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8.動揺
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尾関がおかしい。
いや。おかしいのは俺か?
見慣れたはずのこいつの姿が何故かここ数日キラキラしている気がするのは気のせいだろうか?
まあ例のストーカー女の件で不安になっていたこいつを全力でサポートしている俺に感謝してということなのだろうが、正直元気になりすぎだと思う。
あんなに不安そうに震えていたのが今ではまるで嘘のようだ。
「藍河!今日の夕飯は何食べたい?肉?魚?」
二人で近所のスーパーへと向かいながら歩いていると、尾関が満面の笑みでそう尋ねてくる。
「…生姜焼きとたけのこご飯が食べたい」
「OK。じゃあそれに、お前が好きな小松菜と大根の味噌汁と例のもやしの和え物つけてやるよ」
「まじか?!あの和え物、ごま油の風味がたまらないんだよな」
自分でも作りたいんだが、なかなか尾関のようにこれといった味付けにならない魅惑の和え物。
それをさり気なく追加してくれるとは……!
「本当。お前いい嫁になるな」
しみじみそう思う。こいつと結婚できる奴は毎日美味い飯が食えるのかと思うとちょっと羨ましくさえ思ってしまう。
「ああ。早く好きな相手と結ばれたい…」
何の前触れもなく尾関が唐突にそう言った。
「そうだな。さっさと問題解決して新しい恋人探したいよな」
こんなことに巻き込まれて本当にツイてない男だと思い、同意するよう相槌を打つ。
「いや?違う違う。ストーカーの件は片付いてほしいけど、そっちはもういいんだ」
「……?」
けれど返ってきた言葉の意味がさっぱり分からなくて首をかしげていると、尾関は俺が分かっていないことを察したのかすぐに笑顔で言葉を足した。
「ほら。今回の件で女って怖いって思ったからさ、当分そういうのはいらないかなって」
「お前……」
なんて可哀想なんだ。
こんな年柄年中ハイスペックな恋人がひっきりなしにいる奴がまさかの恋人要らない宣言をするほど追い詰められたなんて…!
まさにトラウマ的事件だ。
これはあれか?早く運命の相手を見つけたいけど、怖くて恋愛できない的なあれか?
「だからさ?お前に本気の相手ができるまで、俺を恋人代わりに傍においてみないか?」
くっ…!やっぱりそうだ!身近な俺で妥協するなんて本当に傷心なんだな。
「わかった。俺は別に構わないから好きなだけ傍にいろ。その代わり、好きな奴が出来たらちゃんと言うんだぞ?その時は応援してやるから」
「あ~……うん。応援はいらないけど『好きなだけ傍にいていい』っていう言葉だけガッツリもらっとく」
そう言ってやけに嬉しそうに笑うから、思わず後光が差しているように見えてしまった。
(このあたりの清々しい笑みが俺が仕事で会う奴らとは大きく違うんだよな~)
スペックは高いのに普通に場に溶け込み周囲を和ませる空気を持っているところが尾関の凄いところだと思う。
まあ兎にも角にもこいつに恋人が出来ようとなんだろうと自分たちの関係はこのまま一生変わらないのだ。
俺はこの居心地のいい関係が気に入っているし、それさえ壊れなければなんでもいい。
そうして日々を過ごし、尾関が俺のところに相談に来てから二週間が経ったところで相手が動いた。
そろそろかと思っていたところで俺の携帯が鳴り始める。
相手は予想通り尾関の父親だ。
『あ、藍河くん?智也の父だけど』
「藍河です。こんばんは。きましたか?」
その問いかけに電話の向こうで楽しげに笑う声が聞こえた。
『ああ、さすがだね。面白いくらい予想通りだ』
そう。今尾関は自分の家で寝起きして半同居の形に落ち着いている。
だからこそ、例のストーカー女が探偵に頼んで撮影していた写真の数々は実家か直接会社を通じて父親の方へと送られるのではないかと予想していたのだ。
この電話はそれが実行されたという報告に過ぎない。
『いや~。相変わらずの仲の良さで安心したよ。この智也の嬉しそうな顔!良く撮れてるな~』
「そりゃまあ親友同士ですしね」
『ははっ!もうデキてるくせに』
「任意のセフレですよ。それより相手はなんて言ってきましたか?」
軽口はさておいて、相手の出方を知りたい。
そう水を向けると、尾関父はどこか含むようにクスリと笑った。
『智也が親友とデキてる。父親なら早めに引き離すべきだ。跡継ぎが大変な男に捕まってもいいのかだってさ。別にそんなのどうとでもなるし、構わないのにな~』
今の会社はもう息子である智也に任せているし、次代は優秀な者を指名して社長に就かせてもいいし、従弟の子供も優秀だと聞いている上に会社経営に興味もあるようだから今からそちらを育てて将来引き継がせるもよし、いくらでも選択肢はある。
どちらかというと変な女に引っ掛かって『跡継ぎは自分の子に決まってる!』と声高に叫ばれ無能な子を後継に据えられる方が余程怖いと尾関父は言い放った。
『だからさ、さっさとそのストーカーに恋人宣言して追い払ってくれないかな?』
「それはいいですけど、恋人役は俺でいいんですか?」
『もちろん。君以外の適任者はいないし。知ってるか?智也に恋人が出来るたびにそれとなく探りを入れるんだが、私の目に適ったのはこれまで藍河くんだけなんだぞ?』
そこからは何故か尾関父の愚痴を聞く羽目になってしまった。
『女は妙に自信満々だったり媚びた視線を送ってきたり。男の方は妙におどおどしてたり、逆にナルシストだったり。碌な奴がいない!いくらスペックが高くても、人として好きになれん!」
「はあ」
どうも尾関の口から聞く恋人達と尾関父の口から聞く恋人達は印象が違うようだ。
『その点藍河くんはストライク!いつ智也とくっついてくれても問題なし!』
「買いかぶりすぎです。……親子で妥協しないでくださいよ。身近なところで手を打ちすぎでしょう?」
正直ここまでくると最早ため息しか出ない。
『ははっ!まあ気が向いたら前向きに検討してくれたらいいよ。それよりこっちも何か協力しようか?相手を挑発してみたりとか』
「あ~…そうですね。やるにしてもおびき出すのに一役買ってくれるくらいでいいですよ。もし接触してきたらショックだとかなんとか言ってくれる程度で大丈夫なので」
『了解。じゃあそうするよ。そうそう智也の手料理はどうだ?益々腕が上がってるんじゃないかと思うんだが、なかなか食べる機会がなくて…』
「はいはい。じゃあ後で言っておきますよ。この後どうせ迎えに行くんで」
『そうか。まだまだ話し足りないんだけどな…。そうだ!今度こっちに泊りに来ないか?酒でも飲みながらゆっくり話したいし』
「ああ。別にいいですよ?じゃあお勧めの気に入りそうな地酒でも持っていきます」
『そうか?じゃあ楽しみにしてるよ』
「はい。それじゃあまた」
そんな風にクスリと笑って電話を切る。
さすが尾関の父親だ。
話していて全く嫌な気持ちになることがない。
自分の親もこんな感じだったならもっと上手く付き合えたのにと少し残念に思ってしまうがこればかりは比べても仕方がないことだろう。
そうして電話を切った後グッと大きく伸びをすると、そのまま車のキーを手にいつも通り尾関の元へと向かった。
尾関の会社にいつもの通り到着し煙草を吸いながら待っていると、なんだか賑やかなやり取りが耳へと届いてくる。
「だから、離せ!」
「嫌よ!だって智くんは絶対騙されてるんだから!リサが目を覚まさせてあげるの!」
「ふざけるな!恋人でも何でもないくせに俺と藍河の仲に割り込んでくるな!」
「照れなくてもいいじゃない!リサは智くんの彼女でしょ?ちゃんとわかってるからそんなに拗ねないで?」
そんな会話に呆れて思わずため息が出てしまう。
どうやら尾関はストーカー女にいいようにあしらわれているようだ。
これではただの痴話喧嘩にしか見えないし相手の思うつぼだ。
「尾関」
「藍河!」
助かったと言わんばかりにホッとした顔でこちらを向いてくる姿に思わず笑いが込み上げてしまう。
本当に素直でわかりやすい奴だ。
「そんな女放っておいてさっさと俺の家に帰ろう」
「ああ!」
そうしてグイっと尾関の体を引っ張り女から引き離そうとしたところで、女が突然叫びをあげた。
「智くんを離しなさいよ!この極悪ホモ!」
そんな叫びに周囲の目が一気にこちらへと集まってくるがそんなこと、俺の知ったことではない。
気にするとでも思ったのだろうか?
「ハハッ!はいはい。極悪だろうとホモだろうとなんでもいいからこいつは返してもらうぞ?俺の大事な奴をいつまでもストーカー女の好き勝手にさせるわけにはいかないからな」
そうやってあざ笑うかのように口にして挑発してやると、女は明らかに不快気にこちらを睨みつけてきた。
「人の彼氏を勝手に連れて行かないでちょうだい!」
そしてグイっと女が尾関の腕を引こうとしたのでそこを遠慮なく叩き落して尾関を自分の背後へと隠してやった。
「智くん!どうして?!この男に何か弱みでも握られてるの?それとも脅されてる?絶対助けてあげるから、リサのところに戻ってきて!」
うるうると涙目で訴える様は正直周囲の同情を得るにはいい演出だと思う。が────。
「なぁ尾関?お前こいつと付き合ってんの?」
その演出を吹き飛ばすように、はっきりとした口調で本人の前で聞いてやる。
すると尾関はしっかりと頭を横に振りながら、話したこともない赤の他人だと言い放った。
それを聞いたところで俺は女へと向かって楽し気に話を振った。
「こいつは彼女でもなんでもないって言ってるけど?」
けれど女はフンッと鼻で笑い、照れてるだけだと主張し始めた。
「そんなの貴方に弱みでも握られてるからに決まってるでしょ?それに智くんは基本的に照れ屋だし、こんな往来で私を恋人だってアピールするような人じゃないのよ」
そんな言葉に思わずクスリと笑ってしまう。
「照れ屋、照れ屋ねぇ…。言っておくがこいつは全く照れ屋じゃねーぞ?それを証拠に…」
そう言ってグイッとネクタイを引っ掴み、そのまま女の目の前でキスしてやると、驚いたようにしながらも尾関は何故か嬉しそうにそれを受け入れた。
きっとストーカー女に諦めてもらえるなら何でもいいと思ったのだろう。
「ほらな?嬉しそうだろう?」
そうやって笑顔で見せつけてやると、女はわなわなと怒りの表情を浮かべた。
本当にこんな女のメッキを剥ぐのなんて簡単だ。
こうして目の前でいちゃついてやればいいだけの話なんだから。
そして案の定こちらを睨みつけながら顔を真っ赤にさせ、怒り心頭という態で怒鳴りつけてきた。
「な、何してくれてるの?!」
「何って…俺達は恋人同士なんだから別に構わないだろう?」
そっと振り向きながら挑発するように笑ってやると今すぐ離れろと言いながら飛びかかってきたのでさっと避けながら足を引っかけてやったらものの見事にすっころんだ。
「ほら、尾関。こんな勘違い女放っておいてもう行くぞ」
「え?あ、ああ」
そして何事もなかったかのように尾関に声を掛け「帰るぞ」と言ってやると、それを聞いた女がまた大きな声を上げた。
「あんた!パパに言いつけてやるから覚悟しなさいよ?!私にこんなことをしてただで済むなんて思わないことね!」
身元も何もかもわかってるんだぞと言って脅してくる女に正直呆れてしまう。
いい年をして「パパに言いつけてやる」と言ってくるなんてはっきり言って失笑ものだ。
とは言えこの娘にしてこの親ありという可能性もなくはないので、そちらの方も手を打っておくかと思い直した。
けれどそこで尾関が何故かズイッと前へと出てくる。
「……こいつに手を出したら俺が絶対に許さない。どうしてもと言うなら尾関グループを敵に回すことになる覚悟でやるんだな」
おお、男前!
別に庇ってもらわなくても大丈夫だったんだが、普段飄々としているくせにこうして抑えるポイントは外さないってところが尾関の凄いところだよな。
モテるのもよくわかる。
今のは俺でもほんのちょっと目を奪われるほどカッコよかったと思うぞ?
でも────。
「尾関グループを持ち出すまでもなく、俺は紺野グループの裏情報を握っているから大丈夫だ。ストーカー。そっちの出方次第では潰されるのはお前の方だぞ?わかってるのか?」
うちの調査員たちの有能さを甘く見るなよ?
母親の方の会社のお金の横領と私物化、これは主に愛人への貢物と言ったところか。
それとこの女の姉である長女の夫に対する経済的精神的DV、長男の浪費からのヤクザが絡んだ借金までネタは幅広く抑えている。
父親の出方次第ではこれらをネタに脅しにかかってもいい。
これらをチラつかせればわざわざ尾関の手を煩わせることなどないことだろう。
けれどそうやって庇う必要はないと言ってやったのに、尾関の方は引く気がないようで、何故か熱い眼差しで見つめながらたまには自分に花を持たせてくれと訴えてきた。
「俺だって藍河に良いところを見せたいんだから!ここは任せてくれ!」
「ははっ!それ以上良い男になってどうする気だ?あんまりカッコよくなりすぎたら、俺でも即落ちるぞ?」
だからどこか茶化すようにそう言って笑ってやったのに、尾関はその言葉に虚を突かれたように目を丸くし、次の瞬間勝手に俺の唇を熱く奪ってくれた。
「んぅ…?はっ…んんっ…」
そうか。こうしてダメ押しとばかりにストーカー女に見せつけるように熱々カップルをアピールする気なんだな。
いきなりされたらびっくりするじゃないか。
もしかしてさっきの仕返しか?
でもいくらなんでも激しすぎないか?
あんまり上あご裏の弱いところを攻められたらヤリたくなるんだが……?
そんな風に思いながらもされるがままにディープキスを交わしていたんだが、そっと身が離れたところであろうことか尾関が自分を熱く見つめながらプロポーズ紛いの言葉を口にしてきた。
「藍河!前も言ったけど、俺と養子縁組して家族になってくれ!」
「……?」
「親父にも公認なんだし、いいだろう?」
「……」
「それがだめならせめて本気で俺と付き合ってほしい!勿論替えなんて一切考えずonly oneのままでっ!」
……えっと?これは女に見せつけるための演技ということでいいんだよな?
いや待て。落ち着け。
いくらなんでも公開プロポーズは逆効果じゃないか?
逆上されるのが落ちだぞ?
付き合う…のも、今は付き合ってる設定じゃなかったか?
あれ?
そう思って窺うように尾関の顔を見るが、奴の顔は真剣そのもので何を考えているのかさっぱりわからなかった。
まさか…演技関係なく本気で言ってるとかじゃないよな?
思いがけない言葉に何故か心臓がバクバクと弾んでしまう。
(これはとりあえず話を合わせて、それで問題が解決した後で『凄い演技力だったな』と冗談で笑い飛ばしたらそれで…いいんだよな?)
本当に?
俺が内心焦りに焦り、そう思ったのは仕方がないと思う。
だって尾関の目がどこまでも本気のように…真っ直ぐ俺へと向けられているように見えたから。
それはこれまで尾関をそういう目で見たことがなかった俺自身の考えが変わってしまうような…そんな危うい空気を醸し出していたのだ。
「藍河……お前の答えを聞かせてくれないか?」
そんな熱の燻ぶる目で見つめながら切ない声を出してくるなんて反則だ。
これが…友人に、いや親友に向ける眼差しなのだろうか?
なんだその溢れるような色気は。
これはなんだ?
俺は夢でも見ているのか?
「なあ藍河……早く…」
そうしてそっと腰に回された腕が妙に熱を帯びているような気がするのは気のせいか?
自分たちは確かにただの親友ではなくセフレも兼ねた体の関係もある仲ではあるけれど……。
(いつも冗談交じりでここまで俺を相手に本気で口説きにきたことなんてなかったじゃないか!)
そこまで考えたところで急に余裕がなくなって、妙に顔が熱くなるのを感じた。
(なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ……!!)
これまで一度だって尾関を前にこんな気持ちになったことなどなかった。
俺達は確かに友人同士だったはずなのに、一体何が起こってるんだ?!
いきなり目の前の尾関が知らない男になったような気がして、思わず動揺してしまう。
ここは一度逃げるべきだと頭の中で警鐘が鳴るが、体は逃がさないとばかりに尾関の腕の中に捕らわれてしまっている。
それはまるで返事をするまで離さないと言わんばかりだ。
「尾関…?その…そういうことは部屋に帰ってからの方がよくないか?」
正直こんなに動揺していたらこの後の運転にも支障が出そうだと思いながらそう提案すると、尾関は先ほどまでの表情をあっという間に崩し、今度はふわりと優しい眼差しで笑み綻んだ。
そんなギャップにまで俺の鼓動は何故か激しく弾んでしまう。
本当に一体自分の身に何が起こっているのだろう?
知らない間に媚薬でも仕込まれたんだろうか?
「藍河らしいな。まあそこも好きだけど」
そんな言葉に益々顔が赤くなってしまう。
この男は一体どうしてしまったのか…。
(頭のネジでも外れたのか?)
それもこれもストーカー女のせいでこいつに恋人が作れなくなったのが問題なんじゃなかろうか?
そうやってぼんやり考えていると、まさにそのタイミングでその女が大きな声でそのどこか甘ったるい空気を吹き飛ばしてくれた。
「ちょっと!人を無視してイチャついてんじゃないわよ!」
絶叫とも呼べるような大声で叫んだ女の方にそっと視線をやると、般若のような顔でこちらを見つめる女の顔があったのだった。
いや。おかしいのは俺か?
見慣れたはずのこいつの姿が何故かここ数日キラキラしている気がするのは気のせいだろうか?
まあ例のストーカー女の件で不安になっていたこいつを全力でサポートしている俺に感謝してということなのだろうが、正直元気になりすぎだと思う。
あんなに不安そうに震えていたのが今ではまるで嘘のようだ。
「藍河!今日の夕飯は何食べたい?肉?魚?」
二人で近所のスーパーへと向かいながら歩いていると、尾関が満面の笑みでそう尋ねてくる。
「…生姜焼きとたけのこご飯が食べたい」
「OK。じゃあそれに、お前が好きな小松菜と大根の味噌汁と例のもやしの和え物つけてやるよ」
「まじか?!あの和え物、ごま油の風味がたまらないんだよな」
自分でも作りたいんだが、なかなか尾関のようにこれといった味付けにならない魅惑の和え物。
それをさり気なく追加してくれるとは……!
「本当。お前いい嫁になるな」
しみじみそう思う。こいつと結婚できる奴は毎日美味い飯が食えるのかと思うとちょっと羨ましくさえ思ってしまう。
「ああ。早く好きな相手と結ばれたい…」
何の前触れもなく尾関が唐突にそう言った。
「そうだな。さっさと問題解決して新しい恋人探したいよな」
こんなことに巻き込まれて本当にツイてない男だと思い、同意するよう相槌を打つ。
「いや?違う違う。ストーカーの件は片付いてほしいけど、そっちはもういいんだ」
「……?」
けれど返ってきた言葉の意味がさっぱり分からなくて首をかしげていると、尾関は俺が分かっていないことを察したのかすぐに笑顔で言葉を足した。
「ほら。今回の件で女って怖いって思ったからさ、当分そういうのはいらないかなって」
「お前……」
なんて可哀想なんだ。
こんな年柄年中ハイスペックな恋人がひっきりなしにいる奴がまさかの恋人要らない宣言をするほど追い詰められたなんて…!
まさにトラウマ的事件だ。
これはあれか?早く運命の相手を見つけたいけど、怖くて恋愛できない的なあれか?
「だからさ?お前に本気の相手ができるまで、俺を恋人代わりに傍においてみないか?」
くっ…!やっぱりそうだ!身近な俺で妥協するなんて本当に傷心なんだな。
「わかった。俺は別に構わないから好きなだけ傍にいろ。その代わり、好きな奴が出来たらちゃんと言うんだぞ?その時は応援してやるから」
「あ~……うん。応援はいらないけど『好きなだけ傍にいていい』っていう言葉だけガッツリもらっとく」
そう言ってやけに嬉しそうに笑うから、思わず後光が差しているように見えてしまった。
(このあたりの清々しい笑みが俺が仕事で会う奴らとは大きく違うんだよな~)
スペックは高いのに普通に場に溶け込み周囲を和ませる空気を持っているところが尾関の凄いところだと思う。
まあ兎にも角にもこいつに恋人が出来ようとなんだろうと自分たちの関係はこのまま一生変わらないのだ。
俺はこの居心地のいい関係が気に入っているし、それさえ壊れなければなんでもいい。
そうして日々を過ごし、尾関が俺のところに相談に来てから二週間が経ったところで相手が動いた。
そろそろかと思っていたところで俺の携帯が鳴り始める。
相手は予想通り尾関の父親だ。
『あ、藍河くん?智也の父だけど』
「藍河です。こんばんは。きましたか?」
その問いかけに電話の向こうで楽しげに笑う声が聞こえた。
『ああ、さすがだね。面白いくらい予想通りだ』
そう。今尾関は自分の家で寝起きして半同居の形に落ち着いている。
だからこそ、例のストーカー女が探偵に頼んで撮影していた写真の数々は実家か直接会社を通じて父親の方へと送られるのではないかと予想していたのだ。
この電話はそれが実行されたという報告に過ぎない。
『いや~。相変わらずの仲の良さで安心したよ。この智也の嬉しそうな顔!良く撮れてるな~』
「そりゃまあ親友同士ですしね」
『ははっ!もうデキてるくせに』
「任意のセフレですよ。それより相手はなんて言ってきましたか?」
軽口はさておいて、相手の出方を知りたい。
そう水を向けると、尾関父はどこか含むようにクスリと笑った。
『智也が親友とデキてる。父親なら早めに引き離すべきだ。跡継ぎが大変な男に捕まってもいいのかだってさ。別にそんなのどうとでもなるし、構わないのにな~』
今の会社はもう息子である智也に任せているし、次代は優秀な者を指名して社長に就かせてもいいし、従弟の子供も優秀だと聞いている上に会社経営に興味もあるようだから今からそちらを育てて将来引き継がせるもよし、いくらでも選択肢はある。
どちらかというと変な女に引っ掛かって『跡継ぎは自分の子に決まってる!』と声高に叫ばれ無能な子を後継に据えられる方が余程怖いと尾関父は言い放った。
『だからさ、さっさとそのストーカーに恋人宣言して追い払ってくれないかな?』
「それはいいですけど、恋人役は俺でいいんですか?」
『もちろん。君以外の適任者はいないし。知ってるか?智也に恋人が出来るたびにそれとなく探りを入れるんだが、私の目に適ったのはこれまで藍河くんだけなんだぞ?』
そこからは何故か尾関父の愚痴を聞く羽目になってしまった。
『女は妙に自信満々だったり媚びた視線を送ってきたり。男の方は妙におどおどしてたり、逆にナルシストだったり。碌な奴がいない!いくらスペックが高くても、人として好きになれん!」
「はあ」
どうも尾関の口から聞く恋人達と尾関父の口から聞く恋人達は印象が違うようだ。
『その点藍河くんはストライク!いつ智也とくっついてくれても問題なし!』
「買いかぶりすぎです。……親子で妥協しないでくださいよ。身近なところで手を打ちすぎでしょう?」
正直ここまでくると最早ため息しか出ない。
『ははっ!まあ気が向いたら前向きに検討してくれたらいいよ。それよりこっちも何か協力しようか?相手を挑発してみたりとか』
「あ~…そうですね。やるにしてもおびき出すのに一役買ってくれるくらいでいいですよ。もし接触してきたらショックだとかなんとか言ってくれる程度で大丈夫なので」
『了解。じゃあそうするよ。そうそう智也の手料理はどうだ?益々腕が上がってるんじゃないかと思うんだが、なかなか食べる機会がなくて…』
「はいはい。じゃあ後で言っておきますよ。この後どうせ迎えに行くんで」
『そうか。まだまだ話し足りないんだけどな…。そうだ!今度こっちに泊りに来ないか?酒でも飲みながらゆっくり話したいし』
「ああ。別にいいですよ?じゃあお勧めの気に入りそうな地酒でも持っていきます」
『そうか?じゃあ楽しみにしてるよ』
「はい。それじゃあまた」
そんな風にクスリと笑って電話を切る。
さすが尾関の父親だ。
話していて全く嫌な気持ちになることがない。
自分の親もこんな感じだったならもっと上手く付き合えたのにと少し残念に思ってしまうがこればかりは比べても仕方がないことだろう。
そうして電話を切った後グッと大きく伸びをすると、そのまま車のキーを手にいつも通り尾関の元へと向かった。
尾関の会社にいつもの通り到着し煙草を吸いながら待っていると、なんだか賑やかなやり取りが耳へと届いてくる。
「だから、離せ!」
「嫌よ!だって智くんは絶対騙されてるんだから!リサが目を覚まさせてあげるの!」
「ふざけるな!恋人でも何でもないくせに俺と藍河の仲に割り込んでくるな!」
「照れなくてもいいじゃない!リサは智くんの彼女でしょ?ちゃんとわかってるからそんなに拗ねないで?」
そんな会話に呆れて思わずため息が出てしまう。
どうやら尾関はストーカー女にいいようにあしらわれているようだ。
これではただの痴話喧嘩にしか見えないし相手の思うつぼだ。
「尾関」
「藍河!」
助かったと言わんばかりにホッとした顔でこちらを向いてくる姿に思わず笑いが込み上げてしまう。
本当に素直でわかりやすい奴だ。
「そんな女放っておいてさっさと俺の家に帰ろう」
「ああ!」
そうしてグイっと尾関の体を引っ張り女から引き離そうとしたところで、女が突然叫びをあげた。
「智くんを離しなさいよ!この極悪ホモ!」
そんな叫びに周囲の目が一気にこちらへと集まってくるがそんなこと、俺の知ったことではない。
気にするとでも思ったのだろうか?
「ハハッ!はいはい。極悪だろうとホモだろうとなんでもいいからこいつは返してもらうぞ?俺の大事な奴をいつまでもストーカー女の好き勝手にさせるわけにはいかないからな」
そうやってあざ笑うかのように口にして挑発してやると、女は明らかに不快気にこちらを睨みつけてきた。
「人の彼氏を勝手に連れて行かないでちょうだい!」
そしてグイっと女が尾関の腕を引こうとしたのでそこを遠慮なく叩き落して尾関を自分の背後へと隠してやった。
「智くん!どうして?!この男に何か弱みでも握られてるの?それとも脅されてる?絶対助けてあげるから、リサのところに戻ってきて!」
うるうると涙目で訴える様は正直周囲の同情を得るにはいい演出だと思う。が────。
「なぁ尾関?お前こいつと付き合ってんの?」
その演出を吹き飛ばすように、はっきりとした口調で本人の前で聞いてやる。
すると尾関はしっかりと頭を横に振りながら、話したこともない赤の他人だと言い放った。
それを聞いたところで俺は女へと向かって楽し気に話を振った。
「こいつは彼女でもなんでもないって言ってるけど?」
けれど女はフンッと鼻で笑い、照れてるだけだと主張し始めた。
「そんなの貴方に弱みでも握られてるからに決まってるでしょ?それに智くんは基本的に照れ屋だし、こんな往来で私を恋人だってアピールするような人じゃないのよ」
そんな言葉に思わずクスリと笑ってしまう。
「照れ屋、照れ屋ねぇ…。言っておくがこいつは全く照れ屋じゃねーぞ?それを証拠に…」
そう言ってグイッとネクタイを引っ掴み、そのまま女の目の前でキスしてやると、驚いたようにしながらも尾関は何故か嬉しそうにそれを受け入れた。
きっとストーカー女に諦めてもらえるなら何でもいいと思ったのだろう。
「ほらな?嬉しそうだろう?」
そうやって笑顔で見せつけてやると、女はわなわなと怒りの表情を浮かべた。
本当にこんな女のメッキを剥ぐのなんて簡単だ。
こうして目の前でいちゃついてやればいいだけの話なんだから。
そして案の定こちらを睨みつけながら顔を真っ赤にさせ、怒り心頭という態で怒鳴りつけてきた。
「な、何してくれてるの?!」
「何って…俺達は恋人同士なんだから別に構わないだろう?」
そっと振り向きながら挑発するように笑ってやると今すぐ離れろと言いながら飛びかかってきたのでさっと避けながら足を引っかけてやったらものの見事にすっころんだ。
「ほら、尾関。こんな勘違い女放っておいてもう行くぞ」
「え?あ、ああ」
そして何事もなかったかのように尾関に声を掛け「帰るぞ」と言ってやると、それを聞いた女がまた大きな声を上げた。
「あんた!パパに言いつけてやるから覚悟しなさいよ?!私にこんなことをしてただで済むなんて思わないことね!」
身元も何もかもわかってるんだぞと言って脅してくる女に正直呆れてしまう。
いい年をして「パパに言いつけてやる」と言ってくるなんてはっきり言って失笑ものだ。
とは言えこの娘にしてこの親ありという可能性もなくはないので、そちらの方も手を打っておくかと思い直した。
けれどそこで尾関が何故かズイッと前へと出てくる。
「……こいつに手を出したら俺が絶対に許さない。どうしてもと言うなら尾関グループを敵に回すことになる覚悟でやるんだな」
おお、男前!
別に庇ってもらわなくても大丈夫だったんだが、普段飄々としているくせにこうして抑えるポイントは外さないってところが尾関の凄いところだよな。
モテるのもよくわかる。
今のは俺でもほんのちょっと目を奪われるほどカッコよかったと思うぞ?
でも────。
「尾関グループを持ち出すまでもなく、俺は紺野グループの裏情報を握っているから大丈夫だ。ストーカー。そっちの出方次第では潰されるのはお前の方だぞ?わかってるのか?」
うちの調査員たちの有能さを甘く見るなよ?
母親の方の会社のお金の横領と私物化、これは主に愛人への貢物と言ったところか。
それとこの女の姉である長女の夫に対する経済的精神的DV、長男の浪費からのヤクザが絡んだ借金までネタは幅広く抑えている。
父親の出方次第ではこれらをネタに脅しにかかってもいい。
これらをチラつかせればわざわざ尾関の手を煩わせることなどないことだろう。
けれどそうやって庇う必要はないと言ってやったのに、尾関の方は引く気がないようで、何故か熱い眼差しで見つめながらたまには自分に花を持たせてくれと訴えてきた。
「俺だって藍河に良いところを見せたいんだから!ここは任せてくれ!」
「ははっ!それ以上良い男になってどうする気だ?あんまりカッコよくなりすぎたら、俺でも即落ちるぞ?」
だからどこか茶化すようにそう言って笑ってやったのに、尾関はその言葉に虚を突かれたように目を丸くし、次の瞬間勝手に俺の唇を熱く奪ってくれた。
「んぅ…?はっ…んんっ…」
そうか。こうしてダメ押しとばかりにストーカー女に見せつけるように熱々カップルをアピールする気なんだな。
いきなりされたらびっくりするじゃないか。
もしかしてさっきの仕返しか?
でもいくらなんでも激しすぎないか?
あんまり上あご裏の弱いところを攻められたらヤリたくなるんだが……?
そんな風に思いながらもされるがままにディープキスを交わしていたんだが、そっと身が離れたところであろうことか尾関が自分を熱く見つめながらプロポーズ紛いの言葉を口にしてきた。
「藍河!前も言ったけど、俺と養子縁組して家族になってくれ!」
「……?」
「親父にも公認なんだし、いいだろう?」
「……」
「それがだめならせめて本気で俺と付き合ってほしい!勿論替えなんて一切考えずonly oneのままでっ!」
……えっと?これは女に見せつけるための演技ということでいいんだよな?
いや待て。落ち着け。
いくらなんでも公開プロポーズは逆効果じゃないか?
逆上されるのが落ちだぞ?
付き合う…のも、今は付き合ってる設定じゃなかったか?
あれ?
そう思って窺うように尾関の顔を見るが、奴の顔は真剣そのもので何を考えているのかさっぱりわからなかった。
まさか…演技関係なく本気で言ってるとかじゃないよな?
思いがけない言葉に何故か心臓がバクバクと弾んでしまう。
(これはとりあえず話を合わせて、それで問題が解決した後で『凄い演技力だったな』と冗談で笑い飛ばしたらそれで…いいんだよな?)
本当に?
俺が内心焦りに焦り、そう思ったのは仕方がないと思う。
だって尾関の目がどこまでも本気のように…真っ直ぐ俺へと向けられているように見えたから。
それはこれまで尾関をそういう目で見たことがなかった俺自身の考えが変わってしまうような…そんな危うい空気を醸し出していたのだ。
「藍河……お前の答えを聞かせてくれないか?」
そんな熱の燻ぶる目で見つめながら切ない声を出してくるなんて反則だ。
これが…友人に、いや親友に向ける眼差しなのだろうか?
なんだその溢れるような色気は。
これはなんだ?
俺は夢でも見ているのか?
「なあ藍河……早く…」
そうしてそっと腰に回された腕が妙に熱を帯びているような気がするのは気のせいか?
自分たちは確かにただの親友ではなくセフレも兼ねた体の関係もある仲ではあるけれど……。
(いつも冗談交じりでここまで俺を相手に本気で口説きにきたことなんてなかったじゃないか!)
そこまで考えたところで急に余裕がなくなって、妙に顔が熱くなるのを感じた。
(なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ……!!)
これまで一度だって尾関を前にこんな気持ちになったことなどなかった。
俺達は確かに友人同士だったはずなのに、一体何が起こってるんだ?!
いきなり目の前の尾関が知らない男になったような気がして、思わず動揺してしまう。
ここは一度逃げるべきだと頭の中で警鐘が鳴るが、体は逃がさないとばかりに尾関の腕の中に捕らわれてしまっている。
それはまるで返事をするまで離さないと言わんばかりだ。
「尾関…?その…そういうことは部屋に帰ってからの方がよくないか?」
正直こんなに動揺していたらこの後の運転にも支障が出そうだと思いながらそう提案すると、尾関は先ほどまでの表情をあっという間に崩し、今度はふわりと優しい眼差しで笑み綻んだ。
そんなギャップにまで俺の鼓動は何故か激しく弾んでしまう。
本当に一体自分の身に何が起こっているのだろう?
知らない間に媚薬でも仕込まれたんだろうか?
「藍河らしいな。まあそこも好きだけど」
そんな言葉に益々顔が赤くなってしまう。
この男は一体どうしてしまったのか…。
(頭のネジでも外れたのか?)
それもこれもストーカー女のせいでこいつに恋人が作れなくなったのが問題なんじゃなかろうか?
そうやってぼんやり考えていると、まさにそのタイミングでその女が大きな声でそのどこか甘ったるい空気を吹き飛ばしてくれた。
「ちょっと!人を無視してイチャついてんじゃないわよ!」
絶叫とも呼べるような大声で叫んだ女の方にそっと視線をやると、般若のような顔でこちらを見つめる女の顔があったのだった。
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