖母の声だ。柚葉が振り向くと祖母が立っていた。おばあちゃん。渡っていた川を引き返して柚葉は祖母の元へ向かった。祖母は昔みたいに優しい笑顔で柚葉を抱きしめた。柚葉の目から大粒の涙が溢れた。
「私、疲れちゃたよぅ。もうお家に帰りたくないよぅ。」
柚葉は祖母に今日あったこと全て打ち明けて、ワンワン泣いた。このまま消え去りたいと祖母に伝える。
祖母は抱きしめてた手を緩めると、手を柚葉の頭の上において頑張ったねと撫でてくれた。そしていつから持っていたのかわからなかったけどピンクのリボンで柚葉の髪を結った。
「柚葉、大丈夫だから。周りの人が柚葉を助けてくれるからね。」
祖母は柚葉の背中をポンと押した。
柚葉は祖母の元に戻りたかったけど、ピンクのリボンが引っ張り柚葉を連れていく。祖母はそれをただただ笑顔で見送った。
目が覚めた柚葉は真っ白な天井を見つめていた。体が動かない。少し動かせた手を見ると、細い色々な管が何本もくっついていた。他にも額、胸にシールの様なものがいくつも貼られていた。ピッピッピと電子音が鳴っている。ようやくここが病院であると理解した。
そのうち医師と看護師が病室に入ってきて瞳孔確認と声かけを行った。柚葉の気管には人工呼吸器が挿管されていてまともに話すことこともままならない。目が覚めたかという声かけにゆっくり頷き、痛いところはという声かけに瞬きで返答した。
柚葉の症状は頭蓋底骨折、脚骨折その他に全身打撲により内臓損傷と記憶障害が挙げられた。ICUの病室は基本的に面会謝絶で家族すら面会出来ない。病室どころかベッドからも動けない柚葉は繰り返し寝て起きてをしながら何日も経過していった。今日、再検査だったMR Iが終わり看護師に言われた。
「栗原さん、ベッドが変わりますよ。」
1月中旬に入ってようやく一般病床に移ることが出来た。お父さんと病院の院長が知り合いだったこともあって、柚葉の病室は特別個室となる。広い病室にはベッドの他にソファや応接セットまである。落ち着かなくて最初は慣れなかったけど、この病室は受験を控えた柚葉のための、院長の配慮だった。
柚葉の両親と院長が病室に入ってくる。お母さんは包帯姿の柚葉を見て、涙を流した。私は両親に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
次に院長がベッドの横に座る。
「記憶の検査だよ。先生と会話をしようね。」
院長と様々な会話をした。両親が持ってきた何枚かの写真がいつ、どこで、誰が、何をしたか等だった。ある程度会話をすると、どうしても3つ話すことが出来ないことに気付く。
一つ目は12月24日の出来事
二つ目は桃花のこと
そして三つ目は奏のことだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました
Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。
必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。
──目を覚まして気付く。
私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰?
“私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。
こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。
だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。
彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!?
そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
伯爵令嬢の婚約解消理由
七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。
婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。
そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。
しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。
一体何があったのかというと、それは……
これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。
*本編は8話+番外編を載せる予定です。
*小説家になろうに同時掲載しております。
*なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。
冷淡姫の恋心
玉響なつめ
恋愛
冷淡姫、そうあだ名される貴族令嬢のイリアネと、平民の生まれだがその実力から貴族家の養子になったアリオスは縁あって婚約した。
そんな二人にアリオスと同じように才能を見込まれて貴族家の養子になったというマリアンナの存在が加わり、一見仲良く過ごす彼らだが次第に貴族たちの慣習や矜持に翻弄される。
我慢すれば済む、それは本当に?
貴族らしくある、そればかりに目を向けていない?
不器用な二人と、そんな二人を振り回す周囲の人々が織りなすなんでもない日常。
※カクヨム・小説家になろう・Talesにも載せています
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
私と彼の恋愛攻防戦
真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。
「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。
でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。
だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。
彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。
白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。
だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。
異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。
失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。
けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。
愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。
他サイト様でも公開しております。
イラスト 灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる