【完結】予想外の異世界で俺は第二の人生を生きることになった

オレンジペコ

文字の大きさ
9 / 71

8.勇者は気を遣えるらしい

しおりを挟む
それから『剣の鍛錬に行くがついてくるか』とヒロから尋ねられたが、宰相の手伝いをしたいからと断った。
すると『じゃあ昼食を一緒に食べよう』と誘われたので少し考えてから了承の返事を返した。
勇者とも意見交換はした方がいいだろうと思ってのことだったのだが、それに対してジフリートが小さく舌打ちしたのを俺は聞き逃さなかった。
どうやら相当俺のことが気に入らないらしい。
恐らくヒロと約束していなければ昼食も用意してもらえなかったことだろう。
それならそれで早めに手を打っておくに越したことはないと判断する。
このままでは夕飯を用意してもらえないのは確実だ。

「宰相。あの、お願いがあるんですが」

勇者を見送った後、すぐさま執務室へと移動し仕事を始めた宰相に俺は仕事を手伝いながら思い切ってその話を口にした。
「ん?お願い?」
「はい。こうして仕事を手伝うのは別にいいんですが、見たところ仕事量がかなり多そうですし、夕飯をのんびり食べるわけにもいかないと思うので、自分で作って持ってきたいと思っているんですよ」
そう。用意してもらえないなら自分で作ればいいだけの話だ。
「なので、調理道具や調味料、食材等をなんとかわけて貰えないか厨房の方に交渉してもらえないかと」
その言葉を聞いて、宰相は渋るかと思いきやすぐさま大きく頷いてくれる。
「構わないぞ。マナは料理もできるんだな。異世界の料理には私も興味があるから、是非一緒に食べたいものだ」
そして笑顔で部下へと目を向け、すぐさま俺の要望を叶えるようにと指示を出してくれた。
本当にどこかの部下とは違って良い人だと思う。
「じゃあ少し手を早めてサクサク仕事を片付けますか」
そして計算はできるだけこちらに回してもらい、後の決裁書類は宰相が片付けることにして、それを部下達が手分けして仕分け各部署へと持っていく流れを作った。
そうした一連の流れで随分仕事が捗り、昼は時間通りに食べに行くことができたのだった。


***


「サトル!」
昼になって、ヒロの使いだという男に連れられて辿り着いた部屋にはすでにヒロの姿があり、にこやかにこちらへと手を振ってくる。
「早く来いよ!」
そして促されるままに向かいの席へと座ると、早速と言うように料理が運ばれすぐさま食事が始まった。
今日のメニューはサーモンソテーに似た料理だ。
これに小さな丸いパンとポタージュスープ、小さなサラダがついている。
「なんか今日はちょっとメニューがしょぼい気がするけど、気にするな。多分夕飯は豪勢だと思うから」
そうしてヒロがどこか苦々しい顔をするが、これもきっと王宮の者達の嫌がらせの一端なのだろうなと呆れてしまった。
この王宮の者達は本当に馬鹿ばかりなのではないだろうか?
たとえ自分が聖女ではなかったとしても、こんな同じ轍を踏むようなことがよくできるなと思ってしまう。
正直もしも自分にこの国を助けるような力が備わっていたとしても、これでは助けたいという気持ちには一切なれないだろう。
(あ~…でも宰相だけは助けてやりたいなぁ)
他の者達はどうでもいいが、一生懸命頑張るあの宰相の姿だけは何故か心に引っ掛かって仕方がないのだ。
そんなことをぼんやり考えていると、ヒロから大きな声で呼びかけられて慌てて顔を上げた。

「おいってば!サトル!」

「…なんだ?」
どうやら何度か呼び掛けられていたらしい。
「全く!ちゃんと話を聞いてくれよ」
そしてヒロは呆れたように手と口を動かしながらも、再度話を振ってくれた。
「だからさ、どうしてさっき国境に行く話蹴ったんだよ?」
ヒロは、この王宮は居心地が悪いだろうにどうして旅を口実にして外に出なかったのだと気にしているようだった。
「なんかあの文官の態度も悪かったしさ、もしかして既に虐められてないか?」
「…………」
意外にもヒロは鋭くそんなことを口にしてくる。
「俺はアスカの、あ、これ聖女ね?アスカの時は全然気にしてやってなかったから、今回はちょっと注意して見てたんだよ」
どうやらそれなりに学習機能は備わっているらしい。
「そしたら、なんかあの宰相以外のサトルを見る目がやたら冷たいことに気づいたわけ」
「…………」
やっぱりそうなのか。
わかってはいたが、やはりと言う感じだ。
「だから、今回はここに留まるよりも外に出た方がいいと思ってさ、さっきわざわざ話に乗ってやったのに…」
どうやら俺のためにヒロはわざとあの流れに乗ってくれていたらしい。
そうやって聞くと、なんだかかえって悪かったなと思ってしまうではないか。
心の中とは言え悪態を吐いて悪かったかなと少し反省する。
「…まあ、この国のことを学んでからなら積極的に外に出るのはいいかもしれないな」
それと共にそう言うことなら現状の問題点くらいは言っておいた方がいいのかもしれないと思い直し、少しだけ話しておくことにした。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

処理中です...