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居た堪れない空気の中、さてどうやってこの雰囲気を回避しようかと思っていると、何故か視界の端でバドが魔法を使うのを感じた。
使っている魔法自体はとても単純な手を綺麗にする洗浄魔法【クリーン】だ。
普通なら誰も気にも留めないものでしかないし、その証拠にバドの側に居る者の中でそれを気にするものは誰一人いなかった。
でも俺からしたらそれはただの自虐行為としか思えないもので…。
「あのバカ…!」
何でいきなりこの場で必要もないのにそんな魔法を使ったんだと沸々と怒りが湧いてきてしまう。
だから俺は軽く舌打ちしてすぐさま席を立つと、ズンズンとバドの傍まで行き、顔色が悪くなったバドの胸倉を掴み上げて勢いよく口づけた。
「ん……」
魔力の乗った唾液を流し込むようにしっかり口づけ、さっさと呑み込めと言わんばかりにグイッと顔を上向けてやる。
周りは突然の俺の行為に驚き、唖然としているようだったがそんなものは関係ない。
雰囲気よりも人命優先だ。
(全く、何考えてんだよ?!)
前回魔力を補給してから結構経っているこのタイミングで魔法を使うなんて自殺行為もいいところだ。
下手をすれば一気に枯渇状態になってもおかしくはない。
症状はだいぶ改善されているからと言っても完治したわけではないから、魔法なんて使ったらあっという間に病状は進むし、馬鹿も大概にしてほしい。
そしてしっかりと顔色が戻ったのを確認して説教をしにかかる。
「まだ魔素摂取障害は治りきってないんだぞ?!あんな些細な魔法でも下手をしたら命取りだ!わかってるのか?!」
「う……す、すまなかった」
「謝るくらいなら最初からするな!大体いつもいつも心配ばかり掛けて!本当に俺より年上か?!」
「…………」
しょんぼり肩を落としているから少しは反省してくれているだろうけど、本当に何を考えているのかさっぱりわからない。
そんな怒り心頭の俺にリオが困ったように声を掛けてくる。
「ルル。落ち着いてくれ」
「これが落ち着いていられるか!折角のリオのお茶会だって台無しにされたようなものだろう?!」
「……まあそうだが、取り敢えずその手を離して部屋で休ませてやったらどうだ?」
『体調が悪いんだろう?』とリオは心配して言ってくれるけど、今やったのはただの応急処置でしかないし、部屋に行って横になっているだけでは全く治らないだろう。
「はぁ…。悪い。リオには申し訳ないけど、補給してくる」
「……っ。ルル…」
リオが悲しそうに俺を見てくるけど、このまま放っておくなんてできるはずがない。
それが分かっているからリオは口を噤んだ。
でもそれを良しとしなかったのは茶会の出席者達だ。
「ルルナス王子!それは流石にマリオン王子が可哀想なのでは?」
「そうですよ!こんなにルルナス王子のことを想ってくださってるのにあんまりです!」
皆俺がこれからバドに魔力を補給する方法をそれとなく理解しているんだろう。
口々にそんなことを言いながらバドに非難の目を向け始めた。
でも申し訳ないが正直言って俺はそれは見当違いの意見としか思えなかった。
だってリオとは別に婚約者という関係でも恋人同士というわけでも何でもないのだから。
(はぁ…この際はっきりさせておくか)
黙って流されていた自分も悪いし、ここは皆の非難の目をバドから自分へと向けさせて、それを甘んじて受けようと腹を決める。
「リオと俺は別に婚約が決まっているわけでも恋人同士だというわけでもない。その上で言うけど、バドを助けるの俺の義務だ。だからここで一番優先させるのはリオじゃなくバドだと思っている」
きっぱりとそう主張して────。
「リオ。はっきりしない俺も悪かった。一緒に居て全然嫌じゃなかったからつい流されて勘違いさせて悪かったと思ってる」
「ルルッ!」
「ごめんな?俺はこう言う優柔不断で気遣いもできない酷い奴だから、もっとリオを大事にしてくれるしっかりした可愛くて優しい相手を見つけて幸せになってほしいと思う」
心は痛むけど、ここで言わないときっとリオは諦めないと思ったから、ちゃんと真摯に目を見て『諦めてほしい』と告げた。
俺の言葉に傷ついたようにリオの顔が歪む。
期待を持たせてしまっていた分、きっとショックは大きかったんだと思う。
一途に想いを伝えてくれていただけに罪悪感が湧いてしまうし、本当に申し訳ないと思った。
でもこのままズルズルこんな中途半端な状態を続けるのはリオにとっても良くないと思うんだ。
恨まれても仕方がないし、嫌われて当然の酷い言葉を投げつけた俺なんて忘れて幸せになってほしい。
「俺のことは忘れてほしい」
最初でこそせめて友達に慣れたらとも思ったけど、半端に付き合ったらリオが辛いだけだし仕方がない。
周囲は重くなった空気にどうしていいのかわからず固まっているけど、俺は言うだけ言うとそのまま踵を返してバドの腕を取った。
「バド。行くぞ」
「ルース…」
「歩けるか?」
「……ああ」
そう答えは返ってきたもののちっとも歩き出す様子が見られなかったから、やっぱり辛いんじゃないかと思って俺は重さ軽減の魔法をかけてやって、そのままグイッと引き寄せすくい上げる様に横抱きにした。
「?!?!?!」
バドが突然のその行為に驚いて暴れそうになったから、病人は大人しくしてろと叱りつけスタスタと部屋へと歩いていく。
正直俺は後ろでリオがどんな顔をしているのかを見る勇気はなかった。
(ごめんな。リオ)
そうして俺は複雑な心境で茶会から脱出したのだった。
使っている魔法自体はとても単純な手を綺麗にする洗浄魔法【クリーン】だ。
普通なら誰も気にも留めないものでしかないし、その証拠にバドの側に居る者の中でそれを気にするものは誰一人いなかった。
でも俺からしたらそれはただの自虐行為としか思えないもので…。
「あのバカ…!」
何でいきなりこの場で必要もないのにそんな魔法を使ったんだと沸々と怒りが湧いてきてしまう。
だから俺は軽く舌打ちしてすぐさま席を立つと、ズンズンとバドの傍まで行き、顔色が悪くなったバドの胸倉を掴み上げて勢いよく口づけた。
「ん……」
魔力の乗った唾液を流し込むようにしっかり口づけ、さっさと呑み込めと言わんばかりにグイッと顔を上向けてやる。
周りは突然の俺の行為に驚き、唖然としているようだったがそんなものは関係ない。
雰囲気よりも人命優先だ。
(全く、何考えてんだよ?!)
前回魔力を補給してから結構経っているこのタイミングで魔法を使うなんて自殺行為もいいところだ。
下手をすれば一気に枯渇状態になってもおかしくはない。
症状はだいぶ改善されているからと言っても完治したわけではないから、魔法なんて使ったらあっという間に病状は進むし、馬鹿も大概にしてほしい。
そしてしっかりと顔色が戻ったのを確認して説教をしにかかる。
「まだ魔素摂取障害は治りきってないんだぞ?!あんな些細な魔法でも下手をしたら命取りだ!わかってるのか?!」
「う……す、すまなかった」
「謝るくらいなら最初からするな!大体いつもいつも心配ばかり掛けて!本当に俺より年上か?!」
「…………」
しょんぼり肩を落としているから少しは反省してくれているだろうけど、本当に何を考えているのかさっぱりわからない。
そんな怒り心頭の俺にリオが困ったように声を掛けてくる。
「ルル。落ち着いてくれ」
「これが落ち着いていられるか!折角のリオのお茶会だって台無しにされたようなものだろう?!」
「……まあそうだが、取り敢えずその手を離して部屋で休ませてやったらどうだ?」
『体調が悪いんだろう?』とリオは心配して言ってくれるけど、今やったのはただの応急処置でしかないし、部屋に行って横になっているだけでは全く治らないだろう。
「はぁ…。悪い。リオには申し訳ないけど、補給してくる」
「……っ。ルル…」
リオが悲しそうに俺を見てくるけど、このまま放っておくなんてできるはずがない。
それが分かっているからリオは口を噤んだ。
でもそれを良しとしなかったのは茶会の出席者達だ。
「ルルナス王子!それは流石にマリオン王子が可哀想なのでは?」
「そうですよ!こんなにルルナス王子のことを想ってくださってるのにあんまりです!」
皆俺がこれからバドに魔力を補給する方法をそれとなく理解しているんだろう。
口々にそんなことを言いながらバドに非難の目を向け始めた。
でも申し訳ないが正直言って俺はそれは見当違いの意見としか思えなかった。
だってリオとは別に婚約者という関係でも恋人同士というわけでも何でもないのだから。
(はぁ…この際はっきりさせておくか)
黙って流されていた自分も悪いし、ここは皆の非難の目をバドから自分へと向けさせて、それを甘んじて受けようと腹を決める。
「リオと俺は別に婚約が決まっているわけでも恋人同士だというわけでもない。その上で言うけど、バドを助けるの俺の義務だ。だからここで一番優先させるのはリオじゃなくバドだと思っている」
きっぱりとそう主張して────。
「リオ。はっきりしない俺も悪かった。一緒に居て全然嫌じゃなかったからつい流されて勘違いさせて悪かったと思ってる」
「ルルッ!」
「ごめんな?俺はこう言う優柔不断で気遣いもできない酷い奴だから、もっとリオを大事にしてくれるしっかりした可愛くて優しい相手を見つけて幸せになってほしいと思う」
心は痛むけど、ここで言わないときっとリオは諦めないと思ったから、ちゃんと真摯に目を見て『諦めてほしい』と告げた。
俺の言葉に傷ついたようにリオの顔が歪む。
期待を持たせてしまっていた分、きっとショックは大きかったんだと思う。
一途に想いを伝えてくれていただけに罪悪感が湧いてしまうし、本当に申し訳ないと思った。
でもこのままズルズルこんな中途半端な状態を続けるのはリオにとっても良くないと思うんだ。
恨まれても仕方がないし、嫌われて当然の酷い言葉を投げつけた俺なんて忘れて幸せになってほしい。
「俺のことは忘れてほしい」
最初でこそせめて友達に慣れたらとも思ったけど、半端に付き合ったらリオが辛いだけだし仕方がない。
周囲は重くなった空気にどうしていいのかわからず固まっているけど、俺は言うだけ言うとそのまま踵を返してバドの腕を取った。
「バド。行くぞ」
「ルース…」
「歩けるか?」
「……ああ」
そう答えは返ってきたもののちっとも歩き出す様子が見られなかったから、やっぱり辛いんじゃないかと思って俺は重さ軽減の魔法をかけてやって、そのままグイッと引き寄せすくい上げる様に横抱きにした。
「?!?!?!」
バドが突然のその行為に驚いて暴れそうになったから、病人は大人しくしてろと叱りつけスタスタと部屋へと歩いていく。
正直俺は後ろでリオがどんな顔をしているのかを見る勇気はなかった。
(ごめんな。リオ)
そうして俺は複雑な心境で茶会から脱出したのだった。
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