15 / 28
第八話 柚葉視点
しおりを挟む
15歳3月25日 卒業
「栗原さん、ちょっといいかな?」
柚葉の病室を訪れたのは、小児科医の木下先生だ。
「僕の母校なんだけどね。栗原さんに良いかなと思って。雪国で田舎なんだけど。」
木下先生は母校のパンフレットと願書を柚葉の目の前に差し出した。ひょっとして同級生の木下君が相談したのかな、と懐かしい顔が浮かんだ。
柚葉はパンフレットを読んで、おや?と首をかしげる。この高校、地元じゃない、むしろ県外だ。読んでいくうちに寮があることに気づいた。きっと今から地元の高校に進学しても事故の事で周りの目があるから、柚葉のことを考えて木下先生は紹介してくれたのだと思った。
新天地で新しい生活か。柚葉は悩み抜いた上、願書をボールペンで書き込んだ。両親に伝えると、お母さんは反対した。それを止めたのがお父さんだった。
柚葉の受験する桜ヶ丘高校は願書と内申を提出後、リモートで入試試験と面接を行うことが出来たので病室から出る必要が無かった。一週間後、合格通知がメールで届いた。それから数日後、柚葉は病院を退院した。
中学校の卒業式の後、校長と担任の先生が柚葉の家にやって来た。柚葉は松葉杖で式に参加できたが、固辞したのだ。
「卒業おめでとう。」
柚葉は校長から卒業証書を受け取った。
校長と担任の先生が帰った後、柚葉は荷造りをした。明日から桜ヶ丘高校の寮に入ることが決まっていた。
私物が少ない柚葉はすぐに荷造りを終えた。
ひとつだけどうしても持っていく宝物を机から取り出した。あの時のピンクのリボンだ。桃花が切ってしまったので、もう髪は結えないけど。リボンをよく見ると、水色の糸で柚の絵が刺繍されていた。今まで気付かなかった。ありがとう、おばあちゃん。
インターホンが鳴って、お母さんが玄関に出た。
リビングに入ってきたのは奏だった。
制服を着たまま、息を切らしている。
何か言い出そうとした時、桃花が帰ってきた。
「奏ちゃん帰るの早いよ~。もっとみんなでスマホ撮りたかった~。」
桃花は奏の腕を引っ張ると、これから打ち上げがあると言った。奏は出かかっていた言葉を飲み込んで家を後にした。
翌朝早くに柚葉と両親が車に乗り込んだ。
奏が見送りに来た。隣には桃花がいる。
「じゃあ、桃花。留守番よろしくね。」
お母さんが言って、3人は出発した。
奏は一言も喋らなかったけど、ずっと泣きだしそうな顔をしていた。
「栗原さん、ちょっといいかな?」
柚葉の病室を訪れたのは、小児科医の木下先生だ。
「僕の母校なんだけどね。栗原さんに良いかなと思って。雪国で田舎なんだけど。」
木下先生は母校のパンフレットと願書を柚葉の目の前に差し出した。ひょっとして同級生の木下君が相談したのかな、と懐かしい顔が浮かんだ。
柚葉はパンフレットを読んで、おや?と首をかしげる。この高校、地元じゃない、むしろ県外だ。読んでいくうちに寮があることに気づいた。きっと今から地元の高校に進学しても事故の事で周りの目があるから、柚葉のことを考えて木下先生は紹介してくれたのだと思った。
新天地で新しい生活か。柚葉は悩み抜いた上、願書をボールペンで書き込んだ。両親に伝えると、お母さんは反対した。それを止めたのがお父さんだった。
柚葉の受験する桜ヶ丘高校は願書と内申を提出後、リモートで入試試験と面接を行うことが出来たので病室から出る必要が無かった。一週間後、合格通知がメールで届いた。それから数日後、柚葉は病院を退院した。
中学校の卒業式の後、校長と担任の先生が柚葉の家にやって来た。柚葉は松葉杖で式に参加できたが、固辞したのだ。
「卒業おめでとう。」
柚葉は校長から卒業証書を受け取った。
校長と担任の先生が帰った後、柚葉は荷造りをした。明日から桜ヶ丘高校の寮に入ることが決まっていた。
私物が少ない柚葉はすぐに荷造りを終えた。
ひとつだけどうしても持っていく宝物を机から取り出した。あの時のピンクのリボンだ。桃花が切ってしまったので、もう髪は結えないけど。リボンをよく見ると、水色の糸で柚の絵が刺繍されていた。今まで気付かなかった。ありがとう、おばあちゃん。
インターホンが鳴って、お母さんが玄関に出た。
リビングに入ってきたのは奏だった。
制服を着たまま、息を切らしている。
何か言い出そうとした時、桃花が帰ってきた。
「奏ちゃん帰るの早いよ~。もっとみんなでスマホ撮りたかった~。」
桃花は奏の腕を引っ張ると、これから打ち上げがあると言った。奏は出かかっていた言葉を飲み込んで家を後にした。
翌朝早くに柚葉と両親が車に乗り込んだ。
奏が見送りに来た。隣には桃花がいる。
「じゃあ、桃花。留守番よろしくね。」
お母さんが言って、3人は出発した。
奏は一言も喋らなかったけど、ずっと泣きだしそうな顔をしていた。
5
あなたにおすすめの小説
冷淡姫の恋心
玉響なつめ
恋愛
冷淡姫、そうあだ名される貴族令嬢のイリアネと、平民の生まれだがその実力から貴族家の養子になったアリオスは縁あって婚約した。
そんな二人にアリオスと同じように才能を見込まれて貴族家の養子になったというマリアンナの存在が加わり、一見仲良く過ごす彼らだが次第に貴族たちの慣習や矜持に翻弄される。
我慢すれば済む、それは本当に?
貴族らしくある、そればかりに目を向けていない?
不器用な二人と、そんな二人を振り回す周囲の人々が織りなすなんでもない日常。
※カクヨム・小説家になろう・Talesにも載せています
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
伯爵令嬢の婚約解消理由
七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。
婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。
そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。
しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。
一体何があったのかというと、それは……
これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。
*本編は8話+番外編を載せる予定です。
*小説家になろうに同時掲載しております。
*なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
初恋にケリをつけたい
志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」
そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。
「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」
初恋とケリをつけたい男女の話。
☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる