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第五章 油断大敵
84.ヴィオレッタ王女へのお願い Side.ロクサーヌ
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ガヴァムの王宮を出てアンシャンテでの新生活にすっかり慣れた頃、ディオ王子がヴィオレッタ王女と婚約したという話を聞いて驚いた。
自国の王女だし、良い方だとは思うから別に反対する気もないけれど、ディオ王子にはローズマリー皇女との愛に溢れる結婚の方がいいと思っていたから少し残念に思う。
ディオ王子は元気にしているだろうか?
無理をしていないだろうか?
そんな風に気に掛けながら、でも自分にできることなど今更ないのだと溜息をつく日々。
それでもディオ王子が幸せになれるなら、それで良かった。
彼がその重荷に押し潰されないよう、ヴィオレッタ王女が正妃となって支えてくれればいい────そう思っていたのに。
「ビッグニュースよ!ガヴァムで昨日戴冠式があったでしょう?そこでヴィオレッタ王女が実は正妃じゃなく、側妃になるんだって発表されたわ!」
「え?」
「新王ディオ陛下の正妃はまさかまさかのゴッドハルトの王太子、ルーセウス王子!既に一年も前に極秘で結婚していて、それからずっと遠距離婚だったんですって!お城はもうその話で持ちきりよ!」
感慨深い思いで迎えたディオ王子の戴冠式翌日、興奮気味にそんな情報が自分の仕える主人から伝えられ、愕然となった。
(ディオ王子が…男性と結婚?)
しかも相手は他国の…遠い国の王太子。
(どう考えても愛のない政略結婚か契約婚だわ)
だってディオ王子は男色の気は一切なかったから。
ゴッドハルトは新興国だけど大国ブルーグレイの友好国だし、盛んに貿易をしてしっかりと地に足をつけた政策で発展している途上国だ。
近年ではミスリル鉱山も発見されて、ヴァレトミュラ開通の恩恵を受けながら更に他国との貿易が始まっていると聞く。
きっとその辺りの利害関係も手伝って、婚姻という強固な国と国の結びつきを選んだのかもしれない。
ディア王女は引く手数多の王女だから近隣諸国の王子達の取り合いになっているし、嫁がせるのは難しいと踏んで『じゃあ自分が』と考えた可能性大だ。
普通なら王太子同士の婚姻など不可能。
でも同盟ではなく結婚としたのなら何か意味があるはず。
ディオ王子は思慮深い人だし、間違っても国を乗っ取られるような危ない橋は渡らない。
つまり相手はそれだけ信頼できる人物。
もしくは扱いやすい相手なのかもしれない。
まあ遠方の、しかも王太子。
白い結婚且つお飾りでも問題はないと言うことだろう。
実質ヴィオレッタ王女が正妃のようなものだ。
そう考えをまとめたところで、更なる情報が耳へと飛び込んできた。
「ルーセウス王子もディオ王子とディア王女を二人揃って手に入れるなんて、すごいわよね」
「え?」
「あら。もしかして知らなかった?ルーセウス王子の婚約者はディア王女なのよ?彼女がルーセウス王子に嫁ぎたいってカリン陛下にお願いして、婚約が決まったって一時期噂になっていたわ」
ディア王女がどこかの国の王子を見初めて、その王子と婚約したという話は聞いていた。
ただそれがどこの国の王子かまでは伝わってきていなくて、どこか遠い国の王子とだけ聞いていたのだ。
『求婚者達は揃って失恋ね』がオチの噂話。
まさかそれがルーセウス王子だったとは。
とは言えルーセウス王子とディオ王子の結婚の方が先だし、ここはそこからディア王女がルーセウス王子と出会って二人で恋に落ちたと考えていいだろう。
ディオ王子はそれを知って二人を祝福し、喜んだはず。
きっとより一層ガヴァムとゴッドハルトの絆は深まった事だろう。
ゴッドハルトにそこまでの価値があるのかは凡人である私にはわからないけれど、ディオ王子がわざわざルーセウス王子を王配の地位に置いたのには絶対に意味があるのだ。
それから暫く経った頃、私は王位を継いだディオ陛下が気掛かりで、ヴィオレッタ王女に面会を乞う手紙を出した。
彼女とは昔からよく知る仲だし、私もアンシャンテの貴族の娘。
手紙くらいならやり取りは問題ない。
そして返事はあっさりと届き、翌日には会える事になった。
「ヴィオレッタ王女にご挨拶申し上げます。ロクサーヌ=カーヴァインでございます。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます」
「ロクサーヌ嬢、久し振りね。突然連絡が来て驚いたわ。まあ掛けてちょうだい」
「失礼致します」
促され、ソファーへと座る。
「それで。今日はどういったお話かしら?ディオ陛下のこと?」
「はい」
そこでロキ陛下達がガヴァムを去ってしまったことで、ディオ陛下が一人で無理をしていないかどうか知りたいのだと告げた。
「王配としてゴッドハルトのルーセウス王子をお迎えしたとは聞きましたが、彼も一国の王太子。ディオ陛下を支えられるとは思いません。ですからお一人で無理をなさっているのではないかと心配で…」
「あぁ…まあそうね。私もそれは気掛かりではあるの」
「ヴィオレッタ王女がお助けすることはできませんか?」
「本来ならそうすべきでしょうけれど、私の立場はまだ婚約者に過ぎないわ。だから国の中枢の仕事を手伝うのは難しくて。その代わり、少しでもストレスを排除できるようにとシェリル嬢にだけは手を打っておいたわ」
「シェリル嬢が何か?」
「ええ。戴冠式でルーセウス王子が王配と発表されたのだけど、彼はすぐにゴッドハルトに帰ってしまったでしょう?それを受けてまだ自分にもチャンスがあると踏んだのよ。即位してお忙しいディオ陛下に何度か突撃しようとして『自分なら側にいられる』『仕事が大変なディオ様を少しでも支えたい』『優秀な者達も沢山知っているから是非紹介したい』そんなアピールをしようと考えていたみたい。だから入り口で待ち伏せたり、知り合いの侍女達や侍従、騎士達と連携して排除させてもらったわ」
「それは…大変だったでしょう。ヴィオレッタ王女にはご尽力いただき感謝申し上げます」
「いいえ。私にはこれくらいのことしかできないもの。仕方がないわ。ルーセウス王子が早く来てくださればいいのだけれど…」
「ルーセウス…王子ですか?」
「ええ。彼は本当にディオ様を心から愛してくださってるから、居てくださるだけでディオ様も心強いと思うわ」
「え…?」
彼とは政略的な関係で結婚したのではなかったのかと思わず耳を疑ってしまう。
「彼が好きなのはディア王女なのでは?」
「違うわ。そちらはいわゆる契約婚ね。利害が一致して決められたものだから双方の意思によるものではあるけれど、恋愛感情は皆無よ」
「そう…ですか」
意外な事を聞いてしまった。
「ヴィオレッタ王女は…ディオ陛下の事は?」
「私?私は好きよ?だって、今のディオ様はとっても面白いんですもの」
「面白い?」
「ええ。貴女にフラれてから落ち込んでいたディオ様は、ルーセウス王子に出会ってから変わったわ。いつの間にか失恋から立ち直って、それはもう分かりやすく一喜一憂したり、拗ねてみたり嫉妬したり。これまで大人びた表情しか見せてこなかったあのディオ様が、よ?年相応に恋愛をしているの」
ふふっと思い出したようにヴィオレッタ王女が笑う。
「危なっかしく思えることもあるけれど、それでも私は以前のディオ様より今のディオ様の方がずっと好きですわ」
「そう…ですか」
私の知らないディオ陛下のことを聞き、少し寂しく思う。
でも、巣立っていく子供を見るような気持ちがあるのも確かで、どこか嬉しいような気持ちになれた。
「では、ディオ陛下は大丈夫そうなのですね」
「まあ…ルーセウス王子が来てくだされば?」
随分自信なさげな物言いだ。
それはつまり大丈夫ではないと言うことなのでは?
「ヴィオレッタ王女。ディオ陛下は…大丈夫ではないのですね?」
そう尋ねると、深く息を吐きながら実はそのようだと教えてくれた。
「ディオ陛下は事前に考えられる限りの問題について万全に整えていたから、大丈夫なはずだったのよ?でも思っていた以上にロキ陛下が居なくなって使えなくなる方達が続出してしまったみたいで…」
言い難そうに言葉を濁されるけれど、私も伊達に長年あそこで暮らしてはいない。
きっと変態達がロキ陛下ロスで使えなくなってしまったのだろう。
「最悪ではありませんか」
新卒とディオ陛下自らが王太子時代にスカウトしてきた実力派以外の文官は、実に八割が変態文官だ。
それらが使えなくなったならそれはもう困ることだろう。
「そうなのよ。いつだったかディオ様が『変態ばっかりで嫌になる。全員優秀な女性文官に変えてしまいたいくらいだ』なんて言っていたけれど、ちょっと本気で考えたくなるほどの有り様みたい」
「それは…でも今のガヴァムでは無理ですよね?」
「ええ。そもそもロキ陛下が女性不信だったから、女性官吏は居ないに等しいのよ。唯一アンヌ妃の手伝いとして侍女の中で優秀な数人が選ばれて一部の仕事に携わらせていたくらいかしら?だから私がディオ様に嫁いだら、まずそこから手をつけないといけないの。だからちょっと早いけど、新卒はじめ働く意欲のありそうな女性達に意向を聞いている状況よ」
侍女やメイド達にもヴィオレッタ王女は幅広く意見を聞かせてもらい、できることから始めてくれているらしい。
「ただ、現状ディオ様が仕事でいっぱいいっぱいだっていうのが一番の問題で、このままいけば倒れてしまいそうで心配なの」
いっそ結婚式を早めてしまえば自分も仕事の手伝いが多少できるようになるのだけど、そうなるとただでさえ潰れそうなディオ陛下が結婚式準備で更に忙しくなって完全に潰れてしまいそうでそれもできそうにないのだと溜め息を吐いた。
「だからこそのルーセウス王子なのだけど…」
彼は遠いゴッドハルトの地、と。
まさに遠距離婚の弊害だ。
「ディア王女経由で何度かこちらに来られないか促してはもらったのだけど、彼は彼で忙しいディオ陛下の邪魔になったら困るからと…来てくださらないのよね」
つまりディオ陛下に救いの手はないと言うことらしい。
せめて自分が少しでも癒しを与えられればとも考えてしまうが、以前振ってしまったからそれもできない。
ここはもうヴィオレッタ王女に救いを求めるしかないだろう。
「ヴィオレッタ王女。どうかディオ陛下の事をくれぐれもよろしくお願いします。私がこのような事をお願いするのは見当違いとはわかっておりますが、ディオ陛下のことが心配なのです」
「わかりましたわ。父にも相談して、なんとかディオ様のためにできる事を考えてみますわ」
力強く頷いてくれたヴィオレッタ王女に感謝し、礼を述べて城を去る。
今の私にできる事はこれくらいだ。
「どうか少しでもディオ陛下の助けに繋がりますように」
そう願いながら日常へと戻った。
自国の王女だし、良い方だとは思うから別に反対する気もないけれど、ディオ王子にはローズマリー皇女との愛に溢れる結婚の方がいいと思っていたから少し残念に思う。
ディオ王子は元気にしているだろうか?
無理をしていないだろうか?
そんな風に気に掛けながら、でも自分にできることなど今更ないのだと溜息をつく日々。
それでもディオ王子が幸せになれるなら、それで良かった。
彼がその重荷に押し潰されないよう、ヴィオレッタ王女が正妃となって支えてくれればいい────そう思っていたのに。
「ビッグニュースよ!ガヴァムで昨日戴冠式があったでしょう?そこでヴィオレッタ王女が実は正妃じゃなく、側妃になるんだって発表されたわ!」
「え?」
「新王ディオ陛下の正妃はまさかまさかのゴッドハルトの王太子、ルーセウス王子!既に一年も前に極秘で結婚していて、それからずっと遠距離婚だったんですって!お城はもうその話で持ちきりよ!」
感慨深い思いで迎えたディオ王子の戴冠式翌日、興奮気味にそんな情報が自分の仕える主人から伝えられ、愕然となった。
(ディオ王子が…男性と結婚?)
しかも相手は他国の…遠い国の王太子。
(どう考えても愛のない政略結婚か契約婚だわ)
だってディオ王子は男色の気は一切なかったから。
ゴッドハルトは新興国だけど大国ブルーグレイの友好国だし、盛んに貿易をしてしっかりと地に足をつけた政策で発展している途上国だ。
近年ではミスリル鉱山も発見されて、ヴァレトミュラ開通の恩恵を受けながら更に他国との貿易が始まっていると聞く。
きっとその辺りの利害関係も手伝って、婚姻という強固な国と国の結びつきを選んだのかもしれない。
ディア王女は引く手数多の王女だから近隣諸国の王子達の取り合いになっているし、嫁がせるのは難しいと踏んで『じゃあ自分が』と考えた可能性大だ。
普通なら王太子同士の婚姻など不可能。
でも同盟ではなく結婚としたのなら何か意味があるはず。
ディオ王子は思慮深い人だし、間違っても国を乗っ取られるような危ない橋は渡らない。
つまり相手はそれだけ信頼できる人物。
もしくは扱いやすい相手なのかもしれない。
まあ遠方の、しかも王太子。
白い結婚且つお飾りでも問題はないと言うことだろう。
実質ヴィオレッタ王女が正妃のようなものだ。
そう考えをまとめたところで、更なる情報が耳へと飛び込んできた。
「ルーセウス王子もディオ王子とディア王女を二人揃って手に入れるなんて、すごいわよね」
「え?」
「あら。もしかして知らなかった?ルーセウス王子の婚約者はディア王女なのよ?彼女がルーセウス王子に嫁ぎたいってカリン陛下にお願いして、婚約が決まったって一時期噂になっていたわ」
ディア王女がどこかの国の王子を見初めて、その王子と婚約したという話は聞いていた。
ただそれがどこの国の王子かまでは伝わってきていなくて、どこか遠い国の王子とだけ聞いていたのだ。
『求婚者達は揃って失恋ね』がオチの噂話。
まさかそれがルーセウス王子だったとは。
とは言えルーセウス王子とディオ王子の結婚の方が先だし、ここはそこからディア王女がルーセウス王子と出会って二人で恋に落ちたと考えていいだろう。
ディオ王子はそれを知って二人を祝福し、喜んだはず。
きっとより一層ガヴァムとゴッドハルトの絆は深まった事だろう。
ゴッドハルトにそこまでの価値があるのかは凡人である私にはわからないけれど、ディオ王子がわざわざルーセウス王子を王配の地位に置いたのには絶対に意味があるのだ。
それから暫く経った頃、私は王位を継いだディオ陛下が気掛かりで、ヴィオレッタ王女に面会を乞う手紙を出した。
彼女とは昔からよく知る仲だし、私もアンシャンテの貴族の娘。
手紙くらいならやり取りは問題ない。
そして返事はあっさりと届き、翌日には会える事になった。
「ヴィオレッタ王女にご挨拶申し上げます。ロクサーヌ=カーヴァインでございます。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます」
「ロクサーヌ嬢、久し振りね。突然連絡が来て驚いたわ。まあ掛けてちょうだい」
「失礼致します」
促され、ソファーへと座る。
「それで。今日はどういったお話かしら?ディオ陛下のこと?」
「はい」
そこでロキ陛下達がガヴァムを去ってしまったことで、ディオ陛下が一人で無理をしていないかどうか知りたいのだと告げた。
「王配としてゴッドハルトのルーセウス王子をお迎えしたとは聞きましたが、彼も一国の王太子。ディオ陛下を支えられるとは思いません。ですからお一人で無理をなさっているのではないかと心配で…」
「あぁ…まあそうね。私もそれは気掛かりではあるの」
「ヴィオレッタ王女がお助けすることはできませんか?」
「本来ならそうすべきでしょうけれど、私の立場はまだ婚約者に過ぎないわ。だから国の中枢の仕事を手伝うのは難しくて。その代わり、少しでもストレスを排除できるようにとシェリル嬢にだけは手を打っておいたわ」
「シェリル嬢が何か?」
「ええ。戴冠式でルーセウス王子が王配と発表されたのだけど、彼はすぐにゴッドハルトに帰ってしまったでしょう?それを受けてまだ自分にもチャンスがあると踏んだのよ。即位してお忙しいディオ陛下に何度か突撃しようとして『自分なら側にいられる』『仕事が大変なディオ様を少しでも支えたい』『優秀な者達も沢山知っているから是非紹介したい』そんなアピールをしようと考えていたみたい。だから入り口で待ち伏せたり、知り合いの侍女達や侍従、騎士達と連携して排除させてもらったわ」
「それは…大変だったでしょう。ヴィオレッタ王女にはご尽力いただき感謝申し上げます」
「いいえ。私にはこれくらいのことしかできないもの。仕方がないわ。ルーセウス王子が早く来てくださればいいのだけれど…」
「ルーセウス…王子ですか?」
「ええ。彼は本当にディオ様を心から愛してくださってるから、居てくださるだけでディオ様も心強いと思うわ」
「え…?」
彼とは政略的な関係で結婚したのではなかったのかと思わず耳を疑ってしまう。
「彼が好きなのはディア王女なのでは?」
「違うわ。そちらはいわゆる契約婚ね。利害が一致して決められたものだから双方の意思によるものではあるけれど、恋愛感情は皆無よ」
「そう…ですか」
意外な事を聞いてしまった。
「ヴィオレッタ王女は…ディオ陛下の事は?」
「私?私は好きよ?だって、今のディオ様はとっても面白いんですもの」
「面白い?」
「ええ。貴女にフラれてから落ち込んでいたディオ様は、ルーセウス王子に出会ってから変わったわ。いつの間にか失恋から立ち直って、それはもう分かりやすく一喜一憂したり、拗ねてみたり嫉妬したり。これまで大人びた表情しか見せてこなかったあのディオ様が、よ?年相応に恋愛をしているの」
ふふっと思い出したようにヴィオレッタ王女が笑う。
「危なっかしく思えることもあるけれど、それでも私は以前のディオ様より今のディオ様の方がずっと好きですわ」
「そう…ですか」
私の知らないディオ陛下のことを聞き、少し寂しく思う。
でも、巣立っていく子供を見るような気持ちがあるのも確かで、どこか嬉しいような気持ちになれた。
「では、ディオ陛下は大丈夫そうなのですね」
「まあ…ルーセウス王子が来てくだされば?」
随分自信なさげな物言いだ。
それはつまり大丈夫ではないと言うことなのでは?
「ヴィオレッタ王女。ディオ陛下は…大丈夫ではないのですね?」
そう尋ねると、深く息を吐きながら実はそのようだと教えてくれた。
「ディオ陛下は事前に考えられる限りの問題について万全に整えていたから、大丈夫なはずだったのよ?でも思っていた以上にロキ陛下が居なくなって使えなくなる方達が続出してしまったみたいで…」
言い難そうに言葉を濁されるけれど、私も伊達に長年あそこで暮らしてはいない。
きっと変態達がロキ陛下ロスで使えなくなってしまったのだろう。
「最悪ではありませんか」
新卒とディオ陛下自らが王太子時代にスカウトしてきた実力派以外の文官は、実に八割が変態文官だ。
それらが使えなくなったならそれはもう困ることだろう。
「そうなのよ。いつだったかディオ様が『変態ばっかりで嫌になる。全員優秀な女性文官に変えてしまいたいくらいだ』なんて言っていたけれど、ちょっと本気で考えたくなるほどの有り様みたい」
「それは…でも今のガヴァムでは無理ですよね?」
「ええ。そもそもロキ陛下が女性不信だったから、女性官吏は居ないに等しいのよ。唯一アンヌ妃の手伝いとして侍女の中で優秀な数人が選ばれて一部の仕事に携わらせていたくらいかしら?だから私がディオ様に嫁いだら、まずそこから手をつけないといけないの。だからちょっと早いけど、新卒はじめ働く意欲のありそうな女性達に意向を聞いている状況よ」
侍女やメイド達にもヴィオレッタ王女は幅広く意見を聞かせてもらい、できることから始めてくれているらしい。
「ただ、現状ディオ様が仕事でいっぱいいっぱいだっていうのが一番の問題で、このままいけば倒れてしまいそうで心配なの」
いっそ結婚式を早めてしまえば自分も仕事の手伝いが多少できるようになるのだけど、そうなるとただでさえ潰れそうなディオ陛下が結婚式準備で更に忙しくなって完全に潰れてしまいそうでそれもできそうにないのだと溜め息を吐いた。
「だからこそのルーセウス王子なのだけど…」
彼は遠いゴッドハルトの地、と。
まさに遠距離婚の弊害だ。
「ディア王女経由で何度かこちらに来られないか促してはもらったのだけど、彼は彼で忙しいディオ陛下の邪魔になったら困るからと…来てくださらないのよね」
つまりディオ陛下に救いの手はないと言うことらしい。
せめて自分が少しでも癒しを与えられればとも考えてしまうが、以前振ってしまったからそれもできない。
ここはもうヴィオレッタ王女に救いを求めるしかないだろう。
「ヴィオレッタ王女。どうかディオ陛下の事をくれぐれもよろしくお願いします。私がこのような事をお願いするのは見当違いとはわかっておりますが、ディオ陛下のことが心配なのです」
「わかりましたわ。父にも相談して、なんとかディオ様のためにできる事を考えてみますわ」
力強く頷いてくれたヴィオレッタ王女に感謝し、礼を述べて城を去る。
今の私にできる事はこれくらいだ。
「どうか少しでもディオ陛下の助けに繋がりますように」
そう願いながら日常へと戻った。
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