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30.危険人物に認定だな、これは
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やっと懐かしの──というよりも一週間ぶりの王宮へと到着した。
空には夕焼けが広がっているので予想通りの時間帯だ。
これなら宰相の部下がちょうど帰り支度を始めて帰途するタイミングだから、仕事の邪魔にはならないだろう。
ハイジに謝らせるのにもベストな時間だ。
「ヒロ、これから早速ハイジを連れて宰相のところに行こうと思ってるんだが」
「ああ、それなら報告もあるし俺も行こう」
片づけは同行者である騎士達に任せればいいからとヒロが俺に付き合ってくれる。
勿論ハイジも一緒だ。
「宰相疲れてないかな」
「どう考えても旅に出てた俺たちの方が疲れてるだろう?全くサトルは…」
「そうですわ。馬車に揺られ過ぎてお尻が痛いのにすぐさまヴェルガー様のところへ行こうとするなんて、本当にどれだけ好きなんでしょう?」
「うるさいな。お尻は魔法で治してやるから別にいいだろう?」
そんなに呆れたような目で見ないで欲しい。
そして三人で連れ立って執務室へと向かうと、何故かそこはいつも以上に人が沢山いた。
扉を開けた自分たちの方へと皆の視線が一斉に向けられる。
知らない顔も多い中、見知った顔が声を上げた。
「勇者様!」
その言葉にその場にいた者達の顔にホッと安堵の色が広がる。
「どうした?何かあったのか?」
「はい!午後から宰相の姿がどこにも見当たらないのです!」
「我々一同でお探ししたのですが、お姿がどこにも見えなくて…」
自室に戻ったのかとも思ってそちらにも見に行ったのだが、そこにも姿がなくて皆が心配していたところなのだという。
「最後の目撃情報は?」
「最後にお姿を見たのは昼食を食べた後回廊を歩かれる姿でしょうか」
「それはどのあたりの?」
「西の庭園近くです。なのであの辺りは特に重点的にお探ししたのですが…」
それでも姿はどこにもなかったらしい。
そこで俺は顔を上げ、そっと目立たぬよう壁際に立っていたジフリートへと目を向けた。
「ジフリート。お前は何か知らないか?」
「私…ですか?」
「ああ。お前はいつも宰相の近くにいただろう?」
そうやって探りを入れると、どこか胡散臭い笑みを浮かべながらも丁寧な口調で答えてきた。
「私も急にお姿が見えなくなって困惑しておりました。皆と一緒に探し回りましたが、どこにもいらっしゃらなくて…お側を離れるべきではなかったと反省していたところです」
「そうか」
これはヒロが言うように絶対に何かがありそうだと思いながら改めてジフリートを見遣る。
宰相がいなくなったというのにそこには他の者のような焦りや心配は窺えず、あくまでも表面上皆に合わせているだけというように見受けられた。
自分に宰相を会わせなくてすんで良かったとでも考えていそうなどこか違和感のあるその姿に、どうしても疑惑の目を向けてしまう。
(こいつがどこかに監禁したという可能性はないか?)
もしその可能性があるのなら下手に刺激すれば宰相が危険だ。
なんとか上手く情報を引き出して宰相の安否を確認したい。
けれどそこでハイジがコソッと隣へとやってきて、トイレはどこかと尋ねてきた。
ハイジは王宮に来たことは数えるほどで、執務室近辺のトイレの場所を知らないようだった。
(このタイミングで?!)
とは言えここからは少し離れているので早めに連れて言ってやった方がいいだろう。
熱くなりそうな頭を冷やす意味でもいいかもしれない。
このままではジフリートを問い詰める前にやり込められそうな気もしたからだ。
「ジフリート、宰相がいなくなった前後の状況も知りたい。少し席を外すが、後でまた話を聞かせてくれないか?」
そしてその場をヒロに任せ、ハイジと共に執務室を出てトイレへと向かう。
「ほら、ここだ」
行って来いと送り出し自分もついでだから行っておくかと男性用のトイレへと向かい用を足した。
「はぁ…宰相大丈夫かな…」
手を洗いながら大きな溜息を吐いていると、ガタッと一番奥の掃除用具入れの中から音がして驚いてそちらへと目を向ける。
(まさか…)
そして恐る恐るそちらへと近づくと、そっとその扉が開いて中から宰相が泣きそうな顔をしながら顔を出した。
「マ…マナ……」
「宰相?!どうしてこんなところに?!」
慌てて抱き寄せると縋る様に抱きついてくる。
理由はわからないがその手が微かに震えていて、怖い目にあったのだろうということだけは察することができた。
「宰相、大丈夫ですか?」
衣服はちゃんと着ているようだが、何故か青臭いにおいがしていて嫌な予感が込み上げる。
まさかレイプでもされたのかと思い念のため確認を取ろうと気遣うように声を掛ける。
「誰かに襲われたんですか?」
「……わからないんだ」
そしてカタカタと震えながら今回起こったことを話してくれた。
昼に眩暈を起こしたと思ったら気を失ったこと。
目を覚ますとトイレの個室で胸元をはだけさせながら白濁まみれにされていたこと。
なんとかふき取り衣服を整え人目につかないよう部屋へと戻ろうとしたところ、自分を探し回る部下達の声がすぐ近くで聞こえて慌ててこの場所に逃げ込んだこと。
「もう…夜までずっと隠れて、誰もいなくなってから部屋に戻ろうと思ったんだ」
こんな姿誰にも見せられないからと宰相は言うが、人けのない夜にこんな姿で歩くなんて犯人に襲ってくださいと言っているようなものだ。
そんな危険な状況になる前に気づいてあげられてよかったとホッと息を吐く。
「取り敢えずそのままだと廊下も歩けませんし、綺麗にしますね」
そして浄化の魔法でいいのかなと思いながら魔法リストを見遣ると、それの下位魔法で『清浄』というのを見つけたのでそれを使うことにした。
魔法の発動と共にふわりと優しい光が一瞬宰相の身体を包み込み、汚れと臭いを一掃する。
「これで犯人の痕跡は完璧に払拭されたので安心してください」
そしてニコリと微笑むと、宰相の目からポロリと涙が零れ落ちた。
「マナ…マナ…」
恐らく気が緩んだのだろう。
頭を撫でながら落ち着くまで胸を貸し、そっとその身体を抱き寄せる。
「大丈夫ですよ。俺が帰ってきたので、犯人にいいようにはさせませんから」
そう言うと安堵したように宰相の身体から力が抜けた。
「魔王もね、やっぱりいないようでしたよ?」
「…………」
「特別魔物被害も増えていませんでしたし」
「…………」
「そう言えば向こうでカテオロスの兵達とも仲良くなりました」
「……え?」
その言葉に顔を上げ、一体誰だという顔をしたので笑顔で答えを口にする。
「ウィンベルさん達です」
そしてハイジの件を簡単に話し、謝らせるために連れてきているというと物凄く驚かれた。
「ハイジが……」
「ええ。どうやら本来の自分を出せないのがストレスで問題行動に出たようなんです。この旅の後半は護衛の役目を引き受けてくれましたし、素直にここまで来てくれたことも加味すると随分反省している様子。どうか話だけでも聞いてやってください」
謝罪を受け入れるかどうかは宰相次第だからと伝えると、わかったとすんなり頷いてくれる。
「じゃあ行きましょうか。皆心配してましたからね」
そしてそっとその手を取り幾分落ち着いた宰相を促してそこから出ると、早速というようにハイジが文句を言ってきた。
「サトル!遅いですわ!私一人ではあそこに戻れないのに酷いではないですか!」
そうして噛みついてきたハイジだったが、自分が一人ではなく隣に誰かいることに気がついて驚いたように目を丸くした。
「ヴェ…ヴェルガー様…?」
「ハイジ…か?」
互いに驚いたように顔を見合わせたのは一瞬────。
動いたのはハイジの方が早かった。
スッと淑女の態を取り、優雅な仕草で宰相へと頭を下げる。
「この度は私の仕出かしたことによりご心労をお掛けし、本当に申し訳ありませんでした。この罪はこの身をもって償いたいと思っておりますので、どうぞお好きなようにご処罰くださいますよう」
それを聞き宰相の顔に戸惑いが広がっていく。
「……ハイジ。マナから少しだけ話を聞いた。そなたにも事情があったのだろう。処罰を考えるのは話を聞いてからだ。今日は旅の疲れもあろう。明日改めて時間を取らせてもらっても構わないだろうか?」
「過分なお気遣い痛み入ります。明日改めまして誠心誠意謝罪させて頂こうと思います」
そして深々と頭を下げたハイジを見て、話は終わったと宰相がこちらを向いてくる。
「マナ。ご苦労だったな」
「いえ。宰相の心痛が和らいだのなら何よりです」
そして今度はハイジの方へと声を掛ける。
「ハイジもそうしていると貴族の令嬢だな。忘れるところだった」
「失礼ですわ!本当にサトルはヴェルガー様以外には冷たい男ですわね」
「そうか?」
「そうですわ。全く…ヒロが言った通りではありませんか。そんな顔をして好きではないなんてよくも言えたものですわ」
「え……」
そこで何故か宰相がショックを受けたような顔をしたので、違う違うと慌てて訂正をする羽目になった。
「違いますよ?!宰相が嫌いとかではなく、恋愛的な好きではないという意味で…!」
「そ…そうか…」
「そうです!宰相のことは大好きなので…!」
「だ…大っ…?!そ…そうか…」
俺が勢いで口にした言葉で宰相が気恥ずかしそうに耳を赤く染めたのを見て、思わず穴を掘って隠れたい気分になる。
大の男が何ということを口走ってしまったのか。
「なんかもう…本当にスミマセン……」
居た堪れなさ過ぎてもう謝ることしかできない。
その後三人で執務室へと戻ると、そこにはまだ沢山の人が残っていて、宰相の姿を確認するや否や皆の顔に安堵が広がり嬉しい気持ちになった。
やっぱり宰相は皆に好かれているというのがよくわかったからだ。
これなら味方になってもらえることだろう。
そして一番犯人なのではないかと思われるジフリートの方を見ると、表面上皆と同じように宰相の安否を喜んでいるようには見えたもののそこには隠し切れない怒りが見て取れて、要警戒相手だなと思わせた。
もしも今回悪質な事件の犯人がジフリートなら、もしかしたら宰相が隠れている場所も把握していたのかもしれないし、夜に動く事を想定してまた何か良からぬ事をしようとほくそ笑んでいたかもしれない。
ただの偏見かもしれないが、これから警戒しておくに越したことはないだろう。
魔王や魔物よりも危険な相手が宰相のすぐ側にいる─────今回の事はそれを実感するような出来事だった。
空には夕焼けが広がっているので予想通りの時間帯だ。
これなら宰相の部下がちょうど帰り支度を始めて帰途するタイミングだから、仕事の邪魔にはならないだろう。
ハイジに謝らせるのにもベストな時間だ。
「ヒロ、これから早速ハイジを連れて宰相のところに行こうと思ってるんだが」
「ああ、それなら報告もあるし俺も行こう」
片づけは同行者である騎士達に任せればいいからとヒロが俺に付き合ってくれる。
勿論ハイジも一緒だ。
「宰相疲れてないかな」
「どう考えても旅に出てた俺たちの方が疲れてるだろう?全くサトルは…」
「そうですわ。馬車に揺られ過ぎてお尻が痛いのにすぐさまヴェルガー様のところへ行こうとするなんて、本当にどれだけ好きなんでしょう?」
「うるさいな。お尻は魔法で治してやるから別にいいだろう?」
そんなに呆れたような目で見ないで欲しい。
そして三人で連れ立って執務室へと向かうと、何故かそこはいつも以上に人が沢山いた。
扉を開けた自分たちの方へと皆の視線が一斉に向けられる。
知らない顔も多い中、見知った顔が声を上げた。
「勇者様!」
その言葉にその場にいた者達の顔にホッと安堵の色が広がる。
「どうした?何かあったのか?」
「はい!午後から宰相の姿がどこにも見当たらないのです!」
「我々一同でお探ししたのですが、お姿がどこにも見えなくて…」
自室に戻ったのかとも思ってそちらにも見に行ったのだが、そこにも姿がなくて皆が心配していたところなのだという。
「最後の目撃情報は?」
「最後にお姿を見たのは昼食を食べた後回廊を歩かれる姿でしょうか」
「それはどのあたりの?」
「西の庭園近くです。なのであの辺りは特に重点的にお探ししたのですが…」
それでも姿はどこにもなかったらしい。
そこで俺は顔を上げ、そっと目立たぬよう壁際に立っていたジフリートへと目を向けた。
「ジフリート。お前は何か知らないか?」
「私…ですか?」
「ああ。お前はいつも宰相の近くにいただろう?」
そうやって探りを入れると、どこか胡散臭い笑みを浮かべながらも丁寧な口調で答えてきた。
「私も急にお姿が見えなくなって困惑しておりました。皆と一緒に探し回りましたが、どこにもいらっしゃらなくて…お側を離れるべきではなかったと反省していたところです」
「そうか」
これはヒロが言うように絶対に何かがありそうだと思いながら改めてジフリートを見遣る。
宰相がいなくなったというのにそこには他の者のような焦りや心配は窺えず、あくまでも表面上皆に合わせているだけというように見受けられた。
自分に宰相を会わせなくてすんで良かったとでも考えていそうなどこか違和感のあるその姿に、どうしても疑惑の目を向けてしまう。
(こいつがどこかに監禁したという可能性はないか?)
もしその可能性があるのなら下手に刺激すれば宰相が危険だ。
なんとか上手く情報を引き出して宰相の安否を確認したい。
けれどそこでハイジがコソッと隣へとやってきて、トイレはどこかと尋ねてきた。
ハイジは王宮に来たことは数えるほどで、執務室近辺のトイレの場所を知らないようだった。
(このタイミングで?!)
とは言えここからは少し離れているので早めに連れて言ってやった方がいいだろう。
熱くなりそうな頭を冷やす意味でもいいかもしれない。
このままではジフリートを問い詰める前にやり込められそうな気もしたからだ。
「ジフリート、宰相がいなくなった前後の状況も知りたい。少し席を外すが、後でまた話を聞かせてくれないか?」
そしてその場をヒロに任せ、ハイジと共に執務室を出てトイレへと向かう。
「ほら、ここだ」
行って来いと送り出し自分もついでだから行っておくかと男性用のトイレへと向かい用を足した。
「はぁ…宰相大丈夫かな…」
手を洗いながら大きな溜息を吐いていると、ガタッと一番奥の掃除用具入れの中から音がして驚いてそちらへと目を向ける。
(まさか…)
そして恐る恐るそちらへと近づくと、そっとその扉が開いて中から宰相が泣きそうな顔をしながら顔を出した。
「マ…マナ……」
「宰相?!どうしてこんなところに?!」
慌てて抱き寄せると縋る様に抱きついてくる。
理由はわからないがその手が微かに震えていて、怖い目にあったのだろうということだけは察することができた。
「宰相、大丈夫ですか?」
衣服はちゃんと着ているようだが、何故か青臭いにおいがしていて嫌な予感が込み上げる。
まさかレイプでもされたのかと思い念のため確認を取ろうと気遣うように声を掛ける。
「誰かに襲われたんですか?」
「……わからないんだ」
そしてカタカタと震えながら今回起こったことを話してくれた。
昼に眩暈を起こしたと思ったら気を失ったこと。
目を覚ますとトイレの個室で胸元をはだけさせながら白濁まみれにされていたこと。
なんとかふき取り衣服を整え人目につかないよう部屋へと戻ろうとしたところ、自分を探し回る部下達の声がすぐ近くで聞こえて慌ててこの場所に逃げ込んだこと。
「もう…夜までずっと隠れて、誰もいなくなってから部屋に戻ろうと思ったんだ」
こんな姿誰にも見せられないからと宰相は言うが、人けのない夜にこんな姿で歩くなんて犯人に襲ってくださいと言っているようなものだ。
そんな危険な状況になる前に気づいてあげられてよかったとホッと息を吐く。
「取り敢えずそのままだと廊下も歩けませんし、綺麗にしますね」
そして浄化の魔法でいいのかなと思いながら魔法リストを見遣ると、それの下位魔法で『清浄』というのを見つけたのでそれを使うことにした。
魔法の発動と共にふわりと優しい光が一瞬宰相の身体を包み込み、汚れと臭いを一掃する。
「これで犯人の痕跡は完璧に払拭されたので安心してください」
そしてニコリと微笑むと、宰相の目からポロリと涙が零れ落ちた。
「マナ…マナ…」
恐らく気が緩んだのだろう。
頭を撫でながら落ち着くまで胸を貸し、そっとその身体を抱き寄せる。
「大丈夫ですよ。俺が帰ってきたので、犯人にいいようにはさせませんから」
そう言うと安堵したように宰相の身体から力が抜けた。
「魔王もね、やっぱりいないようでしたよ?」
「…………」
「特別魔物被害も増えていませんでしたし」
「…………」
「そう言えば向こうでカテオロスの兵達とも仲良くなりました」
「……え?」
その言葉に顔を上げ、一体誰だという顔をしたので笑顔で答えを口にする。
「ウィンベルさん達です」
そしてハイジの件を簡単に話し、謝らせるために連れてきているというと物凄く驚かれた。
「ハイジが……」
「ええ。どうやら本来の自分を出せないのがストレスで問題行動に出たようなんです。この旅の後半は護衛の役目を引き受けてくれましたし、素直にここまで来てくれたことも加味すると随分反省している様子。どうか話だけでも聞いてやってください」
謝罪を受け入れるかどうかは宰相次第だからと伝えると、わかったとすんなり頷いてくれる。
「じゃあ行きましょうか。皆心配してましたからね」
そしてそっとその手を取り幾分落ち着いた宰相を促してそこから出ると、早速というようにハイジが文句を言ってきた。
「サトル!遅いですわ!私一人ではあそこに戻れないのに酷いではないですか!」
そうして噛みついてきたハイジだったが、自分が一人ではなく隣に誰かいることに気がついて驚いたように目を丸くした。
「ヴェ…ヴェルガー様…?」
「ハイジ…か?」
互いに驚いたように顔を見合わせたのは一瞬────。
動いたのはハイジの方が早かった。
スッと淑女の態を取り、優雅な仕草で宰相へと頭を下げる。
「この度は私の仕出かしたことによりご心労をお掛けし、本当に申し訳ありませんでした。この罪はこの身をもって償いたいと思っておりますので、どうぞお好きなようにご処罰くださいますよう」
それを聞き宰相の顔に戸惑いが広がっていく。
「……ハイジ。マナから少しだけ話を聞いた。そなたにも事情があったのだろう。処罰を考えるのは話を聞いてからだ。今日は旅の疲れもあろう。明日改めて時間を取らせてもらっても構わないだろうか?」
「過分なお気遣い痛み入ります。明日改めまして誠心誠意謝罪させて頂こうと思います」
そして深々と頭を下げたハイジを見て、話は終わったと宰相がこちらを向いてくる。
「マナ。ご苦労だったな」
「いえ。宰相の心痛が和らいだのなら何よりです」
そして今度はハイジの方へと声を掛ける。
「ハイジもそうしていると貴族の令嬢だな。忘れるところだった」
「失礼ですわ!本当にサトルはヴェルガー様以外には冷たい男ですわね」
「そうか?」
「そうですわ。全く…ヒロが言った通りではありませんか。そんな顔をして好きではないなんてよくも言えたものですわ」
「え……」
そこで何故か宰相がショックを受けたような顔をしたので、違う違うと慌てて訂正をする羽目になった。
「違いますよ?!宰相が嫌いとかではなく、恋愛的な好きではないという意味で…!」
「そ…そうか…」
「そうです!宰相のことは大好きなので…!」
「だ…大っ…?!そ…そうか…」
俺が勢いで口にした言葉で宰相が気恥ずかしそうに耳を赤く染めたのを見て、思わず穴を掘って隠れたい気分になる。
大の男が何ということを口走ってしまったのか。
「なんかもう…本当にスミマセン……」
居た堪れなさ過ぎてもう謝ることしかできない。
その後三人で執務室へと戻ると、そこにはまだ沢山の人が残っていて、宰相の姿を確認するや否や皆の顔に安堵が広がり嬉しい気持ちになった。
やっぱり宰相は皆に好かれているというのがよくわかったからだ。
これなら味方になってもらえることだろう。
そして一番犯人なのではないかと思われるジフリートの方を見ると、表面上皆と同じように宰相の安否を喜んでいるようには見えたもののそこには隠し切れない怒りが見て取れて、要警戒相手だなと思わせた。
もしも今回悪質な事件の犯人がジフリートなら、もしかしたら宰相が隠れている場所も把握していたのかもしれないし、夜に動く事を想定してまた何か良からぬ事をしようとほくそ笑んでいたかもしれない。
ただの偏見かもしれないが、これから警戒しておくに越したことはないだろう。
魔王や魔物よりも危険な相手が宰相のすぐ側にいる─────今回の事はそれを実感するような出来事だった。
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