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54.拉致―宰相視点―
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皆で作戦を立て、実行に移すのはチャンスを窺い一週間以内に行うと決まった。
それまでジフリートとはあくまでもこれまで通り接するよう言い含められ、ミルフィスをフォローに入れて仕事に励むことになった。
その間、ジフリートの要望である『王太子捜索隊に勇者と賢者を』という案について受け入れる方向性で持っていくことになっている。
これに参加して事細かに捜索についての話しを詰めることによって、ジフリートの目をそちらに引きつける作戦なのだ。
ついでに情報が得られれば尚いいとの事だった。
その間、マナの言っていたフィーア=レッヒェルンという塔の副管理人が野放しになってしまうが、こちらはミルフィスの手の者が担当してくれることになっている。
けれど正直こちらは難航しているようで、確かにいるはずの人物なのに誰もその正体を知らないというのだ。
ある意味不気味な人物だと言えるだろう。
作戦が失敗するとしたらきっとこの人物がかかわってくるに違いないとミルフィス共々溜息を吐く。
動きが読めない相手がいるというのはそれだけ作戦失敗のリスクが上がるということなのだから────。
そんな風に動くに動けない日々を過ごしていた4日目のこと……。
ミルフィスが他部署に行ってくると書類を手に席を立ち、傍に控えるハイジが少し一息入れますかと言って茶器を用意していたところでジフリートが書類を手に入室してきた。
他に人は誰もいない。
仕事中だしこれまで特に何も起こっていないからと油断していたのは確かだった。
だから思ってもみなかったのだ。
─────事態があっという間に急転するなんて。
「ヴェルガー様?」
そう言いながらジフリートはそっとこちらへと近づいてきた。
さり気なく鍵を閉めていた気がするが、気のせいだろうか?
「先日…あの男とキスをしたというの本当ですか?」
その言葉に思わず固まってしまう。
「それだけならあの男の挑発と取って、あちらを計画的に始末しようと思っていたのですがね?それだけではなく、……二人で図書室で抱き合っていたと同僚が教えてくれたのですが…?」
「…………」
「他にも…聞き込みをしてみれば、勇者と三角関係のようだと言われていたり、奪い合いをしているのだと囁かれていたり…?」
コツンコツンとまるでこちらの恐怖心を煽るかのように一歩一歩ゆっくりと近づいてくるジフリートに身動きが取れなくなる。
「あんなヘラヘラした男に易々と誑かされるだなんて…さて、どうしてあげましょうかね?」
そう言いながら冷たい笑みを浮かべ、底冷えするような目でこちらを見遣りながらジフリートはそっとその手を頬へと添えてきた。
これに対し、まさに蛇に睨まれた蛙のようにカタカタと震えることしかできない。
そして気づいた時にはその唇が自分のそれへと重ねられていて、あっという間に舌を絡めとられてしまう。
「んんんッ!」
そこまでされてやっと我に返り、必死に抵抗しようと暴れてみるが、間に執務机を挟んでいる関係から思ったように抵抗ができない。
「ん…ッ!はぁ…っ…」
息も絶え絶えに時折呼吸をするが、ジフリートは容赦なく口内を蹂躙していった。
そんな状況に最初は突然すぎて固まっていたハイジもやっと状況が飲み込めたのか、急いでジフリートを引き離しにかかってくれる。
「離れなさい!」
ビュッと音を立てて鋭く繰り出された蹴りだったが、ジフリートがそれを風の障壁魔法であっさりと受け流す。
これでは引き離せないと理解したハイジが今度はこちらへと回り、グイッと後方へ身体を思い切り引いて引き離してくれ、やっとジフリートから解放されることができた。
「ヴェルガー様!大丈夫ですか?!」
ハイジが自分の下敷きになりながらもそうやって気遣ってくれるのが有難かったが、口づけから解放されたのも束の間、冷たい笑みを崩さぬままに改めてこちらへと足を進めてきたジフリートが怖くて仕方がなかった。
「ジフ…リート…?」
「貴方が悪いんですよ?私の気持ちを知りながらあんな男とイチャイチャするんですから。ああ、それとも私の気持ちを確かめたかったのですか?それならその作戦は私の嫉妬を煽るにはとても効果的だったと言えますね」
「……!」
そしてグッと思い切り腕を取り引き上げられ、そのまますれすれまで顔を近づけられた。
「さあ、お仕置きの時間です」
そうして低く耳元で囁かれ、背筋がゾクッとするのを感じた。
「今日の仕事は終わりです。私の部屋で私の気持ちを嫌と言うほどわからせて差し上げますので、泣いて懇願しながら全身で私を悦ばせて謝罪してくださいね?」
そんな言葉が耳に届いてこのままついて行ったら危ないということだけは嫌と言うほどわかるのに、あまりのことに身が竦んで思うように抵抗できない。
ジフリートは一体何を言っているのだろうか?
嫉妬を煽る?
そんなつもりは一切なかった。
それに、泣いて懇願しながら悦ばせろ?こんな狂気じみた感情を抱かれていることも知らなかった。
前回の恐怖心はこれをほんの少し肌で感じての結果だったのだと今更ながらに実感する。
(いつから……?)
一体いつからジフリートは自分をそんな性の対象として見ていたのだろうか?
ずっと…以前からその胸に恋情を抱えていたとでも言うのだろうか?
自分がそれに気づいてやれていたらこんな風にはならなかったのだろうか?
けれどそれも違うような気がする。
今ジフリートから向けられているこの感情は、自分がマナに対して抱いているような穏やかで切ない恋情ではない。
ここまでいくと最早それは狂熱による執着だ。
そこに思いやりの感情や愛情など感じられるはずもなく、このままでは何をされるか分かったものではないとしか感じられない。
こんな思いに、どうやっても応えてやれるはずがないではないか。
ドッドッドッと弾む鼓動が早く逃げろと何度も警鐘を鳴らしてくるが、動揺が激しすぎてあの時以上に上手く身体が動いてくれない。
マナの防御魔法があるから攻撃されても安全ではあるのだが、レイプに関してはほぼ無効だということくらいは分かる。
そんなことは自分だけではなく当然ハイジにもわかることで、すぐに体勢を立て直し行かせるかとばかりにジフリートに攻撃をしてくれているが、ジフリートは巧みに風魔法を使いこなしそれら全ての攻撃をいなしている。
「絶対に行かせないわ!」
攻撃が効かなくとも足止めはできるとハイジがジフリートに対峙し、その言葉通り決して連れて行かせないと激しい連撃で攻撃の手を強めた。
決定打に掛けるのでこのままでは誰かが駆けつけてくれるまで体力が削られるばかりだが、これによって時間稼ぎができるのは確かだ。
このハイジの動きはこちらにとっては有難いものだったのだが、当然と言えば当然で、人目につかず早く連れ去りたいジフリートにとってはかなりイラッとするものだったらしい。
ボソッと忌々し気に「コバエが」と呟き、次いで先程までと違った空気を纏い始めた。
「シャムソン。このコバエを始末しろ」
その言葉と共にジフリートの前に魔法陣が浮き上がり、そこから巨大な鳥の魔物が突如姿を現した。
「なっ…?!」
これにはハイジも驚いたようで、大きく目を瞠りながら愕然とした表情を浮かべていた。
キュオオオオーーーーッ!
そして異様に甲高い叫び声を上げながら、その魔物の鳥はハイジの方へと鋭い風の刃を幾重にも放った。
それと共にマナの掛けていた防御魔法がパリンパリンと音を立て、砕かれていく。
10の重ね掛け魔法のうち二枚が砕かれたのを見て、この魔物の強さに驚愕してしまう。
勇者の剣戟にも耐える強度を誇っているはずの魔法が二枚とはいえ砕かれたのだ。驚くなという方がおかしい。
そんな自分にジフリートがクスリと笑い、あっという間にこちらを抱き上げてしまう。
「ヴェルガー様。貴方の可愛い顔をもっと私に愛でさせてくださいね」
そしてそのままスタスタと部屋の外に向けて歩き始めてしまう。
こうしてジフリートは先程ロックしていたらしい鍵を開け、どこか嬉しそうな笑みを浮かべながら連れ去っていったのだった。
それまでジフリートとはあくまでもこれまで通り接するよう言い含められ、ミルフィスをフォローに入れて仕事に励むことになった。
その間、ジフリートの要望である『王太子捜索隊に勇者と賢者を』という案について受け入れる方向性で持っていくことになっている。
これに参加して事細かに捜索についての話しを詰めることによって、ジフリートの目をそちらに引きつける作戦なのだ。
ついでに情報が得られれば尚いいとの事だった。
その間、マナの言っていたフィーア=レッヒェルンという塔の副管理人が野放しになってしまうが、こちらはミルフィスの手の者が担当してくれることになっている。
けれど正直こちらは難航しているようで、確かにいるはずの人物なのに誰もその正体を知らないというのだ。
ある意味不気味な人物だと言えるだろう。
作戦が失敗するとしたらきっとこの人物がかかわってくるに違いないとミルフィス共々溜息を吐く。
動きが読めない相手がいるというのはそれだけ作戦失敗のリスクが上がるということなのだから────。
そんな風に動くに動けない日々を過ごしていた4日目のこと……。
ミルフィスが他部署に行ってくると書類を手に席を立ち、傍に控えるハイジが少し一息入れますかと言って茶器を用意していたところでジフリートが書類を手に入室してきた。
他に人は誰もいない。
仕事中だしこれまで特に何も起こっていないからと油断していたのは確かだった。
だから思ってもみなかったのだ。
─────事態があっという間に急転するなんて。
「ヴェルガー様?」
そう言いながらジフリートはそっとこちらへと近づいてきた。
さり気なく鍵を閉めていた気がするが、気のせいだろうか?
「先日…あの男とキスをしたというの本当ですか?」
その言葉に思わず固まってしまう。
「それだけならあの男の挑発と取って、あちらを計画的に始末しようと思っていたのですがね?それだけではなく、……二人で図書室で抱き合っていたと同僚が教えてくれたのですが…?」
「…………」
「他にも…聞き込みをしてみれば、勇者と三角関係のようだと言われていたり、奪い合いをしているのだと囁かれていたり…?」
コツンコツンとまるでこちらの恐怖心を煽るかのように一歩一歩ゆっくりと近づいてくるジフリートに身動きが取れなくなる。
「あんなヘラヘラした男に易々と誑かされるだなんて…さて、どうしてあげましょうかね?」
そう言いながら冷たい笑みを浮かべ、底冷えするような目でこちらを見遣りながらジフリートはそっとその手を頬へと添えてきた。
これに対し、まさに蛇に睨まれた蛙のようにカタカタと震えることしかできない。
そして気づいた時にはその唇が自分のそれへと重ねられていて、あっという間に舌を絡めとられてしまう。
「んんんッ!」
そこまでされてやっと我に返り、必死に抵抗しようと暴れてみるが、間に執務机を挟んでいる関係から思ったように抵抗ができない。
「ん…ッ!はぁ…っ…」
息も絶え絶えに時折呼吸をするが、ジフリートは容赦なく口内を蹂躙していった。
そんな状況に最初は突然すぎて固まっていたハイジもやっと状況が飲み込めたのか、急いでジフリートを引き離しにかかってくれる。
「離れなさい!」
ビュッと音を立てて鋭く繰り出された蹴りだったが、ジフリートがそれを風の障壁魔法であっさりと受け流す。
これでは引き離せないと理解したハイジが今度はこちらへと回り、グイッと後方へ身体を思い切り引いて引き離してくれ、やっとジフリートから解放されることができた。
「ヴェルガー様!大丈夫ですか?!」
ハイジが自分の下敷きになりながらもそうやって気遣ってくれるのが有難かったが、口づけから解放されたのも束の間、冷たい笑みを崩さぬままに改めてこちらへと足を進めてきたジフリートが怖くて仕方がなかった。
「ジフ…リート…?」
「貴方が悪いんですよ?私の気持ちを知りながらあんな男とイチャイチャするんですから。ああ、それとも私の気持ちを確かめたかったのですか?それならその作戦は私の嫉妬を煽るにはとても効果的だったと言えますね」
「……!」
そしてグッと思い切り腕を取り引き上げられ、そのまますれすれまで顔を近づけられた。
「さあ、お仕置きの時間です」
そうして低く耳元で囁かれ、背筋がゾクッとするのを感じた。
「今日の仕事は終わりです。私の部屋で私の気持ちを嫌と言うほどわからせて差し上げますので、泣いて懇願しながら全身で私を悦ばせて謝罪してくださいね?」
そんな言葉が耳に届いてこのままついて行ったら危ないということだけは嫌と言うほどわかるのに、あまりのことに身が竦んで思うように抵抗できない。
ジフリートは一体何を言っているのだろうか?
嫉妬を煽る?
そんなつもりは一切なかった。
それに、泣いて懇願しながら悦ばせろ?こんな狂気じみた感情を抱かれていることも知らなかった。
前回の恐怖心はこれをほんの少し肌で感じての結果だったのだと今更ながらに実感する。
(いつから……?)
一体いつからジフリートは自分をそんな性の対象として見ていたのだろうか?
ずっと…以前からその胸に恋情を抱えていたとでも言うのだろうか?
自分がそれに気づいてやれていたらこんな風にはならなかったのだろうか?
けれどそれも違うような気がする。
今ジフリートから向けられているこの感情は、自分がマナに対して抱いているような穏やかで切ない恋情ではない。
ここまでいくと最早それは狂熱による執着だ。
そこに思いやりの感情や愛情など感じられるはずもなく、このままでは何をされるか分かったものではないとしか感じられない。
こんな思いに、どうやっても応えてやれるはずがないではないか。
ドッドッドッと弾む鼓動が早く逃げろと何度も警鐘を鳴らしてくるが、動揺が激しすぎてあの時以上に上手く身体が動いてくれない。
マナの防御魔法があるから攻撃されても安全ではあるのだが、レイプに関してはほぼ無効だということくらいは分かる。
そんなことは自分だけではなく当然ハイジにもわかることで、すぐに体勢を立て直し行かせるかとばかりにジフリートに攻撃をしてくれているが、ジフリートは巧みに風魔法を使いこなしそれら全ての攻撃をいなしている。
「絶対に行かせないわ!」
攻撃が効かなくとも足止めはできるとハイジがジフリートに対峙し、その言葉通り決して連れて行かせないと激しい連撃で攻撃の手を強めた。
決定打に掛けるのでこのままでは誰かが駆けつけてくれるまで体力が削られるばかりだが、これによって時間稼ぎができるのは確かだ。
このハイジの動きはこちらにとっては有難いものだったのだが、当然と言えば当然で、人目につかず早く連れ去りたいジフリートにとってはかなりイラッとするものだったらしい。
ボソッと忌々し気に「コバエが」と呟き、次いで先程までと違った空気を纏い始めた。
「シャムソン。このコバエを始末しろ」
その言葉と共にジフリートの前に魔法陣が浮き上がり、そこから巨大な鳥の魔物が突如姿を現した。
「なっ…?!」
これにはハイジも驚いたようで、大きく目を瞠りながら愕然とした表情を浮かべていた。
キュオオオオーーーーッ!
そして異様に甲高い叫び声を上げながら、その魔物の鳥はハイジの方へと鋭い風の刃を幾重にも放った。
それと共にマナの掛けていた防御魔法がパリンパリンと音を立て、砕かれていく。
10の重ね掛け魔法のうち二枚が砕かれたのを見て、この魔物の強さに驚愕してしまう。
勇者の剣戟にも耐える強度を誇っているはずの魔法が二枚とはいえ砕かれたのだ。驚くなという方がおかしい。
そんな自分にジフリートがクスリと笑い、あっという間にこちらを抱き上げてしまう。
「ヴェルガー様。貴方の可愛い顔をもっと私に愛でさせてくださいね」
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