王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第三章 戴冠式は波乱含み

64.出された結論

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「誰が貴方なんかに嫁ぐものですか。貴方に嫁ぐくらいなら兄妹婚制度でも利用してディオの側妃の一人に収まる方が百倍マシよ!」

俺はディア王女がブラン皇子へと言った言葉に驚いた。

(兄妹婚制度って……アレか?!)

以前父から聞いたことがある。
ガヴァムは古くからある王家なだけあって色々特殊で、神の血を濃く受け継ぐべく一時期兄妹婚を繰り返していたらしい。
ロキ陛下とカリン陛下は既に廃止されていたその制度を引っ張り出してきて、誰にも文句がつけられないようにした上で堂々と結婚したんだとか。

つまり、現状ガヴァムでは兄妹でも婚姻可能と言うことになる。

(最悪だ。完全に失念していたな)

常識で測れないのがガヴァムだと痛感した。
これはマズイ。
さっさと諦めさせないとダメだ。
俺とディオの幸せ結婚生活が瓦解したら目も当てられない。

(ディオはディア王女を大事にしてるから、側妃にしてくれって頼まれたら二つ返事で頷きそうなんだよな)

そこが他の候補者達との一番の違いだ。
ディオと愛し合ってる俺が王配で、子作りで文句を言われないよう据えられる予定のヴィオレッタ王女。そこにディア王女が入ってきても多分誰も文句は言わないはずだ。
だってディア王女はガヴァムの王族の血を継いでいるから、俺との結婚で外に出すより、ディオの側妃として囲う方が国民的にも喜ばしい話だろう。
これまでの歴史から見てまず間違いない。

ディア王女はこれまでガヴァムの外に出たがっていたが、それは言ってみれば縁談避けだ。
側妃に収まるのならその心配もなくなるから、かなり現実味のある話だった。

(なんとか諦めさせないと…)

取り敢えずここはブラン皇子への怒りを本人にぶつけさせて、スッキリさせてやるのが一番だと思う。
そうすればこれまで通りディオの側妃ではなく、俺の側妃として収まる気持ちになってくれるかもしれない。

そう思って踏み方が違うぞと教えて、正しい踏み方でちゃんと復讐させることに成功し、ついでに一応釘も刺すことができた。

「これでディオの側妃云々はもう言わないよな?」
「……私は貴方の側妃予定なんですが?」

でも、沈黙の後ジトリとした目で見られて、少々焦ってしまう。

俺が言うのもなんだが、ブラン皇子も認めていたようにディオの方が俺よりもかなりスペックが高いんだ。
乗り換えできるならそうしようかなとディア王女が考えてもおかしくはない。

(それに…ディオもあの閨指導本を読み込んでるから、ディア王女に大満足の初夜を与えるのは簡単なんだよな)

加えて俺よりもずっとディア王女の事を知っているはずだから、絶対に上手くできると思われる。

ヤバい。マズい。ピンチだ。

ディオが俺以外の相手と二人も寝る可能性が出てきた。
流石に嫌過ぎる。

(俺のディオなのに…!)

こうなったらディア王女の気が変わらないように、俺の方に目を向けさせよう。
昔の俺なら絶対無理だっただろうけど、ディオが妃候補者達をあしらってきた姿を見てきて学んだ事もある。
親切に優しくしつつ、会話して好感を引き出すんだ!

(少々下手くそでもいいから、ディオがディア王女を側妃として迎えないよう、できることは積極的にやっていこう)

そうなってくるとガヴァムに滞在するという案も一度考え直した方がいいかもしれない。
ディオをなるべく早く手助けしたいし、イチャイチャしたい気持ちはすごく大きい。
でもそうなるとディア王女も必然的にガヴァムに滞在する事になる。
接点を最低限にするなら現状維持がベスト。
ディオに会いたい時に自分だけ来る方がいいと思う。

(そのまま結婚まで持ち込んで、ガヴァムに腰を落ち着けるのはそれからにするか)

ディア王女と円満に結婚まで持ち込んで、初夜まで迎えてしまったらきっと大丈夫。
そこでしっかり満足させてあげられれば、ディオの側妃に収まるという話も完全になくなるだろう。
ゴッドハルトの皆も、俺とディア王女が仲良くしているのを見れば結婚後快く俺だけガヴァムへと送り出してくれるはずだ。
万事上手くいく。

(よし。それでいこう!)

こうして俺は一つの決意を固めたのだった。


***


【Side.ディア王女】

「ディア。踏めた?」

部屋に入ってきてすぐ、部屋の様子を確認し、ロキお父様が笑顔で愉しげに訊いてくる。

「踏めましたわ!」
「そう。良かった。一応レオと話し合ったんだけど、ブラン皇子はブルーグレイに送って、アルフレッド妃殿下の副官、だったかな?オーガスト副隊長の下で鍛え直す事に決まったんだけど、それでいいかな?セドリック王子が、必要ならブルーグレイの尋問官の調教もつけてくれるって言ってくれたし、希望があるなら出来るだけ聞くけど、どうかな?」

どうやら有難い事に既に話し合いをしてくれて、ブルーグレイに送ってくれることになったようだ。

「ロキお父様。ありがとうございます。でもいつの間に?」
「昨日あまりにも兄上が心配だって言うものだから、ツンナガールで先にレオと話して、その後セドリック王子に交渉してもらった」

なるほど。
カリンお父様が大好きなロキお父様のことだ。
些事はさっさと片付けようと動いたのだろう。
とは言えブルーグレイのセドリック王子は一筋縄ではいかない人物。
全く関係がないのに交渉がすんなり終わるとは思えない。
だから首を傾げながら訊いてみた。

「え?大丈夫だったんですか?」
「全然大丈夫じゃないよ!先にオーガストに話を持っていって、その後アルフレッドにツンナガールで連絡したら、コールする度に切られて、やっと繋がったと思ったらセドリック王子で、殺気立ってて今度こそ殺されるかと思った…!」

レオナルド皇王は顔色悪く如何に恐ろしかったかをアピールしてくる。
けれどどうやらそこからセドリック王子とロキお父様の間でまたやり取りがあって、話がまとまったようだ。
お互い面倒&妃とイチャつきたい気持ちが大きかったから、三分で話し終わったんだとか。
レオナルド皇王相手との差が激しすぎる。
どれだけ仲が良いのだか。

「私はそれで構いませんわ」

ブルーグレイはゴッドハルトの近くではあるけれど、海を渡った先だし、特に顔を合わせる機会もない。
だから大丈夫だろう。

「ディオは?」
「俺はブラン皇子の廃太子を要求します。これ以上迷惑はかけられたくありませんので」

一応ディオはディオで、きっちり押さえるところは押さえたい様子。

「そうか。レオ。いいよね?」
「もちろん!それでガヴァムとの付き合いがまだ続けてもらえるなら」
「ではその方向で」

そんな風に意外なほどあっさりと話がまとまって、これで話は終わりとなるはずだったけれど、ブラン皇子本人はそんな話になるなんて思っていなかったのか、ここで焦ったように口を挟んできた。

「そんな!皇太子の座を降ろされるなんてあんまりです!父上!本気じゃありませんよね?!」
「折角築いてきたガヴァムとの関係を崩すような皇太子は必要ない。自分の行いを省みて、今後はローズマリーを支えるように」

どうやらこの瞬間、将来ローズマリー皇女が女皇王となるのが決まったようだ。
これならディオの側妃に捩じ込まれることも、今後はなくなるだろう。
レオナルド皇王は『廃太子にする』とは言ったけど、『廃嫡して皇族から追い出す』とまでは言っていない。
その証拠にローズマリー皇女を支えるようにと言っている。
つまり、ブルーグレイで性根を叩き直したら戻ってきていいと言ってくれているのだ。
温情はそれで十分。
ここでゴネた方が転落人生一直線だし、ブラン皇子もそこまで馬鹿ではないからちゃんと気付けた様子。

それ以上食い下がることなくガックリと肩を落とすブラン皇子を見ながら、これでこの問題も終わったのだと思うことができたのだけど…。

何故かこの一件からルーセウス王子がやけに私に優しくなって戸惑う羽目になった。
多分トラウマになっているんじゃないかと気遣ってくれているのだろうけど、ドキドキするからやめてほしい。
折角自制しようと思っていたのが全部水の泡だ。

「ルーセウス王子?ディオに愛想を尽かされる前にやめた方が賢明ですわよ?」
「大丈夫だ。ディア王女と結婚後はずっとディオと一緒にいるつもりだし、ディオならわかってくれる」

自信満々に言うけれど、本当にそうかしら?
ディオはああ見えて普段からちょっとしたことで物凄く嫉妬してくるし、恋愛関連はポンコツだ。

「まだ殺されたくないので、ディオを優先してください!」

取り敢えず、この鈍感無自覚天然王子をなんとかしなければ。

こうして私は二人の間で板挟みになって、胃痛に悩まされることになるのだった。



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