王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第一章 俺がディオを堕とすまで

15.知らされた事実

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【Side.ディア】

おかしい。
ルーセウス王子から私との話はディオに伝わっているはずなのに、思っていたのとは違って何故か妙に落ち着いている。

(絶対に荒れると思ったのに…)

私本人に問い詰めてくるか、もしくは無理矢理ルーセウス王子を諦めるべく自暴自棄になりながら誰かに身を任せに行ったり、あるいは裏の仕事でもこなしに行くかと思ったのに、どれも全くやる気配がない。

もしかしてルーセウス王子はディオの中ではその程度の存在だったんだろうか?
ロクサーヌ嬢の時は夜も眠れない様子で悲壮感を漂わせていたのに。

これだとヴィオレッタ王女に話を持ちかけて、頃合いを見計らって慰めさせる計画は見直した方がいいかもしれない。
そんな事を考えていたら、ロキお父様から呼び出しを受けた。

「ロキお父様。お呼びでしょうか?」

呼ばれた部屋に行くとそこには何故かヴィオレッタ王女もいて驚いてしまう。

「ディア。今度ヴィオレッタ王女をディオの妃として迎える事になったんだ。それで、確認なんだけど、ディアが兄上に言った、ゴッドハルトに嫁ぎたいという話は、特に正妃にこだわりはないんだよね?」

ニコリと笑うロキお父様。
ヴィオレッタ王女をディオの妃にというのは別に構わない。
元々そうしたいと思っていたからだ。
でも私に対して、どうしてそんな事を聞いてきたのかがよくわからない。

「えぇと…どういう意味でしょう?」

ルーセウス王子に妃がいるなんて話は聞いたことはない。
だから嫁ぐのなら当然正妃としてだと思うのだけど…。

「うん。実は兄上には言ってないんだけど…」

そこで衝撃の事実を教えられた。

(ディオと既に結婚済み、ですって?!)

「何ですの?それは!あれこれ立てた計画が台無しじゃありませんの!」

しかも予行練習だと思い込んでて、本人達も知らないってどういう事?!

「手順を踏んで事に及んで、それで認識できてないって…ディオったらどこまで抜けてるの?!」
「アハハ!」

思わず地団駄を踏んだら思い切り笑われてしまった。
ロキお父様は本当に意地悪だ。
きっとこうなることがわかってて先手を打ったに決まっている。

「まあ…ディアとしては兄上へのカモフラージュも兼ねて計画してくれてたんだろうけど、正妃じゃなくてゴメンね?」

確かにカリンお父様にバレたら別れさせられる一択だとわかりきっていたから隠れ蓑に自分はもってこいだとは思っていたけれど、それが全てではない。

それに別に正妃にこだわりがあるわけでもないから、『今ならまだ他所への嫁ぎ先の変更は可能だ』と言われても結婚を考え直す気にはならなかった。

ディオとルーセウス王子の仲を取り持ちたい気持ちも本当だけど、現状から抜け出すために利用させてもらいたい気持ちも本当だったから。
言ってみれば一番条件にぴったり合った。ただそれだけ。

「私は側妃で構いませんわ。もしかしてディオにももうお伝えに?」
「ああ。ヴィオレッタ王女から伝えてもらったよ」
「本当に抜け目がないですね、ロキお父様は。順調に退位できるようにしっかり手を打ってらっしゃるんですから」

頬を膨らませてそう訴えると、過去の二の舞は避けたいからねと笑われた。
どうやら在位10周年の時に皆に引き止められて退位できなかったのを、根に持っているらしい。

「確実に平和的に退位したいから、兄上にはまだ内緒にしてて」
「わかりました。敢えて正妃側妃とは言わず、妃とだけ言うようにしますね」
「そうしてくれ」

話は終わった。
この後はヴィオレッタ王女と二人でお茶でもしよう。
アンシャンテの王子達とは違って彼女は面白い人だから話していて楽しいし、手の掛かる困った男達の話ででも盛り上がろうと思う。


***


【Side.ルーセウス】

ディオに決断を託して国に帰り、俺は居た堪れない気持ちで一週間を過ごした。

結果が出るのがすごく怖い。
そもそもこれで嫌われたら関係継続は不可能になるんじゃ?
今更そこに思い至って、落ち着かない気持ちになってしまう。

「うぅ…胃が痛い」

そう思って剣を置き、訓練場で蹲ってたら、いきなり後ろから頭を思い切り叩かれた。
誰だと思ったら父だ。
何故か顔色が物凄く悪いし、焦燥が見て取れる。

「胃が痛いのは俺の方だ!お前、どれだけガヴァムが大好きなんだ?!正妃だけじゃなく側妃までガヴァムから娶るって、冗談だろう?!」
「え…?」
「ディア王女はあちこちの国から引く手数多の人気の王女だぞ?!絶対狙ってた各国から恨みを買うに決まってる!ダークホースもいいところだ!」

どうやらガヴァムからディア王女との婚約の打診が届いた様子。

「いや、ダークホースと言われても、婚約の打診はディア王女からの申し出だったので…」

俺に文句を言われても困る。
それよりも、だ。
さっき父はおかしな事を口にしていなかっただろうか?

「父上。さっき正妃だけじゃなく側妃も、と口にしませんでしたか?」
「そうだよ!お前の正妃は現状ディオ王子だからな!でもそうなるとディオ王子とは別れたって事か?それならディア王女が正妃でいいのか?ああ、クソッ!落ち着け俺!取り敢えず離婚手続きが先か?!先だな?!急いでロキ陛下に手紙を────」
「ちょ、ちょっと待ってください!ディオが俺の正妃ってどう言う事ですか?!いつ?!いつから?!」

問い詰めるように食い気味で尋ねると、幾分落ち着きを取り戻した父が俺の知らなかった事実を教えてくれる。

「いつって…お前が予行練習とか言って、ガヴァム式でディオ王子を教会で抱いた日からだ。それ以外にないだろう?」
「え……」

正直心臓が止まるかと思った。
あれはただの予行練習で、婚儀は成立していなかったはず。
それなのに、何故?

「ロキ陛下の一存で、暗部が立会人として成立してたんだよ。お前達の関係がこの先どうなるかわからないから、口出しせず見守ってやってくれって手紙をもらった。まあ保険だな」
「そんな!どうして教えてくれなかったんですか?!」

知っていたらあんなに悩んだり躍起にならずに済んだはずなのに。

「どうしても何も、お前は知っていて黙っていられるタイプじゃないだろ?二人の仲が上手くいって、挨拶に来たら教えようって思ってたんだ」
「うぐぅ…!」

父の言葉が耳に痛い。

「ついでに言うと、お前が妃を迎える際にディオ王子と離婚するなら連絡してくれとも言われてる。別れたんなら離婚手続きが必要だろう?」
「っしない!絶対に離婚なんてしない!」

既に結婚済みという事ならこれほど嬉しい事はない。
別れるなんて論外だ。

きっとディオもそんな事になっていたなんて知らなかったはず。
だって知っていたら絶対に手は打っただろうし、俺がディア王女と結婚すると口にしたら、あんなに辛そうな顔にはならなかったはずだから…。

「つまり別れる気はないって事だな?わかった。それなら一度ガヴァムに行ってこい。手紙にディオ王子とアンシャンテのヴィオレッタ王女が婚約したとも書いてあった。事情を知ってるかどうかわからないなら、ちゃんと今後どうするか四人で話しておくべきだろうしな」

俺は父からのその言葉に力強く頷くとすぐさま準備を整えガヴァムへと向かうことにしたのだった。


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