73 / 77
番外編1.その後の二人 Side.ジードリオ
しおりを挟む
マリオン王子と二人で街に出掛けたあの日から、基本二人で話す時限定ではあるものの、俺はマリオン王子を『リオ』と呼び、彼は俺を『ランス』と呼ぶようになった。
リオの柔らかな眼差しが俺へと向けられ、穏やかに『ランス』と呼ばれる。
それだけで頬が勝手に緩んで、妙に照れ臭くなり、どうしようもなく胸が弾んだ。
リオだけが呼ぶ俺の名前。
それが嬉しくて、どうしても心が浮き立ってしまう。
そんな浮かれている空気が伝わったんだろう。
同僚から『ジードリオ王子。もしかしてマリオン王子と良い感じなんですか?』なんて揶揄われた。
「そんなんじゃない。でも愛称で呼んでもらえるようにもなったし、年の離れた友人くらいには思ってもらえてるかもしれないな」
一方通行の恋だけど、俺にとってはそれだけでも十分幸せだった。
「召喚で異世界に連れ去られていた皆もルルナス王子のお陰でこちらへ戻ってこれましたし、あっちもこっちも幸せって感じですね」
楽し気にそんな話をする同僚達の言葉を横で聞きながら、俺はその最たるものは兄だろうなとふと思う。
リセル嬢が帰ってきてからの兄は本当に行動的だった。
もう誰にも奪わせないと言わんばかりに外堀を埋めにかかり、甘く蕩けるような顔でリセル嬢を口説いてガッチリ捕まえにかかった。
なんて器用なんだろう?
俺とは大違いだ。
(まあ…俺は期待するだけ無駄だから、これ以上望む気もないんだけど)
ルルナスとリオの婚約は解消となり、リオは明後日にはネルフィンに帰る予定だ。
毎日の幸せなお茶の時間ももうおしまい。
夢のような時間は終わりを迎えるのだ。
その後、兄の縁談がまとまり婚礼の日取りが決まり次第、縁談話が俺の元へとやってくることだろう。
二人にもしも子ができなければ俺の子が後を継ぐことになる。
本音ではもうリオをひっそり想いながら一生独身でいいかなと思ってはいるが、ここで我儘は言えない。
粛々と両親の勧めに従って結婚すべきだ。
(ま、結婚前に恋ができただけ上等か)
叶わぬ思いではあったが、リオとの時間はきっと俺の中でずっと輝き続けるだろう。
ただ一つ我儘が許されるなら、ルルナスの姿ではなく自分自身の姿でリオとキスがしてみたかったということくらいか。
婚約者でもなく、元婚約者の兄で、よくて友人程度にしか思ってもらえていないことは百も承知だから、決して口にはできないけれど……。
「してみたかったな…」
思わずポツリと呟いてしまった。
そんな俺の呟きが聞こえたのか、徐に『何を?』と言う声がかけられて飛び上がるかと思った。
「リ、リオ?!」
どうやらお茶に誘いに来てくれたらしく、笑顔でこちらへと差し伸べられた手にいつも通り手を伸ばすと、そっと優しく手を握られた。
「今日はランスが好きなニルギリを用意してみたんだ」
「そうか。楽しみだな」
まだ少し言葉遣いに迷いは見えるけど、だいぶ砕けてきた今日この頃。
仲良く肩を並べて案内されるままリオの部屋へと足を向ける。
そこには既に茶器の用意がされ、菓子なども並べられていた。
「どうぞ」
「ありがとう」
極自然な動作で椅子を引いてくれるリオに礼を言い、そっと椅子へと腰を落ち着ける。
「今日は今令嬢達にも人気が出始めている甘さ控えめのピスタチオのムースを取り寄せてみた」
「へぇ。これは初めて食べるな」
そう言いながら俺はそれをそっと口へと運ぶ。
確かにリオが言うように甘さは控えめだけど、ピスタチオの風味が生かされていてとても美味しい。
「美味い!」
「口に合って良かった」
そう言いながらリオもそっとそれを口へと運ぶ。
きっと好みの味だったのだろう。
ちょっと口元が緩んでいて微笑ましい。
いつも通りの穏やかな時間。
けれど今日は少しだけいつもとは違った。
「ランス。ランスは何歳くらいまでが子供だと思う?」
「え?」
「成人する18才?それとも20才か?」
いきなり振られた話に俺は質問の意図が分からず困惑する。
でもマリオン王子は答えてほしいとその目で語っていたから、戸惑いながらも素直に答えた。
「う~ん…基準が何かにもよるとは思うけど、少なくとも成人前は子供…かな?」
「成人さえしていたら子供ではないと?」
「そうとも言い切れないかな。成人したばっかりの騎士なんかはまだまだ子供って奴もいるにはいるし」
「なるほど」
「ま、そういう奴も二、三年もしたらしっかりしてくるから、そうだな…20才過ぎたら一人前の大人かな」
その答えにリオは満足そうに頷き微笑んだ。
それから暫く楽しくいつも通り色んな話で盛り上がったけど、最後に『荷造りがあるから明日はお茶の時間が取れそうにない』と言われてしまう。
つまりこれが二人での最後のお茶会ということらしい。
その言葉にじわじわとリオとの別れを感じ、胸が痛んだ。
でも引き留めるわけにもいかないし、俺は精一杯の虚勢を張りながら笑顔で明るく振舞った。
「そっか。寂しいけど仕方がないな。見送りには行くから、体調を崩さないように気を付けて────」
そこまで言ったところで何故か引き寄せられて、ギュッと抱きしめられた。
「ランス。泣かないで欲しい」
「……え?」
泣いているつもりなんてこれっぽっちもなかった。
なのに気づけば勝手に涙は零れ落ちていて、俺の頬を濡らしていた。
「ご、ごめっ…。その、目にゴミが入って…っ」
焦りながら涙を拭うけど全然涙は止まってくれない。
そんな俺に困った顔をしながらリオは告げてくる。
「ランス。今すぐは無理だが、四年後に貴方が望んでくれるなら、迎えに来てもいいだろうか?」
「……え?」
思いがけないその言葉にドキッと胸が弾む。
「今はまだルルとの婚約を解消したばかりだし、ほら見たことかと母国の皆は思っているはず。恐らく帰ったら縁談話が次から次に舞い込んでくると思う。でも……俺は貴方と過ごしているうちに、もし叶うのなら次は貴方のような優しくて思いやりのある人と穏やかに人生を歩みたいと思った」
これは…夢なんだろうか?
「『弟がダメだったから兄と』なんて誰にも言わせないよう努力する。貴方にも子供の戯言だと一蹴されたくないから言わせてほしい。四年後、大人になったら絶対にまた会いに来る。だから────その時に答えを聞かせてほしい」
その目は幻影のルルナスではなく真っ直ぐに俺へと向けられていて、とても現実とは思えなかった。
「う…そだ……」
「嘘じゃない。どうしたら信じてもらえる?」
そう問われ、俺は震える唇を必死に動かして喘ぐように言葉を探す。
何をどう言えばいい?
どうしたら夢から覚めるんだろう?
いや。そもそも夢なら願望は叶うんだろうか?
そう思ったらポロリと胸にあった願望を口にしていた。
「キス…を」
「キス?」
「リオがキスをしてくれたら…」
夢だと思えるんだけど────そう思ったところで既に唇が塞がれていた。
「んっ…」
温かくも優しいキスに酔わされて、うっとりと身を任せながら『ああ、やっぱり夢だった』と思考がまとまる。
きっとお茶会中にうたた寝してしまったんだな。
そうだ。そうに違いない。
だってこんなに自分に都合がいい展開、あるはずがないんだから。
そう思っていたらそっとリオの唇が俺から離れた。
名残惜しい。
そんな寂しさに襲われて、ちょっとだけ大胆に甘えてみる。
どうせ夢ならこれくらい許されるだろう。
ギュッと抱き着き、熱く燻る熱を孕んだ瞳で上目遣いで訴える。
「リオ…もっと」
「ランス」
するとどこか困った顔で抱き寄せられて、夢の中のリオは何度もキスをしてくれた。
「リオ…好き。本当に…好き過ぎておかしくなりそうだ。本当は帰って欲しくない。ずっと一緒に居たい。胸が張り裂けそうなくらい、どうしようもなく好き。離れたくない」
現実では言えない分、想いを込めて告白する。
夢なら年齢差なんて気にしなくていいし、第二王子の責務だって関係ないから素直に気持ちを吐露できたんだ。
「ランス。返事は四年後でいいと言っただろう?その…そんなに可愛い告白をされたら歯止めが利かなくなるから…」
ちょっと頬を染めるその姿が年相応に見えて可愛らしい。
どんなリオも好きで好きでたまらなかった。
歯止めが利かない?
どうせ夢だから気にしなくていいのに。
「リオ。抱いて」
「…………ランス。今抱いたら四年待つのが凄く辛くなるんだが…」
「リオが欲しい。リオだけなんだ。こんな気持ちになるのは。だから今すぐ抱かれたい。リオのものにしてほしい。ダメ…か?」
「~~~~!!」
敢えて言おう。
(本気で夢だと思い込んでたんだよ!!)
甘えて自分からベッドに誘って、繋がったところで我に返って『夢じゃなかった』と真っ赤になった俺に、リオは『あまり翻弄しないでほしい』と困ったように言ったけど、その後は沢山沢山キスしてくれて、いっぱい気持ちよくしてもらえたから『やっぱり夢だ』と思った俺は悪くないと思う。
だから翌日、どこかふわふわした気持ちで過ごしていた俺のところに兄がすっ飛んできた時は心底驚いた。
どうやらリオは父のところに行って『ルルに失恋したところを慰めてもらっているうちに雰囲気に流されてジードリオ王子に手を出してしまいました。申し訳ありません。お怒りを受け止める覚悟はできています。どうか責任を取らせてください』なんて言ってしまったらしい。
リオ的にもう国に帰るからケジメ的に言いに行ったんだろうけど、そんなこと突然言われたら流石の父も殴り飛ばすわ!!
(俺が誘ったのに!!)
さっさと帰れと蹴り出されそうになってると兄が教えてくれたから、慌てて飛んで行って必死に庇う。
「俺がリオの傷心に付け込んでベッドに誘ったんです!リオは悪くないんです!俺が、俺が勝手に好きになったからっ…俺が全部悪いんですっ!」
そう言っても父はちっともリオを許してくれそうになくて、二度と俺には近づけさせないなんて言うから、俺はその場で取り乱しながら叫んだ。
「もう二度と恋なんてしません!幸せも望みません!責務を全うし、父上が決めた相手と結婚します!何も望まず全部全部諦めるからっ、俺が全部責任を取りますから、だからっ、どうかリオを許してください!!」
後から言われたけど、その言葉に仰天したのはその場にいた全員だったらしい。
以前の婚約者の件以降、婚約どころかどこか恋愛自体を諦め気味だった俺がここでそんなことを言い出したものだから、誰もが心臓が止まるかと思ったのだとか。
それで一度仕切り直し、冷静になったところでちゃんと一から話を聞いてもらえて、そういうことならと認めてもらうことができた。
親兄弟達含めて皆、俺が誰かに恋することができたこと自体が非常に喜ばしいことだったのだとか。
それだけ心配をかけていたということだろうか?
それにしても、あんなに取り乱すなんて思い返すと恥ずかしすぎてたまらない。
兄から『あんな姿を見たら誰でもお前の言い分を認めるよ』なんて言われてしまったし、反省しきりだ。
何はともあれリオとの仲を認めてもらえることになって本当に良かった。
「ランス。俺はランスより五つも年下でまだまだ頼りないかもしれないが、絶対に後悔はさせない。だから…大人になるまで待っていてもらえるだろうか?」
その後二人きりになったところでそう言ってくれたリオの言葉に、泣きながら『待ってる』と言ったのはいい思い出だ。
それから毎月数度の手紙のやり取りをしつつ年に数回行き来して交流し、リオの20才の誕生日に合わせて俺達は結婚した。
その間紆余曲折あり、ネルフィンに行く度にご令嬢達から嫌がらせを受けたり嫌味を言われたりしたけど、都度リオが庇ってくれたし、俺も味方を増やして改善を図ったから特に大きな問題にはならなかった。
それどころか不安になる暇もないほどリオは俺へと愛情表現をしてくれたから、日々が幸せで仕方がなかった。
こんなに幸せでいいんだろうかと何度思ったことか。
そんなこんなで結婚し、ネルフィンでの生活も徐々に慣れてきて王子の伴侶と言うだけでなく騎士団にも所属させてもらい、とても充実した日々を送っている。
切っ掛けは弟だったけど、好きになった相手と結婚出来て本当に感無量だ。
────願わくばこの幸せがずっと続きますように。
そう思いながら俺はそっと最愛の人にキスをした。
リオの柔らかな眼差しが俺へと向けられ、穏やかに『ランス』と呼ばれる。
それだけで頬が勝手に緩んで、妙に照れ臭くなり、どうしようもなく胸が弾んだ。
リオだけが呼ぶ俺の名前。
それが嬉しくて、どうしても心が浮き立ってしまう。
そんな浮かれている空気が伝わったんだろう。
同僚から『ジードリオ王子。もしかしてマリオン王子と良い感じなんですか?』なんて揶揄われた。
「そんなんじゃない。でも愛称で呼んでもらえるようにもなったし、年の離れた友人くらいには思ってもらえてるかもしれないな」
一方通行の恋だけど、俺にとってはそれだけでも十分幸せだった。
「召喚で異世界に連れ去られていた皆もルルナス王子のお陰でこちらへ戻ってこれましたし、あっちもこっちも幸せって感じですね」
楽し気にそんな話をする同僚達の言葉を横で聞きながら、俺はその最たるものは兄だろうなとふと思う。
リセル嬢が帰ってきてからの兄は本当に行動的だった。
もう誰にも奪わせないと言わんばかりに外堀を埋めにかかり、甘く蕩けるような顔でリセル嬢を口説いてガッチリ捕まえにかかった。
なんて器用なんだろう?
俺とは大違いだ。
(まあ…俺は期待するだけ無駄だから、これ以上望む気もないんだけど)
ルルナスとリオの婚約は解消となり、リオは明後日にはネルフィンに帰る予定だ。
毎日の幸せなお茶の時間ももうおしまい。
夢のような時間は終わりを迎えるのだ。
その後、兄の縁談がまとまり婚礼の日取りが決まり次第、縁談話が俺の元へとやってくることだろう。
二人にもしも子ができなければ俺の子が後を継ぐことになる。
本音ではもうリオをひっそり想いながら一生独身でいいかなと思ってはいるが、ここで我儘は言えない。
粛々と両親の勧めに従って結婚すべきだ。
(ま、結婚前に恋ができただけ上等か)
叶わぬ思いではあったが、リオとの時間はきっと俺の中でずっと輝き続けるだろう。
ただ一つ我儘が許されるなら、ルルナスの姿ではなく自分自身の姿でリオとキスがしてみたかったということくらいか。
婚約者でもなく、元婚約者の兄で、よくて友人程度にしか思ってもらえていないことは百も承知だから、決して口にはできないけれど……。
「してみたかったな…」
思わずポツリと呟いてしまった。
そんな俺の呟きが聞こえたのか、徐に『何を?』と言う声がかけられて飛び上がるかと思った。
「リ、リオ?!」
どうやらお茶に誘いに来てくれたらしく、笑顔でこちらへと差し伸べられた手にいつも通り手を伸ばすと、そっと優しく手を握られた。
「今日はランスが好きなニルギリを用意してみたんだ」
「そうか。楽しみだな」
まだ少し言葉遣いに迷いは見えるけど、だいぶ砕けてきた今日この頃。
仲良く肩を並べて案内されるままリオの部屋へと足を向ける。
そこには既に茶器の用意がされ、菓子なども並べられていた。
「どうぞ」
「ありがとう」
極自然な動作で椅子を引いてくれるリオに礼を言い、そっと椅子へと腰を落ち着ける。
「今日は今令嬢達にも人気が出始めている甘さ控えめのピスタチオのムースを取り寄せてみた」
「へぇ。これは初めて食べるな」
そう言いながら俺はそれをそっと口へと運ぶ。
確かにリオが言うように甘さは控えめだけど、ピスタチオの風味が生かされていてとても美味しい。
「美味い!」
「口に合って良かった」
そう言いながらリオもそっとそれを口へと運ぶ。
きっと好みの味だったのだろう。
ちょっと口元が緩んでいて微笑ましい。
いつも通りの穏やかな時間。
けれど今日は少しだけいつもとは違った。
「ランス。ランスは何歳くらいまでが子供だと思う?」
「え?」
「成人する18才?それとも20才か?」
いきなり振られた話に俺は質問の意図が分からず困惑する。
でもマリオン王子は答えてほしいとその目で語っていたから、戸惑いながらも素直に答えた。
「う~ん…基準が何かにもよるとは思うけど、少なくとも成人前は子供…かな?」
「成人さえしていたら子供ではないと?」
「そうとも言い切れないかな。成人したばっかりの騎士なんかはまだまだ子供って奴もいるにはいるし」
「なるほど」
「ま、そういう奴も二、三年もしたらしっかりしてくるから、そうだな…20才過ぎたら一人前の大人かな」
その答えにリオは満足そうに頷き微笑んだ。
それから暫く楽しくいつも通り色んな話で盛り上がったけど、最後に『荷造りがあるから明日はお茶の時間が取れそうにない』と言われてしまう。
つまりこれが二人での最後のお茶会ということらしい。
その言葉にじわじわとリオとの別れを感じ、胸が痛んだ。
でも引き留めるわけにもいかないし、俺は精一杯の虚勢を張りながら笑顔で明るく振舞った。
「そっか。寂しいけど仕方がないな。見送りには行くから、体調を崩さないように気を付けて────」
そこまで言ったところで何故か引き寄せられて、ギュッと抱きしめられた。
「ランス。泣かないで欲しい」
「……え?」
泣いているつもりなんてこれっぽっちもなかった。
なのに気づけば勝手に涙は零れ落ちていて、俺の頬を濡らしていた。
「ご、ごめっ…。その、目にゴミが入って…っ」
焦りながら涙を拭うけど全然涙は止まってくれない。
そんな俺に困った顔をしながらリオは告げてくる。
「ランス。今すぐは無理だが、四年後に貴方が望んでくれるなら、迎えに来てもいいだろうか?」
「……え?」
思いがけないその言葉にドキッと胸が弾む。
「今はまだルルとの婚約を解消したばかりだし、ほら見たことかと母国の皆は思っているはず。恐らく帰ったら縁談話が次から次に舞い込んでくると思う。でも……俺は貴方と過ごしているうちに、もし叶うのなら次は貴方のような優しくて思いやりのある人と穏やかに人生を歩みたいと思った」
これは…夢なんだろうか?
「『弟がダメだったから兄と』なんて誰にも言わせないよう努力する。貴方にも子供の戯言だと一蹴されたくないから言わせてほしい。四年後、大人になったら絶対にまた会いに来る。だから────その時に答えを聞かせてほしい」
その目は幻影のルルナスではなく真っ直ぐに俺へと向けられていて、とても現実とは思えなかった。
「う…そだ……」
「嘘じゃない。どうしたら信じてもらえる?」
そう問われ、俺は震える唇を必死に動かして喘ぐように言葉を探す。
何をどう言えばいい?
どうしたら夢から覚めるんだろう?
いや。そもそも夢なら願望は叶うんだろうか?
そう思ったらポロリと胸にあった願望を口にしていた。
「キス…を」
「キス?」
「リオがキスをしてくれたら…」
夢だと思えるんだけど────そう思ったところで既に唇が塞がれていた。
「んっ…」
温かくも優しいキスに酔わされて、うっとりと身を任せながら『ああ、やっぱり夢だった』と思考がまとまる。
きっとお茶会中にうたた寝してしまったんだな。
そうだ。そうに違いない。
だってこんなに自分に都合がいい展開、あるはずがないんだから。
そう思っていたらそっとリオの唇が俺から離れた。
名残惜しい。
そんな寂しさに襲われて、ちょっとだけ大胆に甘えてみる。
どうせ夢ならこれくらい許されるだろう。
ギュッと抱き着き、熱く燻る熱を孕んだ瞳で上目遣いで訴える。
「リオ…もっと」
「ランス」
するとどこか困った顔で抱き寄せられて、夢の中のリオは何度もキスをしてくれた。
「リオ…好き。本当に…好き過ぎておかしくなりそうだ。本当は帰って欲しくない。ずっと一緒に居たい。胸が張り裂けそうなくらい、どうしようもなく好き。離れたくない」
現実では言えない分、想いを込めて告白する。
夢なら年齢差なんて気にしなくていいし、第二王子の責務だって関係ないから素直に気持ちを吐露できたんだ。
「ランス。返事は四年後でいいと言っただろう?その…そんなに可愛い告白をされたら歯止めが利かなくなるから…」
ちょっと頬を染めるその姿が年相応に見えて可愛らしい。
どんなリオも好きで好きでたまらなかった。
歯止めが利かない?
どうせ夢だから気にしなくていいのに。
「リオ。抱いて」
「…………ランス。今抱いたら四年待つのが凄く辛くなるんだが…」
「リオが欲しい。リオだけなんだ。こんな気持ちになるのは。だから今すぐ抱かれたい。リオのものにしてほしい。ダメ…か?」
「~~~~!!」
敢えて言おう。
(本気で夢だと思い込んでたんだよ!!)
甘えて自分からベッドに誘って、繋がったところで我に返って『夢じゃなかった』と真っ赤になった俺に、リオは『あまり翻弄しないでほしい』と困ったように言ったけど、その後は沢山沢山キスしてくれて、いっぱい気持ちよくしてもらえたから『やっぱり夢だ』と思った俺は悪くないと思う。
だから翌日、どこかふわふわした気持ちで過ごしていた俺のところに兄がすっ飛んできた時は心底驚いた。
どうやらリオは父のところに行って『ルルに失恋したところを慰めてもらっているうちに雰囲気に流されてジードリオ王子に手を出してしまいました。申し訳ありません。お怒りを受け止める覚悟はできています。どうか責任を取らせてください』なんて言ってしまったらしい。
リオ的にもう国に帰るからケジメ的に言いに行ったんだろうけど、そんなこと突然言われたら流石の父も殴り飛ばすわ!!
(俺が誘ったのに!!)
さっさと帰れと蹴り出されそうになってると兄が教えてくれたから、慌てて飛んで行って必死に庇う。
「俺がリオの傷心に付け込んでベッドに誘ったんです!リオは悪くないんです!俺が、俺が勝手に好きになったからっ…俺が全部悪いんですっ!」
そう言っても父はちっともリオを許してくれそうになくて、二度と俺には近づけさせないなんて言うから、俺はその場で取り乱しながら叫んだ。
「もう二度と恋なんてしません!幸せも望みません!責務を全うし、父上が決めた相手と結婚します!何も望まず全部全部諦めるからっ、俺が全部責任を取りますから、だからっ、どうかリオを許してください!!」
後から言われたけど、その言葉に仰天したのはその場にいた全員だったらしい。
以前の婚約者の件以降、婚約どころかどこか恋愛自体を諦め気味だった俺がここでそんなことを言い出したものだから、誰もが心臓が止まるかと思ったのだとか。
それで一度仕切り直し、冷静になったところでちゃんと一から話を聞いてもらえて、そういうことならと認めてもらうことができた。
親兄弟達含めて皆、俺が誰かに恋することができたこと自体が非常に喜ばしいことだったのだとか。
それだけ心配をかけていたということだろうか?
それにしても、あんなに取り乱すなんて思い返すと恥ずかしすぎてたまらない。
兄から『あんな姿を見たら誰でもお前の言い分を認めるよ』なんて言われてしまったし、反省しきりだ。
何はともあれリオとの仲を認めてもらえることになって本当に良かった。
「ランス。俺はランスより五つも年下でまだまだ頼りないかもしれないが、絶対に後悔はさせない。だから…大人になるまで待っていてもらえるだろうか?」
その後二人きりになったところでそう言ってくれたリオの言葉に、泣きながら『待ってる』と言ったのはいい思い出だ。
それから毎月数度の手紙のやり取りをしつつ年に数回行き来して交流し、リオの20才の誕生日に合わせて俺達は結婚した。
その間紆余曲折あり、ネルフィンに行く度にご令嬢達から嫌がらせを受けたり嫌味を言われたりしたけど、都度リオが庇ってくれたし、俺も味方を増やして改善を図ったから特に大きな問題にはならなかった。
それどころか不安になる暇もないほどリオは俺へと愛情表現をしてくれたから、日々が幸せで仕方がなかった。
こんなに幸せでいいんだろうかと何度思ったことか。
そんなこんなで結婚し、ネルフィンでの生活も徐々に慣れてきて王子の伴侶と言うだけでなく騎士団にも所属させてもらい、とても充実した日々を送っている。
切っ掛けは弟だったけど、好きになった相手と結婚出来て本当に感無量だ。
────願わくばこの幸せがずっと続きますように。
そう思いながら俺はそっと最愛の人にキスをした。
10
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する
スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。
そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる