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番外編
番外編Ⅱ ナナシェにて㉑ Side.エヴァンジェリン
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母が私のところに来た日、いつものように食堂に顔を出したリオネスを外へと連れ出し、母がここに来たことを話した。
思い切りぶっ叩いて追い返してやったと話したら、本当にとんでもないなって笑われた。
でもすっきりしたのは確かだし、追い返したことに悔いはない。
「それと、昨日言おうとしてたのに言い出せなかったことがあるの」
「ん?なんだ?」
「その…っ」
言い難い。
でも言うって決めたし、なんとかちゃんと伝えたい。
「貴方からの…プ、プロポーズ、受けようと思って!」
そう言った私の顔は真っ赤だったと思うし、恥ずかしすぎてリオネスの顔だってまともに見られなかった。
だからリオネスがどんな顔でその言葉を聞いたなんか全く分からなかったけど────。
「やった!やったー!ハハハッ!!」
暫くの無言の後、ひょいと両手で持ち上げられたと思ったら、そのまま子供が高い高いをされるかの如く更に上へと持ち上げられる。
そして子供のように満面の笑みで喜びを表すリオネスの表情が視界いっぱいに飛び込んできて目を奪われた。
どれだけ喜んでいるんだか。
しかもそのままグルグル回られたからたまらない。
恥ずかしいからおろしてと言ってるのにちっとも下ろしてもらえないし、やっとおろしてもらえたと思ったらその場でキスされるし…!
お陰でそれを目撃した人達にはおめでとうとはやし立てられるし、本当に恥ずかしすぎて気絶するかと思った。
その日の夜、バーリッジ公爵家宛に手紙を書いた。
勿論読んでもらえない可能性の方が高いけど、結婚すると決めたし、私もお母様と別れたお父様のように、ちゃんとケジメをつけないとと思ったからだ。
内容はもちろん謝罪だ。
国からの謝罪もちゃんとされているだろうし、アルバーニ家の財産から慰謝料や弁済金は支払われているはずだけれど、それはそれ、これはこれだ。
私は公爵夫人とシリウス様、それとランスロットに対して感情的になって風魔法を暴走させてしまった件について丁寧に謝罪の文章をつづった。
応接間を滅茶苦茶にしてしまったお詫びも書きつつ、これまで親しくしてもらっていたのに恩を仇で返すような非礼を働いてしまって申し訳なく思っていることも。
彼らは確かにランスロット贔屓ではあったけど、私達にだって礼は尽くしてくれていたし、いつだって優しかった。
それに甘え過ぎていた自分達が悪かったのだと今では思う。
ランスロットにも聖魔法の件について謝罪を書いておいた。
あれは正真正銘ランスロットの力だったのに、勝手に逆恨みして責め立てて悪かったと書いた。
思い出した過去の話もついでに。
ランスロットじゃなくお母様の言葉を鵜呑みにした自分が馬鹿だったことなどだ。
取り返しのつかないこんなことをいくら並べ立てたって何の慰めにもならないだろうし、許してほしいなんて言う気はない。
許さなくていい。ただ、私が悪かったとだけ書いた。
それとここに来てから働いた分のお金を一緒に包む。
これは正真正銘私が汗水たらして稼いだお金だ。
公爵家からしたらはした金にしかならないだろうけど、少しでも私の誠意が伝わったら嬉しい。
リオネスが許してくれるなら、これからも少しずつバーリッジ家に自分の働いたお金で弁済していけたらと思う。
翌日、リオネスからあの後すぐ母が街を出て行ったと聞いた。
本当に母は馬鹿な人だ。
この街を出たら危険だって、知らなかったのかしら?
縁だって切ったし、もうどうでもいい人のはずなのに、街を出たと聞いて涙が出た。
あんな母親でも生きていて欲しいと思ってしまう自分は甘いのかもしれない。
でもそんな私を抱き寄せて、リオネスは『泣いていいんだ』って言ってくれる。
「どんな母親でもお前の母親だってことに変わりはないだろ?死ぬかもしれねぇってなったら心配だと思うし、生きててほしいって願うのは別におかしなことじゃない。泣きたいなら泣きたいだけ泣け」
そう言われてリオネスの胸の中で思い切り泣いた。
やっと頼ってもらえたって言われたけど、どういう意味だろう?
結構頼りになる男だって、もうとっくにちゃんと認識しているのだけど。
この人の側でならきっとここで私は私らしく生きていける。
だから…泣き止んだらちゃんと顔を上げて前を向こう。
そう思いながらリオネスに甘えさせてもらった。
***
【Side.ランスロット】
別邸ですっかり慣れたシリウスとの生活を満喫していたら、本邸から呼び出しがかかった。
何だろう?
そう思っていたら、義両親からそっと手紙を二通差し出された。
「これは?」
「ナナシェ国レナヴィ領前領主ガナッシュ様という方とエヴァンジェリンからの手紙よ」
エヴァンジェリンからはわかるけど、ナナシェ国のレナヴィ領前領主様からの手紙と言うのがよくわからなかった。
俺に関係あるんだろうか?
「一応両方とも私が読んで問題ないと判断したわ」
なんでもナナシェ国のその前領主様は今父を引き取って更生してくれている人なんだとか。
兄とエヴァンジェリンもそれぞれ自分達で仕事をしながら頑張っているらしい。
ナナシェ国にやって来てからの皆の様子が書かれてあった。
今回手紙を出すに至ったのは、エヴァンジェリンから手紙を出したいと頼まれたのもあるが、主に俺を慮ってのことだったらしい。
事情を家族から聞いていて、俺の性格的に、酷い家族だったとはいえ国外追放になった先のことが気になって、その後幸せになり切れていないんじゃないかと思ってくれたらしい。
凄く親切な人だ。
まあ正直気にならなかったかと言えば嘘になるし、近況が知れるなら嬉しいのは嬉しい。
そう思ったからまあ全部読んだ。エヴァンジェリンからのものも全部。
驚いたことにちゃんと反省していてびっくりした。
義母やシリウスにもちゃんと謝罪してるし、俺にも謝ってくれている。
ついでじゃないことに一番驚いた。
以前だったら『ついでにランスロットにも謝っておくわ。ごめんなさいね』くらいの短文で終わりだっただろうに、一つ一つ丁寧に書かれてあって、ちょっとだけ泣いた。
わかってもらえたのが嬉しかったんだ。
前領主様の手紙には、父と兄もエヴァンジェリンと同様俺に対してそれぞれ謝罪の手紙を書く意思がみられたけど、俺の負担になってもいけないから今回は控えさせたと書いてあった。
勝手に差し止めて申し訳ないなんて書いてくれてて、すごく気遣いを感じる。
読みたいということなら後からでも送ると書いてあるけど、もういいかな。
エヴァンジェリンの手紙を読んで、十分だと思ったし、これ以上は確かに負担かもしれない。
だってつらつらと過去の事を謝ってくるような文面の可能性が高そうだし、そういうのってあんまり長々読むと余計に過去を思い出して辛くなりそう。
いくらそこで謝ってくれてても、絶対スッキリしたとはならない気がする。
そう考えると、この前領主様の判断は正しかったんじゃないかと思えるんだ。
それにそんな謝罪より、この人が向こうでの家族の様子をちゃんと詳しく知らせてくれてるし、それを読む方が気持ち的にずっと前向きになれる気がする。
なんと言うか…『こっちは大丈夫だから、全部任せて幸せになれ』って言われてる気になる。
こういった配慮ができるのって、やっぱり人生経験からくるんだろうか?
この前領主様にはなんだかすごく好感が持てた。
ちょっと会ってみたいかも。
その手紙の中でエヴァンジェリンの結婚についても触れられていて、お相手は治安に貢献している第二兵長で6つも年上の人らしい。
とてもしっかりした人だから、これからエヴァンジェリンが間違ったことをしようとしてもしっかり舵取りをして更生させ続けてくれるだろうと書いてあった。
ちょっと意外な組み合わせだな。
毎日喧嘩してそうな気がするけど、大丈夫なんだろうか?
でも年も離れてるし、案外上手くあしらいながらエヴァンジェリンを転がしているのかもしれない。
兄はその人とは別の第一兵長の下で毎日訓練に明け暮れているらしい。
兄は彼のことをとても慕っていて、公私に渡って厳しくも優しく指導してもらっているから、きっと今後は道を踏み外さなくて済むだろうと。
良い上司に恵まれたようで良かった。
父に関しても細かく書かれてあって、最初はどうしようもない甘えが見えたけど、今ではどんな家事もこなせるほど立派になったらしい。
毎日淹れてもらうお茶は絶品だって書かれてあった。
凄いな。この人。
あの父を更生させるって相当だぞ?
でも文面からきっと凄くできる人なんだろうなっていうのが伝わってくるし、父もこの人の言うことならきっと受け入れられるんだろう。
それにしてもあの父がお茶汲みか。
お茶を自分で淹れた事なんて一度もなかったのに、毎日淹れてるんだ。
ちょっと想像がつかない。
掃除も洗濯も最初は酷かったけど、今はちゃんと覚えて丁寧にできるようになったらしい。
ヒィヒィ言いながら色々覚えさせられたであろう父を想像してちょっと笑った。
きっとプライドが邪魔をして、兄やエヴァンジェリンに比べると仕事を覚えるのに苦労した事だろう。
父は自分が認めた人以外に頭なんて下げたくないって感じの人だったから、出会えたのがこの人だったのはすごく幸運だったんじゃないだろうか?
そこで一生懸命頑張って良い方に変われたのなら、その努力は認めたいと思う。
ちなみに母の件について、手紙に謝罪が添えられていた。
母は色々やらかした挙句に自主的に街を出て行ったらしい。
母らしいと言えば母らしい行動だ。
まああの人もなんだかんだと図太いから、きっとどこかで元気に暮らしていることだろう。
(悪運も強いしな)
何はともあれ皆元気そうでホッとした。
死んでほしいとまでは思っていなかったから、元気に逞しく生きてくれているのならそれで十分だ。
「それでね、ランスロット。エヴァンジェリンが食堂で働いたお金なんだけど、流石にこれを受け取るわけにはいかないと思ってるのよ」
エヴァンジェリンの誠意は伝わってきたし、自分のお金で返したいという気持ちもわかるけど、国からの賠償はしてもらっているし非常に困る。
さてどうしたものか。
「じゃあ、こうしませんか?」
そうして提案したのは────。
***
「エヴァンジェリン。ガナッシュ様からこれをお前にって」
「何かしら?」
「なんでもサイヒュージ国のバーリッジ公爵家からの手紙と、結婚祝いらしいぞ」
「え、どうして?!手紙はともかく、お祝いなんて受け取れないわよ?!」
「取り敢えず手紙の方を読んでみたらどうだ?」
「…………」
***
手紙には、気持ちはしっかり受け取ったから今後の返済金の送付は不要だと綴った。
送ってくるつもりだったお金はこれから子供を産んで、愛情を込めて育てるための資金にすること。
間違ってもその子供達を自分達と同じ目に合わせたりしないようにすること。
本当に本気で改心したならやってみろって、そんな事を書いた。
結婚祝いはエヴァンジェリンから送られてきたお金にたっぷり上乗せして用意した。
そのお金でちゃんとした式を挙げて、心機一転頑張って欲しいという思いを込めて。
余ったら有意義に使ってくれればそれでいい。
とは言えエヴァンジェリンはきっと素直には受け取らないだろうから、敢えてこう書いた。
『俺の幸せのお裾分けだ。ありがたく受け取るように。羨ましいとか悔しいとか思うなら、それをバネに俺よりもっと幸せになってみろよ。高笑いするお前を見れないのだけが残念だ』ってさ。
恩着せがましく書く方が『ランスロットのくせに何様のつもり?!後で返せって言ったって知らないから!』って泣きながらでも受け取ると思ったから。
ちゃんと改心してくれたのなら幸せになって欲しいとも思うし、自己満足かもしれないけどこれは俺なりのケジメだから、どうか突っ返されませんように。
(どうか元気で…)
遠く離れた国に行ってしまった家族に、穏やかにエールを送る。
これでもう、後ろを振り向くことなく生きていけるだろう。
「ランスロット」
今のシリウスとの愛に溢れた平和な日々を後ろめたく思う日も、過去のアレコレに思いを馳せる日ももう来ない。
「シリウス。これからもよろしく」
俺は清々しい思いで、過去を吹っ切るように微笑んだ。
Fin.
*********************
※これにて『番外編Ⅱ.ナナシェにて』は完結です。
お付き合いくださった皆様、ありがとうございましたm(_ _)m
『終わってみればこの番外編の主人公は○○だった』と皆様がそれぞれ思ってくださったら嬉しく思います。
エヴァンジェリンの改心話だったなとか、メリーナの悪女物語だったなとか、BL万歳なラヴィアンとガナッシュ様の恋愛話だったな、いやランスロットがやっぱり主役だっただろ等々、少しでも何かしら感じていただけたなら幸いです。
一応明日はリクエストいただいたラウルの初エッチ話を上げる予定なので、ご興味のある方はお付き合いください。
宜しくお願いします。
思い切りぶっ叩いて追い返してやったと話したら、本当にとんでもないなって笑われた。
でもすっきりしたのは確かだし、追い返したことに悔いはない。
「それと、昨日言おうとしてたのに言い出せなかったことがあるの」
「ん?なんだ?」
「その…っ」
言い難い。
でも言うって決めたし、なんとかちゃんと伝えたい。
「貴方からの…プ、プロポーズ、受けようと思って!」
そう言った私の顔は真っ赤だったと思うし、恥ずかしすぎてリオネスの顔だってまともに見られなかった。
だからリオネスがどんな顔でその言葉を聞いたなんか全く分からなかったけど────。
「やった!やったー!ハハハッ!!」
暫くの無言の後、ひょいと両手で持ち上げられたと思ったら、そのまま子供が高い高いをされるかの如く更に上へと持ち上げられる。
そして子供のように満面の笑みで喜びを表すリオネスの表情が視界いっぱいに飛び込んできて目を奪われた。
どれだけ喜んでいるんだか。
しかもそのままグルグル回られたからたまらない。
恥ずかしいからおろしてと言ってるのにちっとも下ろしてもらえないし、やっとおろしてもらえたと思ったらその場でキスされるし…!
お陰でそれを目撃した人達にはおめでとうとはやし立てられるし、本当に恥ずかしすぎて気絶するかと思った。
その日の夜、バーリッジ公爵家宛に手紙を書いた。
勿論読んでもらえない可能性の方が高いけど、結婚すると決めたし、私もお母様と別れたお父様のように、ちゃんとケジメをつけないとと思ったからだ。
内容はもちろん謝罪だ。
国からの謝罪もちゃんとされているだろうし、アルバーニ家の財産から慰謝料や弁済金は支払われているはずだけれど、それはそれ、これはこれだ。
私は公爵夫人とシリウス様、それとランスロットに対して感情的になって風魔法を暴走させてしまった件について丁寧に謝罪の文章をつづった。
応接間を滅茶苦茶にしてしまったお詫びも書きつつ、これまで親しくしてもらっていたのに恩を仇で返すような非礼を働いてしまって申し訳なく思っていることも。
彼らは確かにランスロット贔屓ではあったけど、私達にだって礼は尽くしてくれていたし、いつだって優しかった。
それに甘え過ぎていた自分達が悪かったのだと今では思う。
ランスロットにも聖魔法の件について謝罪を書いておいた。
あれは正真正銘ランスロットの力だったのに、勝手に逆恨みして責め立てて悪かったと書いた。
思い出した過去の話もついでに。
ランスロットじゃなくお母様の言葉を鵜呑みにした自分が馬鹿だったことなどだ。
取り返しのつかないこんなことをいくら並べ立てたって何の慰めにもならないだろうし、許してほしいなんて言う気はない。
許さなくていい。ただ、私が悪かったとだけ書いた。
それとここに来てから働いた分のお金を一緒に包む。
これは正真正銘私が汗水たらして稼いだお金だ。
公爵家からしたらはした金にしかならないだろうけど、少しでも私の誠意が伝わったら嬉しい。
リオネスが許してくれるなら、これからも少しずつバーリッジ家に自分の働いたお金で弁済していけたらと思う。
翌日、リオネスからあの後すぐ母が街を出て行ったと聞いた。
本当に母は馬鹿な人だ。
この街を出たら危険だって、知らなかったのかしら?
縁だって切ったし、もうどうでもいい人のはずなのに、街を出たと聞いて涙が出た。
あんな母親でも生きていて欲しいと思ってしまう自分は甘いのかもしれない。
でもそんな私を抱き寄せて、リオネスは『泣いていいんだ』って言ってくれる。
「どんな母親でもお前の母親だってことに変わりはないだろ?死ぬかもしれねぇってなったら心配だと思うし、生きててほしいって願うのは別におかしなことじゃない。泣きたいなら泣きたいだけ泣け」
そう言われてリオネスの胸の中で思い切り泣いた。
やっと頼ってもらえたって言われたけど、どういう意味だろう?
結構頼りになる男だって、もうとっくにちゃんと認識しているのだけど。
この人の側でならきっとここで私は私らしく生きていける。
だから…泣き止んだらちゃんと顔を上げて前を向こう。
そう思いながらリオネスに甘えさせてもらった。
***
【Side.ランスロット】
別邸ですっかり慣れたシリウスとの生活を満喫していたら、本邸から呼び出しがかかった。
何だろう?
そう思っていたら、義両親からそっと手紙を二通差し出された。
「これは?」
「ナナシェ国レナヴィ領前領主ガナッシュ様という方とエヴァンジェリンからの手紙よ」
エヴァンジェリンからはわかるけど、ナナシェ国のレナヴィ領前領主様からの手紙と言うのがよくわからなかった。
俺に関係あるんだろうか?
「一応両方とも私が読んで問題ないと判断したわ」
なんでもナナシェ国のその前領主様は今父を引き取って更生してくれている人なんだとか。
兄とエヴァンジェリンもそれぞれ自分達で仕事をしながら頑張っているらしい。
ナナシェ国にやって来てからの皆の様子が書かれてあった。
今回手紙を出すに至ったのは、エヴァンジェリンから手紙を出したいと頼まれたのもあるが、主に俺を慮ってのことだったらしい。
事情を家族から聞いていて、俺の性格的に、酷い家族だったとはいえ国外追放になった先のことが気になって、その後幸せになり切れていないんじゃないかと思ってくれたらしい。
凄く親切な人だ。
まあ正直気にならなかったかと言えば嘘になるし、近況が知れるなら嬉しいのは嬉しい。
そう思ったからまあ全部読んだ。エヴァンジェリンからのものも全部。
驚いたことにちゃんと反省していてびっくりした。
義母やシリウスにもちゃんと謝罪してるし、俺にも謝ってくれている。
ついでじゃないことに一番驚いた。
以前だったら『ついでにランスロットにも謝っておくわ。ごめんなさいね』くらいの短文で終わりだっただろうに、一つ一つ丁寧に書かれてあって、ちょっとだけ泣いた。
わかってもらえたのが嬉しかったんだ。
前領主様の手紙には、父と兄もエヴァンジェリンと同様俺に対してそれぞれ謝罪の手紙を書く意思がみられたけど、俺の負担になってもいけないから今回は控えさせたと書いてあった。
勝手に差し止めて申し訳ないなんて書いてくれてて、すごく気遣いを感じる。
読みたいということなら後からでも送ると書いてあるけど、もういいかな。
エヴァンジェリンの手紙を読んで、十分だと思ったし、これ以上は確かに負担かもしれない。
だってつらつらと過去の事を謝ってくるような文面の可能性が高そうだし、そういうのってあんまり長々読むと余計に過去を思い出して辛くなりそう。
いくらそこで謝ってくれてても、絶対スッキリしたとはならない気がする。
そう考えると、この前領主様の判断は正しかったんじゃないかと思えるんだ。
それにそんな謝罪より、この人が向こうでの家族の様子をちゃんと詳しく知らせてくれてるし、それを読む方が気持ち的にずっと前向きになれる気がする。
なんと言うか…『こっちは大丈夫だから、全部任せて幸せになれ』って言われてる気になる。
こういった配慮ができるのって、やっぱり人生経験からくるんだろうか?
この前領主様にはなんだかすごく好感が持てた。
ちょっと会ってみたいかも。
その手紙の中でエヴァンジェリンの結婚についても触れられていて、お相手は治安に貢献している第二兵長で6つも年上の人らしい。
とてもしっかりした人だから、これからエヴァンジェリンが間違ったことをしようとしてもしっかり舵取りをして更生させ続けてくれるだろうと書いてあった。
ちょっと意外な組み合わせだな。
毎日喧嘩してそうな気がするけど、大丈夫なんだろうか?
でも年も離れてるし、案外上手くあしらいながらエヴァンジェリンを転がしているのかもしれない。
兄はその人とは別の第一兵長の下で毎日訓練に明け暮れているらしい。
兄は彼のことをとても慕っていて、公私に渡って厳しくも優しく指導してもらっているから、きっと今後は道を踏み外さなくて済むだろうと。
良い上司に恵まれたようで良かった。
父に関しても細かく書かれてあって、最初はどうしようもない甘えが見えたけど、今ではどんな家事もこなせるほど立派になったらしい。
毎日淹れてもらうお茶は絶品だって書かれてあった。
凄いな。この人。
あの父を更生させるって相当だぞ?
でも文面からきっと凄くできる人なんだろうなっていうのが伝わってくるし、父もこの人の言うことならきっと受け入れられるんだろう。
それにしてもあの父がお茶汲みか。
お茶を自分で淹れた事なんて一度もなかったのに、毎日淹れてるんだ。
ちょっと想像がつかない。
掃除も洗濯も最初は酷かったけど、今はちゃんと覚えて丁寧にできるようになったらしい。
ヒィヒィ言いながら色々覚えさせられたであろう父を想像してちょっと笑った。
きっとプライドが邪魔をして、兄やエヴァンジェリンに比べると仕事を覚えるのに苦労した事だろう。
父は自分が認めた人以外に頭なんて下げたくないって感じの人だったから、出会えたのがこの人だったのはすごく幸運だったんじゃないだろうか?
そこで一生懸命頑張って良い方に変われたのなら、その努力は認めたいと思う。
ちなみに母の件について、手紙に謝罪が添えられていた。
母は色々やらかした挙句に自主的に街を出て行ったらしい。
母らしいと言えば母らしい行動だ。
まああの人もなんだかんだと図太いから、きっとどこかで元気に暮らしていることだろう。
(悪運も強いしな)
何はともあれ皆元気そうでホッとした。
死んでほしいとまでは思っていなかったから、元気に逞しく生きてくれているのならそれで十分だ。
「それでね、ランスロット。エヴァンジェリンが食堂で働いたお金なんだけど、流石にこれを受け取るわけにはいかないと思ってるのよ」
エヴァンジェリンの誠意は伝わってきたし、自分のお金で返したいという気持ちもわかるけど、国からの賠償はしてもらっているし非常に困る。
さてどうしたものか。
「じゃあ、こうしませんか?」
そうして提案したのは────。
***
「エヴァンジェリン。ガナッシュ様からこれをお前にって」
「何かしら?」
「なんでもサイヒュージ国のバーリッジ公爵家からの手紙と、結婚祝いらしいぞ」
「え、どうして?!手紙はともかく、お祝いなんて受け取れないわよ?!」
「取り敢えず手紙の方を読んでみたらどうだ?」
「…………」
***
手紙には、気持ちはしっかり受け取ったから今後の返済金の送付は不要だと綴った。
送ってくるつもりだったお金はこれから子供を産んで、愛情を込めて育てるための資金にすること。
間違ってもその子供達を自分達と同じ目に合わせたりしないようにすること。
本当に本気で改心したならやってみろって、そんな事を書いた。
結婚祝いはエヴァンジェリンから送られてきたお金にたっぷり上乗せして用意した。
そのお金でちゃんとした式を挙げて、心機一転頑張って欲しいという思いを込めて。
余ったら有意義に使ってくれればそれでいい。
とは言えエヴァンジェリンはきっと素直には受け取らないだろうから、敢えてこう書いた。
『俺の幸せのお裾分けだ。ありがたく受け取るように。羨ましいとか悔しいとか思うなら、それをバネに俺よりもっと幸せになってみろよ。高笑いするお前を見れないのだけが残念だ』ってさ。
恩着せがましく書く方が『ランスロットのくせに何様のつもり?!後で返せって言ったって知らないから!』って泣きながらでも受け取ると思ったから。
ちゃんと改心してくれたのなら幸せになって欲しいとも思うし、自己満足かもしれないけどこれは俺なりのケジメだから、どうか突っ返されませんように。
(どうか元気で…)
遠く離れた国に行ってしまった家族に、穏やかにエールを送る。
これでもう、後ろを振り向くことなく生きていけるだろう。
「ランスロット」
今のシリウスとの愛に溢れた平和な日々を後ろめたく思う日も、過去のアレコレに思いを馳せる日ももう来ない。
「シリウス。これからもよろしく」
俺は清々しい思いで、過去を吹っ切るように微笑んだ。
Fin.
*********************
※これにて『番外編Ⅱ.ナナシェにて』は完結です。
お付き合いくださった皆様、ありがとうございましたm(_ _)m
『終わってみればこの番外編の主人公は○○だった』と皆様がそれぞれ思ってくださったら嬉しく思います。
エヴァンジェリンの改心話だったなとか、メリーナの悪女物語だったなとか、BL万歳なラヴィアンとガナッシュ様の恋愛話だったな、いやランスロットがやっぱり主役だっただろ等々、少しでも何かしら感じていただけたなら幸いです。
一応明日はリクエストいただいたラウルの初エッチ話を上げる予定なので、ご興味のある方はお付き合いください。
宜しくお願いします。
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