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第一章 セレン国編(只今傷心旅行中)

10.予想以上の王子 Side.メイビス

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今日もソロで依頼を受け、森の奥でハーピーと戦う。
ハーピーと戦うのは二度目だし今日もすぐに倒せるだろうと思っていた。
けれどそれは慢心で、思い掛けない魅了魔法を使われて身動きが取れなくなった。
まさか魅了を使ってくることがあるなんて────。

(やられる…!)

一撃では殺されないだろうが、このままだと確実に大怪我を負うだろうことは必至だった。
ここ最近ソロでも十分やっていけると思っていただけに、自分の不甲斐なさに腹が立ってくる。
これでは従者に心配されて当然だ。
それでも諦めるわけにはいかず、動けないながらも目だけはハーピーへと向け続ける。
なんとか一撃耐えればこの程度の魅了は解けるはず。
その後どれだけ動けるかが勝負の分かれ目だ!

そんな緊張感の中、突然ふわりと身を包むように魔法が展開され、唐突に魅了が解除されたのを感じた。
有難いことに誰かが助けてくれたようだ。
俺はこのチャンスを逃すまいとすぐさま剣をグッと握り直し、迫り来るハーピーを一閃の元倒しきる。
緊張から解放され安堵から荒く息を吐き、手助けしてくれた者の方へと視線を向けると、それは先程別れたルマンドで、驚くと同時に素直に凄いと思った。

(まさかディスペルの魔法を習得しているなんて…)

普通はこの年で習得していることなどあり得ないだろう。
学校で教えてもらえるのは大抵どこの国でも基本属性の魔法と身体強化が中心だ。
そちらを最大出来る範囲で上級まで教えることに重きを置いているので、補助系統含めその他は良くて初級までしか教えてもらえない。
だから魅了などの状態異常を解除できるディスペルなどは自主的に学ばなければ習得できないはずなのだ。
となるとやはり冒険者として活動する傍ら必要に応じて学んできたということになる。

その上聞くところによると今日は既にオーガを二体倒してきた後だと言う。
オーガ二体を難なく倒して他者を助ける余裕まであるということは彼は相当の腕の持ち主だと察せられた。
人は見かけによらないものだとわかっていたはずなのに、彼を勝手に世間知らずの王子と見縊っていた自分が恥ずかしい。

その後ルマンドから今日のこの後の予定を聞かれたので素直に答えると、いきなり「じゃあ一緒に転移で街に帰ろう」と言われて二度驚いた。
自分の周りに転移魔法を気軽に使う者はいないからだ。
特に一人なら兎も角、他者を連れての転移はコントロールが難しいと聞く。
それを何でもないことのように易々とやろうとしているのが信じられなかった。
彼はどれだけ魔法に長けているのだろう?
これで魔法使いではなく魔法剣士と言うのは俄かに信じ難い。
一見それほど強そうには見えないけれど、恐らくレベルは自分よりも相当高いのだろう。

それにしても何故こんなにも鍛えているのだろうか?
普通貴族や王族は守ってもらう立場だから、個人的に剣や魔法の腕を磨くことはあっても冒険者としての活動をしてまでレベルを上げたりはしない。
世間的に見て王族がこれほど実用的に色々できるようになったり必要以上に強くなる必要はないと思うのだが、コーリックでは違うのだろうか?
そのあたりも後で飲みながらさり気なく聞いてみようかなと思えた。

「じゃ、行くぞ!」

そしてあっという間に街の南門付近まで転移し、何事もなかったかのようにスタスタと歩き出すルマンドに俺は何故かドキドキと胸が高鳴るのを感じた。


******


街に戻ってギルドへと報告に向かい、諸々の些事が終わったところで二人揃って武器屋へと足を向ける。
ルマンドはまだこの街に来たばかりだからか、興味津々であれこれと見て回っていた。

様々に見栄えする剣が置かれている中、彼が手に取ったのは一見どこにでもあるような実用的な剣だった。
何が気に入ったのか、それを矯めつ眇めつ見聞し、店主に軽く振ってもいいかと声を掛け、許可をもらって振ったところで嬉しそうに笑みを浮かべた。

「これ、全然ぶれない!重心が俺にピッタリだ!」

その声に店主も嬉しそうにその武器を勧め始める。

「まさにまさに!今の剣筋を見る限りこの剣は本当にお客様にぴったりです!この剣以上にお勧めのものはないと思われますよ!」

他にも高い剣は売られているけれど、良い品をしっかりと見極めて買う客は武器屋としては嬉しいものなのだろう。
ルマンドは全く迷うそぶりも見せずその剣を購入し、これまで使っていた剣をあっさりとマジックバッグへと仕舞って早速腰へと装備した。
余程気に入ったのだろう。
あんな風に自分の力量に合わせた武器をすんなりと選べるのは凄いと思う。
俺もあんな風に自分で選べるようになりたいなと素直に思えた。

その後、知り合いのやっている店へと向かい俺の国の料理を振舞ってもらう。
最初はこの国の料理を楽しめる店にしようと思っていたけれど、何故かそれよりも俺の国を知ってもらいたい気持ちが込み上げてきたからだ。
ルマンドは最初は不思議そうな顔をしたけれど、何か思うことがあったのか苦笑しながらも付き合ってくれた。

肉に舌鼓を打つルマンドに自然と笑みが浮かんでしまう。
なんだか目が離せなくて、彼の一挙手一投足を目で追ってしまう自分がいた。
優雅にカトラリーを扱う動きはやはりどこか洗練されていて、彼が紛れもなく王子なのだということを暗に指し示している。
本当に、どうして彼はこんなところへとやってきたのだろう?
そう思って少々言い出し辛くはあったが酒を勧めながら失恋の話を促すと、如何にも傷心だという顔になって渋々ながらも気持ちを吐き出し始めた。

どうやらこの一年、惚れた相手のために必死にレベルを上げて男らしさに磨きをかけていたのに、当の本人は周囲の男性達に魅了魔法を掛け味方を作り、本命である王太子(彼の兄)を落としてその婚約者を蹴落としたのだとか。
しかもその茶番劇を繰り広げたのが、彼が告白しようと考えていた卒業パーティーの席だったというのだから居た堪れない。
その後、ショックではあったが取り敢えずその場の魅了を解除し、その足で城に戻って急いで旅支度をして身一つで飛び出してきたのだという。
それは従者の一人もいないわけだ。
きっと置手紙を見て大騒ぎになったことだろう。

でも自分としてはこうして出会うことが出来たのは僥倖だった。
それくらい俺はルマンドを気に入ってしまったのだ。
お互い立場は変わらないのだし、出来ればもう少し仲良くしておきたかった。
ここまでは乗合馬車で来たらしいから、もしかしたら数日中に誰かが追いかけてくるかもしれないけど、それならそれでそれまでは一緒に行動できたらなと強く思った。

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