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54.只今弟の代理中 Side.ジードリオ
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困った。
非常に困った。
取り敢えずマリオン王子を落ち着かせる意味合いであの場で弟になり切ったものの、それはただの一時凌ぎでしかない。
当然マリオン王子は落ち着いたらルルナスを探す。
父や兄達に報告はしたけれど、ヴァーリアがルルナスから聞いた計画によると、すぐには帰ってこないことが判明。
流石にルルナスが帰ってくるまでずっと隠し通せるはずがない。
「取り敢えず遠方に視察に行かせたことにしておいたらどうでしょう?」
「マリオン王子は第一魔法が闇だぞ?影伝いに会いに行くと言い出しかねない。却下だ」
すぐにバレるような嘘はマズいと父は言う。
「ですが、ルルナスが異世界に行ったとバレればまた同じように魔力暴走が起こるかもしれません」
それは流石に本意ではない。
弟のせいでマリオン王子をこれ以上傷つけるのも可哀想だし、なんとか上手い手はないものだろうか?
そう思っていたら、兄が『どうしてもの時はお前がルルナスになって誤魔化せ』と言い出した。
兄曰く、ルルナスが城にいないのはマリオン王子にとって大問題だが、次兄であるジードリオがいないのは気にしないだろうとのこと。
つまり俺、ジードリオが視察に行っている設定にして、俺自身はルルナスに擬態しておけばいいと。
「酷いです!それでは騎士団の方に全然行けないではありませんか!」
弟に擬態するなら研究所に行かないといけない。
もしそうなっても何をやっていいかさっぱりわからないし、そんな無駄な時間があるなら鍛錬がしたい。
ただでさえ筋肉がつきにくい身体なのに、鍛錬を疎かにすればあっという間に腕が鈍ってしまう。
確実に討伐遠征の際に支障が出るし、できればそれだけは避けたい。
そう主張したら、それなら視察の話はやめにして普段は自分自身として過ごし、必要に合わせてルルナスに擬態しろと言われた。
そして結局城の者達に緘口令を敷き、マリオン王子がルルナスを探していたら即俺へ連絡が入るようにすれば対応は可能だろうとその場で話は決められた。
まあそれなら大丈夫だろう。
俺もそう思ったから渋々頷いたのだけど────。
「ルル。今日はルルの好きな菓子と俺の好きな菓子を用意してもらった。いつもはルルの好きなものしか用意してもらってなかったが、これからは俺の好きなものも沢山知ってほしい」
そう言ってお茶に誘ってくれたマリオン王子。
しかも至れり尽くせりのオマケ付き。
エスコートは完璧だ。
本当にこれで自分より5つも年下なのか?
なかなかここまで細やかに気遣いができる男はいないぞ?
少なくとも俺の周りにいる騎士団の者達の中には全くいないだろう。
ある意味新鮮で、あまりの甘さに勝手に頬が熱くなる。
(これはルルナスもなかなか突っぱねられないわけだ)
こんなに愛おしそうな眼差しを向けられ続けたら絶対に無碍にはできそうにない。
「ルル」
そう言いながら色っぽい表情でスプーンに乗せられたパンナコッタが口元へとそっと差し出され、俺は真っ赤になった。
こんなこと、俺は一度もされたことがない。
でもここは食べる一択だろう。
そう思い、覚悟を決めて思い切ってパクッとそれを口にする。
「どうだ?」
そう尋ねられ、モグモグと咀嚼する。
(なるほど。これくらいの甘さ加減がマリオン王子の好みか。俺と似てるな)
俺も疲れた時は甘い物を好んで食べるが、普段はこれくらい程よい甘みくらいがちょうどいい。
(それならサニー菓子店のケーキはマリオン王子の口にも合うだろうな)
城のパティシエが作ったものも当然美味しいが、街で食べる機会が多い自分なら店にも詳しい。
その中でもサニー菓子店のケーキは俺好みの甘さ加減だからきっとマリオン王子の口にも合うだろう。
「美味しい。リオはこれくらいの甘さが好みか?」
「ああ。甘すぎるよりはこれくらいの方が好きだ」
「そうか。じゃあ今度サニー菓子店というところに一緒に行かないか?きっと気に入ると思う」
「……っ!いいのか?」
「もちろん。甘さが控えめでどのケーキも美味しいんだ。紅茶にもよく合うから、そっちの好みも教えてもらえたら嬉しい」
ついでにマリオン王子好みの紅茶もリサーチしてルルナスに教えてやろう。
仲良くなる切っ掛けになるかもしれないし。
そう思って提案しただけだったのに、言われた方のマリオン王子はなんだかちょっと泣きそうな顔になっていて慌ててしまった。
「どうした?!」
「いや…。ルルに誘われたのが初めてで…すまない」
どうやら嬉しすぎて感動したらしい。
こんなところもマリオン王子は可愛い。
(と言うか、ルルナス。ちゃんと誘ってやれよ…)
魔法開発大好きな研究バカなのは知っているし、気が利かないのも知ってはいるけど、流石にこれはあんまりだろう。
可哀想に。
大人と子供の境界線にいるマリオン王子。
そんなマリオン王子をもっと甘やかしてやったらどうなるんだろう?
ちょっとだけそんな風に思ってしまった。
そしてその翌日、俺は早速マリオン王子を連れてサニー菓子店へとやってきた。
その菓子店はカフェスペースも広くとってあり、男性だけでも入りやすいように木の温もりが感じられるようなテーブルが上手に配置されている落ち着く店だから、きっとマリオン王子にもゆっくり寛ぎながらケーキを堪能してもらえるだろう。
弟に振り回され続けたマリオン王子の気持ちがこれで少しでも癒されればいいのだが。
「……凄く落ち着く店だな」
「そうだろう?俺のお気に入りなんだ」
そう言って俺は早速予約しておいた特等席へとマリオン王子を連れて行く。
勝手知ったる店だからメニューをマリオン王子に見せながらどれにするかを尋ねてみた。
「リオ。どれにする?」
「ルルのお勧めは?」
「俺のお勧めはこっちのチーズケーキ。でもリオの好みで選んでくれても全然大丈夫だ。ここのはどれも甘さ控えめで美味しいから、きっとどれでも口に合うと思う」
「そうか。それなら俺はモンブランにするから、シェアしないか?」
「え…?」
「こういう場所でルルと恋人同士のようにやってみるのが夢だったんだ」
「そ、そうか」
これは俺が代理なのはまずいのではないかと思ったが、マリオン王子からすればルルナスとのデートなのだし、言っても仕方のないことなのだろう。
ルルナスが帰ってきたら謝るとして、ここは腹を決めよう。
「えっと…紅茶はどうする?」
「そうだな。じゃあアッサムで」
「俺はダージリンにしようかな」
そして注文を済ませてボロが出ないように積極的にマリオン王子に話を振った。
俺だと魔法の話をルルナスのように話し続けるなんて不可能だし、その方がいいと思ってのことだったが、マリオン王子はそれをルルナスが自分に興味を持ってくれたととらえたらしく、凄く嬉しそうに色々話してくれる。
なんだか良心が痛むが背に腹は代えられない。
しっかり聞いて覚えて後でノートにまとめておこう。
ルルナスが帰ってきたらそのノートをしっかり読み込んで覚えるように言い聞かせないと。
どうやらマリオン王子は凄く努力家のようで、ルルナスに好きになってもらえるように幼い日からありとあらゆることに挑戦していたらしい。
剣や体術などもこちらに来てからもちゃんと欠かさず鍛錬は続けているようだし、本も沢山読んでいて知識も豊富で話し上手。
正直一緒に居て話題に困ることがない。
「あ、でも剣は実戦経験はあるのか?」
「実戦?模擬戦くらいはあるが…」
「人相手と魔物相手だと割と違うから、もしないならそっちの経験はしておいた方がいいぞ」
騎士でもたまにいるのだ。
人相手にそこそこ勝てるからと実戦を甘く見ている奴が。
(まあそんなのは大抵新人だけど)
魔物は上からも攻撃してくるし、飛び掛かってくるから人相手とは大きく違う。
だからこそ実戦経験はちゃんとしておくべきなのだ。
剣だけじゃなく魔法もできるから大丈夫などと考えていたら大怪我にも繋がりかねない。
人は咄嗟の時に慣れた行動しかできないものなのだから。
そう思ってアドバイスしたのだけど、言われた方のマリオン王子は物凄く目を丸くしていた。
しまった。
もしかしたら今のはルルナスらしくなかったかもしれない。
「…ってこの間、ジードリオ兄上が教えてくれたんだ」
(これで誤魔化せるか?)
「そうか。ジードリオ殿は二番目の兄上だな」
「そう。兄上…あ、エーデルト兄上は城での執務が多いけど、ジードリオ兄上は騎士団に入ってるから視察や遠征が多いし、詳しいんだ」
自分の名前を兄上呼びで言うのってなんか恥ずかしいな。
物凄くムズムズする。
でも仕方がない。
ここは我慢だ。
疑われないのが一番大事だしな。
「なるほど。心配して色々教えてくれるのか。ルルは兄君と本当に仲が良いし、可愛がってもらっているものな」
柔らかく微笑むマリオン王子。
どうやら納得してもらえたようでホッと息を吐く。
(ふむふむ。一杯目はそのままの香りを楽しんで、二杯目はミルクを入れるんだな。砂糖はなし、と)
そしてその後も話をしながらこういったところをきっちりチェック。
こんなところもマリオン王子は俺と好みが一緒だから覚えやすい。
「ルル。チーズケーキを貰ってもいいか?」
そしてそんな風にお伺いを立ててくるマリオン王子に、なんだか甘えてもらえたように思えて思わず笑ってしまった。
「いいぞ。はい、あーん」
してもらう方は不慣れだけど、こっちの方は得意だ。
妹にも弟にもしてあげたことはあるし。
だから特に考えることなくしてしまったのだけど、マリオン王子はちょっと照れたような顔をした後で満面の笑みでそっとそれを口にした。
物凄く嬉しそうな顔にこっちの頬も知らず緩んでしまう。
(もっと食べさせてやりたいな)
自分の食べる分は別にどうでもいいから、もっとしてやりたい気分になって、俺は小鳥の餌やりのように次々口に運んでやったのだけど、途中でストップが入ってそっと手を取られ、チュッと口づけを落とされてしまう。
「ルル。俺もお前に食べさせてやりたいから、ちょっとは譲ってくれないか?」
そう言ってさっきまで子供らしい顔をしていたのに急に大人っぽい顔で色っぽくこっちを見てくるから、思わずドキッと胸が弾んだ。
マリオン王子のこれは本当に心臓に悪い。
「そ、それじゃあ今度はリオに食べさせてもらおうかな」
なんとか動揺を押し隠し、俺がそう口にすると『楽しそうなルルの顔もいいが、照れてるルルも可愛いな』なんて言われてしまった。
勘弁してほしい。
非常に困った。
取り敢えずマリオン王子を落ち着かせる意味合いであの場で弟になり切ったものの、それはただの一時凌ぎでしかない。
当然マリオン王子は落ち着いたらルルナスを探す。
父や兄達に報告はしたけれど、ヴァーリアがルルナスから聞いた計画によると、すぐには帰ってこないことが判明。
流石にルルナスが帰ってくるまでずっと隠し通せるはずがない。
「取り敢えず遠方に視察に行かせたことにしておいたらどうでしょう?」
「マリオン王子は第一魔法が闇だぞ?影伝いに会いに行くと言い出しかねない。却下だ」
すぐにバレるような嘘はマズいと父は言う。
「ですが、ルルナスが異世界に行ったとバレればまた同じように魔力暴走が起こるかもしれません」
それは流石に本意ではない。
弟のせいでマリオン王子をこれ以上傷つけるのも可哀想だし、なんとか上手い手はないものだろうか?
そう思っていたら、兄が『どうしてもの時はお前がルルナスになって誤魔化せ』と言い出した。
兄曰く、ルルナスが城にいないのはマリオン王子にとって大問題だが、次兄であるジードリオがいないのは気にしないだろうとのこと。
つまり俺、ジードリオが視察に行っている設定にして、俺自身はルルナスに擬態しておけばいいと。
「酷いです!それでは騎士団の方に全然行けないではありませんか!」
弟に擬態するなら研究所に行かないといけない。
もしそうなっても何をやっていいかさっぱりわからないし、そんな無駄な時間があるなら鍛錬がしたい。
ただでさえ筋肉がつきにくい身体なのに、鍛錬を疎かにすればあっという間に腕が鈍ってしまう。
確実に討伐遠征の際に支障が出るし、できればそれだけは避けたい。
そう主張したら、それなら視察の話はやめにして普段は自分自身として過ごし、必要に合わせてルルナスに擬態しろと言われた。
そして結局城の者達に緘口令を敷き、マリオン王子がルルナスを探していたら即俺へ連絡が入るようにすれば対応は可能だろうとその場で話は決められた。
まあそれなら大丈夫だろう。
俺もそう思ったから渋々頷いたのだけど────。
「ルル。今日はルルの好きな菓子と俺の好きな菓子を用意してもらった。いつもはルルの好きなものしか用意してもらってなかったが、これからは俺の好きなものも沢山知ってほしい」
そう言ってお茶に誘ってくれたマリオン王子。
しかも至れり尽くせりのオマケ付き。
エスコートは完璧だ。
本当にこれで自分より5つも年下なのか?
なかなかここまで細やかに気遣いができる男はいないぞ?
少なくとも俺の周りにいる騎士団の者達の中には全くいないだろう。
ある意味新鮮で、あまりの甘さに勝手に頬が熱くなる。
(これはルルナスもなかなか突っぱねられないわけだ)
こんなに愛おしそうな眼差しを向けられ続けたら絶対に無碍にはできそうにない。
「ルル」
そう言いながら色っぽい表情でスプーンに乗せられたパンナコッタが口元へとそっと差し出され、俺は真っ赤になった。
こんなこと、俺は一度もされたことがない。
でもここは食べる一択だろう。
そう思い、覚悟を決めて思い切ってパクッとそれを口にする。
「どうだ?」
そう尋ねられ、モグモグと咀嚼する。
(なるほど。これくらいの甘さ加減がマリオン王子の好みか。俺と似てるな)
俺も疲れた時は甘い物を好んで食べるが、普段はこれくらい程よい甘みくらいがちょうどいい。
(それならサニー菓子店のケーキはマリオン王子の口にも合うだろうな)
城のパティシエが作ったものも当然美味しいが、街で食べる機会が多い自分なら店にも詳しい。
その中でもサニー菓子店のケーキは俺好みの甘さ加減だからきっとマリオン王子の口にも合うだろう。
「美味しい。リオはこれくらいの甘さが好みか?」
「ああ。甘すぎるよりはこれくらいの方が好きだ」
「そうか。じゃあ今度サニー菓子店というところに一緒に行かないか?きっと気に入ると思う」
「……っ!いいのか?」
「もちろん。甘さが控えめでどのケーキも美味しいんだ。紅茶にもよく合うから、そっちの好みも教えてもらえたら嬉しい」
ついでにマリオン王子好みの紅茶もリサーチしてルルナスに教えてやろう。
仲良くなる切っ掛けになるかもしれないし。
そう思って提案しただけだったのに、言われた方のマリオン王子はなんだかちょっと泣きそうな顔になっていて慌ててしまった。
「どうした?!」
「いや…。ルルに誘われたのが初めてで…すまない」
どうやら嬉しすぎて感動したらしい。
こんなところもマリオン王子は可愛い。
(と言うか、ルルナス。ちゃんと誘ってやれよ…)
魔法開発大好きな研究バカなのは知っているし、気が利かないのも知ってはいるけど、流石にこれはあんまりだろう。
可哀想に。
大人と子供の境界線にいるマリオン王子。
そんなマリオン王子をもっと甘やかしてやったらどうなるんだろう?
ちょっとだけそんな風に思ってしまった。
そしてその翌日、俺は早速マリオン王子を連れてサニー菓子店へとやってきた。
その菓子店はカフェスペースも広くとってあり、男性だけでも入りやすいように木の温もりが感じられるようなテーブルが上手に配置されている落ち着く店だから、きっとマリオン王子にもゆっくり寛ぎながらケーキを堪能してもらえるだろう。
弟に振り回され続けたマリオン王子の気持ちがこれで少しでも癒されればいいのだが。
「……凄く落ち着く店だな」
「そうだろう?俺のお気に入りなんだ」
そう言って俺は早速予約しておいた特等席へとマリオン王子を連れて行く。
勝手知ったる店だからメニューをマリオン王子に見せながらどれにするかを尋ねてみた。
「リオ。どれにする?」
「ルルのお勧めは?」
「俺のお勧めはこっちのチーズケーキ。でもリオの好みで選んでくれても全然大丈夫だ。ここのはどれも甘さ控えめで美味しいから、きっとどれでも口に合うと思う」
「そうか。それなら俺はモンブランにするから、シェアしないか?」
「え…?」
「こういう場所でルルと恋人同士のようにやってみるのが夢だったんだ」
「そ、そうか」
これは俺が代理なのはまずいのではないかと思ったが、マリオン王子からすればルルナスとのデートなのだし、言っても仕方のないことなのだろう。
ルルナスが帰ってきたら謝るとして、ここは腹を決めよう。
「えっと…紅茶はどうする?」
「そうだな。じゃあアッサムで」
「俺はダージリンにしようかな」
そして注文を済ませてボロが出ないように積極的にマリオン王子に話を振った。
俺だと魔法の話をルルナスのように話し続けるなんて不可能だし、その方がいいと思ってのことだったが、マリオン王子はそれをルルナスが自分に興味を持ってくれたととらえたらしく、凄く嬉しそうに色々話してくれる。
なんだか良心が痛むが背に腹は代えられない。
しっかり聞いて覚えて後でノートにまとめておこう。
ルルナスが帰ってきたらそのノートをしっかり読み込んで覚えるように言い聞かせないと。
どうやらマリオン王子は凄く努力家のようで、ルルナスに好きになってもらえるように幼い日からありとあらゆることに挑戦していたらしい。
剣や体術などもこちらに来てからもちゃんと欠かさず鍛錬は続けているようだし、本も沢山読んでいて知識も豊富で話し上手。
正直一緒に居て話題に困ることがない。
「あ、でも剣は実戦経験はあるのか?」
「実戦?模擬戦くらいはあるが…」
「人相手と魔物相手だと割と違うから、もしないならそっちの経験はしておいた方がいいぞ」
騎士でもたまにいるのだ。
人相手にそこそこ勝てるからと実戦を甘く見ている奴が。
(まあそんなのは大抵新人だけど)
魔物は上からも攻撃してくるし、飛び掛かってくるから人相手とは大きく違う。
だからこそ実戦経験はちゃんとしておくべきなのだ。
剣だけじゃなく魔法もできるから大丈夫などと考えていたら大怪我にも繋がりかねない。
人は咄嗟の時に慣れた行動しかできないものなのだから。
そう思ってアドバイスしたのだけど、言われた方のマリオン王子は物凄く目を丸くしていた。
しまった。
もしかしたら今のはルルナスらしくなかったかもしれない。
「…ってこの間、ジードリオ兄上が教えてくれたんだ」
(これで誤魔化せるか?)
「そうか。ジードリオ殿は二番目の兄上だな」
「そう。兄上…あ、エーデルト兄上は城での執務が多いけど、ジードリオ兄上は騎士団に入ってるから視察や遠征が多いし、詳しいんだ」
自分の名前を兄上呼びで言うのってなんか恥ずかしいな。
物凄くムズムズする。
でも仕方がない。
ここは我慢だ。
疑われないのが一番大事だしな。
「なるほど。心配して色々教えてくれるのか。ルルは兄君と本当に仲が良いし、可愛がってもらっているものな」
柔らかく微笑むマリオン王子。
どうやら納得してもらえたようでホッと息を吐く。
(ふむふむ。一杯目はそのままの香りを楽しんで、二杯目はミルクを入れるんだな。砂糖はなし、と)
そしてその後も話をしながらこういったところをきっちりチェック。
こんなところもマリオン王子は俺と好みが一緒だから覚えやすい。
「ルル。チーズケーキを貰ってもいいか?」
そしてそんな風にお伺いを立ててくるマリオン王子に、なんだか甘えてもらえたように思えて思わず笑ってしまった。
「いいぞ。はい、あーん」
してもらう方は不慣れだけど、こっちの方は得意だ。
妹にも弟にもしてあげたことはあるし。
だから特に考えることなくしてしまったのだけど、マリオン王子はちょっと照れたような顔をした後で満面の笑みでそっとそれを口にした。
物凄く嬉しそうな顔にこっちの頬も知らず緩んでしまう。
(もっと食べさせてやりたいな)
自分の食べる分は別にどうでもいいから、もっとしてやりたい気分になって、俺は小鳥の餌やりのように次々口に運んでやったのだけど、途中でストップが入ってそっと手を取られ、チュッと口づけを落とされてしまう。
「ルル。俺もお前に食べさせてやりたいから、ちょっとは譲ってくれないか?」
そう言ってさっきまで子供らしい顔をしていたのに急に大人っぽい顔で色っぽくこっちを見てくるから、思わずドキッと胸が弾んだ。
マリオン王子のこれは本当に心臓に悪い。
「そ、それじゃあ今度はリオに食べさせてもらおうかな」
なんとか動揺を押し隠し、俺がそう口にすると『楽しそうなルルの顔もいいが、照れてるルルも可愛いな』なんて言われてしまった。
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みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
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