【完結】お役御免?なら好きにしてやる!

オレンジペコ

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番外編

番外編Ⅱ ナナシェにて⑱ Side.ラウル

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ミラン兵長と一緒に暮らし始めて早二ヶ月。
幸せいっぱいで充実した毎日を送っている。

訓練を頑張ったらご褒美。無理し過ぎたらお仕置きだと言われ、なんだかんだで凄く甘やかされている気がする。
一回りも年上だから甘えやすいし、そんなミラン兵長に尽くしたくて料理を頑張って覚えた。
食堂の調理師に頭を下げて基礎からちゃんと習ってきたから、味は保証できる。
ついでにエヴァンジェリンの様子も見られたし、一石二鳥だ。
俺と違ってエヴァンジェリンは女の子だし、男に攫われかけて男性恐怖症とかになっていないか心配だったんだ。
本当に母には怒りしかない。
あんな酷い母親だとは思わなかった。
エヴァンジェリンとも話して、もう縁を切ろうと言う話になったのも仕方のない事だろう。

つい昨日父が神妙な顔で俺を訪ねてきた。
また母が何かやらかしたのかと思ったが、どうやら父は母と別れたくなったらしい。
ミラン兵長から父は母の教育係になったと聞いてはいたが、話を聞いた時点でそれは絶対上手くいかないだろうなとは思っていたんだ。

惚れた弱みとでも言うのか、昔から父は母に甘くて、母が欲しい物は何でも買ってあげてたし、母が気に入ったお菓子があれば俺にまで半分あげたらどうだと言ってきたほど。

『そうですね。母上が太ったと言って、後で父上が絶対に責めてこないなら考えなくもないですよ?でも母上の健康を気遣う優しさも大事だと思いますし、ここはやっぱり俺が食べます』

本当に自分も食べたい好きな菓子の時に言われたら、そう言って躱しながら食べたなぁと懐かしく思い出す。
それっぽい建前を言っておけば父はそれほど俺に強くは言ってこないし、母も自分を気遣って言ったのならまあしょうがないかと引き下がる。

エヴァンジェリンは『私はこれから胸に栄養が必要なので、絶対譲りませんわ!何ならお母様の分も欲しかったくらいですわ!』と死守。
ついでに父からもせしめていた。
父はエヴァンジェリンにも甘いから、残っていた自分の分がなくなっても平気そうだったっけ。

そんな中ランスロットは『ランスロットは勿論くれるわよね?』とにこやかにお願いされ、父からも『お前くらいはあげなさい』と言われて容赦なく奪われてたな。
要領が悪いんだ、あいつは。
『酷い』って泣くだけだと『被害者面しないでちょうだい。気分が悪いわ』と母が言い、それを見た父とエヴァンジェリンが尻馬に乗ってギャイギャイ責め始めることくらいわかるだろうに。

ちなみに俺はここで『そこまで責めなくても』とは言えなかった。

まだランスロットを特に嫌ってなかった頃、『まだ小さいんですし、そこまで言わなくても』と口に出してみたことがあった。
その時はそれ以上ランスロットが叱られる事はなかったけど、代わりに俺は母から呼び出された。

『貴方が弟を庇うのが悪いとは言わないけど、次期侯爵としてもう少し自覚を持たないとダメよ。時には厳しさも大事なの。あの子にちゃんと悪い事は悪い事だってわかるまで言い聞かせてあげないと、いつまで経っても真面になれないでしょう?その方が可哀想だと思わない?私だって辛いのよ?わかってくれるわよね?』

その言葉はずっと俺の中にあって、ランスロットが責められるのは本人が悪いせいだと信じて疑わなかった。
でも責められている姿をずっと見るのも気分が悪かったから、『鬱陶しいから部屋に戻れ』と言って早々に部屋に戻してやったんだ。
これなら他の皆も特に引き留めたりはしないし、ランスロットだってあれ以上皆から責められるよりはずっとマシだろう、そう思った。

『ランスロットが責められるのはあの子が悪いからなのに、ラウルったら。あんな風に部屋に帰してあげるなんて優しいわね。思いやりがあるところは私に似たのかしら?嬉しいわ』

母は俺にそう言って微笑んでくれた。
褒められて嬉しかった。
だから問題はない。そう思った。

シリウス様がランスロットが公爵家に遊びに行った際好きな菓子を用意するようになったのはこういう事があったからだと思う。

『ランスロットは公爵家で甘やかされてるから、同情なんてする必要はないのよ?逆にもっと厳しくしないと碌でもない子になってしまうわ。心配ね』って母が溜め息を吐きながら言うから、こんなにランスロットを気にかけている母の気持ちをあいつは全然わかってないと腹が立ち、それ以降益々ランスロットにキツく当たるようになった気がする。

(今思い出すと色々酷いな)

ここで色んな人の優しさに触れて過去を思い出すと、自分のダメだったところが多々見えてきて情けなくなる。
一体俺はどれだけランスロットを傷つけてきてしまったんだろう?
こんな兄を持ってランスロットも可哀想だ。
自分だったら絶対に許せないし、二度と会いたくないと思うだろう。

ミラン兵長にその話を聞いてもらったら、『過去は変えられないが、自分の過ちに気づいたら少なくとも同じ過ちは犯さなくなる。弟に申し訳なく思うなら、ちゃんと反省して前を向け』と背を叩かれた。
その上で『これからは自分もそばにいるから一緒に頑張ろう』と言ってもらえて、大泣きしてしまった。
見捨てられてもおかしくない話なのにそう言ってもらえて、ちゃんと心を入れ替えてもっともっと頑張ろうと思えた。
今思い出しても恥ずかしいけど、気持ち的に凄くスッキリできた気がする。
その後精神面を鍛え直すために訓練もより厳しくしてもらったし、ミラン兵長には感謝しかない。

まあそれは今は置いておいて。
何が言いたいかと言うと、うちの家族はそんな力関係だったということだ。

父が母の意見を素直に取り入れなかったのは、俺が知る限りでは俺の婚約者関連と閨指導案件だけだ。

母は自分と気が合いそうな令嬢と俺を婚約させたかったらしいけど、父は『ラウルはちょっと流されやすいところがあるから、絶対ふわふわした可愛い系じゃなく、引っ張っていってくれるようなしっかりした相手の方が合ってるはずだ!』とかなんとか言ってくれていたような…。

(うん。当たってるな)

あの時はどれだけ母が不満げな顔をしていても父は首を縦には振らなかった。
でもとかだってとか母は父を説得してたけど、長い人生を一緒に歩く相手なんだから、親の好みじゃなく自分で決めさせてやらないとと言ってくれていた。
父なりに俺を想ってくれていたんだと思う。

その時は、母は俺を説得しにきた。
嫁姑の仲が良い方がいいわよねとか、可愛いお嫁さんの方が嬉しいわよねって。
俺も当時はそう思ったから、素直に頷いた。
だから結果から言えば母の意見が通った形だ。
父は『本人がそう言うなら』と渋々了承してくれたっけ。
結局母が『年の離れた幼妻も素敵よ!一回り下を狙いましょう!』とか訳の分からない事を言い出したから、婚約者選びは先延ばしになってて、俺の婚約者は決まらずじまいだったけど、ある意味良かったのかもしれない。

我が家はそんな感じでずっとやってきたから、父が教育係についたのなら母が改心なんてするはずがないんだ。
どうしてもこれまでの甘えが出る。
父は厳しくしているつもりでも、最終的には折れるだろう。
母はそれを見て自分の優位を確信する。
結果、何も変わらない。
それを見て父はきっと何とかしようとはするはずだ。
仕事をさせよう。意識を変えよう。そんな気持ちで。
でも全部意味はない。
母に変わろうという意識が全くないからだ。
そんな母を見て無力感に打ちひしがれて父が限界を迎えたことくらい、手に取るようにわかった。

別れたい?
それを決意できるようになれただけ、大きな成長だと思う。
貴族の時ならいざ知らず、この地で平民として生きていくのなら、母の面倒なんて見切れないだろう。
誰もそれを責めたりはしない。
だって相手はあのちっとも変わろうとしない、努力もしようとしない母なのだから。

父は確かにランスロットに対しては酷い父親だったかもしれないけど、俺達には優しかった。
だから無理に全部抱え込まなくてもいいし、幸せになってほしいと思えるんだと思う。
責める気なんてないから、そんなに申し訳なさそうに頭を下げなくてもいいんだ。

エヴァンジェリンもそれは感じたようで、俺も知らなかったプロポーズ話まで持ち出してきたから、俺もミラン兵長との事を話したんだ。
折角母から離れる決心をした父だけど、別れ話の際に俺達のことを引き合いに出されたら躊躇してしまうかもしれない。
だから俺達はそれぞれ幸せになっているから大丈夫だと示したんだ。

どうか無事に別れられますように。
そう願ってその背を見送った。

だから────母が今日ここに来るのはある意味予想通りだ。
勿論会わないという選択肢だってあったし、追い返しても良かったけど、そうするときっと何度でもやってきただろう。
それがわかるから、俺は会うことにしたんだ。




「母上。お久しぶりです。よくここに顔が出せましたね」

貴族らしい笑みを浮かべ、母へと告げる。
要するに『売り飛ばした息子の前によく顔を出せたな、ふざけるな』と言ったのだ。
それに対して母の返答はこうだ。

「私だってこんな所来たくなかったわ。嫌なことを思い出すもの」

つまり俺のことはどうでも良くて、自分が牢に入れられた時の嫌な事を思い出すから来たくなかったのよってことだな。
うん。わかってた。
本当に期待を裏切らない自己中心的な人だと感心してしまう。

「それで今日は?」

父と別れた愚痴を言いに来たのか、それとも別件か。
謝りに来たということだけはないだろうなと思いながら尋ねると、案の定愚痴をこぼしに来ただけだと判明する。

「聞いてちょうだい!あの人ったらガナッシュ様と浮気してたのよ!」
「ガナッシュ様?前領主の?」
「そうよ!昨日私の目の前で『ガナッシュ様に片思いをしてる』って白状して、それを聞いたガナッシュ様が嬉しそうに自分も好きだって言いながらキスして、あろうことかそのまま私の目の前で攫って行ったのよ?!信じられないわ!そのせいで今日は朝から夫を寝取られた女っていう目で見られて…っ!屈辱を味わわされたんだから!」

怒り心頭とばかりに悔し涙を滲ませる母を見て、全く可哀想だと思えない自分が意外だった。
少しくらいは同情できるかと思ったけど、無理みたいだ。
薄情かもしれないが『盛大に捨てられたな。ざまあみろ』としか思えなかった。

「大体、私よりあの人を選ぶなんておかしいと思わない?!あの人は男なのよ?!私の方が綺麗だし、女だし、抱き心地だって良いはずだわ!」

うーん、どうだろう?
今の母は正直言って全然魅力なんてないと思う。
元は良いからそこまで悪くは見えないけど、髪は適当に括ってるだけだし、化粧も昔ほどきっちりしているわけじゃない。
何より服も洗い方が悪いのか薄汚れているし、干し方が雑なのか形が崩れてヨレヨレだ。

それに比べ昨日見た父は、服は平民と一緒だけど小綺麗にしていたし、服装も髪型もピシッとしていて元々の素養が滲み出ているから元貴族なのが一目でわかる佇まいだ。
元々ちょっと童顔だから若く見えるし、性格さえ改善されているならモテると思う。
きっと放っておいてもこの先いくらでも再婚の道はあるだろう。

こうして比べると前領主ガナッシュ様が父を選んだのは特におかしなことではないと思う。
笑顔だって母の媚びるような笑みより父の素直な笑みの方が好印象だろうし。
ここでは男同士でくっついてる人も多いのは知っているし、別にいいんじゃないだろうか?

(まあ一番の決め手は、努力する気のない母上と、努力しようとして頑張っていた父上の違いだって気もするけど)

誰だってそれなら後者を選ぶと思う。
そっちの方が絶対、魅力的に映るだろうから。

「私の夫なのに…!」
「別れ話をされたんでしょう?」
「されたわ!私が捨てられるなんてあり得ないと思わない?」
「全く思いません。寧ろ捨てられて当然だと思います」
「……え?」
「折角ここまで来てくれたので、俺も言っておきますね?母上、貴女とは今日を限りに縁を切らせてもらいます。これまでありがとうございました。どうかこれからは一人で強く生きていってください」

清々しい笑みを向け、母へと絶縁を宣言する。
心は揺るがない。

「ラ、ラウル?」
「お元気で。メリーナさん・・・・・・

敢えて母を名で呼ぶ。
こうでもしないときっと母にはわからないだろうから。

そして俺は呆然となる母を置き去りに席を立ち、急いでエヴァンジェリンのところへと向かった。


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