【完結】逆召喚!~いつまでも黙って召喚されると思うなよ?~

オレンジペコ

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番外編1.その後の二人 Side.ジードリオ

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マリオン王子と二人で街に出掛けたあの日から、基本二人で話す時限定ではあるものの、俺はマリオン王子を『リオ』と呼び、彼は俺を『ランス』と呼ぶようになった。

リオの柔らかな眼差しが俺へと向けられ、穏やかに『ランス』と呼ばれる。
それだけで頬が勝手に緩んで、妙に照れ臭くなり、どうしようもなく胸が弾んだ。
リオだけが呼ぶ俺の名前。
それが嬉しくて、どうしても心が浮き立ってしまう。

そんな浮かれている空気が伝わったんだろう。
同僚から『ジードリオ王子。もしかしてマリオン王子と良い感じなんですか?』なんて揶揄われた。

「そんなんじゃない。でも愛称で呼んでもらえるようにもなったし、年の離れた友人くらいには思ってもらえてるかもしれないな」

一方通行の恋だけど、俺にとってはそれだけでも十分幸せだった。

「召喚で異世界に連れ去られていた皆もルルナス王子のお陰でこちらへ戻ってこれましたし、あっちもこっちも幸せって感じですね」

楽し気にそんな話をする同僚達の言葉を横で聞きながら、俺はその最たるものは兄だろうなとふと思う。
リセル嬢が帰ってきてからの兄は本当に行動的だった。
もう誰にも奪わせないと言わんばかりに外堀を埋めにかかり、甘く蕩けるような顔でリセル嬢を口説いてガッチリ捕まえにかかった。
なんて器用なんだろう?
俺とは大違いだ。

(まあ…俺は期待するだけ無駄だから、これ以上望む気もないんだけど)

ルルナスとリオの婚約は解消となり、リオは明後日にはネルフィンに帰る予定だ。
毎日の幸せなお茶の時間ももうおしまい。
夢のような時間は終わりを迎えるのだ。

その後、兄の縁談がまとまり婚礼の日取りが決まり次第、縁談話が俺の元へとやってくることだろう。
二人にもしも子ができなければ俺の子が後を継ぐことになる。
本音ではもうリオをひっそり想いながら一生独身でいいかなと思ってはいるが、ここで我儘は言えない。
粛々と両親の勧めに従って結婚すべきだ。

(ま、結婚前に恋ができただけ上等か)

叶わぬ思いではあったが、リオとの時間はきっと俺の中でずっと輝き続けるだろう。
ただ一つ我儘が許されるなら、ルルナスの姿ではなく自分自身の姿でリオとキスがしてみたかったということくらいか。
婚約者でもなく、元婚約者の兄で、よくて友人程度にしか思ってもらえていないことは百も承知だから、決して口にはできないけれど……。

「してみたかったな…」

思わずポツリと呟いてしまった。
そんな俺の呟きが聞こえたのか、徐に『何を?』と言う声がかけられて飛び上がるかと思った。

「リ、リオ?!」

どうやらお茶に誘いに来てくれたらしく、笑顔でこちらへと差し伸べられた手にいつも通り手を伸ばすと、そっと優しく手を握られた。

「今日はランスが好きなニルギリを用意してみたんだ」
「そうか。楽しみだな」

まだ少し言葉遣いに迷いは見えるけど、だいぶ砕けてきた今日この頃。
仲良く肩を並べて案内されるままリオの部屋へと足を向ける。
そこには既に茶器の用意がされ、菓子なども並べられていた。

「どうぞ」
「ありがとう」

極自然な動作で椅子を引いてくれるリオに礼を言い、そっと椅子へと腰を落ち着ける。

「今日は今令嬢達にも人気が出始めている甘さ控えめのピスタチオのムースを取り寄せてみた」
「へぇ。これは初めて食べるな」

そう言いながら俺はそれをそっと口へと運ぶ。
確かにリオが言うように甘さは控えめだけど、ピスタチオの風味が生かされていてとても美味しい。

「美味い!」
「口に合って良かった」

そう言いながらリオもそっとそれを口へと運ぶ。
きっと好みの味だったのだろう。
ちょっと口元が緩んでいて微笑ましい。

いつも通りの穏やかな時間。
けれど今日は少しだけいつもとは違った。

「ランス。ランスは何歳くらいまでが子供だと思う?」
「え?」
「成人する18才?それとも20才か?」

いきなり振られた話に俺は質問の意図が分からず困惑する。
でもマリオン王子は答えてほしいとその目で語っていたから、戸惑いながらも素直に答えた。

「う~ん…基準が何かにもよるとは思うけど、少なくとも成人前は子供…かな?」
「成人さえしていたら子供ではないと?」
「そうとも言い切れないかな。成人したばっかりの騎士なんかはまだまだ子供って奴もいるにはいるし」
「なるほど」
「ま、そういう奴も二、三年もしたらしっかりしてくるから、そうだな…20才過ぎたら一人前の大人かな」

その答えにリオは満足そうに頷き微笑んだ。

それから暫く楽しくいつも通り色んな話で盛り上がったけど、最後に『荷造りがあるから明日はお茶の時間が取れそうにない』と言われてしまう。
つまりこれが二人での最後のお茶会ということらしい。
その言葉にじわじわとリオとの別れを感じ、胸が痛んだ。
でも引き留めるわけにもいかないし、俺は精一杯の虚勢を張りながら笑顔で明るく振舞った。

「そっか。寂しいけど仕方がないな。見送りには行くから、体調を崩さないように気を付けて────」

そこまで言ったところで何故か引き寄せられて、ギュッと抱きしめられた。

「ランス。泣かないで欲しい」
「……え?」

泣いているつもりなんてこれっぽっちもなかった。
なのに気づけば勝手に涙は零れ落ちていて、俺の頬を濡らしていた。

「ご、ごめっ…。その、目にゴミが入って…っ」

焦りながら涙を拭うけど全然涙は止まってくれない。
そんな俺に困った顔をしながらリオは告げてくる。

「ランス。今すぐは無理だが、四年後に貴方が望んでくれるなら、迎えに来てもいいだろうか?」
「……え?」

思いがけないその言葉にドキッと胸が弾む。

「今はまだルルとの婚約を解消したばかりだし、ほら見たことかと母国の皆は思っているはず。恐らく帰ったら縁談話が次から次に舞い込んでくると思う。でも……俺は貴方と過ごしているうちに、もし叶うのなら次は貴方のような優しくて思いやりのある人と穏やかに人生を歩みたいと思った」

これは…夢なんだろうか?

「『弟がダメだったから兄と』なんて誰にも言わせないよう努力する。貴方にも子供の戯言だと一蹴されたくないから言わせてほしい。四年後、大人になったら絶対にまた会いに来る。だから────その時に答えを聞かせてほしい」

その目は幻影のルルナスではなく真っ直ぐに俺へと向けられていて、とても現実とは思えなかった。

「う…そだ……」
「嘘じゃない。どうしたら信じてもらえる?」

そう問われ、俺は震える唇を必死に動かして喘ぐように言葉を探す。
何をどう言えばいい?
どうしたら夢から覚めるんだろう?
いや。そもそも夢なら願望は叶うんだろうか?

そう思ったらポロリと胸にあった願望を口にしていた。

「キス…を」
「キス?」
「リオがキスをしてくれたら…」

夢だと思えるんだけど────そう思ったところで既に唇が塞がれていた。

「んっ…」

温かくも優しいキスに酔わされて、うっとりと身を任せながら『ああ、やっぱり夢だった』と思考がまとまる。
きっとお茶会中にうたた寝してしまったんだな。
そうだ。そうに違いない。
だってこんなに自分に都合がいい展開、あるはずがないんだから。
そう思っていたらそっとリオの唇が俺から離れた。

名残惜しい。
そんな寂しさに襲われて、ちょっとだけ大胆に甘えてみる。
どうせ夢ならこれくらい許されるだろう。
ギュッと抱き着き、熱く燻る熱を孕んだ瞳で上目遣いで訴える。

「リオ…もっと」
「ランス」

するとどこか困った顔で抱き寄せられて、夢の中のリオは何度もキスをしてくれた。

「リオ…好き。本当に…好き過ぎておかしくなりそうだ。本当は帰って欲しくない。ずっと一緒に居たい。胸が張り裂けそうなくらい、どうしようもなく好き。離れたくない」

現実では言えない分、想いを込めて告白する。
夢なら年齢差なんて気にしなくていいし、第二王子の責務だって関係ないから素直に気持ちを吐露できたんだ。

「ランス。返事は四年後でいいと言っただろう?その…そんなに可愛い告白をされたら歯止めが利かなくなるから…」

ちょっと頬を染めるその姿が年相応に見えて可愛らしい。
どんなリオも好きで好きでたまらなかった。
歯止めが利かない?
どうせ夢だから気にしなくていいのに。

「リオ。抱いて」
「…………ランス。今抱いたら四年待つのが凄く辛くなるんだが…」
「リオが欲しい。リオだけなんだ。こんな気持ちになるのは。だから今すぐ抱かれたい。リオのものにしてほしい。ダメ…か?」
「~~~~!!」

敢えて言おう。

(本気で夢だと思い込んでたんだよ!!)

甘えて自分からベッドに誘って、繋がったところで我に返って『夢じゃなかった』と真っ赤になった俺に、リオは『あまり翻弄しないでほしい』と困ったように言ったけど、その後は沢山沢山キスしてくれて、いっぱい気持ちよくしてもらえたから『やっぱり夢だ』と思った俺は悪くないと思う。

だから翌日、どこかふわふわした気持ちで過ごしていた俺のところに兄がすっ飛んできた時は心底驚いた。

どうやらリオは父のところに行って『ルルに失恋したところを慰めてもらっているうちに雰囲気に流されてジードリオ王子に手を出してしまいました。申し訳ありません。お怒りを受け止める覚悟はできています。どうか責任を取らせてください』なんて言ってしまったらしい。
リオ的にもう国に帰るからケジメ的に言いに行ったんだろうけど、そんなこと突然言われたら流石の父も殴り飛ばすわ!!

(俺が誘ったのに!!)

さっさと帰れと蹴り出されそうになってると兄が教えてくれたから、慌てて飛んで行って必死に庇う。

「俺がリオの傷心に付け込んでベッドに誘ったんです!リオは悪くないんです!俺が、俺が勝手に好きになったからっ…俺が全部悪いんですっ!」

そう言っても父はちっともリオを許してくれそうになくて、二度と俺には近づけさせないなんて言うから、俺はその場で取り乱しながら叫んだ。

「もう二度と恋なんてしません!幸せも望みません!責務を全うし、父上が決めた相手と結婚します!何も望まず全部全部諦めるからっ、俺が全部責任を取りますから、だからっ、どうかリオを許してください!!」

後から言われたけど、その言葉に仰天したのはその場にいた全員だったらしい。
以前の婚約者の件以降、婚約どころかどこか恋愛自体を諦め気味だった俺がここでそんなことを言い出したものだから、誰もが心臓が止まるかと思ったのだとか。
それで一度仕切り直し、冷静になったところでちゃんと一から話を聞いてもらえて、そういうことならと認めてもらうことができた。
親兄弟達含めて皆、俺が誰かに恋することができたこと自体が非常に喜ばしいことだったのだとか。
それだけ心配をかけていたということだろうか?
それにしても、あんなに取り乱すなんて思い返すと恥ずかしすぎてたまらない。
兄から『あんな姿を見たら誰でもお前の言い分を認めるよ』なんて言われてしまったし、反省しきりだ。
何はともあれリオとの仲を認めてもらえることになって本当に良かった。

「ランス。俺はランスより五つも年下でまだまだ頼りないかもしれないが、絶対に後悔はさせない。だから…大人になるまで待っていてもらえるだろうか?」

その後二人きりになったところでそう言ってくれたリオの言葉に、泣きながら『待ってる』と言ったのはいい思い出だ。




それから毎月数度の手紙のやり取りをしつつ年に数回行き来して交流し、リオの20才の誕生日に合わせて俺達は結婚した。

その間紆余曲折あり、ネルフィンに行く度にご令嬢達から嫌がらせを受けたり嫌味を言われたりしたけど、都度リオが庇ってくれたし、俺も味方を増やして改善を図ったから特に大きな問題にはならなかった。
それどころか不安になる暇もないほどリオは俺へと愛情表現をしてくれたから、日々が幸せで仕方がなかった。
こんなに幸せでいいんだろうかと何度思ったことか。

そんなこんなで結婚し、ネルフィンでの生活も徐々に慣れてきて王子の伴侶と言うだけでなく騎士団にも所属させてもらい、とても充実した日々を送っている。

切っ掛けは弟だったけど、好きになった相手と結婚出来て本当に感無量だ。

────願わくばこの幸せがずっと続きますように。

そう思いながら俺はそっと最愛の人にキスをした。

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