僕とジュバック

もちもち

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マスターと僕

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コロン、カラァン

ドアベルの音に、僕は、口から心臓が飛び出るんじゃないかってぐらい驚いた。





………………マスターだった。



「マスター!マスター!マースタァ!」

「何です騒々しい」





………………………マスターは、本当に煩そうに、眉間にシワをよせた。



そんなことはお構いなしに、僕は続ける。


「も~!何です。じゃないですよ!ヤバイですって今日!」

「はい。深呼吸して。一から話しましょうか」





僕は、急いで10回ぐらい深呼吸してから、今日のことを話した。








「あぁ、あの女性いらっしゃったんですね」
「?」




「………事故で亡くなった後、あの場所にずっと立ってらしたから、不憫でね。お声がけしておいたんです。『今日、ここに来れば、貴女が探してる人に会える』とね」





「!?。ほっ…本当に、事故で亡くなった女の人なんですか?嘘でなく?!」


「はい。そうですよ。君を騙しても時間の無駄です」





マスターは、たまに辛辣な物言いをする。
とりあえず聞かなかったことにして。





「はっ!え?じゃあ、あの女の子も本当に、あそこで事故にあった子?」

僕は、花の置いてある場所を、指差しながら聞いた。


「はい。はい。レオナちゃんですね。そうですよ。」




軽く眩暈を覚えつつ、僕は、そのレオナちゃんや、その父親らしき人のことを説明した。





「………そうですか。レオナちゃんは、その女性に言われて来たと。ホッホッホ。どうりで姿が見えない筈だ。」



「え?ってことは、ホントにあの男の人と…パパと一緒に行ったってことですか?」




僕は恐る恐る聞いた。





「そうですね。恐らくは。」


なんというか、全く平和な話ではないが、僕は、レオナちゃんが、ちゃんとパパに会えたんだと思うと、少しだけ安心した。






「しかし、お父様とレオナちゃんが会えたのは、犯人が捕まったタイミングで良かったかもしれませんね」

「?」






「お父様の方は、私とお会いした時、既に生きることをやめていましたから。あんな状態で、レオナちゃんが近づいたら、迷うことなくお亡くなりになったでしょう。」



「?!。今は?。今は大丈夫なんですか?」



「ホッホッホ。犯人を見つけて生きる意味が見つかったなら、当分は大丈夫でしょう。その後どうなるかは、私の知るところではありません。」



一見優しげなマスターの、目に、一瞬冷ややかな気配を感じて、僕は黙った。




しかし、ショックの連発で、肝心なことを聞き忘れていることに気がついた。




「あの、マスター。今更なんですけど。ってことはですよ?今日の人達、みんな幽霊?ってことですか?」



「そうですねぇ。幽霊………と呼ぶのが一番近いんでしょうかね。最後のお父様は生きた方ですが。………お気づきにならなかったんですか?」




「え?!いや普通気づきませんよ!」

「そうですか。………ふむ。そうですか。ふむふむ。なんだ。君はわかった上で、普通に接しているのかと勘違いしてました。」


「なんでですかー?!」


僕はちょっとイラつき気味に聞き返した。







「面接の時、お店にいらしたお客様を覚えていますか?」

「?。はい。なんかおじいさんが1人。」

「あの方、幽霊です。」
「?!」


僕はショックで声も出ない。




「あの方は、結婚してすぐご病気でお亡くなりになって。その後はずっと残された奥様の側に寄り添ってらして。最近、その奥様の寿命が近いと喜びの報告にいらしてたんです。」


「……………」

「その時も普通に会話してらしたので、こういった霊的なことが平気な方だと思って君を採用したんですよ。ホッホッホ。」



「生者と死者の区別なんて、この世では難しいので、君のように無自覚に接する人がいても不思議はありませんが。しかし、そこまでハッキリと区別がつかないのも珍しいですね。普通、何かしら違和感を感じるものなんですが。」




僕は、また言葉を失った。

いや、そんな場合じゃない。
だいぶ弱々しくなったが、僕は思い切って聞いた。

「マスター、一体ここはなんなんですか………?」




「ホッホッホ。そこからですか。」

「思った以上に、本当にご素人な方だったんですね。」

「ホッホッホ。これはこれは、ご説明が遅くなり申し訳ありませんでした。」





なぜかマスターは楽しそうだ。

僕を罵るのがそんなに楽しいのか…。

思ったよりクソじじいなのか……。





「ここ『 喫茶 ジュバック』は、あの世とこの世の狭間に存在する冥界喫茶。生死問わず、様々な方がいらっしゃいます。………ただ、それだけのお店です。」





これは説明なのか?
なんというか1ミリも理解できなかった。



ヤバイとこでバイトしてるのかもしれないという気持ちにしかならない僕は、「確か駅前の牛丼屋バイト募集してたよな?」と考えた。


そんな僕の心をよんだように



「君は、なかなか素質ありますよ。どうですか?時給1800円にしますから。もうちょっと頑張ってみませんか?」



この辺は、まともなバイトがあまりない。その上、提示された時給は、僕にとって非常に魅力的だった。




迷う。



今思えば、今日のことは、それほど怖くはなかった気がする。

うん。きちんと理解してれば大丈夫な気がしてきた。

そうだな。1800円の時給なんて、他じゃありえないし。






「………………やります。頑張って働きます。」

「ホッホッホ。それは嬉しい。じゃあ、これからもよろしくお願いしますね。場合によっては、さらなる時給アップもありますよ。」


ニコリと笑うマスターの顔に、わずかな邪悪さを感じつつ、僕は頷いた。






ここは、生死問わず、様々なひとが来るお店。


正直、僕の心臓はどこまで耐えられるかわからない。


不安しかないけれど、お金のために、もうちょっとがんばろう、と思う。
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