【完結】探偵は悪態を吐く

オレンジペコ

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4.片思い~尾関side.~

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俺の名前は尾関。
職業は…いわゆる企業の二代目社長というものをやっている。
父親とは昔から仲も良かったし、これまで結構楽しみながら自然と会社の事を学んできた。
だから特にその点においての不満は一切ない。
そんな訳で昔から順風満帆な人生で、周囲からもちやほやされて育ってきた。
見た目も要領も良かったし、誰かに嫌われると言うこともなかった。
そんな日々が続くと、なんでも自分中心に回ってると勘違いしちまうんだよな。


あれは中学に上がって暫くした頃のことだった。
クラスの女子が言ったんだ。
「は~尾関くんと藍河くん…どっちも美形だよね。私この学校で良かったわ~♡」と。
藍河と言うのはその時はまだ全く知らなかったのだが、二つ隣のクラスの男子だと言うことが判明したので、それとなくどんな奴なのか見に行った。
単純に本当に自分と並び称されるレベルなのか気になったとも言う。
で、見た瞬間即落ちた。
クールな外見。醸し出す雰囲気。圧倒される存在感。
全てがツボだった。
男?そんなの関係ないね。
女だろうと男だろうと好きなものは好きなんだから仕方がないじゃないか。
うん。自分がバイだって知った瞬間だったな!
俺はどっちでもいけるみたいだ。
いや~人生人の二倍楽しめるお得な性癖で良かった。

まあそれは置いておいて、藍河は兎に角俺の好みど真ん中だったんだ。
だからそれとなくまずは友達になろうと近づいた。
正直上手く近づけたと思う。
後はどう落とすか────それだけが肝心だった。

俺達が二人揃っていると女子達がキャアキャア騒ぐが、こいつはどうも女には全く興味がないらしい。
バイと言うよりゲイなのかな?
だからちょっとカマをかけるつもりで冗談っぽく「お前って男が好きなの?」と訊いてみた。
そしたらこいつ。あまりにもあっさりとこう言ったのだ。
「当然だな。煩い女子より話の合う男を彼氏にする方がいいに決まってる」
すげー!!
全く隠さないその心意気に惚れ直した!
「藍河!それなら俺と付き合ってよ!」
だから勢いでそう言ったんだ。
絶対に断られるわけがないと思った。
だって誰もが付き合いたいと思ってる俺が言ったんだぜ?
断るなんてそんな選択肢、ないだろう?
それなのに藍河の口から飛び出したのはメチャクチャ胸を抉るような言葉だった。
「はぁ?ないない。お前って本当に冗談きっついな~。まあそんな所も好きだけど」
冗談で流された────!
でもそのちょっと小馬鹿にしたような顔って他の誰からも向けられたことがないから新鮮!大好きだ!
正直二人してませたガキだったと思う。
でも、こいつにならバージンやってもいいかも…なんて本気で思ったんだ。

それから高校は同じ所へ進んで、大学は別になった。
それでもメールのやり取りはずっとしていたし、月に一度は必ず会うような仲だ。
なんなら藍河の好きそうな男を含めた合コンだって開くし、一緒に飲みに行ったりだってする。
そんな友人としか言えない関係になっても、俺はずっと藍河が好きだった。
これでも藍河がちっともこっちを見てくれないから、いい加減諦めて自分だって他にいい奴を探そうと奮闘してみたんだぜ?
でもダメなんだ。
男がダメなら女でもいい。そう思って万遍なく色んなタイプと付き合ってみたけど、自分の心に響く相手なんていなかった。
しかも別れの時に言われる言葉は大体どれも同じだ。

「尾関くん…本当に私の事好き?」

もちろん好きになりたいと思って付き合っているのに、どうしても好きになれない。
それもこれも────。



「全部お前のせいだ!お前がいい男過ぎるせいで俺の目が余所を向いてくれないんだ────!」
藍河のことだけが俺の人生の中で唯一上手くいかないのが無性に悔しくて仕方がない。
いい加減気持ちを切り替えられない自分がまた女々しく腹立たしく感じられて、酒の勢いだって増すってもんだ。
そうして酔った勢いでそんな雄叫びをあげた俺に、愚痴を聞いてくれていた藍河がため息を吐いた。
「そんなこと言い出したら、俺だって彼氏の普通基準がお前だからいつまで経っても彼氏ができねぇんだよ」
どうやら藍河も藍河なりに悩みがあるらしい。
けれどそんなもの、俺の悩みの前には無に等しい。
藍河の中で俺が普通基準だって言うなら、いっそのこと俺と付き合ってくれたらいいじゃないか。
「うぅ…もう彼氏も彼女も暫くいらない!お前とだけ付き合いたい!」
「まあまあ。そう自棄になるなよ。またいい奴に出会えるって」
そんな気休め、正直聞き飽きた。
俺がこれまでいろんなタイプと付き合ってきたのを知っている癖にそれを言うのか?
どんな相手だって藍河に敵うはずがないんだから下手な慰めなんて言わないでほしい。
「そんな慰め聞きたくない!本気で慰める気があるなら抱いてくれ!」
もうやけくそだと思いながら酔いの勢いのままそう口にしたのだが、それを聞いた藍河は一瞬目を丸くした後しょうがないなとため息を吐きながらそっと口づけてくれたのだ。

「へ?」

一瞬何が起こったのか全く分からなかった。
けれどそれが現実なのだと認識するとともに、カッと頭に血が上って動きが止まってしまう。
そんな自分に藍河は「そう怒るなって」と言いながら優しく抱き寄せて言った。
「俺でいいなら抱いてやるから、元気出せ」
(え?え?)
そうしてあれよあれよと言う間にベッドへと連れ込まれ、そのまま丁寧な手つきで愛されて、あっという間に処女を奪われた。

「あ~…まあ、なんだ。すまん…」

やってる最中に自分が処女だと気付いた藍河は申し訳なさそうに謝ってきたが、自分的には嬉しい流れだったので全く構わなかった。
そんなことよりも────。
「藍河~…お前との相性良すぎだろう?もう俺…他の男と寝れない…」
思った以上に具合が良くて、最高に気持ち良かった。
ずっと彼氏がいないって言ってたくせにどうしてこんなにHが上手いんだ?
不思議に思って尋ねるとこいつは笑って止めを刺してくる。
「そんなもん。行きずりに上手そうな奴引っ掛けて遊んでたからに決まってるだろ?」
だよな。
藍河だし。
地味に傷ついていると、こいつはまた追い打ちを掛けるように言ってくる。
「だからさ、友達と寝ちまったなんて罪悪感なんて抱かなくていいし、フラれて慰めてほしくなったらいつでも言ってこい」
また抱いていくらでも慰めてやるからとあっけらかんと笑われた。
(くそっ!藍河の友情が憎い!)
こんな風に言われたら、勢いで付き合ってくれなんて言えないじゃないか!
どこまでも友情の延長線上にいる藍河をこちらになんとか落としてやりたいが、その方法がちっともわからない。
だからもうこう答えるしかないのだろう。
「ああ。じゃあフラれた時はまたよろしく」
そしたらまた確実に抱いてもらえるしな。
今の所それしか抱いてもらえる手段がないのならそれをする以外に選択肢はない。

こうして友人兼セフレな間柄になった自分達なのだが────。

「あぁっ……!」

抱かれる度に実感する。
自分はこの男だけが好きなのだと。

「うぅ…悲しい……ッ」

誰かに振られないと抱いてもらえない現状が悲しすぎて泣けてくる。
けれど藍河はいつも振られたから悲しいんだなと勘違いして優しく慰めてくれるのだ。
「泣くな。俺が慰めてやるから」
そうだそうだ!振り向いてくれないお前が全部悪いんだ!責任持って慰めろ!
そう思いながら身を任せ、いっぱい慰めてくれと口にする。
「諦めたいぃ……ッ」
「そうだな。早く忘れて次の恋を探せ」
「今度こそ忘れられる相手に出会いたい…」
「大丈夫だ。じっくり見極めていい奴を捕まえろ」
「うぅ…絶対そうするッ!」
そうして藍河にしがみつきながら俺は一時の夢の時間に溺れた。


***


「でさ~。皆が皆お前が俺を好きだってからかってくるんだぜ?そうやってなんでもネタにしてくるのって仕事柄仕方がないかもしれないけど、酷いと思わないか?」
今日は藍河に誘われて二人で呑みに来ている。
正直誘われるのは嬉しいが、よりによって愚痴る内容がそれか!
お前は俺の心を抉りに来たのか?!なんて酷い奴だ!
いやいや…落ち着け…。
まあ彼氏ができたと言う報告よりは数十倍良かったとしようじゃないか。
「……お前の所の所員って面白いよな。俺、理解ある奴って好きかも~」
藍河とのこと応援してくれそうだし、いつか挨拶できるといいなぁ。
「はっ?!お前って本当に心広いな。俺には無理だ」
「そうか?まぁ俺はお前の事が好きだし、そんな風に言われても全くOKだけど?」
「いい奴!お前本当にいい奴!この良さがわからない馬鹿なんてこれまでの奴らは絶対にどうかしてる!」
飲め飲めと藍河は酒を注いでくれるけど、俺の良さをわかってない馬鹿の筆頭はお前だよ!
さっさとこっちを向いてくれ!
「何か依頼があればいつでも言ってこいよ?お前の為なら一肌でもふた肌でも脱ぐからな!」
その言葉は嬉しいけれど、何が悲しくて好きな男に好きになれないどうでもいい相手の調査を依頼しないといけないんだ?
面倒臭い。正直絶対ゴメンだね。
「……まあ機会があったら頼む」
「おう!任せとけ!取りあえず新しい恋人だな。もうできたか?」
「まだに決まってるだろう?でも今度こそお前以上に好きになれる奴を捕まえてみせる!」
藍河を落とすためによりハイスペックを捕まえて自分磨きだ!
あわよくばその相手を藍河以上に好きになれたらいい!
(今に見てろよ……!)
そうして気合十分に呟いた自分に藍河が優しい笑みでその意気だと言ってくるのを聞き流し、俺はまた微妙に片思いをこじらせながら心の中で悪態を吐いたのだった。


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