黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第一部 アストラス編~王の落胤~

31.※揺さ振り

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(まさか勅命をもらうとは…)

ロックウェルはクレイの元へと向かいながらも驚きを隠せなかった。
ここ最近王宮から幾度も使者がやってくるとクレイも溢してはいたが、まさか勅命まで出されるとは思っても見なかった。
確かにサシェの件は下手をすれば国際問題に発展してもおかしくはない案件ではあったが、それでもわざわざ王自ら褒賞を与えるようなものではない。

「さて…あいつは素直に聞いてくれるかな?」

嫌だと言われるのは明らかなのだが、勅命に逆らうわけにもいかないのが辛いところだ。

(やはりここは言い聞かせるしかないだろうな…)

そう思いながらクレイの所へ顔を出すと、訪問者が自分だと分かったところで開口一番真っ赤な顔で怒られた。
「ロックウェル!昨日あんなことをしておいてよくも俺の前に顔を出せたな!」
ここ数日で随分感情を露わにしてくれるようになって正直嬉しい限りだ。
(良かった…)
ロックウェルは怒るクレイを抱き込んで、そのまま気にせず扉をくぐった。
最初の数日は遠慮していたクレイも、あれこれされている内に『遠慮していたら酷い目に合う』とわかったらしく、少しずつ本音をぶつけてきてくれるようになった。
正直多少強引にでも変えることができて良かったと思う。

それにしても昨日の事と言うとあの可愛い姿の事だろうか?
(うん。あれは可愛かったな…)
ロックウェルの脳裏に木に縋りながら一生懸命声を押し殺し、涙目で耐えていたクレイの姿が思い出され思わず頬が綻んだ。
「そう怒るな。可愛いお前が悪いといつも言っているだろう?それに…たまには外でやるのも、気分が変わっていいだろう?」
そうやって誘うように目を合わせて笑ってやると途端に真っ赤になりながら口を噤んでしまうクレイが可愛い。
きっと昨日の事を思いだしてしまったのだろう。
「……もういい!そんなことより何の用だ?!俺はこれから仕事なんだ!」
今日は絶対に襲うなと釘を刺されてしまい暫し思案する。
今ここで勅命の件を言っても構わないが、この剣幕ではまず間違いなく問答無用で断られた挙句逃げられるのがオチだろう。
それならそれで方向性を変えるまでだ。
「忙しいならもちろん仕事を優先してくれ」
いいのかと一応問われるが別に構いはしない。
王からは一週間以内と言われているのだ。
「そうだな。夜…もしよかったら空けておいてくれないか?昨日の件の謝罪もしたいし、用件もその時で構わないから」
そうやって柔らかく微笑みながら伝えると、クレイが渋々ながら頷いてくれる。
「……まぁ…夜なら」
「そうか。それなら出直してくる」
「ああ。そうしてくれ」
そうして一緒に家を出て、別れ際にそっと口づけを落としたところで楽しそうな声が横から掛けられた。



「いいな。私にもまたしてくれないか?クレイ」
そこに立っていたのはいつか見たヘーゼル・アイの黒魔道士────。
「なんだロイドか。今日はなんの用だ?」
一体どうして隣国のお抱え魔道士がクレイを訪ねてくるのだろう?
しかもその二人の口調からは何故かやけに親しげなものを感じた。

(ん?…また?)

クレイがあまりにもサラリと流したからうっかり聞き流しそうになったが、確かにそう言ったような気がする。
それはまるで以前口づけを交わしたことがあるとでもいうかのようで…。

「クレイ?」

思わず問いたくなったのは仕方がないだろう。
それなのにこういう時に限ってクレイは天然を発揮してくる。
「悪いが今日は本当に時間がないんだ。ロイドも、依頼なら出直してくれ」
別に逃げるでもなく、全くこちらの意図を察しないまま本当に仕事なのだと言ってさっさと行ってしまった。
後に残されたのは自分とロイドの二人だけ────。



「ロックウェル…だったか?お前はクレイの恋人なのか?」
にこやかにズバリと尋ねられ、ロックウェルは牽制も込めてそれを肯定する。
「そうだ。クレイは私の物だから絶対に手を出すな」
けれど思ったような反応ではなく全く違った反応が返され、戸惑いを隠せない。
「ふ~ん…お似合いだな」
何でもないことのように言われて思わず拍子抜けしてしまった。

「そう思うならクレイにあんなことを言うな」

一体どういうつもりなのだろう?
冗談にしては性質が悪い。
けれどロイドは読めない表情のまま笑顔で自分へと告げてきた。

「いや。クレイは私の魔力交流相手だから、いい仕事を持ってきたら口づけは普通にさせてもらえると思うぞ」
「…?!」

何でもないことのように口にし、『クレイは黒魔道士だからな』と意味深に笑うロイドにロックウェルは戦慄してしまう。
「知っているだろう?黒魔道士は仕事なら寝ることだってある。まあ私はクレイが気に入っているし、落としてから寝たいと思ってるが…」
寝ようと思えばいくらでも手はあるのだとロイドが妖しく笑った。
「精々しっかり調教しておいてくれよ?後で楽しみも増えるしな」
その日が今から楽しみだと言ってロイドはそのまま背を向けてしまう。

残されたロックウェルは、彼の言葉を反芻しながらその場を動くことができなかった────。


***


「ロックウェル?」
夜、部屋へと帰るとそこにロックウェルの姿はなく意外に思った。
昼間にああして自分から言っていたにもかかわらず来ないというのもおかしな話だ。

(何かあったのか?)

そう言えば昼間ロイドが来ていたのを思い出して、もしや何か吹き込まれたのかと思い至る。
あいつはあんな無害そうな顔をしていても、周囲に認められ通り名を与えられたほどの黒魔道士だ。
無害なはずがない。
ふと心配になってすぐに影を渡ってロックウェルの部屋へと向かってみた。




「ロックウェル?」
そう声を掛けると彼は思った通り執務室ではなくそこに居て、ソファに座りながら驚いたようにこちらを見てきた。
「クレイ?」
「…来ないから、昼間ロイドに何か吹き込まれたのかと心配になった」
そっと近づくとそのままギュッと抱き締められる。
これはもう何かを吹き込まれたのは確実だ。
「あいつは何と言っていた?」
「…………」
「まあ多分この間の魔力交流の件だろうとは思うが…。あれはお前が気にするようなことじゃない」
そうやってあの時の事を話してやる。
「領域侵犯の交渉に来たから、何が代償だと尋ねたら何故か口づけでの魔力交流を求められたんだ。意味が分からなくて尋ねたら、魔力が高すぎるが故に相手がいないと言われてな。魔力の高い俺とならやってみたいと言われたんだ」
「……お前はそれを受け入れたのか?」
「後で面倒な依頼がくるくらいならその方がマシだと思って受け入れた」
サラリとそう言ったがロックウェルは顔を上げてはくれない。
「……気持ち良かったのか?」
なんだかその言葉が傷ついているように感じられて仕方がなかったが、どうすればいいのかわからないから正直に答えることしかできない。
「気持ち良かったかと聞かれたら気持ち良かったのかもしれないが、お前との口づけみたいに陶酔する感覚は一切なかったな」
「?」
不思議そうにそっと顔を上げられ、クレイは正直にその時の心境を話す。
「お前とも魔力交流はしただろう?一度目と二度目に抱かれた時、お前は魔力の乗った口づけをしてきた」
「……ああ」
「あれは思考が溶けそうなくらい気持ち良くて…つい強請ってしまったが、あいつとの口づけはそういう感じじゃなかった」
だから心配しなくていいというつもりでそう言った。
自分の相手はロックウェルだけだという意味を込めて。
それなのに────。

「あいつは仕事ならお前は他の奴とだって寝ると言っていた」

そんな答えを返されてロイドに怒りが湧く。
(誰がだ!)
確かに仕事で女と寝たことが皆無かと聞かれたら答えはノーだが、男とは別だ。

「俺が女以外と寝たのはお前だけだと知っててそれを言うのか?」

誰よりも一番知っているだろうにと言ってもロックウェルはどこか納得できないようで…。
一体ロイドは何を言ったのだろうと気になった。

「俺はお前以外に押し倒される趣味はない」

あんなに喘がされるのは相手がロックウェル以外なら絶対にお断りだ。
そんな風に思っていると何故か急に腕を引っ張られた。
「え?」
気が付けばソファの上に押し倒されている自分がいる。
「ちょっ…!ロックウェル?!…っんん…ッ」
そこに与えられたのはロックウェルの魔力が乗せられた優しい口づけ────。
(気持ち良すぎて頭がふわふわする…)
あっという間に蕩けさせられて、思わず貪るようにもっとと強請ってしまった。




「はっ…あっぁあっ…んふっ…」
魔力を乗せた口づけをするとあっという間にクレイが蕩けた。
こんなにすぐに快楽に溺れる癖に、絶対に大丈夫だなどと思えるはずがないではないか。
「クレイ…」
「んっ…んんっ…んぅ…」
強請るように自分を引き寄せるクレイを可愛いと思う。
真っ白だったクレイを折角自分色に染め上げたのに…それを誰かに穢されるなんて絶対に嫌だった。
だから一瞬、自分以外と寝てもクレイが物足りないと思えるほどに抱いてやればいいと…そう思ったのだが、そこでロイドの最後の言葉が頭をよぎってビクリと動きを止めてしまう。

『精々しっかり調教しておいてくれよ?後で楽しみも増えるしな』

(これではロイドの思うツボだ────)

「ロックウェル?」
「……なんでもない」

それが悔しくて、ロックウェルはその日初めてクレイをあっさりと抱いたのだった。



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