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3.親友
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「で?また別れたって?」
俺は目の前の親友 尾関にそう声を掛けた。
尾関は数少ない俺の友達で、中学からの付き合いだ。
しかも俺はゲイだがこいつはバイ。
つまり男も女もいける口。
イケメンだから常に彼氏や彼女がいると言う、彼氏のいない俺からしたらなんとも羨ましい奴なのだが、こいつがしょっちゅう別れては俺の所へやってくるのだ。
そして大体いつも溢すのは同じ言葉。
「うぅ…今度こそ本気で好きになれると思ったのに…」
どうやらチラッと聞いた限り、こいつは過去に大失恋をしているらしい。
手酷い言葉で傷つけられたから、それを忘れるためにも新しい恋を探し求め、次々これだと掴んでみてはやっぱり違ったと意気消沈して別れるらしい。
「お前な~。いい加減にしろよ?付き合う前にもっと見極めろっていつも言ってるだろう?」
いい加減言い飽きてきたが、これも毎度のことながらの慰めセリフ。
本当にいい加減落ち着いてほしいものだ。
「そんなわかりきった事を今更言われたくない!いいから身体で慰めてくれ!」
そうなんだ。
こいつは俺に彼氏がいないからって、いっつもこうしてフラれた後俺の所で散々愚痴った後、俺と寝てすっきりして帰ると言う悪癖持ち。
まあ俺としては別に相手がこいつなら全然構わないからいつだって抱いてやるんだけどな。
最早定期的な性欲処理相手のようなものだ。
正直尾関と居るのは気が楽だ。
長い付き合いだし、嫌なことはしてこないし、事務所の奴らみたいに俺をドSドS言わないしな。
大体俺は尾関の前ではドSになったことがないから、今の事務所でドSと言われるまで自分はただ口が悪いだけだと思い込んでいた。
一度だけ尾関に「なぁ…俺ってドSだと思うか?」と訊いたことがある。
けれど返ってきた答えは「別に?口と性格が悪いだけだろ?Hだって丁寧だし」だった。
うん。その通りだ。俺はドSじゃない。
でも尾関の言うように性格と口がよろしくないのもまた事実。
(俺だって早く彼氏が欲しい!)
今度彼氏の作り方でも伝授してもらおうかなと思いながら、今日も尾関を腕の中で啼かせる。
ちなみにこいつは俺と寝る時はネコ(つまり抱かれる側)だが、彼氏と寝る時はタチ(抱く側)らしい。
この関係自体の切欠がなんだったか忘れたが、確かヤケ酒に付き合ってる時に、慰めるつもりがあるなら抱いてくれとかなんとか言われて抱いたような気がする。
こいつは仕事でよく見るあんな下品な声は上げたりしない。
いつも声を必死に抑えて、失恋の痛みをこらえるようにグッと涙をこらえて抱かれるのだ。
なんだかそんな姿が可愛くて、俺なりに慰めてやりたくなる。
(本当に…どうしてこいつはいっつも良い相手に恵まれないんだ?)
早くお互い良い相手が見つかるといいなと言いながら、そうしていつも通り優しく抱いてやった────。
「ほんっと。お前の周りの奴はどうしようもなく見る目のない奴ばっかりだな~」
正直今日も変わらず可愛かった。
この良さがわからない奴はつくづくおかしいと思う。
第一ラウンドを終えた後に一服しながらそう言ってやると、本当にそう思うかと聞かれたので正直に答えてやる。
「思う思う。お前とは長い付き合いだが、結構健気だし、料理も上手いし、掃除だってバッチリだし、そのへんの女よりずっと女子力高いしな。あ、でも女からしたらそれがプレッシャーなのか?でも男からしたら理想の相手だと思うけどな~」
「……そうか」
「ああ。だからお前の周りが見る目ないだけなんだって!絶対そのうちいい男が現れるから諦めるなよ」
そうやってまた精一杯の慰めの言葉を贈ってやると、別れた相手を思い出したのか、泣きそうになりながらありがとうと言われた。
本当にこんないい奴なのに勿体ない。
「ちなみにお前はまだ彼氏はできないのか?」
何となく流れでそう聞かれたので、そっちもまたサラッと答えてやる。
「ああ。本当に変な奴ばっかり寄ってきてな~。この間なんてモジモジしながら『罵ってください』とか言われてドン引きだぜ?世の中に普通の男はいないのかって嘆きたくなる」
お前みたいに普通な相手がいいんだけどな~と口にすると、何故かそっと唇を合わせられた。
「ああ、悪い。愚痴りすぎたな。第二ラウンド、いくか?」
そうして笑って誘ってやると、尾関は『お前は本当に最悪だ!』といつものように言いながら呆れたように笑った。
***
「それって~…その尾関さんが所長LOVEってだけでしょ?」
後日最近誰かと寝たかと聞かれたのでその尾関の話をチラッとしたのが悪かった。
話を聞くなり調査員たちからニヤニヤしながらそんなことを言われたが、正直そんな友情に水を差すような無粋なことを言ってくるなんてと神経を疑った。
「お前達。こんな仕事をしてるからって、なんでもかんでもそっち方面に話を持っていくのはおかしいぞ?」
「え~?!身体の関係があるくせに!」
「所長ってどこまで頓珍漢なんですか?!」
「鈍っ!どんだけ?!」
オーマイガッ!と茶化して身悶えられたから、ああなんだこいつら皆仕事の息抜きでからかってるだけかとため息を吐いた。
「ほら。遊んでないで仕事仕事!」
そうして尻を叩いて仕事へと促す。
(あいつはそんな軽い相手じゃないんだよ!)
またフラれて泣いてやってきたら慰めてやりたいと思えるくらいに大事に想っている友人。それが尾関だ。
ずっと大事にしたい友人なんだから、たかが彼氏程度と同列にできるはずがないではないか。
俺の大事な友人をこんな風に調査員たちのネタにされてたまるか!
「ふんっ」
こうして今日も今日とて調査員たちを叱咤する。
誰にも言う気はないが、俺の中の『普通』基準は尾関なのだ。
あんな風に心地良く過ごせる関係を彼氏と一緒に築きたい!
そして、俺がドSにならずに済むのはそう言えば今の所あいつの前でだけだよな~と思いながら、今度は普通に飲みに行きたいなと思った。
俺は目の前の親友 尾関にそう声を掛けた。
尾関は数少ない俺の友達で、中学からの付き合いだ。
しかも俺はゲイだがこいつはバイ。
つまり男も女もいける口。
イケメンだから常に彼氏や彼女がいると言う、彼氏のいない俺からしたらなんとも羨ましい奴なのだが、こいつがしょっちゅう別れては俺の所へやってくるのだ。
そして大体いつも溢すのは同じ言葉。
「うぅ…今度こそ本気で好きになれると思ったのに…」
どうやらチラッと聞いた限り、こいつは過去に大失恋をしているらしい。
手酷い言葉で傷つけられたから、それを忘れるためにも新しい恋を探し求め、次々これだと掴んでみてはやっぱり違ったと意気消沈して別れるらしい。
「お前な~。いい加減にしろよ?付き合う前にもっと見極めろっていつも言ってるだろう?」
いい加減言い飽きてきたが、これも毎度のことながらの慰めセリフ。
本当にいい加減落ち着いてほしいものだ。
「そんなわかりきった事を今更言われたくない!いいから身体で慰めてくれ!」
そうなんだ。
こいつは俺に彼氏がいないからって、いっつもこうしてフラれた後俺の所で散々愚痴った後、俺と寝てすっきりして帰ると言う悪癖持ち。
まあ俺としては別に相手がこいつなら全然構わないからいつだって抱いてやるんだけどな。
最早定期的な性欲処理相手のようなものだ。
正直尾関と居るのは気が楽だ。
長い付き合いだし、嫌なことはしてこないし、事務所の奴らみたいに俺をドSドS言わないしな。
大体俺は尾関の前ではドSになったことがないから、今の事務所でドSと言われるまで自分はただ口が悪いだけだと思い込んでいた。
一度だけ尾関に「なぁ…俺ってドSだと思うか?」と訊いたことがある。
けれど返ってきた答えは「別に?口と性格が悪いだけだろ?Hだって丁寧だし」だった。
うん。その通りだ。俺はドSじゃない。
でも尾関の言うように性格と口がよろしくないのもまた事実。
(俺だって早く彼氏が欲しい!)
今度彼氏の作り方でも伝授してもらおうかなと思いながら、今日も尾関を腕の中で啼かせる。
ちなみにこいつは俺と寝る時はネコ(つまり抱かれる側)だが、彼氏と寝る時はタチ(抱く側)らしい。
この関係自体の切欠がなんだったか忘れたが、確かヤケ酒に付き合ってる時に、慰めるつもりがあるなら抱いてくれとかなんとか言われて抱いたような気がする。
こいつは仕事でよく見るあんな下品な声は上げたりしない。
いつも声を必死に抑えて、失恋の痛みをこらえるようにグッと涙をこらえて抱かれるのだ。
なんだかそんな姿が可愛くて、俺なりに慰めてやりたくなる。
(本当に…どうしてこいつはいっつも良い相手に恵まれないんだ?)
早くお互い良い相手が見つかるといいなと言いながら、そうしていつも通り優しく抱いてやった────。
「ほんっと。お前の周りの奴はどうしようもなく見る目のない奴ばっかりだな~」
正直今日も変わらず可愛かった。
この良さがわからない奴はつくづくおかしいと思う。
第一ラウンドを終えた後に一服しながらそう言ってやると、本当にそう思うかと聞かれたので正直に答えてやる。
「思う思う。お前とは長い付き合いだが、結構健気だし、料理も上手いし、掃除だってバッチリだし、そのへんの女よりずっと女子力高いしな。あ、でも女からしたらそれがプレッシャーなのか?でも男からしたら理想の相手だと思うけどな~」
「……そうか」
「ああ。だからお前の周りが見る目ないだけなんだって!絶対そのうちいい男が現れるから諦めるなよ」
そうやってまた精一杯の慰めの言葉を贈ってやると、別れた相手を思い出したのか、泣きそうになりながらありがとうと言われた。
本当にこんないい奴なのに勿体ない。
「ちなみにお前はまだ彼氏はできないのか?」
何となく流れでそう聞かれたので、そっちもまたサラッと答えてやる。
「ああ。本当に変な奴ばっかり寄ってきてな~。この間なんてモジモジしながら『罵ってください』とか言われてドン引きだぜ?世の中に普通の男はいないのかって嘆きたくなる」
お前みたいに普通な相手がいいんだけどな~と口にすると、何故かそっと唇を合わせられた。
「ああ、悪い。愚痴りすぎたな。第二ラウンド、いくか?」
そうして笑って誘ってやると、尾関は『お前は本当に最悪だ!』といつものように言いながら呆れたように笑った。
***
「それって~…その尾関さんが所長LOVEってだけでしょ?」
後日最近誰かと寝たかと聞かれたのでその尾関の話をチラッとしたのが悪かった。
話を聞くなり調査員たちからニヤニヤしながらそんなことを言われたが、正直そんな友情に水を差すような無粋なことを言ってくるなんてと神経を疑った。
「お前達。こんな仕事をしてるからって、なんでもかんでもそっち方面に話を持っていくのはおかしいぞ?」
「え~?!身体の関係があるくせに!」
「所長ってどこまで頓珍漢なんですか?!」
「鈍っ!どんだけ?!」
オーマイガッ!と茶化して身悶えられたから、ああなんだこいつら皆仕事の息抜きでからかってるだけかとため息を吐いた。
「ほら。遊んでないで仕事仕事!」
そうして尻を叩いて仕事へと促す。
(あいつはそんな軽い相手じゃないんだよ!)
またフラれて泣いてやってきたら慰めてやりたいと思えるくらいに大事に想っている友人。それが尾関だ。
ずっと大事にしたい友人なんだから、たかが彼氏程度と同列にできるはずがないではないか。
俺の大事な友人をこんな風に調査員たちのネタにされてたまるか!
「ふんっ」
こうして今日も今日とて調査員たちを叱咤する。
誰にも言う気はないが、俺の中の『普通』基準は尾関なのだ。
あんな風に心地良く過ごせる関係を彼氏と一緒に築きたい!
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