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第四章 フォルクナー帝国編Ⅱ(只今恋愛&婚約期間堪能中)

閑話4.ルマンド王子の実力 Side.皇帝

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「きたか…」

息子メイビスの婚約者候補のルマンド王子は暗部の報告によると随分な腕前だとのこと。
実際に会った印象は普通の好青年といった感じなのだが、メイビスを虜にするほど強いようには見えなかった。
暗部が報告を間違うことはないのだが、やはり俄かには信じられなくて試しに近衛のバルドにも聞き込みを行ってみたのだが、バルドは目を輝かせて絶賛していた。

「ルマンド様ですか?剣も魔法も惚れ惚れするほどの腕前です。初めてお会いした時に暴言を吐いた自分を今は恥じ入るばかりです」

何故か心酔しているようにうっとりしているが大丈夫だろうか?
魅了の魔法にでもかかっているのかと試しにディスペルを使ってみたが、どうやらそういう訳ではなく本当に惚れこんでいるようだった。

「ふむ」

そこまで言うのなら婚約者になった時点で御前試合でも催してその実力を示してもらおうと思っていた。
そんな折、ルマンド王子のプロポーズが行われ、晴れてメイビスの婚約者となったとの情報が飛び込んできた。
これはもう今日は息子の手からは逃れられないなと踏んで、先に妃に話を通し、明日の夕刻にでも時間を取ってくれるよう伝えておいた。
あれほど惚れ込んでいる相手をやっと手に入れたのならまずそれまでは解放しないだろうと思っていたら、案の定予想通り夕刻まで帰ってこなかった。
しっかりした息子だがルマンド王子の事に関してだけは年頃相応なのだと微笑ましく思う。

そして謁見の間で報告をしてきた二人の婚約を認め、その後の晩餐へと誘った。
最初は緊張していたルマンド王子もレターニアが気持ちをほぐしたお陰で随分リラックスできたようだ。

「メイビスと猫の組み合わせはとても癒されそうですね」

特にこの言葉には笑わせてもらった。
これほど純粋な王族も珍しい。
だがこんな性格でメイビスの傍に立てるのかと少し心配になってしまった。
王国はどこか緩いと暗部からは聞いているし、それなら帝国での暮らしはやや厳しく感じるかもしれない。
早急に手を打つべくルマンド王子のことをもっとよく知る必要があった。
黙っていてもメイビスが守るだろうが、レターニア曰くメイビスはどうもルマンド王子が絡むとダメになる傾向があるとのこと。
好きな者に頭が上がらないというやつだろうか?
意外だが他が完璧な分それくらいの方がいいのかもしれない。
恐らくだがルマンド王子もそんなメイビスがいいのだろう。
結婚を勝手に進めようとするメイビスをサラリとスルーしながらもそれを見る目がやけに優しい。
それはもう微笑ましいものを見るかのように。
先にお祝いだろうと明るく提案して軌道修正する手腕はなかなかのものだ。
どうやらしっかり手綱は握っている様子。
それなら噂の腕前をこの目でしかと見ておこうと侍従を装った暗部に指示を出し、記録石で撮ってくるよう命じておいた。
さて、結果はどう出るだろうか────。




『トルネード・クラッシュ!』

「あらまぁ。凄く強くなってるのね」

妃がメイビスの戦いぶりを見て感嘆の声を上げている。
確かに武者修行に出る前に比べるとメイビスは遥かに強くなっていた。
これはもう騎士団長よりも実力は上になっているのではないだろうか?
一緒にいるバルドもまたこの短期間で随分強くなっている気がする。
それよりも何よりも、ルマンド王子の近衛もかなり強いし、ルマンド王子はその更に上を行っていた。
一緒に観ていたレターニアなどは興奮しっぱなしだ。

戦闘中のルマンド王子は正直ここでの姿とは全く違っていた。
鋭く切れ味の良い空気を漂わせ、鮮烈なまでの輝きを放ちパーティーメンバー全てに目を配って援護し、自身もよく動いていた。
特筆すべきはやはりメイビスが指輪の件で動けなくなった後だろう。
あの件は正直迂闊だったと思わなくはないが、その後の姿勢に非常に好感が高まった。
人は誰しも失敗はするものだ。だからこそその時の行動は一見の価値がある。
ルマンド王子はそれに対し真摯に対応していた。
一番守るべき対象を危険にさらさぬようヘイトを稼ぎ、味方には的確な指示を与え援護する。そしてしっかりとした状況把握と最適な攻略法を見出すその能力はまさに軍部向きと言えた。
加えてその判断力と行動力は目を瞠るものがある。
軽やかに、けれど鋭く敵陣に切り込み舞うように敵を倒しキングオーガを打倒したその剣技にはその場の誰もが目を奪われ心を撃ち抜かれてしまったほど。

「これは……」
「あの子が惚れるのも無理はないわね……」
「はぁ……素敵ですわ」

残ったオーガはメイビスが殲滅していたが、それでもルマンド王子のあの姿を見た後ではどうしても霞んでしまう。

「欲しいな」
「騎士団の総括にでも地位を与えてみます?」
「将来的には是非」
「あらあら。珍しいこと」

クスクスと妃には笑われたが、あの若さでこれならきっと将来的に問題なくやり遂げてくれることだろう。


その後はメイビスを立ち直らせつつ素晴らしい魔法も見せてもらえ、妃はなんて男前な子なのかしらと随分ルマンド王子を気に入った様子だった。
レターニアに至っては「ルマンドはこういった場での自然体の方が魅力が高いのね!あのお兄様をここまで可愛く見せるその手腕がたまらないですわ…ッ!」と悶えていたがよくわからない。
メイビスはその後のワイバーン狩りで失態を取り戻して惚れ直してもらえていたようだから何も問題はないだろう。

それにしてもまさかエクストラヒールまで使えるとは思いもよらなかった。
転移魔法も自由自在と聞くし、剣技だけではなくその魔法の腕前も只者ではない。

「コーリックも得難い宝を譲ってくれたものだ」

あれなら十分上に立つ者として活躍しただろうに。
補佐としても仕事は有能と聞いているし、まさにどこに於いても不足のない人材。

コーリックとは国を隔てている分あまり活発に国交を深めてはこなかったが、これからは以前よりも積極的に交友を深めていこう。
それがルマンド王子を渡してくれたことに対するせめてもの礼儀だと思う。
あれほどの人材はそうは見つからないものだから─────。

(本当に…我が息子ながら良い伴侶を見出してきたものだ…)

これでこの国の将来は盤石。
敢えて一点だけ問題があるとすれば跡継ぎ問題だけと言えるだろうが……。

それさえレターニアの子に継いでもらっても構わないし、他の親戚から養子をとっても構わない。
あの二人の眼鏡にかなう程優秀な子であればきっと上手く国を治めて行ってくれることだろう。

誕生祭でルマンド王子をお披露目するのが今から楽しみだと思いながら、こっそりと息子にもエールを送る。
逃げられるなよ……と。

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