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第一部 アストラス編~王の落胤~
41.祝典
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「クレイ!」
そうやって名を呼んで、ゆっくりと振り向いてきたその姿にロイドは思わず目を奪われた。
綺麗な顔立ちだとは思っていたが、今は緩やかに波打つ黒髪のかつらをつけて化粧も施しているため、クレイは本物の女にしか見えなかった。
元々が華奢な上に、薄手ではあるがゆったりとした黒衣を身に纏っているので全く違和感がない。
しかも日々ロックウェルから愛されているせいか、滴るばかりの色香を纏っていてその辺の女よりもずっと女らしく見える。
この姿であの紫の瞳に魅了されたら自分はもう絶対に逃げられないだろうなと、ついそんな考えに侵されそうになった。
「ロイド。この姿でいいか?」
「ああ。問題ない」
「そうか。それで?仕事内容はライアード王子の護衛でいいのか?」
こちらの気も知らずどこまでも仕事だと言わんばかりのクレイにクスリと苦笑が漏れる。
「護衛は私がするからクレイは恋人として隣にいてくれればいいのに」
「寝言を言うな。俺は仕事のついでにロックウェルの姿を見たくないかと誘われたから受けただけだ」
フイッとつれなく行ってしまうクレイを追い掛けながら『冗談だ』とサラリと流し、ロイドは仕事について話し始めた。
「まあそうだな。今ここは不穏な空気に包まれているから…ライアード様が巻き込まれないよう用心してほしい」
「わかった。ソレーユの方では特に問題は起こっていないか?」
「なくはないな。先日一件婚姻話が来たが、あっさりと袖にしてしまったことで、まだシリィとの婚約破棄を引きずっているのではと疑われている」
「…そうか」
そちらから様子見の輩が送られることも考えられるかとクレイがそっと思案する。
「お前と仕事をするのは初めてだが、なかなか楽しいことになりそうだな」
「ああ」
頼りにしていると言いながらロイドは満足そうにクレイと並び立ち、主の元へと向かった。
***
「ロックウェル様!」
「シリィ。どうした?」
「はい。各所に配置している魔道士達の連携の件で少しご確認しておきたいことがありまして」
「そうか」
そうして顔を突き合わせて配置図を確認し指示を出した直後、そこへと声を掛けてくる者達がいた。
「ロックウェル様。お勤めご苦労さまでございます」
見るとそこには今日のゲストに呼ばれている貴族達が挨拶にと笑顔で並んでいる。
「一段落つきましたらどうぞあちらでご一緒してください。色々お話したいと…私どもの娘も楽しみにしておりますので」
見ると貴族子女たちが美しい装いでこちらへとちらちら視線を向けている姿が見えた。
「…そうですか。では後程そちらにお邪魔させていただきますので」
立場上無下にできない相手ばかりなだけに無視するわけにもいかない。
仕方なく笑顔でそう返すと相手もにこやかに『では後程』と下がっていった。
(はぁ…)
もうかれこれ二週間はクレイの顔を見ていない。
今王宮にいると言うのなら少しでも顔を見に行きたい気持ちでいっぱいだった。
正直あんなどうでもいい女達の相手をする時間があるくらいならクレイを抱きしめたい。
こうしている間にもクレイはロイドの隣に居るのだ。
大丈夫なのかとつい心配になる。
【ロックウェル様。大丈夫ですよ。クレイ様はあくまでもお仕事で来ていると考えているようで、ロイドには全く靡いておりませんから】
ヒュースのその言葉だけが唯一の安心材料だが、いつ何時襲われるとも限らないではないか。
【そう心配なさらなくても、クレイ様には他にも眷属が控えておりますから】
どうやら他にも眷属は沢山いるらしい。
【クレイ様は寂しがり屋なので、ロックウェル様に会えないと言うだけでぶつぶつ言いながら新しい眷属と契約なさっていたんですよ】
ヒュースは『本当に仕方のない人ですよね』と言っているが、抱えるだけで魔力を消耗する眷属をそんな簡単に増やすクレイの気がしれないと思ってしまった。
どれだけ底なしなのだろうか?
【ああ、ほら。あそこにいらっしゃいましたよ】
その言葉に「え?」と顔を上げると、その先にはライアードとロイドの姿があり、その隣には女の恰好ではあったがクレイの姿が確かにあった。
その姿があまりにも綺麗で、思わず見惚れてしまう。
けれどそんな自分に気が付いたのだろうロイドが不敵に笑って、そっとクレイの腰を浚って自分の方へと引き寄せた。
その姿はまるでクレイは自分の物だと言わんばかりだ。
その手はすぐにバシッとクレイに叩き落とされていたが、傍から見ている分には恋人たちが戯れているようにしか見えない。
「……!!」
そうして内心イライラしているとクレイがこちらへと気が付き、花のように笑ってくれた。
「……」
普段は無愛想なくせに余程嬉しかったのだろう。
けれど手が出せないのをわかっていてあんな笑顔を振りまくなんてひどすぎる。
クレイの元気そうな顔を見れたことは嬉しくて仕方がなかったが、早く抱きしめたい気持ちでいっぱいになってしまった。
【本当に、私の主は罪作りな方ですねぇ】
そんなヒュースの言葉と同時に華々しく花火が上がり、祝典はその幕を開けたのだった。
***
ライアードが挨拶の為ハインツに声を掛ける姿を見ながら、少し離れたところで二人は目立たぬように控えていた。
「クレイ…今日の主役には興味はないのか?」
そう言いながらロイドがハインツの方を指し示すが、クレイは興味なさ気にそちらにちらりと視線を向けただけで短く答える。
「別に興味はない」
そんな台詞にロイドは小さく笑った。
ハインツに掛けられているあの守護魔法の完璧さはどう見てもクレイの仕事のように見えるが、こうしてみる限り特段気に掛けているわけではなさそうだ。
「身内なのに?」
「赤の他人だ。俺は今この場にライアード王子の護衛の仕事でいるだけだし、気になるのは…ロックウェルだけだ」
そうやって先程からちらちらと気にしているのは自分の恋人の事。
やはりと言うかさすがと言うか、先程からロックウェルは沢山の女性に囲まれて笑顔で何やら楽しげに会話を楽しんでいた。
「……」
「モテるな」
「言われなくても知っている」
ロックウェルがモテるのは今に始まったことではない。
社交的で誰とでもすぐに親しくなれるその人柄はまさに引く手数多。
結婚したい女性も数多くいるのだ。
正直どうして自分を選んでくれたのか今でもわからないくらいだ。
けれどそうやって自信なさ気にするクレイを見つめながらロイドはポツリと呟いた。
「私はどんな女よりもお前の方が魅力的だと思うが?」
「……」
それをクレイは慰めと受け取ったのかフイッと怒ったように横を向いてしまう。
そんな反応を受けてロイドはあっさりと別な話題へと切り替えた。
「まあ私がお前を気に入っているのはその黒魔道士の力も含めてだしな」
そう言ってやるとそっとクレイの視線がまた戻ってくる。
「最近また眷属を増やしただろう?」
そうやって誘いをかけると意味深に笑い返してくる姿がたまらない。
「ああ。さすがに気づくのが早いな」
「お前の事ならすぐに気づく」
「…そういうお前の方こそまた新しい術を試しただろう?魔力が上がっているぞ?面白いものがあったら教えてくれないか?」
「ふふっ…魔力の圧縮魔法だが、興味はあるか?」
「楽しそうだな。それは応用も効く類のものか?」
そうやって興味を示してくれるのが嬉しくて仕方がない。
自分とこうやって対等に話せる相手というのは本当に希少なのだ。
「もちろん。色々使えそうだから今どうしようか考えている最中なんだ」
「黒曜石にその圧縮した魔力を宿らせて持ち運ぶことは可能そうか?」
「…多分。試したことはないが、いける気がする」
「そうか。それなら俺も試したいな。上手くいったらお前に一つやろう」
「いいのか?」
「もちろんだ。報酬の代わりに受け取ってくれればいい」
「色々それ自体も応用が利きそうだな」
「広域魔法を使う時に活用できそうだと思ってな」
「ああ。なるほど」
こうやって話が弾むのも楽しくて仕方がない。
だからこそ誘いたくもなると言うもので…。
「今回もそうだが、たまにはソレーユで一緒に仕事をしないか?」
「短期なら別に構わないが?」
そんな風にあっさりと答えてくれるのがまたクレイらしくて思わず頬が緩んだ。
自分の仕事に絶対の自信を持っているのだろう。
仕事の速さも折り紙つきだから安心して頼れるところも魅力的だった。
「じゃあまた用のある時には声を掛ける」
「ああ。そうしてくれ」
やはり何が何でも手に入れたいと改めて思いながら、ロイドはそのまま楽しい時間を過ごした。
そうして護衛をしながら気兼ねなく話す二人を、ロックウェルは遠目ながらに気にしていた。
(随分親しげだな…)
黒魔道士には黒魔道士にしかわからない何かがあるようだが、自分にわからないことも多く気になって仕方がない。
時折見られるクレイの笑顔が不安を煽る。
あんな姿を見てロイドが本気で落としに行かない訳がないのだ。
「ロックウェル様?」
そんな声にハッと我に返り笑顔で会話を続けるが、本音を言えば今すぐにでもクレイの傍に行きたくて仕方がなかった。
そうやって気もそぞろにしているところで王妃がにこやかに自分の方へと向かってくる姿が見え何事かと驚いた。
一体自分に何の用だろう?
普段は接点がないにもかかわらず、わざわざやってきた意図がわからなくて一先ず礼をとった。
「ロックウェル。ここにいたの。探したわ」
「王妃様にはご機嫌麗しく。私に何かご用でしょうか?」
「…ええ。噂のほどを確かめに来たのだけれど…本当に女性にモテること。でもそろそろ落ち着いてもいいと思っているのではなくて?誰か気に入る者がいたなら私が便宜を図ってやってもいいかと…そう思ってきたのだけれど。…貴方のお眼鏡に適う素敵な女性はこの中にいたかしら?」
「お気に掛けてくださりありがとうございます。けれど私には既に心に決めた相手がおりますのでご心配には及びません」
その言葉に場がザワッとざわめく。
「この中ではなく……すでに別に恋人がいる…と?」
「はい」
「そう。その幸せなお相手は誰なのかしら?魔道士の方?いつも一緒にいる…シリィかしら?彼女もあそこのライアード王子の相手だっただけに、綺麗で可愛い女性ですものね」
「いいえ。シリィではなく別の相手です。ですがこれ以上はプライベートなことですので…」
何も語ることはないと答えを返すが王妃は引き下がらなかった。
「……それでは納得のいかぬ者も多いでしょうに」
扇を口元へと当て周囲を軽く見回した後、相手は誰かと微笑を向けながら問うてくる。
「大切な人なのでいらぬトラブルに巻き込みたくはございません。どうかご容赦を」
「…そう。それほど想われて相手も幸せなこと」
暫く双方の間にピリピリとした空気が満ちるが、ロックウェルがそれ以上語らないとわかると、忌々しげにしながら踵を返した。
(どうやらショーンが言っていた通り何やら企んでいるようだな)
自分を落として何をやらせたかったのか────。
(王妃には絶対にクレイの事を勘付かれないようにしなければ…)
そう決意したのも束の間、ふと去ろうとしていた王妃が足を止め自分へと振り返った。
その顔は名案を思い付いたと言わんばかりだ。
「ロックウェル。今からハインツ王子に挨拶に行くの。一緒に来てちょうだい」
「……かしこまりました」
一体何を思いついたのかはわからないが、こればかりは立場上断るわけにもいかない。
ハインツ王子の傍には王とショーンもいる。
それに今はライアード王子も……。
あの場で王妃が何をする気なのかわからないが、上手くやり過ごすしかないだろう。
(何事もなく…場を治めなければ)
そう決意しながらロックウェルは王妃に従いながらハインツの元へと足を向けたのだった。
そうやって名を呼んで、ゆっくりと振り向いてきたその姿にロイドは思わず目を奪われた。
綺麗な顔立ちだとは思っていたが、今は緩やかに波打つ黒髪のかつらをつけて化粧も施しているため、クレイは本物の女にしか見えなかった。
元々が華奢な上に、薄手ではあるがゆったりとした黒衣を身に纏っているので全く違和感がない。
しかも日々ロックウェルから愛されているせいか、滴るばかりの色香を纏っていてその辺の女よりもずっと女らしく見える。
この姿であの紫の瞳に魅了されたら自分はもう絶対に逃げられないだろうなと、ついそんな考えに侵されそうになった。
「ロイド。この姿でいいか?」
「ああ。問題ない」
「そうか。それで?仕事内容はライアード王子の護衛でいいのか?」
こちらの気も知らずどこまでも仕事だと言わんばかりのクレイにクスリと苦笑が漏れる。
「護衛は私がするからクレイは恋人として隣にいてくれればいいのに」
「寝言を言うな。俺は仕事のついでにロックウェルの姿を見たくないかと誘われたから受けただけだ」
フイッとつれなく行ってしまうクレイを追い掛けながら『冗談だ』とサラリと流し、ロイドは仕事について話し始めた。
「まあそうだな。今ここは不穏な空気に包まれているから…ライアード様が巻き込まれないよう用心してほしい」
「わかった。ソレーユの方では特に問題は起こっていないか?」
「なくはないな。先日一件婚姻話が来たが、あっさりと袖にしてしまったことで、まだシリィとの婚約破棄を引きずっているのではと疑われている」
「…そうか」
そちらから様子見の輩が送られることも考えられるかとクレイがそっと思案する。
「お前と仕事をするのは初めてだが、なかなか楽しいことになりそうだな」
「ああ」
頼りにしていると言いながらロイドは満足そうにクレイと並び立ち、主の元へと向かった。
***
「ロックウェル様!」
「シリィ。どうした?」
「はい。各所に配置している魔道士達の連携の件で少しご確認しておきたいことがありまして」
「そうか」
そうして顔を突き合わせて配置図を確認し指示を出した直後、そこへと声を掛けてくる者達がいた。
「ロックウェル様。お勤めご苦労さまでございます」
見るとそこには今日のゲストに呼ばれている貴族達が挨拶にと笑顔で並んでいる。
「一段落つきましたらどうぞあちらでご一緒してください。色々お話したいと…私どもの娘も楽しみにしておりますので」
見ると貴族子女たちが美しい装いでこちらへとちらちら視線を向けている姿が見えた。
「…そうですか。では後程そちらにお邪魔させていただきますので」
立場上無下にできない相手ばかりなだけに無視するわけにもいかない。
仕方なく笑顔でそう返すと相手もにこやかに『では後程』と下がっていった。
(はぁ…)
もうかれこれ二週間はクレイの顔を見ていない。
今王宮にいると言うのなら少しでも顔を見に行きたい気持ちでいっぱいだった。
正直あんなどうでもいい女達の相手をする時間があるくらいならクレイを抱きしめたい。
こうしている間にもクレイはロイドの隣に居るのだ。
大丈夫なのかとつい心配になる。
【ロックウェル様。大丈夫ですよ。クレイ様はあくまでもお仕事で来ていると考えているようで、ロイドには全く靡いておりませんから】
ヒュースのその言葉だけが唯一の安心材料だが、いつ何時襲われるとも限らないではないか。
【そう心配なさらなくても、クレイ様には他にも眷属が控えておりますから】
どうやら他にも眷属は沢山いるらしい。
【クレイ様は寂しがり屋なので、ロックウェル様に会えないと言うだけでぶつぶつ言いながら新しい眷属と契約なさっていたんですよ】
ヒュースは『本当に仕方のない人ですよね』と言っているが、抱えるだけで魔力を消耗する眷属をそんな簡単に増やすクレイの気がしれないと思ってしまった。
どれだけ底なしなのだろうか?
【ああ、ほら。あそこにいらっしゃいましたよ】
その言葉に「え?」と顔を上げると、その先にはライアードとロイドの姿があり、その隣には女の恰好ではあったがクレイの姿が確かにあった。
その姿があまりにも綺麗で、思わず見惚れてしまう。
けれどそんな自分に気が付いたのだろうロイドが不敵に笑って、そっとクレイの腰を浚って自分の方へと引き寄せた。
その姿はまるでクレイは自分の物だと言わんばかりだ。
その手はすぐにバシッとクレイに叩き落とされていたが、傍から見ている分には恋人たちが戯れているようにしか見えない。
「……!!」
そうして内心イライラしているとクレイがこちらへと気が付き、花のように笑ってくれた。
「……」
普段は無愛想なくせに余程嬉しかったのだろう。
けれど手が出せないのをわかっていてあんな笑顔を振りまくなんてひどすぎる。
クレイの元気そうな顔を見れたことは嬉しくて仕方がなかったが、早く抱きしめたい気持ちでいっぱいになってしまった。
【本当に、私の主は罪作りな方ですねぇ】
そんなヒュースの言葉と同時に華々しく花火が上がり、祝典はその幕を開けたのだった。
***
ライアードが挨拶の為ハインツに声を掛ける姿を見ながら、少し離れたところで二人は目立たぬように控えていた。
「クレイ…今日の主役には興味はないのか?」
そう言いながらロイドがハインツの方を指し示すが、クレイは興味なさ気にそちらにちらりと視線を向けただけで短く答える。
「別に興味はない」
そんな台詞にロイドは小さく笑った。
ハインツに掛けられているあの守護魔法の完璧さはどう見てもクレイの仕事のように見えるが、こうしてみる限り特段気に掛けているわけではなさそうだ。
「身内なのに?」
「赤の他人だ。俺は今この場にライアード王子の護衛の仕事でいるだけだし、気になるのは…ロックウェルだけだ」
そうやって先程からちらちらと気にしているのは自分の恋人の事。
やはりと言うかさすがと言うか、先程からロックウェルは沢山の女性に囲まれて笑顔で何やら楽しげに会話を楽しんでいた。
「……」
「モテるな」
「言われなくても知っている」
ロックウェルがモテるのは今に始まったことではない。
社交的で誰とでもすぐに親しくなれるその人柄はまさに引く手数多。
結婚したい女性も数多くいるのだ。
正直どうして自分を選んでくれたのか今でもわからないくらいだ。
けれどそうやって自信なさ気にするクレイを見つめながらロイドはポツリと呟いた。
「私はどんな女よりもお前の方が魅力的だと思うが?」
「……」
それをクレイは慰めと受け取ったのかフイッと怒ったように横を向いてしまう。
そんな反応を受けてロイドはあっさりと別な話題へと切り替えた。
「まあ私がお前を気に入っているのはその黒魔道士の力も含めてだしな」
そう言ってやるとそっとクレイの視線がまた戻ってくる。
「最近また眷属を増やしただろう?」
そうやって誘いをかけると意味深に笑い返してくる姿がたまらない。
「ああ。さすがに気づくのが早いな」
「お前の事ならすぐに気づく」
「…そういうお前の方こそまた新しい術を試しただろう?魔力が上がっているぞ?面白いものがあったら教えてくれないか?」
「ふふっ…魔力の圧縮魔法だが、興味はあるか?」
「楽しそうだな。それは応用も効く類のものか?」
そうやって興味を示してくれるのが嬉しくて仕方がない。
自分とこうやって対等に話せる相手というのは本当に希少なのだ。
「もちろん。色々使えそうだから今どうしようか考えている最中なんだ」
「黒曜石にその圧縮した魔力を宿らせて持ち運ぶことは可能そうか?」
「…多分。試したことはないが、いける気がする」
「そうか。それなら俺も試したいな。上手くいったらお前に一つやろう」
「いいのか?」
「もちろんだ。報酬の代わりに受け取ってくれればいい」
「色々それ自体も応用が利きそうだな」
「広域魔法を使う時に活用できそうだと思ってな」
「ああ。なるほど」
こうやって話が弾むのも楽しくて仕方がない。
だからこそ誘いたくもなると言うもので…。
「今回もそうだが、たまにはソレーユで一緒に仕事をしないか?」
「短期なら別に構わないが?」
そんな風にあっさりと答えてくれるのがまたクレイらしくて思わず頬が緩んだ。
自分の仕事に絶対の自信を持っているのだろう。
仕事の速さも折り紙つきだから安心して頼れるところも魅力的だった。
「じゃあまた用のある時には声を掛ける」
「ああ。そうしてくれ」
やはり何が何でも手に入れたいと改めて思いながら、ロイドはそのまま楽しい時間を過ごした。
そうして護衛をしながら気兼ねなく話す二人を、ロックウェルは遠目ながらに気にしていた。
(随分親しげだな…)
黒魔道士には黒魔道士にしかわからない何かがあるようだが、自分にわからないことも多く気になって仕方がない。
時折見られるクレイの笑顔が不安を煽る。
あんな姿を見てロイドが本気で落としに行かない訳がないのだ。
「ロックウェル様?」
そんな声にハッと我に返り笑顔で会話を続けるが、本音を言えば今すぐにでもクレイの傍に行きたくて仕方がなかった。
そうやって気もそぞろにしているところで王妃がにこやかに自分の方へと向かってくる姿が見え何事かと驚いた。
一体自分に何の用だろう?
普段は接点がないにもかかわらず、わざわざやってきた意図がわからなくて一先ず礼をとった。
「ロックウェル。ここにいたの。探したわ」
「王妃様にはご機嫌麗しく。私に何かご用でしょうか?」
「…ええ。噂のほどを確かめに来たのだけれど…本当に女性にモテること。でもそろそろ落ち着いてもいいと思っているのではなくて?誰か気に入る者がいたなら私が便宜を図ってやってもいいかと…そう思ってきたのだけれど。…貴方のお眼鏡に適う素敵な女性はこの中にいたかしら?」
「お気に掛けてくださりありがとうございます。けれど私には既に心に決めた相手がおりますのでご心配には及びません」
その言葉に場がザワッとざわめく。
「この中ではなく……すでに別に恋人がいる…と?」
「はい」
「そう。その幸せなお相手は誰なのかしら?魔道士の方?いつも一緒にいる…シリィかしら?彼女もあそこのライアード王子の相手だっただけに、綺麗で可愛い女性ですものね」
「いいえ。シリィではなく別の相手です。ですがこれ以上はプライベートなことですので…」
何も語ることはないと答えを返すが王妃は引き下がらなかった。
「……それでは納得のいかぬ者も多いでしょうに」
扇を口元へと当て周囲を軽く見回した後、相手は誰かと微笑を向けながら問うてくる。
「大切な人なのでいらぬトラブルに巻き込みたくはございません。どうかご容赦を」
「…そう。それほど想われて相手も幸せなこと」
暫く双方の間にピリピリとした空気が満ちるが、ロックウェルがそれ以上語らないとわかると、忌々しげにしながら踵を返した。
(どうやらショーンが言っていた通り何やら企んでいるようだな)
自分を落として何をやらせたかったのか────。
(王妃には絶対にクレイの事を勘付かれないようにしなければ…)
そう決意したのも束の間、ふと去ろうとしていた王妃が足を止め自分へと振り返った。
その顔は名案を思い付いたと言わんばかりだ。
「ロックウェル。今からハインツ王子に挨拶に行くの。一緒に来てちょうだい」
「……かしこまりました」
一体何を思いついたのかはわからないが、こればかりは立場上断るわけにもいかない。
ハインツ王子の傍には王とショーンもいる。
それに今はライアード王子も……。
あの場で王妃が何をする気なのかわからないが、上手くやり過ごすしかないだろう。
(何事もなく…場を治めなければ)
そう決意しながらロックウェルは王妃に従いながらハインツの元へと足を向けたのだった。
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