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【国際会議】

72.国際会議⑩ Side.セドリック

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その日の会議は終始穏やかだった。
皇太子が助けられたと聞いたからかミラルカの皇王はロキ王子に好意的にフォローを入れていたし、他の国もロキ王子に比較的好意的な目を向けていた。
こちらが敵視してなかったことが大きいのかもしれないが、まあ王太子として一応認識してもらえたと言っていいだろう。

(まあ、相手にしていない連中も多いがな)

どちらかというと優秀な者達ほどロキ王子を取るに足らない相手と認識し放っておいたとも言えるかもしれない。
逆にこちらに対しては割と探るように厳しめの質問を向けてきたりしてきたが、どれもこれも父の仕事も半分以上請け負っている自分になら簡単に対処できる質問だったのでサラリと答えてやった。
ブルーグレイは大国なだけに油断するわけにはいかない。
弱みなど一切見せる気はないし、敵は叩き潰す。ただそれだけだ。

少し気になったのは母の母国アンシャンテの態度だ。
特に質問をしてくるでもなく、こちらの反応を逐一窺ってくる視線が不愉快でつい睨んでしまったが、多少怯みはしたもののそれでもこちらを見ることをやめなかった。

(何か母のことで言いたいことでもあるのか?)

そう思いながら会議を終え、自分の伯父にあたるその人物へと足を向ける。

「アンシャンテ王。何かお話でも?」
「……セドリック」

忌々し気に俺の名を呼んでくるその声に親愛の情などは当然ない。
この王の妹であり、俺の実の母であるブルーグレイの王妃は年に一度だけ様子を知らせる手紙を寄越し、王妃としてなんの仕事もしていないくせに毎月王妃の品格維持費だとか言って金だけ送れと言ってくる。
父が離縁しないのをいいことに好き放題しているクズだ。
送金を打ち切ってやろうかと何度思ったことか。
それでも父が『離縁した方が面倒臭いし』と笑って言うから我慢しているに過ぎない。
そんなクズの兄からしてみたら、いつまでもお荷物を押し付けるなと言ったところかもしれない。

「はぁ…妹の血を引いているのならもっと御しやすいと思ったんだがな」
「当てが外れて残念でしたね?」

どうやらクズの血が入ることで操りやすい馬鹿に育っていてほしかったらしい。
そう言う意味では父の教育は正しかったのかもしれないなと笑いたくなった。

(まあ、頭に花でも咲いてそうな女の言うことなんて頼まれたとしても聞く気はないし、あの母の兄であろうと同じことだ)

あの母を思い出すとうんざりするのだが、昔10才頃に『セド君はもっと我儘になっていいと思うの!もっと笑ってお母様大好き!って素直に言ってみて?』と上目遣いで言われた時は鳥肌が立つかと思った。
あまりにも気持ち悪いので、無表情ではあったが望み通り素直に気持ちを伝えてやったものだ。

『馬鹿な女ほど幼稚で虫唾が走りますね?母上?』

誰がお前なんかを好きなものかと思ったものである。
何度かそんなやり取りをしていたら父と大喧嘩をしてある日国元に帰って行った。
正直清々したのだが、父からは『セドリック?本音と建て前は使い分けてくれないか?』と言われてしまった。
『子供だからわかりません』と皮肉気に笑いながら言いきってやったら『お前のそう言うところがブルーグレイの血だよなぁ…』と深く深く溜息を吐かれたものである。

あの母に比べれば妃としてやってきたアルメリア姫は随分と聡明だと思う。
あれで馬鹿だったならとっくに目に触れない場所で隔離していただろう。
最初は後継さえ産んでくれたらそうしてやるつもりだったし、誰に酷いと言われようと全く気にする気はなかった。
けれどアルフレッドとの仲を色々取り持ってくれているし、王太子妃としての仕事と母が投げ出していた王妃としての仕事などもできる範囲で手伝ってくれていると聞き少し見識が変わった。
彼女は父との仲も割といいし、殺すには惜しい存在へと変わったのだ。
まあ本人に言うつもりはないし、本人も殺されないようにと日々努力しているからこのままで構わないだろう。
こんな考えを持つ俺もまた母に似てクズなのだろうが、それ以外は似なくてよかったなとは一応思っている。
俺を人間らしくしてくれたアルフレッドには感謝だ。

「セドリック。王に伝えてくれないか?メルティアナを迎えに来てほしいと」
「言っても恐らく迎えにはいかないと思いますが?」
「何故だ?」
「父は今とある姫と茶を飲む時間をなによりの癒しとしているようなので…敢えて火種には近づかないでしょう」

アルメリア姫と父が頻繁に茶会をしているのは知っているし、母が帰ってきてギスギスされるのも嫌なので敢えてここは誤解を生じさせることにする。

「なっ?!ま、まさか離縁をして若い嫁を迎えるとでも?!」
「ククッ。さあ…そのあたりは想像に任せます。俺にも子ができたことだしブルーグレイはこれで安泰。父も母も好きにすればよいのでは?」
「~~~~っ!!」

それを聞きアンシャンテ王は怒りを露にしながら足音高く去って行く。
これで母が飛んで帰ってくるとは思えないが、もし仮に帰ってきて姫に言い掛かりをつけて来たらその場で事故を装って始末してやろう。
ずっといなかったのだから今更いなくなっても誰も困りはしないのだから。
そう思っていると後ろからアルフレッドが引き攣った顔で声を掛けてきた。

「セド…ものすっごい極悪な顔になってるけど、誰か消そうとか国を潰そうとか…物騒なこと考えてないよな?」
「さあな」

図星ではあるがこの件にアルフレッドを巻き込む気はない。
だから疑わし気に俺の顔を覗き込んできたアルフレッドをこれ幸いと捕まえてチュッと口づけて誤魔化し、いつものように戯れながら部屋を出た。




その日のパーティーでは昨日と違い話しかけてくる者が多かった。
どうやら昨日ロキ王子と仲良く話していたという話が出回っているようで、恐る恐るではあるがブルーグレイの次期後継者としての自分と縁を持とうと近づいてきたようだ。
仕方のないことだが一つ一つ対応していると意外にも最後までパーティーにいる羽目になってしまった。
折角今日は外でアルフレッドを愛でようと思っていたのに台無しだと思いながら部屋へと向かっていたところ……。

ヒュンッ!!

射かけられた矢がこちらへと唐突に飛んできた。

キンッ!

勿論避けようと軌道を外し半身の構えを取ったが、それよりも速く軽い音を立て矢は地へと叩き落された。

「セド。油断するな」

今日も護衛役として剣を会場に持ち込んでいたアルフレッドが守ってくれたのだ。
それから降り注ぐように射かけられた矢をアルフレッドはここぞとばかりに本領を発揮し全て叩き落す。
そうしている間に自分の暗部が参戦しつつ、こちらに剣を放ってくれた。
これでもう負けは絶対にない。

そうして賊を速やかに制圧し捕らえた賊に吐かせたところ、相手はガヴァム王国からの刺客と判明した。
普通に考えるならこれはカリン王子の手の者で、報復をしに来たのかもしれないと思っただろう。
けれど自分達は昨日ロキ王子達が襲われた現場も見ている。

(妙だな…)

まるでこちらをわざと怒らせ、カリン王子達に敵意を向けさせようとしているかのようなこの行為に疑問が湧いた。

「アルフレッド。ロキ王子達の部屋はわかるか?」
「え?ああ、この間の庭園の近くだったと思うけど」

初めてロキ王子達を見掛けた庭園の近くが確か彼らの部屋だったと思うと言われ、急遽そちらの方へと向かう。
この攻撃が真実カリン王子達によるものなのか、それとも何者かが誘導するために仕掛けたものなのかを見極めたかったからだ。

するとそちらに向かう最中、ロキ王子と中年の騎士が矢で襲われている現場に遭遇した。
騎士はかなりの腕前のようだが、ロキ王子の鞭の方が多く矢を叩き落しているように思う。
振るうその鞭捌きはかなり的確で、矢を番う隙さえ与えず敵を次々と制圧していた。
そして一通り相手を倒したところで騎士が刺客達に問いかけると、その刺客達は思いもよらぬことを口にしてきたのだ。

「どこの手の者だ?」
「ブ…ブルーグレイの……王太子に命令されて…」


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