僕とジュバック

もちもち

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サンニンメ

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「……なんか疲れた。今日はもう帰りたい。」


おかしなことが続いた……っていうより、なんか不気味な日だ。

そう考えている時



コロン、カラァン………またドアベルの軽やかな音が響いた。



ドッッキーーーーン!!


僕は、意味もなく感じた動悸をなだめつつ、入り口を見る。
スーツ姿の男の人が入ってきた。


「いらっしゃいませ。お好きなお席へどうぞ。」
「いやぁ、すごい土砂降りで、思わず入っちゃったよ」
「あっホントだ。凄いですね」


外では、いつのまにか大雨が降っていた。

よく見れば、その男の人は、だいぶ濡れている。



僕は、乾いたタオルを「よかったらどうぞ」と渡す。


「ありがとう。今日はマスターいないの?」
男の人は、タオルでゴシゴシ拭きながら、迷わずカウンンターに座った。



ちょっと普通の会話に感動しつつ


「はい。今日はまだ来てないです。僕もいつ来るかわからないので」
「そっかぁ、ちょっと会いたかったな」



「……すみません」



「あ、ごめんね。なんか変な空気出しちゃって。とりあえずアメリカン。ホットで」
「あ、はい!」



良かった。普通だ。





こぽこぽこぽ………
サイフォンの中で、お湯の沸く音が響く。



この男の人のイメージはなんだろうか、と考える。


なんとなく大きなヒマワリが描かれた、色鮮やかなカップに目がいった。このカップにコーヒーを注ぐ。


「おまたせしました。アメリカンです。」
「お!マスターから何か聞いてた?」
「え?いえ」

「そっか、偶然か。」
「?」



「ヒマワリが好きだったんだ。うちの娘」
「そうなんですか、なんとなくこのイメージかなって、あはは」


男2人、「あはは」と笑う。




「うん。で、今日ね、その娘の命日なんだ。ほらあそこ。花が置いてあるだろ?あそこでひき逃げされてさ」






もう 、僕は、なんと答えれば良いのか全く分からない。





「あの子の母親、あの子産んですぐに死んじゃってさ。オレ、必死にあの子を育てて。とにかく必死だった……。なのに一瞬で全部。全部なくなってさ」




「事故の後、仕事が終わるたびにそこで、ぼんやり娘が死んだ場所見てたんだ。その日もこんな土砂降りで。オレ、雨が降ってるのも気づいてなくて、もうずぶ濡れで。………そしたら『風邪引きますよ』って傘を差しかけてくれたのがマスターでさ。」




「それからは、あそこに来るたびに、ここに寄ってるんだ。さっきは、来たらすぐに降ってきたから焦ったよ。ハハハ」





「そうそう。うちの子を殺した犯人。捕まったって。さっき。捜査してくれてたお巡りさんが連絡くれてさ。なんか馬鹿みたいに狂って、喚きながら交番に逃げ込んで自供したんだって。意味わからないだろ?」





「しかもそいつ、うちの子だけじゃなかったんだ。うちの子の事故の3ヶ月前にも近くでひき逃げがあったんだけど。それもそいつの仕業だって。酷いだろ?」





「そのときひき逃げされた人、女の人らしいけど。その人も即死だって。そんな事故起こして、人殺して。まだ車乗って、うちの子まで………一体どんな神経してんだろうな」






笑顔だった。
ずっと。
お店に入ってから、ずっと男の人は笑ったまま。
僕の返事はお構いなしに話し続ける。




グイっと残りのコーヒーを飲みほすと、男の人は席を立った。


「ありがとう、こんな話聞かせてごめんな。オレずっとどうしたらいいかわかんなくてさ。でも犯人が捕まったって聞いて。誰がオレの娘を殺したのかわかって。やっと生きる意味が分かったんだ。」


「?」
「今日は、ありがとな。マスターにもよろしく!」



男の人は、笑顔のまま会計を済ませると

勢いよく、コロン、カラァンとドアベルの音を響かせて出ていった。






直後、僕の耳元で

『ありがとう、パパに会わせてくれて』

さっきの女の子の声が響いた。

同時に、ドアは開いてないのに、コロン、カラァンと、ドアベルが鳴った。



店内は一気に静かになる。

そして僕の悪寒も絶頂を迎えた。
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