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第一章 俺がディオを堕とすまで

10.念願が叶った日 Side.ディオ

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ルーセウスをやっと俺に堕とすことに成功した。

抱き潰された時は快感に呑まれた自分を悔しく思ったし、なんだか負けた気持ちでいっぱいだった。

(俺が先に堕とそうと思ってたのに…!)

そんな気持ちで毎日鳴るツンナガールも無視して、子供っぽく怒ってたのは確かにある。
冷静になれてない時点でお前の負けだろうとロキ父様に笑われて、ちょっと落ち着こうと思えたのは有り難かったけど、俺は断じて落とされてなんていない。

その証拠にルーセウスと結婚したいとはこれっぽっちも思っていないのだから。
ルーセウスとは友人としてこのまま末長く付き合っていきたい。
ただそれだけで、それ以上でもそれ以下でもない。

そんな中、ルーセウスがわざわざワイバーンに乗って俺に謝罪をしにガヴァムまでやってきた。

「ディオ。ルーセウスだ。入ってもいいか?」
「どうぞ」

ノックと共に聞こえてきたルーセウスの声にドキッと胸が弾む。
久し振りに聞くルーセウスの声に胸がざわついて、そのまま入室してきた姿に視線が囚われそうになった。

自分が自分でなくなるような、そんな不思議な感覚に眩暈がしてしまいそうだ。

(一ヶ月ぶりだし、ずっと声を聞いてなかったせいだ)

俺がルーセウスに堕ちたわけじゃない。
そう自分へと言い聞かせる。

そんな中、ルーセウスが潔く頭を下げてあの日のことを謝ってくれた。
抱き潰してしまってすまなかったと。

でもそれは俺に堕ちていたからだと聞いて、ジワリジワリと胸に喜びが込み上げてくる。
俺は負けたわけじゃなく、寧ろちゃんと堕とせていたのだと知って嬉しかった。
それを喜ばないはずがないし、それ故の行動だと言われたらご機嫌で許すだろう。

仲直りに久し振りにルーセウスと触れ合う。
69なんて初めてでドキドキした。
しかもルーセウスはフェラは初めてのはずなのに凄く上手い。
あっという間に追い上げられそうになって、慌てて手で反撃してみたけど勝つのは無理だった。
状況的に口で受け止められなかったせいで、顔射されて白濁まみれになってしまう。
しょうがないからベッドじゃなく続きは風呂場だなと思ってたら、ルーセウスがしょんぼりしているのに気づく。

もしかして終わりだと思ってる?
嘘だろう?
抱いていいか聞かれてOKしたのは俺だ。
まだシてないのにどうして終わりだと勘違いできるのか謎だ。

(変なルーセウス)

もしかしてゴッドハルトではベッド以外ではしないんだろうか?
俺が知らなかっただけで、もしかしたらこう言うところに国の文化の違いが出るのかもしれない。

でも抱いていいと促したら顔を輝かせてくれたし、単に経験がないから知らなかったというだけかも…。
俺だってルーセウスしか知らないから風呂場は初めてだけど、父様達が処構わずやってるのを知ってるから、やってダメな場所があるなんて思わなかった。
人に見られない場所ならどこでもシたっていいんじゃないのかな?

そんな俺の認識も、ルーセウスには特に否定されなかったし、多分俺の認識がおかしいわけじゃないと思う。

久し振りに抱かれた充足感に満たされながら、ルーセウスの腕の中で甘く囀らされる。
でももうそれに対する抵抗感はない。
だってもうルーセウスは俺に堕ちてくれたんだから。

やっとこれで安心してルーセウスとの時間を過ごすことができるようになったとホッとする。
感無量だ。

「ディオ。俺のこと、好きか?」

ルーセウスが不意にそんな事を聞いてくる。

「友人としてなら、かなり好きかな。話してて楽しいし、一緒にいるのも心地良いし。嫌いになる要素が一つもない」

そう。
俺はルーセウスが好きだ。
ロクサーヌに対する気持ちとはかけ離れているから、恋心ではないけれど、好きなのは本当。

手を繋がれただけで顔が熱くなってドキドキ胸が弾んでいたロクサーヌとの時間。
それとは全然違う。

例えるならそこにあるのはどこまでもホッとする安心感。
こうしてずっとくっついていたい。
離れたくない。
そんな相手────それがルーセウス。

「そこまで好きでいてくれるなら、ちゃんと付き合おう?」
「それは諦めてくれ。無理だから」

いつものやり取り。
それなのに今日は少しだけ違った。

「しょうがない。一旦退こう」

諦めない、それがいつものルーセウスだったのに、今日は初めて自分から引き下がったのだ。

「ルーセウスが初めて退いてくれた」

驚いたけど、ずっと望んできた答えだったから嬉しくなる。
でもすぐにそんな気持ちも萎んで、何故か寂しいと感じた。

「退かない方が良かったか?」
「うーん…どうだろう?ホッとしたような、でもちょっと寂しいような、変な感じ?」

ロキ父様の言葉は正しかったと見て間違いはないだろう。
しっかり堕ちているのに、初めて退いてもらうことができたんだから。
でもちょっと思っていたのとは違って、先のことを考えると寂しくなった。

(ルーセウスに離れて行かれたくないだなんて…)

俺はこんなに我儘だっただろうか?
どうせいずれはそれぞれ花嫁を迎えなければならない立場だし、そんな我儘が通るはずもない。

ちゃんと現実を見ないと。

そう思って、ルーセウスにパーティーの話を持ち掛けてみることにしたんだ。
俺には花嫁候補がいると見せつける、ある意味残酷な提案。
でも現実を見るのにはうってつけだし、ここは心を鬼にしよう。
そうすればこれからは友人関係でとも言いやすくなる。
ルーセウスが本当に俺に堕ちてくれているのならきっと聞き入れてもらえるはず。

ルーセウスは二週間後という急な話にも関わらず、二つ返事で引き受けてくれた。

真っ直ぐで綺麗なルーセウスが眩しい。
少しだけ罪悪感に襲われた。

(早く俺から解放してあげないと)

いつまでも先のない関係に縛りつけては可哀想だし、上手く友人として付き合える形に持っていかなければ。




「ディオ!」

パーティーの前日、ルーセウスが笑顔でやってきて俺を抱き締めた。
広くて大きな胸に包まれると安心する。
それがいつからかなんてもう覚えていないし、もしかしたら初めて抱き締められた日からなのかもしれない。

失恋で傷ついた俺をすっぽり包み込んで癒してくれた優しいルーセウス。
そんなルーセウスには俺なんかよりもお似合いの相手と結ばれて、幸せになってほしいんだ。

友人なら結婚の障害にはならないだろうけど、恋人なんていたら結婚の邪魔にしかならない。
だからいくら言われても、恋人にはなってあげられない。
そこは許してほしい。

俺ももう失恋の傷は癒やされたし、真面目に結婚相手を探さないと。

(まあ…面倒な相手じゃなかったら、誰でもいいかな)

大好きだったロクサーヌにフラれ、これ以上ないほど愛情を注いでくれるルーセウスとも先はない。
結婚に今更夢なんて抱けないし、結婚相手に望むものなど特にはない。
適当に国益だけ考えて相手を決めて、さっさと結婚してしまうのもアリだろう。

人は自分を完璧な王太子と言うけれど、本当は欲しいものが何一つ手に入らないちっぽけな男でしかない。
そんな男に嫁がなければならない女性はある意味可哀想だ。
そう考えると最初から割り切って、国同士利を与え合える相手を選んだ方が無難だろう。

「はぁ……気乗りしないな」

いっそのこと自分ではなく妹のディアが王位を継いでくれたらいいのにと、俺は重く溜め息を吐いた。


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