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48.クラスメイト
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ルシアンへ手紙を書き従兄に学園へと持って行ってもらうと、偶然ルシアンのクラスメイトに遭遇したらしく、お願いしたら快く引き受けてもらうことができたとのこと。
これなら明日にでも確実に学校で渡してもらえることだろう。
俺がここまで来てると知ったらルシアンは驚くだろうか?
それとも喜んですぐにでもその日のうちに会いに来てくれるだろうか?
そう思ってドキドキしながら返事を待った。
なのに翌日も翌々日も音沙汰がなくて、不安になる。
(どうして…)
もしかして手紙が届かなかったんだろうか?
それとも読んだ上で俺には会う気がないと?
そんな気持ちで宿で過ごしていると、手紙を預かってくれた本人であるルシアンのクラスメイトが宿へとやってきてくれた。
「貴方がルシアン=ジェレアクトの婚約者、カイザーリード様ですか?」
「は、はい」
「俺はジガール=ヴァリトゥードと言います。先日お手紙をお預かりしたルシアンのクラスメイトです。今日はルシアンから伝言を預かってきたのでお伝えに参りました」
その言葉にドキッと胸が弾む。
待ちに待ったルシアンからの連絡だ。
ちゃんと聞かないとと思い部屋へと入ってもらう。
そこには従兄妹達も同席してくれて、間違いなく手紙を預かってくれたクラスメイト本人だとお墨付きももらえた。
「それで…ルシアンは何と?」
「はい。今はまだ会うことはできない、と」
その言葉に泣きそうな気持ちになる。
(折角ここまで来たのに……)
会いたい一心で勝手に来てしまった自分が悪いのは百も承知だけど、ルシアンなら会ってくれると、喜んでくれると思い込んでいた。
なんならそのまま攫ってくれるんじゃないかとさえチラッと思っていたくらいだ。
それなのに……。
「来てくれたのは嬉しいけど、貴方の御父上に認めてもらうためにも一切会う気はないと言っていました。多分断腸の思いだったと思うので気を悪くしないであげてください」
「そう……ですか」
「はい。それでですね、ルシアンは折角だし俺に街案内をしてやってくれないかと頼んできたんですが」
「え?」
「どうです?街を案内がてらルシアンの学園での話も聞かせてあげられますし、悪くはない話だと思いますけど」
それは…確かに悪くはない話ではあった。
会えないならせめて普段の様子が知りたい。
そう思ったとしても仕方のないことだったと思う。
だから普通に頷いたんだ。
「ありがとう…ございます」
「よかった。では早速行きましょうか」
明るく励ますように促されて俺は彼の後へと続く。
従兄妹達はどうしようか一瞬悩んだようだけど、自分達がいない方が俺もルシアンの様子を聞きやすいかもと思ってくれたらしく、『折角だしゆっくり話を聞いてこい』と背中を押してくれた。
***
【Side.ジガール】
学校が終わり、ルシアンが学園を出てどこかへ行くのを確認後、奴の婚約者が泊まっている宿へと向かった。
奴が婚約者の存在に気づいていないのは把握済みだ。
手紙も握り潰したし、このままいけば計画通りに事は進むことだろう。
ごろつきの手配も済んだし、早速今日この後仕掛けるつもりではある。
俺がやったとバレないよう上手くやるつもりだし、成功はまず間違いない。
そう思いながら宿へと向かった。
そこからは事前情報を巧みに使い婚約者を宿から連れ出すことに成功。
ルシアンが会いに来ないことにも疑問すら覚えず、すんなり納得がいった様子だった。
(ざまあないな)
あのルシアンを出し抜けたことに思わず笑みがこぼれてしまう。
後はこのままこの婚約者を街へと連れ出し、人混みが多い方へと誘導していくだけだ。
観光目的で連れ出すから、人が多いところへ向かっても疑われることはまずない。
更に疑われないよう普段のルシアンの様子をそのまま伝えてやる。
素のルシアンのことを話すから疑われる心配は一切ないし、俺とルシアンがクラスメイトだと言うのは本当の事だから真実味が出ていいだろう。
「ルシアンは剣の授業でも魔法の授業でもとても優秀で、先生まで倒していたんですよ」
「え?!そ、それは大丈夫だったんでしょうか?」
「はい。ちゃんと保健室に行って手当てしてもらってましたから」
「そうですか。ルシアンが強いのは知ってるんですけど、あまり向こうではそう言ったことはしなかったのでびっくりしました」
「彼なりに舐められないように頑張っているようですよ」
「なるほど」
「最初は俺達もどう接していいか悩んだものですが、今ではクラスの半分は彼に好意的です」
「へぇ…」
この婚約者は少し話すだけでルシアンとは大違いだとわかる、随分素直な性格の持ち主だった。
きっとルシアンも自分とは真逆のこの性格に惚れたのだろう。
だからこそ、失った時のショックは大きいだろうと思われた。
(そろそろ頃合いだな)
そしてタイミングを見計らい、俺に対する好印象を植え付けた上で人込みに紛れてさり気なく距離を取る。
いわば偶然はぐれましたと言う状況に持ち込むのだ。
あくまでも意図的と感じさせないほど自然体でやるのがいい。
「あれ?カイザーリード様?」
そして一定距離を置いた上でキョロキョロとあたりを見回し、その名を呼ぶ。
これで俺はこれから起こることに一切関与していないと言う印象を与えることができたはず。
「ジガール様!」
人の波に流され、遠くから俺の名を呼ぶ婚約者。
だが俺はそこに向かう気はない。
「カイザーリード様!どこですか?!」
一度だけその名を呼び、後は探すふりをしながらフェードアウトだ。
この後は依頼した奴らが依頼通りにやってくれることだろう。
「んぅっ…!」
上手く裏路地へと引きずり込み、手痛い目に合わせるのだ。
「さあ、舞台は整った。ルシアン=ジェレアクト。明日はお前の悲痛に歪むその顔を楽しみにしているぞ」
遠目に路地裏へと引きずり込まれる婚約者の姿を目に止めながら、俺は憎い男の顔を思い浮かべたのだった。
これなら明日にでも確実に学校で渡してもらえることだろう。
俺がここまで来てると知ったらルシアンは驚くだろうか?
それとも喜んですぐにでもその日のうちに会いに来てくれるだろうか?
そう思ってドキドキしながら返事を待った。
なのに翌日も翌々日も音沙汰がなくて、不安になる。
(どうして…)
もしかして手紙が届かなかったんだろうか?
それとも読んだ上で俺には会う気がないと?
そんな気持ちで宿で過ごしていると、手紙を預かってくれた本人であるルシアンのクラスメイトが宿へとやってきてくれた。
「貴方がルシアン=ジェレアクトの婚約者、カイザーリード様ですか?」
「は、はい」
「俺はジガール=ヴァリトゥードと言います。先日お手紙をお預かりしたルシアンのクラスメイトです。今日はルシアンから伝言を預かってきたのでお伝えに参りました」
その言葉にドキッと胸が弾む。
待ちに待ったルシアンからの連絡だ。
ちゃんと聞かないとと思い部屋へと入ってもらう。
そこには従兄妹達も同席してくれて、間違いなく手紙を預かってくれたクラスメイト本人だとお墨付きももらえた。
「それで…ルシアンは何と?」
「はい。今はまだ会うことはできない、と」
その言葉に泣きそうな気持ちになる。
(折角ここまで来たのに……)
会いたい一心で勝手に来てしまった自分が悪いのは百も承知だけど、ルシアンなら会ってくれると、喜んでくれると思い込んでいた。
なんならそのまま攫ってくれるんじゃないかとさえチラッと思っていたくらいだ。
それなのに……。
「来てくれたのは嬉しいけど、貴方の御父上に認めてもらうためにも一切会う気はないと言っていました。多分断腸の思いだったと思うので気を悪くしないであげてください」
「そう……ですか」
「はい。それでですね、ルシアンは折角だし俺に街案内をしてやってくれないかと頼んできたんですが」
「え?」
「どうです?街を案内がてらルシアンの学園での話も聞かせてあげられますし、悪くはない話だと思いますけど」
それは…確かに悪くはない話ではあった。
会えないならせめて普段の様子が知りたい。
そう思ったとしても仕方のないことだったと思う。
だから普通に頷いたんだ。
「ありがとう…ございます」
「よかった。では早速行きましょうか」
明るく励ますように促されて俺は彼の後へと続く。
従兄妹達はどうしようか一瞬悩んだようだけど、自分達がいない方が俺もルシアンの様子を聞きやすいかもと思ってくれたらしく、『折角だしゆっくり話を聞いてこい』と背中を押してくれた。
***
【Side.ジガール】
学校が終わり、ルシアンが学園を出てどこかへ行くのを確認後、奴の婚約者が泊まっている宿へと向かった。
奴が婚約者の存在に気づいていないのは把握済みだ。
手紙も握り潰したし、このままいけば計画通りに事は進むことだろう。
ごろつきの手配も済んだし、早速今日この後仕掛けるつもりではある。
俺がやったとバレないよう上手くやるつもりだし、成功はまず間違いない。
そう思いながら宿へと向かった。
そこからは事前情報を巧みに使い婚約者を宿から連れ出すことに成功。
ルシアンが会いに来ないことにも疑問すら覚えず、すんなり納得がいった様子だった。
(ざまあないな)
あのルシアンを出し抜けたことに思わず笑みがこぼれてしまう。
後はこのままこの婚約者を街へと連れ出し、人混みが多い方へと誘導していくだけだ。
観光目的で連れ出すから、人が多いところへ向かっても疑われることはまずない。
更に疑われないよう普段のルシアンの様子をそのまま伝えてやる。
素のルシアンのことを話すから疑われる心配は一切ないし、俺とルシアンがクラスメイトだと言うのは本当の事だから真実味が出ていいだろう。
「ルシアンは剣の授業でも魔法の授業でもとても優秀で、先生まで倒していたんですよ」
「え?!そ、それは大丈夫だったんでしょうか?」
「はい。ちゃんと保健室に行って手当てしてもらってましたから」
「そうですか。ルシアンが強いのは知ってるんですけど、あまり向こうではそう言ったことはしなかったのでびっくりしました」
「彼なりに舐められないように頑張っているようですよ」
「なるほど」
「最初は俺達もどう接していいか悩んだものですが、今ではクラスの半分は彼に好意的です」
「へぇ…」
この婚約者は少し話すだけでルシアンとは大違いだとわかる、随分素直な性格の持ち主だった。
きっとルシアンも自分とは真逆のこの性格に惚れたのだろう。
だからこそ、失った時のショックは大きいだろうと思われた。
(そろそろ頃合いだな)
そしてタイミングを見計らい、俺に対する好印象を植え付けた上で人込みに紛れてさり気なく距離を取る。
いわば偶然はぐれましたと言う状況に持ち込むのだ。
あくまでも意図的と感じさせないほど自然体でやるのがいい。
「あれ?カイザーリード様?」
そして一定距離を置いた上でキョロキョロとあたりを見回し、その名を呼ぶ。
これで俺はこれから起こることに一切関与していないと言う印象を与えることができたはず。
「ジガール様!」
人の波に流され、遠くから俺の名を呼ぶ婚約者。
だが俺はそこに向かう気はない。
「カイザーリード様!どこですか?!」
一度だけその名を呼び、後は探すふりをしながらフェードアウトだ。
この後は依頼した奴らが依頼通りにやってくれることだろう。
「んぅっ…!」
上手く裏路地へと引きずり込み、手痛い目に合わせるのだ。
「さあ、舞台は整った。ルシアン=ジェレアクト。明日はお前の悲痛に歪むその顔を楽しみにしているぞ」
遠目に路地裏へと引きずり込まれる婚約者の姿を目に止めながら、俺は憎い男の顔を思い浮かべたのだった。
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