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第四章 思わぬ誤解とライバル出現に焦る俺
77.動揺 Side.ディオ
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ルーセウスから逃げるようにパーシバルと一緒に第二都市へとやってきた。
最初は気も沈んでいたけど、なんだかんだとパーシバルと話しているうちにいつもの自分に戻ることができたように思う。
パーシバルの質問は多岐に渡っているし、油断するとすぐにこちらの弱みを掴んでこようとしてくるから気が抜けないのだ。
お蔭で余計な事を考えずに済んだと言っていい。
観光案内も兼ねているからできる限り質問には答えるものの、当然だがマイナスに繋がりそうな質問は適当に誤魔化した。
向こうもそれがわかっているからすぐに別な話題に切り替えてくるし、問題はない。
そうして順調に街を案内し、目的であるフルーツが味見できる果物店へとやってきた。
この辺りでは一番大きな店で、店主とは顔見知りだし城にも果物を卸してもらっている。
だから悪魔の実のような大きな果物も、頼めば味見をさせてもらえる。
なのにパーシバルは手が汚れると言い出した。
濡布巾で手を拭いたらいいと思うけど、ダメなんだろうか?
潔癖症とは思わなかった。
とは言えフォークも爪楊枝もここにはない。
(まあ形は似たようなものだし、吹き矢の針で代用するか)
別に毒が塗ってあるわけじゃないしと思って、提案したらすごく怒られた。
別に暗殺しようなんて思ってないのに。
心外だ。
もし殺るなら宿に戻ったところでやった方がバレないのにな。
「名案だと思ったのに」
残念。
仕方がないから店主に聞いて、店内で食べられる場所を教えてもらった。
これなら大丈夫だろう。
早速移動し、安全を確保した上で席に着く。
注文するのはフルーツパフェだ。
時期的に悪魔の実と桃の両方が乗せられているから、ちょうど良かった。
パーシバルの口に合うといいけど。
そうして注文の品がテーブルへと届いたところで、食えとひと匙突きつけられた。
どうやら先程の件はそれだけ気に入らなかったようだ。
『本当にさっきの件で含むものがないのなら、この毒味を甘んじて受け入れろ』と言われれば口を開けるしかない。
(根に持つ性格なんだな)
そう思いながら咀嚼していたら、突然名を呼ばれ、驚いてゴクリと飲み込んでしまう。
「ルーセウス?」
城に到着してゆっくりしているはずのルーセウスがここにいる事が信じられなくて、思わずそちらを見てしまう。
何故ここに?
そう思ったのも束の間。
そのまま勢いよくやってきたかと思うと唇が深く重ねられ、舌で口内を蹂躙された。
「んんんっ?!」
こんな街中で、しかも他国の王を接待中にキスなんて想定外もいいところだ。
でも久し振りのキスがすごく嬉しくて…まだ求めてもらえているような錯覚を引き起こす。
(気持ちいい…)
うっとりしそうになるが、ここは流されたらダメな場面だ。
何とか動揺を抑えて気持ちを立て直そう。
「ル、ルーセウス?な、何を?」
多分何か理由があっての行動だ。
そうだ。そうに違いない。
そう思って尋ねたら、ルーセウスはチラリとパーシバルの方を見てから言い切った。
「毒味だ!」
なるほど。
毒味。
「ど、毒味…。うん。まあ確かに相手は因縁のあるバロン国の国王だし?わからなくはない、かな?」
多分ルーセウスは遠目にパーシバルの姿を確認し、バロン国の国王だとすぐに気づいたのだろう。
ゴッドハルトの隣国だから接点はあっただろうし、差し出された物を食べた俺を見て慌てて安全確認をしにきた、とか?
ダメだ。
思考がちっともまとまらない。
何かおかしい気もするけど、それが何だか特定できないくらいには動揺している。
シグやパーシバルにまで笑われるし散々だ。
ちょっと落ち着こう。
でもそのままルーセウスが同席することになって、ちっとも気持ちが落ち着かない。
(ダメなのに…)
少しの油断が危険なパーシバルを前に弱点を曝け出しているような今の状況はよろしくない。
毅然とした態度で、裏を読み、意図を理解して躱さないとダメなんだ。
ルーセウスはそう言うのは得意じゃないから俺がしっかりしないといけないのに、頭はルーセウスの事でいっぱいでちっともいつものように働いてはくれなかった。
ポンコツにも程がある。
でもそんな俺の隣で、弱みや隙は見せないぞとばかりにルーセウスはルーセウスなりに頑張ろうとしてくれた。
「ええと…パーシバル?彼は俺の王配で…」
「知っている。ゴッドハルトはバロンの隣国だぞ?ルーセウス王子。いや、王配になったなら陛下と呼んだ方がいいか?随分派手な登場だったな?周囲も憚らない驚くほどの溺愛っぷりに思わず笑いが出たぞ?」
パーシバルからの挨拶代わりの挑発発言に対し、ルーセウスは男らしくはっきりと言い放ったんだ。
「ディオを愛してるからな!問題はない!」
これにはパーシバルもびっくりだ。
「開き直りがすごいな」
「開き直り?違うな。元から隠す気なんてないだけだ!」
パーシバルに隙を見せないためとはわかっているものの、久し振りの愛の言葉にジワリと胸が切なくなる。
「……ディオ。こんな奴のどこが良かったんだ?知的な会話なんて全くできそうにないんだが?」
「え?こういうところがルーセウスの長所だと思うけど?」
ルーセウスは良くも悪くも隠し事ができないタイプだ。
だからこそわかりやすく安心できる相手でもあった。
ただ、今はちょっと…何とも言えない複雑な心境だけど。
「…………これを許容できるお前は凄いな。素直に感心するぞ?俺には無理だ」
「それはどうも」
取り敢えず、パーシバルからの褒め言葉だけは受け取っておこう。
「それで?どうして二人でこんな場所に?」
まあ何も知らないルーセウスからしたらどうして敵対している相手と仲良くパフェをつついているんだと思うだろう。
「ん?ああ。ディオがバロン国に輸出したい果物があると言うから、それなら一度食べてみたいと言ったんだ」
「パーシバルは桃も食べた事がなかったみたいだし、味見が一番かなと」
だから二人で説明したのだけど、思い切り首を傾げられた。
「…?ただの味見なら果物屋でさせてもらえるだろう?」
「それはそうなんだけど、パーシバルは素手で持って食べたら手が汚れるって煩くて」
そう言ってパーシバルの方を見たら、物凄く不本意そうに反論される。
「ディオ。そう言った俺にお前はなんて言った?『うーん。しょうがないな。爪楊枝もフォークもないし。そうだ!吹き矢の針で刺して食べたらどうかな?』って言ったよな?ナチュラルに俺を毒で殺す気満々だっただろ?!」
「毒を塗っていない針だったから、綺麗に拭いたらいけるかなって思ったんだけど?」
「怖い事を言うな!そういうところが暗殺者っぽいんだ!全く」
パーシバルは怒ったように言うが、まあルーセウスに経緯が伝わればいいから気にしない。
「まあそれで店で食べたらどうかなって話になって、ここにきただけなんだけど」
これで…わかってもらえるだろうか?
「そうか。じゃあさっきのは?」
「さっき?」
「ああ。食べさせられてただろう?」
どうやらルーセウスはそこも気になったらしい。
これもちゃんと説明しないと。
「ああ。あれは」
「毒味だ。お前もさっき自分で言っていただろう?危険な相手とお互い同席してるんだ。毒味は必要だろう?」
「…とても信じられないな。毒味をさせるなら護衛にさせるべきだ。国王であるディオに食べさせた時点で、その行為は暗殺未遂と取られてもおかしくはない」
「そう睨むな。さっきの果物屋の件でおあいこだろう?俺だけを責めるのは間違っているぞ?」
ルーセウスも頑張ってるけど、相手が悪い。
口ではどう考えてもパーシバルの方に分がある。
揶揄われて掌の上で転がされるのが関の山だろう。
ここは一旦仕切り直そう。
「ルーセウス。これくらいのことで突っ掛からなくていいよ。それよりルーセウスも何か食べないか?肉は…なさそうだから、コーヒーだけ頼もうか?」
そう尋ねたら意外なことを言われた。
「折角だし、俺も同じのを頼む」
「え?」
「ディオ。俺はフルーツは普通に好きだぞ?」
「う、うん?でも確か前にクレープを食べた時に、ホイップがイマイチだったって言ってたから、苦手なのかなって…」
前に街歩きで珍しくルーセウスと甘味を食べたことがあった。
でもルーセウスは『何だろう?コレジャナイ感がすごい』と言って、『何がダメだった?』と尋ねたら、『ホイップがイマイチ』と答えたのだ。
だからホイップが苦手なんだと思ったのだけど…。
「ディオ。ゴッドハルトではクレープと言えばホイップじゃなくてカスタードクリームにチョコソースなんだ」
どうやらものが違ったせいであんな反応になっていただけらしい。
「え?」
「具も酸味がある果物じゃなくて、バナナが主流だ」
なるほど。それなら確かに全く違う物に思えたことだろう。
「ちなみに俺が好きなクレープは葡萄ミックスだ」
「葡萄ミックス…」
「皮ごと食べられる甘みの強い品種が三種類入ったクレープで、とっても美味いんだ。良かったら今度一緒に食べに行かないか?」
ルーセウスが俺を見つめて、デートに誘ってくれる。
嬉しい。
でもすぐにそれはパーシバルが目の前にいるからだと思い至った。
仲睦まじい様子を見せつけて、ガヴァムとゴッドハルトの関係は強固なのだとアピールしているんだ。
勘違いしないようにしないと。
それに、そもそもルーセウスはまたすぐにでもゴッドハルトへと帰るだろうし、下手に期待して後で傷つくのは御免だった。
正直これ以上傷つきたくはない。
だから曖昧に答えを返す。
「えっと…時間ができたら?」
でもそれはこの場では言うべきじゃなかったとすぐに後悔した。
折角のルーセウスのアピールに水を差すことになってしまったと気づいたからだ。
(やってしまった…)
やっぱり今の俺は正常な判断ができなくなっているらしい。
もう帰りたい。
でも帰れない。
だから仕方なく平静を装いながら、この居心地の悪い時間に耐えた。
最初は気も沈んでいたけど、なんだかんだとパーシバルと話しているうちにいつもの自分に戻ることができたように思う。
パーシバルの質問は多岐に渡っているし、油断するとすぐにこちらの弱みを掴んでこようとしてくるから気が抜けないのだ。
お蔭で余計な事を考えずに済んだと言っていい。
観光案内も兼ねているからできる限り質問には答えるものの、当然だがマイナスに繋がりそうな質問は適当に誤魔化した。
向こうもそれがわかっているからすぐに別な話題に切り替えてくるし、問題はない。
そうして順調に街を案内し、目的であるフルーツが味見できる果物店へとやってきた。
この辺りでは一番大きな店で、店主とは顔見知りだし城にも果物を卸してもらっている。
だから悪魔の実のような大きな果物も、頼めば味見をさせてもらえる。
なのにパーシバルは手が汚れると言い出した。
濡布巾で手を拭いたらいいと思うけど、ダメなんだろうか?
潔癖症とは思わなかった。
とは言えフォークも爪楊枝もここにはない。
(まあ形は似たようなものだし、吹き矢の針で代用するか)
別に毒が塗ってあるわけじゃないしと思って、提案したらすごく怒られた。
別に暗殺しようなんて思ってないのに。
心外だ。
もし殺るなら宿に戻ったところでやった方がバレないのにな。
「名案だと思ったのに」
残念。
仕方がないから店主に聞いて、店内で食べられる場所を教えてもらった。
これなら大丈夫だろう。
早速移動し、安全を確保した上で席に着く。
注文するのはフルーツパフェだ。
時期的に悪魔の実と桃の両方が乗せられているから、ちょうど良かった。
パーシバルの口に合うといいけど。
そうして注文の品がテーブルへと届いたところで、食えとひと匙突きつけられた。
どうやら先程の件はそれだけ気に入らなかったようだ。
『本当にさっきの件で含むものがないのなら、この毒味を甘んじて受け入れろ』と言われれば口を開けるしかない。
(根に持つ性格なんだな)
そう思いながら咀嚼していたら、突然名を呼ばれ、驚いてゴクリと飲み込んでしまう。
「ルーセウス?」
城に到着してゆっくりしているはずのルーセウスがここにいる事が信じられなくて、思わずそちらを見てしまう。
何故ここに?
そう思ったのも束の間。
そのまま勢いよくやってきたかと思うと唇が深く重ねられ、舌で口内を蹂躙された。
「んんんっ?!」
こんな街中で、しかも他国の王を接待中にキスなんて想定外もいいところだ。
でも久し振りのキスがすごく嬉しくて…まだ求めてもらえているような錯覚を引き起こす。
(気持ちいい…)
うっとりしそうになるが、ここは流されたらダメな場面だ。
何とか動揺を抑えて気持ちを立て直そう。
「ル、ルーセウス?な、何を?」
多分何か理由があっての行動だ。
そうだ。そうに違いない。
そう思って尋ねたら、ルーセウスはチラリとパーシバルの方を見てから言い切った。
「毒味だ!」
なるほど。
毒味。
「ど、毒味…。うん。まあ確かに相手は因縁のあるバロン国の国王だし?わからなくはない、かな?」
多分ルーセウスは遠目にパーシバルの姿を確認し、バロン国の国王だとすぐに気づいたのだろう。
ゴッドハルトの隣国だから接点はあっただろうし、差し出された物を食べた俺を見て慌てて安全確認をしにきた、とか?
ダメだ。
思考がちっともまとまらない。
何かおかしい気もするけど、それが何だか特定できないくらいには動揺している。
シグやパーシバルにまで笑われるし散々だ。
ちょっと落ち着こう。
でもそのままルーセウスが同席することになって、ちっとも気持ちが落ち着かない。
(ダメなのに…)
少しの油断が危険なパーシバルを前に弱点を曝け出しているような今の状況はよろしくない。
毅然とした態度で、裏を読み、意図を理解して躱さないとダメなんだ。
ルーセウスはそう言うのは得意じゃないから俺がしっかりしないといけないのに、頭はルーセウスの事でいっぱいでちっともいつものように働いてはくれなかった。
ポンコツにも程がある。
でもそんな俺の隣で、弱みや隙は見せないぞとばかりにルーセウスはルーセウスなりに頑張ろうとしてくれた。
「ええと…パーシバル?彼は俺の王配で…」
「知っている。ゴッドハルトはバロンの隣国だぞ?ルーセウス王子。いや、王配になったなら陛下と呼んだ方がいいか?随分派手な登場だったな?周囲も憚らない驚くほどの溺愛っぷりに思わず笑いが出たぞ?」
パーシバルからの挨拶代わりの挑発発言に対し、ルーセウスは男らしくはっきりと言い放ったんだ。
「ディオを愛してるからな!問題はない!」
これにはパーシバルもびっくりだ。
「開き直りがすごいな」
「開き直り?違うな。元から隠す気なんてないだけだ!」
パーシバルに隙を見せないためとはわかっているものの、久し振りの愛の言葉にジワリと胸が切なくなる。
「……ディオ。こんな奴のどこが良かったんだ?知的な会話なんて全くできそうにないんだが?」
「え?こういうところがルーセウスの長所だと思うけど?」
ルーセウスは良くも悪くも隠し事ができないタイプだ。
だからこそわかりやすく安心できる相手でもあった。
ただ、今はちょっと…何とも言えない複雑な心境だけど。
「…………これを許容できるお前は凄いな。素直に感心するぞ?俺には無理だ」
「それはどうも」
取り敢えず、パーシバルからの褒め言葉だけは受け取っておこう。
「それで?どうして二人でこんな場所に?」
まあ何も知らないルーセウスからしたらどうして敵対している相手と仲良くパフェをつついているんだと思うだろう。
「ん?ああ。ディオがバロン国に輸出したい果物があると言うから、それなら一度食べてみたいと言ったんだ」
「パーシバルは桃も食べた事がなかったみたいだし、味見が一番かなと」
だから二人で説明したのだけど、思い切り首を傾げられた。
「…?ただの味見なら果物屋でさせてもらえるだろう?」
「それはそうなんだけど、パーシバルは素手で持って食べたら手が汚れるって煩くて」
そう言ってパーシバルの方を見たら、物凄く不本意そうに反論される。
「ディオ。そう言った俺にお前はなんて言った?『うーん。しょうがないな。爪楊枝もフォークもないし。そうだ!吹き矢の針で刺して食べたらどうかな?』って言ったよな?ナチュラルに俺を毒で殺す気満々だっただろ?!」
「毒を塗っていない針だったから、綺麗に拭いたらいけるかなって思ったんだけど?」
「怖い事を言うな!そういうところが暗殺者っぽいんだ!全く」
パーシバルは怒ったように言うが、まあルーセウスに経緯が伝わればいいから気にしない。
「まあそれで店で食べたらどうかなって話になって、ここにきただけなんだけど」
これで…わかってもらえるだろうか?
「そうか。じゃあさっきのは?」
「さっき?」
「ああ。食べさせられてただろう?」
どうやらルーセウスはそこも気になったらしい。
これもちゃんと説明しないと。
「ああ。あれは」
「毒味だ。お前もさっき自分で言っていただろう?危険な相手とお互い同席してるんだ。毒味は必要だろう?」
「…とても信じられないな。毒味をさせるなら護衛にさせるべきだ。国王であるディオに食べさせた時点で、その行為は暗殺未遂と取られてもおかしくはない」
「そう睨むな。さっきの果物屋の件でおあいこだろう?俺だけを責めるのは間違っているぞ?」
ルーセウスも頑張ってるけど、相手が悪い。
口ではどう考えてもパーシバルの方に分がある。
揶揄われて掌の上で転がされるのが関の山だろう。
ここは一旦仕切り直そう。
「ルーセウス。これくらいのことで突っ掛からなくていいよ。それよりルーセウスも何か食べないか?肉は…なさそうだから、コーヒーだけ頼もうか?」
そう尋ねたら意外なことを言われた。
「折角だし、俺も同じのを頼む」
「え?」
「ディオ。俺はフルーツは普通に好きだぞ?」
「う、うん?でも確か前にクレープを食べた時に、ホイップがイマイチだったって言ってたから、苦手なのかなって…」
前に街歩きで珍しくルーセウスと甘味を食べたことがあった。
でもルーセウスは『何だろう?コレジャナイ感がすごい』と言って、『何がダメだった?』と尋ねたら、『ホイップがイマイチ』と答えたのだ。
だからホイップが苦手なんだと思ったのだけど…。
「ディオ。ゴッドハルトではクレープと言えばホイップじゃなくてカスタードクリームにチョコソースなんだ」
どうやらものが違ったせいであんな反応になっていただけらしい。
「え?」
「具も酸味がある果物じゃなくて、バナナが主流だ」
なるほど。それなら確かに全く違う物に思えたことだろう。
「ちなみに俺が好きなクレープは葡萄ミックスだ」
「葡萄ミックス…」
「皮ごと食べられる甘みの強い品種が三種類入ったクレープで、とっても美味いんだ。良かったら今度一緒に食べに行かないか?」
ルーセウスが俺を見つめて、デートに誘ってくれる。
嬉しい。
でもすぐにそれはパーシバルが目の前にいるからだと思い至った。
仲睦まじい様子を見せつけて、ガヴァムとゴッドハルトの関係は強固なのだとアピールしているんだ。
勘違いしないようにしないと。
それに、そもそもルーセウスはまたすぐにでもゴッドハルトへと帰るだろうし、下手に期待して後で傷つくのは御免だった。
正直これ以上傷つきたくはない。
だから曖昧に答えを返す。
「えっと…時間ができたら?」
でもそれはこの場では言うべきじゃなかったとすぐに後悔した。
折角のルーセウスのアピールに水を差すことになってしまったと気づいたからだ。
(やってしまった…)
やっぱり今の俺は正常な判断ができなくなっているらしい。
もう帰りたい。
でも帰れない。
だから仕方なく平静を装いながら、この居心地の悪い時間に耐えた。
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