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第三章 戴冠式は波乱含み

56.救出

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パーティー会場の方はロキ陛下達に任せて、ディオが指揮を取りディア王女の救出へと向かう。
空振りに終わる可能性はあるが、その時はその時だ。
ディア王女はディオの大事な兄妹であり、俺の婚約者でもあるのだから、絶対に見捨てる気はない。

ワイバーンに乗って、空から小舟が発見された辺りを中心にグルリと周辺を見渡す。
川の流れと小舟が見つかった場所。
馬車が走れる道の位置。
近隣にある街。
それとここに至るまでの時間。

「東だな」
「え?」
「あの辺りが怪しい。降りるぞ」

導き出したのは街から少し外れた付近。
下に降りてみないと何があるかわからなかったが、俺の勘があの辺がなんだか怪しい気がすると訴えていた。
だからワイバーンをそこへと向かわせたのだ。

「ルーセウス?!流石にそんな狭いところに降りるのは…っ」
「大丈夫。余裕だ。怖かったら捕まっててくれ」

その言葉と同時にディオがギュッと俺へと抱きついてくる。
可愛い。

「着いたぞ」

フワリと着地すると、ディオは狐に摘まれたような顔で目を丸くしていて、次いで俺にしがみついてることに気がついて頬を朱に染めていた。
こんな顔も可愛い。キスしたくなる。

いや。それより今はディア王女優先だ。
兎に角賊をさっさと捕まえないと全然ディオとイチャイチャできない!
攫った奴は今すぐ出てこいと言ってやりたかった。

「ルーセウス!馬車だ!」

タイミングよく走る馬車を遠目に発見した。
あれにディア王女が乗っている可能性は高い。
そう思い、密かに二人で追尾する。
ちなみにディオは駆けながらツンナガールでしっかり暗部達を呼び寄せていた。流石だ。

そして程なくして馬車は一つの屋敷へと到着し、拘束された状態のディア王女が男に担ぎ上げられ馬車から降ろされるのが見えた。
それを見たディオがグッと手に力を込める。
きっと今すぐ助け出したいのだろう。
でも敵の数も正体もわからないまま飛び出すのは悪手だ。
最低限の事だけでも把握してから動くべきだとグッと我慢し、素早く内部へと潜入する。

そして連れて行かれた部屋を特定し、そっと様子を窺うとそこには見たことがある男の姿があった。

「ディオ。あれはバロン国の近衛騎士団長だ」
「え?」
「国王の従兄弟でもあるが、妻や娘に対して暴力を振るっているらしいといつだったか噂で聞いた事がある。助けるなら早い方がいい」

そう口にすると、ディオは少し迷いをみせた。
部屋はそこそこ広く、中には男達が複数いる。
ざっと数えて30人近くいるんじゃないだろうか?
全部が全部近衛騎士達ではなさそうだが、他にももっと仲間がいるかもしれない。
だから応援が来るまで動かない方がいいかもしれないと思ったんだと思う。
でもここでディオのそんな冷静な判断を覆す出来事が起こってしまった。

その男────ゼロイドがいきなりディア王女の髪を鷲掴みにして腹へと拳を叩きつけ、息が詰まったディア王女の頬を思い切り張り飛ばしたからだ。

「…殺す」

未だかつてないほどの怒りがディオから吹き出し、殺気が迸る。
大事な妹を目の前で傷つけられて、完全に目が据わっていた。

「ルーセウス。あの男とディアを連れてきた男以外は任せてもいいか?」
「任せろ!」

ここは当然引き受けるに決まっている。
ディア王女の安全優先だ。

「頼んだ」

そしてディア王女が今にも犯されそうなタイミングで、雄々しく勃ち上がっていたはずの男の逸物へと一瞬でワイヤーのようなものが巻きつき、次の瞬間そのまま細切れになった。

「…………え?」

そう言ったのはディア王女。
そして次の瞬間叫んだのはゼロイドだった。

「ギャアアアアッ?!」

ディオはその後も凄まじい速さで暗器を繰り出し、ディア王女を殴った男の腕を切り刻んでいく。

その隙に逃げようとした男も、あっという間に足と腕をやられていた。

「ひぃいいいっ?!」

「ディアを犯そうとする粗末な物も、ディアを二度も傷つけた腕も、必要ない。ディアを攫ったそっちの男も許す気はない」

ズシャアッと呆気なく地に沈む男と、痛みにのたうち失禁しながらディオへと蒼白な顔を向けるゼロイド。
それを見た他の男達も見事に真っ青な顔で固まってしまっている。

これは確かに怖いかもしれない。
普段の可愛いディオの顔じゃなく、目が完全に冷徹な暗殺者のそれへと変わってしまっているからだ。
ターゲットにされた側からすれば、そりゃあもう震え上がるほど怖いことだろう。

でも冴え冴えとした空気を纏うそんな姿も綺麗だと俺は思う。
返り血を浴びながら容赦なく暗器を振るうディオは目を奪われる美しさだった。

(やっぱりどんなディオも好きだな)

「ヒッ?!」

おっと、こうしちゃいられない。
誰かが発した悲鳴で男達が我に返り始めた。
他の奴らの相手を頼まれていたんだ。
うっかりディオに見惚れている場合じゃない。
しっかり役目を果たさないと。

そして俺は次々と男達を倒していき、全員無力化したところで振り向くと、ディア王女が泣きながらディオに抱きついてお礼を言っていた。

「ウェッ、ヒッ…ク、ディオ、ディオぉ…。こ、怖かった…」
「うん。遅くなってゴメン、ディア。もう大丈夫だから」

柔らかく微笑んで優しく妹を抱き寄せて慰める姿はいつものディオだ。
でもこんなに弱ってるディア王女なんて初めて見たから驚いた。
それだけ怖かったということだろう。

「ブラン皇子の方もロキ父様が不能になりそうなくらいお仕置きしてくれてたから、安心していいよ」
「え?!」
「ああ、直接文句を言いたかった?どうせなら二、三発殴って急所を踏みつけてやるといい。それくらいやってやらないと気が済まないだろう?」
「勿論よ!あの馬鹿のせいでとんだ酷い目に遭ったわ!絶対に許さないんだから!」
「うん。じゃあ帰ってから思い切りその怒りをぶつけようか」

どうやら元気を取り戻すことに成功したらしい。
流石ディオだ。

そして駆けつけた暗部や裏の者達へ後始末を頼み、各所へも無事にディア王女を救出できた事を伝えて城へ戻ることに。

「ほら。上空は寒い。取り敢えずこれでも着てろ」

ただでさえさっきまで怖さで震えていたのに寒さで震えるのも可哀想だと思って、バサリと俺が着ていたマントを肩にかけてやると、ディア王女は少し恥ずかしそうにしながらも素直にお礼を言ってそれに包まった。

もしかしたら身内じゃない男の前で薄着だと気づいて、急に恥ずかしくなったのかもしれない。
でもまあ婚約者同士なんだし、そこまで気にすることもないだろう。
気にせずいつものディア王女でいて欲しいものだ。

「ルーセウス。こんな狭い場所からでも飛び立てるのか?」
「ん?ああ。ちょっとコツはいるけど、やってやれないことはないぞ?」

そして『しっかり捕まってろよ』と二人に言ったら、二人揃って俺へとしがみついてきた。
流石仲良しな双子の兄妹。
タイミングがピッタリで、なんだかすごく可愛いなと思わず笑ってしまった。

「頬も腫れてるし早く冷やした方がいい。急いで帰るから、そのまま手は離さないようにな」

その言葉と同時にディア王女が先程より強く、思い切り抱きついてくる。
なんだか既視感を覚えるな。

「い、いやぁあああっ?!急がなくていいから、もっとゆっくり飛びなさいよっ!この脳筋!!」

いつだかの時のようにディア王女が素で叫ぶ。

「大丈夫大丈夫。絶対落とさないから」
「そういう問題じゃないのよ!さっきちょっとときめいた私の乙女心を返してちょうだい!」

(ときめいた?誰が誰に?聞き間違いか?)

「ディア。ルーセウスは俺のだから」

ヤキモチでも妬いたのか、ディオがギュッと俺に抱きついてディア王女へと牽制している。
可愛いな。

「わかってるわよ!でも私だって婚約者なんだから、ちょっと夢見るくらいいいでしょう?!あんなさっきみたいなクソ中年男に純潔散らされるより、テクニシャンなワイルド系イケメンに抱かれる方がいいに決まってるわ!比べれば一目瞭然でしょう?!」
「ルーセウスがカッコいいのは認めるけど、とられるのは嫌だ。結婚するのはいいけど、できる限り惚れないでほしい」
「惚れるはずがないでしょう?!誰がこんな脳筋!私がほしいのはそのテクニックだけよ!」

酷い言われようだ。
まあディオが可愛くヤキモチ妬いてくれてるからいいけど。

「まあ、何はともあれ無事でよかった」

そう言ってディア王女に笑顔を向けたらボボボッと火がついたように顔が真っ赤になった。
なんでだ?

「はぁ…」

取り敢えず珍しく拗ねてるっぽいディオが可愛いから、後でいっぱい可愛がろう。



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